─奇跡─
「おのれ……おのれ……ゴミ共が!!!」
魔界の奥深くにある呪神冥竜メドゥルザの居城。そして、更にその奥深くの自身の玉座の間において、特殊な通信魔法によりヒュルトとマトリフ達の状況をつぶさに監視していたメドゥルザは全く予想だにしていなかった事態にその怒りを露わにしていた。そう、先刻マトリフ達がカイアの封印を解いた時のヒュルトの様に……
「鬼眼族カイア……そして地上の人間共……我等の崇高なる計画を踏みにじるとは……くっ……!!それにしても……まさかここまでやるとはな……やはりもう一刻の猶予もならん……」
そう言うと、メドゥルザは徐ろにその悍ましく禍々しい装飾で設えられた玉座から腰を上げ、この城のとある部屋へと向かった。
「俺の魔力も完全ではない中で正直こいつは躊躇われもするが……こうなれば致し方ない……ヤツを……使うか……」
誰に言うでもなくメドゥルザはそう呟きながらその瞳にはドス黒い闇を湛えていた。
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一方、マトリフ達はヒュルトの案内で解呪の実がなる呪精木の元に向かいながら、ヒュルトの口から彼ら鬼眼族とメドゥルザを始めとするヴェルザー一族との因縁を語られていた。
「メドゥルザがお前に目を付けたって事か……?」
そう訊ねるマトリフに、ヒュルトは思わず下を向いて苦い顔を浮かべた。
「うん」
すると、そんなヒュルトをみてカイアが言う。
「私の……所為なんだ……」
「……っ!?」
「違うよ母さん……!オレが……っ!!オレが弱かったからいけないんだ!!!」
「いや、そうじゃないヒュルト!私が……!!」
「まぁ〜て!まてまて!!」
すると、その二人の間にマトリフが静止するように割って入る。
「マトリフ……」
「二人で今更そんなコト言ってもしょうがねぇだろう?確かに色々あったかもしんねぇ……でもよ、こうしてお前らはまた親子になれたんだからよ♪まぁ……ツライ事とか今すぐ忘れろとは言わねぇケドさ……なんつーか……これからまた、イチからやっていけばいいんじゃねぇか?」
わざと戯けた調子でそう言うマトリフにカイアもヒュルトも柔らかく苦笑する。
「マトリフさんって……不思議な人だな……」
「ん……?」
「マトリフさんと話しているとなんだか気持ちが楽になるんだよ……」
「へ?そうかぁ?」
言いながら、ブロキーナの方をみると彼もニカッと笑ってヒュルトの言葉に頷いている。
「ええ……ホントよマトリフ……どんなに落ち込んでいても、あなたは不思議とそんな気持ちを晴らしてくれるような、そんな力があるわ……」
カイアも愛しそうな表情をマトリフに向けると、マトリフは照れ臭ささを誤魔化す様に笑った。
「べっ……別に……特別そんなこたぁ意識してないんだがな……ヒヒ♪」
「オレは地上の事は全然わからないけど、きっとマトリフさんやブロキーナさんみたいな優しい人達が沢山いるんたろうなぁ……」
「ホホ♪まぁ色んな優しさがあると言ったところじゃろう……のうマトリフ殿♪」
「ああ、カイアにも言ったがここから出たら俺達の仲間に会わせてやるよ♪ヘンテコな奴らばっかだけどな?」
「あら、マトリフよりもヘンテコなの?」
「おいおいカイア……!」
「アハハハハ!」
「フフフ!」
「ホホ♪愉快愉快♪」
「ヒヒヒ♪」
激戦の後にこうして心を通い合わせる事の出来るその絆をヒュルトはこの時生まれて初めて味わうことが出来た。そして、だからこそヒュルトは、自分自身の使命としてその内に芽生えたある種の使命感のような思いを込めて真剣な面持ちで改めて告げた。
「マトリフさん、ブロキーナさん……メドゥルザは……いや、ヴェルザー一族という存在はオレ達のような魔界の住人にとっても恐るべき存在です……我が鬼眼族も魔界では名の知れた種族ではありましたが、オレの件だけでなく、ヤツらの介入が鬼眼族を危機に陥れた事は事実なんです……ですから決して油断されることのないよう気を付けて下さい」
