新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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処刑

 

 ─ヴェルザーとバーン─

 

「ベギラゴンーーー!!!!」

「マヒャドーーーー!!!!」

「死ねぇぇぇーーー!!!!」

「グワァァァーーー!!!!」

 ここ魔界では、何千年も前からあらゆる種族間での血で血を洗う戦いが繰り広げられており、その戦いに破れた者達は容赦なく滅びの道を辿る運命に晒されてきた。

 そして、そんな凄惨な世界に於いて、この魔界での絶対的な価値観はやはり『力』だった。

 より強い力を持つ者や種族が必然的に生き残り、魔界での支配権を広めていく。そうして更に強い力でその地位を奪い返し、そしてまた奪う……その繰り返しでより強い力で支配する者が常にこの魔界に君臨していった。

「此度はヤツの支配権をかなり奪えた様だな……」

 最後の知恵ある竜と呼ばれこの魔界で最も恐れられている漆黒の冥竜王ヴェルザーがその配下を前にして言う。

「ハッ!ヴェルザー様の鋭いご彗眼により、我が軍は連勝に継ぐ連勝でございました!!」

 そう言ってヴェルザーに敬礼をするのは、今から数百年前の当時ヴェルザー軍を率いていた将軍レイギンだった。

「それはそうだろうな……だが、やはりヤツだ……我が息子ながら恐るべき男よ…のう、メドゥルザ……」

 すると、将軍レイギンの後方から、まるで闇の中から現れた様に一人の魔族が姿を表す。

「フフ……父上、私のことよりももう少しレイギン将軍の功績も認めてやってはどうです?せっかく我が軍は連勝に継ぐ連勝と……御自分の手柄を声高におっしゃっているのですから」

 ヴェルザーが一子、呪神冥竜メドゥルザは、慇懃無礼に笑う。

「い、いえ!手柄などとは……っ!?全てはヴェルザー様のご指示故に……」

 レイギンは冷や汗を掻きながら、ヴェルザーとメドゥルザに告げる。 

「おやおや、そうでしたか……それは失礼……」

「なぁにレイギンよ……ワシとてお主を評価しておる……何よりお主に我がヴェルザー軍の指揮を任せておるのがその証であろう?」

「ハッ!も……!勿論でございます!身に余る光栄であります!!」

「そうですか?なら良いのですが……ただ、少し小耳に挟んだコトがあったもので……少々意地悪をしたくなってしまいましてな……フフ……」

 メドゥルザは、そう言いながら再び不敵に笑う。

「小耳に挟んだ?ホウ……メドゥルザよ、何を聞いたのだ?」

 ヴェルザーはチラリとレイギンを一瞥してメドゥルザに訊ねる。

「ええ父上……それが実は……我がヴェルザー軍の中にバーンと密かに繋がっている者がいると……」

「………っ!!!!?」

「なに……?」

 と、ヴェルザーの雰囲気が一気に重苦しいモノに変わる。が、それもその筈、この当時のヴェルザーとバーンは魔界に於いてその支配権を二分する者同士、つまりどちらかが勝てば魔界の全支配権はその勝者の手に落ちるという状況だった。先刻、レイギン将軍が奪い取った支配権も元々はバーンが支配していた領域だったのだ。

「メ!メドゥルザ様……っ!!?わ、我が軍にはその様な者などおりませぬっ!!な、何かの間違いでは……っ!!!?」

「間違い?そうか……間違いですか……そうですか将軍閣下……父上や私の前でもまだその様な戯言を……」

「な……っ!?メ……!メドゥルザ様……っ!!何をおっしゃっているのか私にはっ……!!!」

 メドゥルザはレイギンに将軍という立場を敢えて意識させるかの様な口調で告げる。しかし、メドゥルザのその目は狙いを定めた獲物を欠片も残さぬ様に捕らえようする蛇のような冷酷さが込められていた。