その言葉を聞き、マトリフもブロキーナも気持ちを引き締める。そしてカイアは……
「ええ、その通りね……マトリフ、ブロキーナ殿……先刻からの話しを聞いてあなた達も重々理解しているだろうけど、ヴェルザー達はすでに地上を狙って動き出している……」
「ああ……メドゥルザだろ……ヤツには俺達のダチに対する借りがあり過ぎるほどあるからな……」
「ヤツらがこの地上を狙うにあたり、何を企み、この先も何をしでかそうというのかその全てはわからんが……だからこそ決して気は抜けんのう……」
マトリフとブロキーナは互いに頷いて同意する。
「ええ……そうね……あなた達の仲間にも警戒を促した方が良いわ……」
「ああ……そうするつもりだ……あの土産と一緒にな……」
そう言って、カイアの言葉に頷くとマトリフは遠くに見える不気味な雰囲気を醸し出す一本の木に視線を投げた。
「そうです、あれが呪精木……そして……見えるかな?一つだけあの木の枝についている赤い実が……」
「ああ、あれが解呪の実か……」
「ホウホウ……ナルホドのう……」
マトリフもブロキーナも目を凝らすように遠くの呪精木になっている解呪の実を眺めている。
「行きましょう!」
カイアの一声でマトリフ達は呪精木の傍まで近付いて行った。
マトリフ達はそうして、呪精木に近付きながら周りの空気が少しずつ変わって来ている事をその雰囲気から感じていた。その空間は、上階の洞窟内部とはまた趣きが変わった独特な雰囲気の漂う空間だった。瘴気とも思われる様な禍々しいモノがそこかしこに漂っている様な様子も感じられる。
「なんだか正直あまり居心地のいい場所じゃねぇな……」
「そうじゃな……それにしてもここにあの呪精木と解呪の実があるということは、ロカ殿もここに来たということじゃろ?」
「まぁそうだなぁ」
「ロカ殿はどうやってここに来たのだろうな?さっきの入口の仕掛けは私やヒュルトしか知らない筈だが……」
「確かにそうだね母さん……」
言いながら、親子は顔を見合わせて首を傾げている。
「はっはっはっ!そりゃ簡単だ!!」
「えっ……?」
「アイツは……ロカってヤツは確かに普段は頭よりも腕っぷしの方が長けてる野郎だが、ここぞと言う時にはやるヤツなんだよ♪」
「ホホ♪そうじゃのう……それに当時は呪いに苛まれていた自分の娘であるマァムや他の町や村の子供達を救う事で頭がいっぱいじゃったろうからのう……ロカ殿は執念できっとこの解呪の実の元にまで辿り着いたのじゃよ」
「確かに言われてみれば魔界で会ったロカ殿もそんな感じだったな……」
「ま、アイツは変わらねぇさ♪」
「ホホ♪そうじゃな♪」
マトリフ達がそう言ってロカの話題で笑っていると、ヒュルトが驚くコトを言い出した。
「なら、そのロカさんと話してみますか?」
「へ……?」
マトリフもブロキーナも、そしてカイアまでもヒュルトに向けて気の抜けた返事を返す。
「解呪の実を食べた者と会話が出来るんですよ?この呪精木では……」
「ええええええーーーーー!!!!!」
流石にこの事実を聞かされたマトリフ達はその耳を疑い、驚きの声を上げた。
「そ、そうなの……っ!?本当に?ヒュルト!」
「ああ、そうだよ。あ、そっか母さんがここの管理をしていた時は呪精木は枯れていたからね……それに話せると言ってもいつでもってワケにはいかないから……この呪精木に解呪の実がついていないと駄目だし今夜の様な満月でもないと駄目なんだ……」
「そっか……クソっ!それがわかっていたらマァムを置いてくるんじゃなかったぜ……!!」
「しかし、レイラ殿からマァムへ伝えなければならないコトがあったのも確かじゃからのう……それに……一番はやはりロカ殿が地上に戻ること……さすれば……」