「メ、メドゥルザ……様……」

 すると、メドゥルザは目にも留まらぬ速さで左に携えていた細身の剣を抜いたかと思うと、その鋭い剣先をレイギンの喉元に突き付けた。

「ウッ……!?な……!?お……お戯れ……を……メドゥ……ルザ……様……」

 レイギンの足元に、汗が一つ二つと滴り落ちる。そして、その滴り落ちる雫に僅かな青い色が交じる。

「将軍。あなたの副官は……誰だったかな?」

 メドゥルザはレイギンが指揮するヴェルザー軍の副官の事を訊ねる。

「ア、アギス副官……です」

「元は……彼女さ……アナタの周辺の報告を事細かく彼女が俺の耳に入れて来るものでね……まぁだからこそ、私は彼女の力を買ってるんだが……」

「え……?」

「アギスの探索能力と情報収集能力には私もいつも驚かされるのですよ……無論その確度の高さにも……」

「そ、それは……私も感じております!此度の勝利もまさに彼女の尽力は大きく私は………っ!!!?」

 メドゥルザの突き付けた剣の先が、静かにレイギンの首元に触れる。そして、その剣先からレイギンの青い血が伝って来る。

「メ……メドゥ……ルザ……様……」

「レイギン将軍の戦果について、アギス副官からこう報告があった……バーンが手放しても良いと考えている支配権……それをレイギン将軍は何故か随分と拘って奪い取っていると……」

「な……っ!!?そ、そんなことはっ……!!?そ、それにアギス副官とは言えども何故そのようなバーンが手放しても良いと考えている支配権があるなどと知っているのか……っ!!!?そ、それならば彼女の方が……!!アギスの方が怪しいのでは……っ!!!!?」

 メドゥルザの目は更に凍てつくような冷酷さを浮かべてレイギンを見つめる。

「アナタは、まだわからないのか?」

「え……?」

「ここで大切なのは、アギスがキミの戦果の元となったバーンの支配権の秘密を知っていた事ではなく、アナタがその支配権を奪ったという事実だ」

「そ、それは……どういう……」

「つまりキミはバーンにとって大して痛くもない支配権を奪取したことを父上に報告した……しかも、父上のご彗眼やらご指示やらと随分と持ち上げてね……」

「な、なにを……言って……」

「キミは知っていたんだろう?今回キミが奪ったバーンの支配権はバーンがわざと用意したモノだと……」

「おっ……おっしゃる……意味が……」

 レイギンの足は既に震えている。

「つまり、キミこそがバーンと繋がっていたヤツのスパイ……キミが奪ったバーンの支配権はいずれキミのモノとなる事を見越してバーンはキミにわざと今回の戦果を取らせたのさ……」

「お、お言葉……ですが……そ、そんな証拠が……どこに……!!」

 レイギンは、振り絞る様にメドゥルザの言葉に食い下がる。

「ピロロ……」

「はぁ〜いメドゥルザ様……」

 すると、メドゥルザのその声に応えて一つ目ピエロのピロロが茶目っ気たっぷりに手にしていた妙なパペット人形を携えながら何処からともなく現れ、ある一枚のカードを提示する。

「これが何かわかりますな……レイギン将軍閣下……」

 そのメドゥルザの慇懃な言葉にレイギンは戦慄を覚える。

「そ、それは……誓約のカード……」

「フフフ……そうです。良かった良かった……どうやらそれはお忘れでは無いようだ……無論……お持ちですよね?」

「は、はい……勿論……です……」

 すると、メドゥルザはレイギンの喉元に突き付けていた剣を一度、退ける。

「では、将軍……父上にご提示下さい」

「えっ……!!?」

 突然のメドゥルザの言葉にレイギンは動揺する。

「持っているんですよね?ちゃんと……」

 そして、わざとらしくヴェルザーに視線を移しレイギンに無言のプレッシャーを与える。

「も、勿論……です……こ、ここに……」

 すると、レイギンは徐ろに懐から一枚の無字のカードを取り出す。

「おや?無字……ですか……」

 メドゥルザは意外と言わんばかりに、その目をわざとらしく大きく開いて言う。

「え、ええ……そ、それは勿論ですメドゥルザ様……わ、私が…もし本当にヴェルザー様を裏切る様なコトがあるなら、このカードには……」

「スペードの3……」

「……っ!!?」

 その時、いつの間にかレイギンの背後に回り込んでいたピロロが呟いた。

「その通りだピロロ……もし将軍が我々を裏切る様なコトがあれば、そのカードにはスペードの3が表示される」

「メドゥルザ様がみんなにこのカードを配った時に呪いをかけたんだ〜♪裏切り者を出さないように〜♪スッゴイや〜メドゥルザ様〜♪」

「フフフ……褒めすぎだピロロ……だが、父上のお役に立てている自負はあるよ……」

 そう言って再びメドゥルザは、レイギンの目を見つめると、レイギンは冷や汗を掻きながら突然、声を上げた。

「そ、その通りですメドゥルザ様!!さ、さすが呪法の神と呼ばれるだけの事はあります……!!!」

「ほう、これはこれは将軍よりお褒めの言葉を頂けるとは……」

「い、いえ!!私など、それ程の者では……!!」

 恐縮するレイギンにメドゥルザは微笑を浮かべながら、再び剣を向ける。

「メ……メドゥルザ……様……?」

「父上……もうよろしいですよね?こんな茶番にはもう飽きました……」

「へ……?」

「ああ……全くだ……ではレイギンよ……お前のその誓約のカード……我が元に差し出せ……」

「え……?な、なぜ……その様な……」

「差し出せっ……!!!!」

 その瞬間、ヴェルザーは怒気を含んだ声でレイギンに迫った。

「はっ……ははっ……!!!」

 すると、レイギンは恐る恐る手にしていた無字のカードをヴェルザーの前に差し出した。そしてヴェルザーはそのカードを鋭い目で見定める様に、まじまじと見つめている。

「ヴェ……ヴェルザー……様?」

「ふうむ……成程な……なかなかよく出来ている……が……ワシには通用せん……メドゥルザ……みてみろ」

 そう言うと、ヴェルザーはメドゥルザにレイギンのカードを見るように命じる。すると、メドゥルザはレイギンからカードを受け取りゆっくりと吟味する様に見定めるとレイギンに視線を向ける。