「まぁ……な……戻ってくればいくらでも逢えるか!」
「じゃあ早速、そのロカさんとの意識をこの呪精木を介して繋げてみます。準備は良いですか?」
「お、おうっ……!た、頼むぜ!!」
マトリフはやや緊張の面持ちで応える。
「では、マトリフさん、ブロキーナさん、この呪精木に手をあててロカさんのコトを思い浮かべて下さい……あ、母さんはどうする?」
「私は大丈夫だ……二人にはきっと話したいことがたくさんあるだろうからな」
カイアがそう遠慮するとマトリフが手招きをする。
「マトリフ……?」
「ロカのヤツに……俺のダチに紹介してやるのさ……俺の女をよ♪だからお前も来いや♪」
「マ、マトリフ!」
カイアは頬を赤らめていると、小さいヒュルトがカイアを後ろから押して言った。
「ホラホラ!母さん……照れてないでさ♪」
「ヒュ……!ヒュルト……おまえっ!!」
そうしてカイアは、マトリフの目を見つめて彼の隣に立ち呪精木に手をあてるとマトリフはニッコリと微笑む。
「さて!じゃあこれから呪精木に力を与えてロカさんと意識を繋げるからロカさんのコトをしっかりと思い浮かべて下さい……」
「わかった……」
やがて三人は静かに目を瞑るとそれぞれがロカの顔を思い浮かべる。マトリフは初めてロカと出会った時のことやレイラのことで何度も相談にのった時のコト……
ブロキーナもやはり初めてロカがアバンやレイラと共に自分の山小屋に訪ねてきた際のことやマァムが生まれた時にマトリフと共にロカの元に訪れた時のコトを……
そして、カイアは魔界でロカに出会った時に彼が自分の妻や娘のコトを楽しそうに、また時折寂しそうに語っていたその顔を思い浮かべた……
「呪詛の力を宿し呪精木よ……その身より結実させし実を宿せし者の名を今こそ示さん……さすればその者と汝に添えし三つの魂との邂逅を繋ぎ許せ………ロカ……」
ヒィィィーーーーーーーーーン
ヒュルトの詠唱の後にその場の空気を切り裂くような甲高い音が一瞬辺りに響いたかと思うと、マトリフ達は不思議な感覚を覚えて目を開いた。すると、自分達と呪精木が薄い緑色の光に包まれている。
「こ、これは……っ!!?」
「今、マトリフさん達と呪精木の記憶を繋げました……解呪の実を口にした存在の記憶を呼び覚ましていますので、再び気持ちを集中させてロカさんの名前を意識の中で呼び続けて下さい……そうすれば解呪の実の記憶を介して魔界にいる彼の意識にマトリフさん達の声が届くはずです!」
「よしっ!やってみようかのう!!」
「おっしゃ……!!」
「ええ……!!」
そうして、マトリフ達は再び意識を集中させてロカの名を呼び続ける。
「ロカ……ロカ……俺だ!マトリフだ!!ロカ……!!ロカーーーーー!!!!!」
「フンッ!!フンッ!!……………っ!!!!?」
魔界で大剣を振り回しいつもの鍛錬を積んでいたロカの頭に突如、何の前触れもなく聞き覚えのある声が響いた。
「な……っ!!?なんだ!!今のは……っ!!!?」
ロカは驚きと戸惑いのあまり、どこからか聴こえてきた声に周囲を見渡す。
すると……!
(「俺だ……っ!!マトリフだ……っ!!ロカ……っ!!!」)
「マ……っ!?マトリフ……っ!!!?」
地上と魔界……遥か遠い別世界でまさに一つの奇跡が起きた。
十四年……彼等にとっては途方もなく長い年月……しかし、それを超えて今この時が繋がる……
そして、今夜この満月の夜の奇跡により彼等にとって新たなる戦いの序曲が奏でられる事になるのだった。
解呪の洞窟編の話しもいよいよ大詰めです。そんな中でがんばたった彼らにはちょっとしたご褒美というワケでロカと意識で話せるようにしてみました。マトリフ達にとってもロカが魔界で生きているコトを確認出来れば、レイラとマァムにも大きな安心感を与えるコトも出来ますからね。希望を持って前進していける可能性を今回は書かせて頂きました。