「メ……メドゥルザ様……ヴェルザー……様……」

 レイギンは不安気な視線を泳がせて、交互にメドゥルザとヴェルザーを見る。と……

「私が作ったカードですが……」

 メドゥルザは、改めて真剣にカードを見つめている。そしてその後、カードを持ち主のレイギンに再び手渡した。

「フッ……さすが……大魔王バーンと言ったところでしょうかね……確かに父上にしかこのニセモノを見抜ける存在はおりませんな……」

「なっ……!?に、ニセモノ!!?な、何をおっしゃるのですかメドゥルザ様っ!!」

 メドゥルザはレイギンの言葉には何も応えずに、再びピロロに声を掛ける。

「ピロロ!アレを頼む」

「はぁ〜い!メドゥルザ様〜♪」

 すると、ピロロが宙を飛びながら寄ってきて懐からトランプの束を取り出し、その魔法力を使って宙に広げ出した。

「いっ……!一体……!何を……っ!!?」

「将軍……実はですな……ヴェルザー軍の幹部に配られたこのカードには、裏切り者を見分ける呪法の仕掛け以外にも、もう一つ秘密の仕掛けがあるのですよ」

「ひ……!秘密の……仕掛け……!!?」

 初めて耳にする話にレイギンは青褪める。

「ではピロロ始めてくれ……」

「かしこまりました……」

 そう言うとピロロは、不気味に微笑を浮かべると広げたトランプを宙で回転させ始める。そして、やがてそれは不規則な動きで回転し始めた。

「さて、レイギン将軍……気になってますよね?先程の父上の言葉……」

「うっ………そ、それは……」

「しかし、アナタだけではないですよ将軍……父上の言葉の意味が解りかねているのは……なぁピロロ……」

「はい、メドゥルザ様」

「父上がナゼ?先程の様なアナタを疑う様な事をおっしゃったのか?」

「そ、それは……」

「知りたい……ですよね?」

「…………」

 レイギンはとうとう俯いて黙り込んでしまった。しかし、メドゥルザは無字のカードを握るそのレイギンの手の震えを見逃してはいなかった。

「レイギン将軍……震えているようですが、これはチャンスですよ?」

「…………」

「疑いを掛けられた身であるのに、ここで改めて父上への忠誠心を見せれば、父上はもちろんのコト……我々も心底安堵するというモノ……」

「………」

「なぁに簡単なことです。あのピロロが宙で回しているカードの中にアナタのその誓約のカードを投げ込むだけで良いのです」

「そうそう!」

 ピロロがメドゥルザの言葉に囃し立てる。

「先程私が述べた裏切り者を見つける呪法とは別の秘密の仕掛けとは、我々の父上に対する忠誠心を試す仕掛けなのですよ……つまり、アナタのそのカードが私がかつてお配りした本物の誓約のカードなら、あのカードの束に投げ込めば一緒に回り始めます……」

「………」

「しかし……」

 ここで、メドゥルザは俯いているレイギンに鋭い視線を投げるとレイギンの顔の近くで静かに告げる。

「もし、万が一……弾き出されるコトがあれば……」

「………」 

 レイギンは尋常でない発汗に襲われている。足元には既に大量の汗が滴り落ちていた。

「レイギンよ……」

「………っ!!?」

 地の底から響く様なヴェルザーの声にレイギンは金縛りにあった様に動けなくなる。

「ワシの勘違い……というコトも有り得る……さすれば詫びとしてお主には望みのモノを与えよう……なんなら我の血を与えヴェルザー一族に迎えてもよいぞ……ん?どうだ?悪くはない話だろう?」

「おおっ!!?それは素晴らしい!!ならばレイギン将軍は私の兄となられるのですな!!ハハハハ!!これは素晴らしいコトだ!!!!レイギン将軍!!喜ばしいですな!!!ハハハハハハ!!!」

「いいな〜♪レイギン将軍いいな〜♪うっらやましぃ〜♪」

 ヴェルザーの提案にメドゥルザもピロロも声を上げてはしゃぎ出す。しかし、当のレイギンだけは誓約のカードを手にしたまま全く動けずにいた。足元の汗もその身体の震えも一向に治まってはいない。

「さぁ!!レイギン将軍!!そのカードをピロロのカードの中に投げ込むのです!!!そうすれば、アナタへの疑いは晴れ、しかも我がヴェルザー一族にアナタをお迎えするコトが出来るというもの!!!」

「…………」

「ホラホラ〜レイギン将軍♪投げて投げて〜♪」

「さぁ!!」

「ホラホラ〜♪」

「ウ……ウァァ……アアアァァァァーーーーーーーーーーー!!!!」

 その瞬間、レイギンはヴェルザー達に背を向けて走り出す。そして、その際にレイギンの手からカードが離れピロロが回転させているカードの束の中に投げ込まれた。

 

 バシュッ!!

 

 と、乾いた微かな音と共に、レイギンの手にしていたカードは宙で回転するピロロのカードの束から弾き出され、ヒラヒラとそのまま床に落ちた。

「レイギンーーー!!!!」

「…………っ!!!!?」

 怒号だった。ヴェルザーはそのただ一つの怒号だけで、逃げ行くレイギンの動きを止めた。そして、同時に……

 

 ドサッ!!!

 

 ヴェルザーの怒号によってその身を動けなくされたレイギンの足元に、更に追い打ちを掛ける様に一本のキズだらけの腕と大魔王バーンの配下を示す紋章が刻まれた鎖のついたインゴットが投げ込まれた。

「ウッ……こ、これは……っ!!?」

 漸くその一言だけ発したレイギンは投げ込まれた腕とインゴットを大きく見開いた血走った目で凝視している。

「やはりスペードの3……でしたね、ヴェルザー様……メドゥルザ様……」

 そこに現れたのは、この当時レイギン将軍の下でヴェルザー軍の副官を努めていたアギスだった。

「ア……アギス……」

 消え入りそうな声でレイギンは副官の名を呼ぶ。

「フン!もはや貴様などに呼び捨てにされるつもりはない!!土産だ……まさに冥土のな……」

 アギスは自身で投げ込んだ腕とインゴットを睨みつけながら言う。

「その腕とインゴットの持ち主がバーンの間者か……」

 ヴェルザーがアギスに問うとアギスは徐ろに歩み寄り、傅いて答える。

「ハッ……!時をようしてしまい大変申し訳ございません!漸くバーン陣営の間者を捉えるに至りました!」

「うむ……よかろう、よくやったアギス……」

「恐れ入ります!!」

 アギスは頭を垂れ恐縮する姿勢を示す。

「メドゥルザ……なかなかよい部下を持ったな……」

「父上……ありがとうございます」

 そうしてヴェルザーは改めてレイギンに向き直る。

「さて、レイギンよ……これでもまだ……下らぬ戯言を述べるか?」

「……ウ……ウ…ァァァ………」

「フン!どうやら何も述べられぬ様だな……もうよいメドゥルザ……片付けろ……」

 ヴェルザーは、自身の裏切りを暴かれ恐怖と絶望に支配されたレイギンを見限り、メドゥルザにその処刑を命じた。

「かしこまりました……さぁレイギン……お別れだ……」

 そしてメドゥルザは、レイギンに対して最後通告を言い渡した。

「ま……待って……下……さい……メドゥルザ様……ワ、ワケを……」

「ワケ?そんなのどうでもいいだろう?裏切りは事実なんだからな……それにワケならお前の協力者に訊くさ……アギスはその事も見越してバーンの間者を生かして捕らえたんだよ……言うまでもないだろうが、その持ってきた腕が灰になっていないのがその証だ……」

 すると、メドゥルザは右手に黒い魔法力を発動させレイギンの足元に怪しげな魔法陣を出現させる。

「メ……!!メドゥルザ様っ……!!!お待ち下さい!!!そ、そうだ!!私が持ち得ているバーンの秘密をお教えします!!凍れる…!凍れる時の……っ!?」

 しかし、メドゥルザは一切聞く耳を持たず魔法陣に呪力を注ぐとレイギンの身体はみるみる石化していった。

「凍れる時の秘法だろ?そんなの知ってるよ……我々を侮るな……ゴミが!!!砕け散れ!!!」

「メ!!メドゥルザ様ぁぁぁーーーーーー!!!ギャアァァァァァァーーーーーー!!!!」

 そうしてレイギンは完全に石化し、更にそこにヴェルザーがその眼力による魔力で、石化したレイギンを粉々に粉砕してレイギンを完全に葬った。

「バカな奴だ……我々を裏切るからこういう事になる……スペードの3……我等ヴェルザー一族に伝わるスラング……」

 メドゥルザは、粉々になったレイギンの残骸を見下しながら……

「『対立』」と冷徹に告げた。

「メドゥルザ様……因みに遅くなりましがコレを……先程捕らえたバーンの間者が持っておりました……」

 すると、アギスは一枚のカードをメドゥルザへ差し出す。それはかつてメドゥルザが、レイギンに渡した本物の誓約のカードだった。

 そして、そこには当然………

「スペードの3か………」

 メドゥルザは、そう示されたそのカードを指先に込めたメラ系の魔力で灰にした。

「アギスよ……」

「ハッ……!!」

 すると、ヴェルザーがアギスに再び呼び掛けると彼女は改めて膝を付き傅いて応える。

「お前に今からヴェルザー軍の将軍の地位を与える……励め……」

「ハッ……!恐悦至極でございます!ヴェルザー様の理想実現の為にこの身命を惜しむことなく働いて参ります!!」

「ウム、期待しておるぞ……」

「ハハッ……!!」

「そして、ピロロ……」

「はい!ヴェルザー様……」

 ヴェルザーはアギスに続いてピロロにも呼び掛ける。

「此度の働き褒めてつかわす……ひいてはお前にも褒美をやろう……」

「えっ!ホントですかっ!やったぁなんだろう♪」

 ピロロはあまりの喜びに小躍りする様な勢いではしゃぐ。

「確かお前は人形が好きだったな……」

 そう言ってヴェルザーは、ピロロの携えているパペット人形に目を向ける。

「ええ、父上……コイツは自分で色々な人形を拵えるほど人形好きな変わった暗〜いヤツなんですよ」

 メドゥルザがピロロをからかうように言うと……

「メドゥルザ様ぁ〜……暗〜いなんてヒドイです〜」

 ピロロは頬を膨らませて不満を漏らす。

「フフフ……まぁそう怒るなよ……父上から褒美を貰えるんだから」

「ヘヘ♪そうですね〜なんだろう♪」

「まぁ楽しみにしていろ……そして、もう一つ……お前には重要な任務を与えよう……」

「重要な任務……?」 

 ヴェルザーの言葉にピロロがそう口にすると、その場のメドゥルザとアギスも改めて居住まいを正しヴェルザーに向き直る。

「死神……として……バーンの元に赴け……」

「死神……?」

「此度の意趣返しという側面も無くもないが……ここらでヤツに恩を売っておくのも悪くない……表向きは使者としてヤツの計画に手を貸し仕えよ……但し……」

「但し……?」

「その計画が……破綻した場合は……」

「成程……死神としての職務を果たせ……と……」

 メドゥルザがピロロに代わりヴェルザーに訊ねる。

「その通りだ……ワシが与える褒美と共に……死神として励め……」

「かしこまりました……偉大なる冥竜王の名に恥じぬよう努めて参ります!」

 その後、アギスとピロロがその場から退いた後にヴェルザーは傍らのメドゥルザに訊ねる。

「時にメドゥルザよ……アレはどうなっておる?」

「ええ、万事順調ですよ……それについ今し方、彼の寝床も用意出来そうな状況になりましたから……」

 メドゥルザはそう言って、レイギンの残骸を冷たく一瞥する。

「ああ……確かにそうだな……ククク、バーンめの吠え面をかいた顔が目に浮かぶようだわ……」

「最後の知恵ある竜……フフフ……まさにその名に相応しい方だアナタは……」

「なんだ急に……?さてはお前も褒美が欲しいのか?」

「いえいえ滅相もない……それにもう既に頂いておりますから……大魔王バーンの血族とも言える……強力な玩具を……フフフ……」

 メドゥルザはそう言うと、その禍々しい瞳を静かに……そして、怪しげに光らせる。ヴェルザーの邪悪な魔の手に絡め取られたバーンの血族……その存在は、まだこの時はヴェルザーの元でその巨大な身と力を横たえて静かな眠りについていた。




 ここらで、ヴェルザー陣営の過去を少し入れさせて頂きました。また、ピロロも出てきましたが、死神キル誕生の経緯もオリジナルで書かせていただきました。ヴェルザーからのご褒美がまぁ人形というヒントを入れ込みましたのでご褒美内容は簡単に想像出来ると思いますが、答え合わせは後ほどの話でというコトで…… 
 そして、タイトルにもありますがヴェルザーとバーンの関係ですが、やはり騙し合いという展開もこれまで何度となく繰り広げられていたのだと思いますが、今回はその一部を切り取って見たという感じですね。
 上手く伝えられてれば何よりです。
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