─地上への希望─
「なんだこれ……っ!!?どういう事だ!!?マトリフの……マトリフの声が頭の中に聞こえる!!!」
「ヒヒ♪そりゃあそうだ!おめぇの頭の中に話しかけてるんだからなっ!!この大バカ野郎……っ!!!!」
マトリフはあまりの喜びに思わず口が悪くなる。しかし、その瞳には熱いモノが浮かんでいた。
「お……っ!?大バカ野郎だと!?ハハハ!なるほどな俺にそんな悪態をつくのは確かにマトリフぐらいなモンだぜ!!たくっ……!なんだってんだよこの奇跡みてぇなコトはよ……!!!」
一際大きな声で話すロカの目にも嬉し涙が浮かんでいた。
「ホホ♪久しぶりじゃなロカ殿……覚えとるかな?ワシを……ブロキーナじゃ」
「ろ……っ!!?老師!!!ブロキーナって……あのブロキーナ老師ですか……っ!!!?」
今度はブロキーナの自己紹介で、ロカは驚きを隠せないでいた。
「ウム、お主の娘マァムは元気にしとるよ♪」
「え……!!マ、マァム……が……っ!?」
「ヒヒ♪元気もなにも今や拳聖ブロキーナの一番弟子だろうが!」
「マ、マァムが……!!ブロキーナ老師の弟子ぃぃぃーーー!!!!」
ロカはあまりに突然に様々なコトがあり過ぎて混乱寸前だった。しかし、そんなロカの状況を慮りながら次にカイアがロカの意識に語り掛ける。
「ロカ殿……矢継ぎ早でさぞ混乱しているだろうが、私のことは覚えてるか?十数年前にお主に世話になった鬼眼族のカイアだ」
「ん?カイア……ああ!あのメチャクチャつえーネエちゃんか……っ!?」
「なんだ?おめぇカイアと戦ったのか?」
ロカの反応にマトリフが口を挟む。
「そうじゃないの、ロカ殿が魔界に来たばかりの時、魔界のモンスターに彼がたまたま出くわしてしまって……」
「ああ、本当にぶったまげるくらい強くてよ!ネイル村の魔の森のモンスターだってきっと尻尾巻いて逃げるくらいレベルが高かったぜ!!でも、寸でのところでカイアさんに助けられた……あの時は本当にありがとうございました!!」
「いいのよ気にしないで」
「まぁ、そこはやっぱ魔界だからな……地上でもよ大魔王バーンってのが魔界のモンスターを使って来たらしいぜ、なぁブロキーナ」
「ウム、ワシらも戦ったがやはり地上のモンスターとはワケが違うのう……ま、みんなの力を合わせてなんとかなったがのう……」
「そっか……そういえば大魔王バーンはダイって勇者だか竜の騎士だかに倒されたって最近聞いたけどよ……アバンのヤツはどうしたんだ?」
ロカは現在居候していてる老婆魔道士のワズから、どこから仕入れたかわからない地上の状況を聞いていた。
「なんだ知ってたのか?まぁ今回は勇者アバンじゃなく勇者ダイがこの地上を救ってくれたぜ……でも、まぁ元勇者のアバンの力も充分過ぎるほどバーン打倒に貢献したみてぇだがな♪」
マトリフはそう言って敢えて簡単にアバンの事を伝えた。アバンが一時死んだと思われていたコトはとりあえず伏せることにしたのは、ロカに対する配慮だった。
「そうか……まぁ新しい勇者が出てきたのならそれも良しか!地上世界はまた平和になったんだしな!」
しかし、つい先刻話に出たヴェルザー達の地上侵攻のコトを考えると、そんなロカの言葉にマトリフ達は少し複雑な面持ちになる。
「まぁよ……とりあえずレイラもマァムも元気にしてるからよ!おめぇもそんなトコからさっさと出てこいや!」
だが、せっかくの再開に水をささないようマトリフはここでも敢えて明るく振る舞う。
「………ああ……そうだな……本当に帰りてぇな……」
しかし、マトリフの言葉にロカは力なく俯いて呟いた。
「ロカ殿……」
「ああ……!わりぃ!わりぃ!つい湿っぽくなっちまった!久々に昔の仲間の声を聴いたらなんかホッとして気が抜けちまったぜ……!へへ……」
ロカはそう言うと慌てて取り繕うが、やはりどこか力なく笑う。
「ほんっとに大バカヤロウだぜ!!おめぇは……」
「マトリフ……」
「な、なんだよ……マトリフ……別にちょっとくらい良いじゃねぇか!俺だってお前らと久々話が出来て嬉しいんだぜ!!地上が恋しくもならぁな……」
「そうじゃねぇ……」
「え……?」
ロカは意識の声だけの掛け合いの中でマトリフの表情が見えない所為か訝しむ様に眉を顰める。
「あんなにべっぴんな嫁とあんなにかわいい娘残してよ……そんなトコ行っちまいやがって!!大バカじゃなきゃなんだよ!!!」
「……っ!!?マトリフ……すまん……」
マトリフの言葉にロカは思わず項垂れる。しかし……
「やっぱり大バカヤロウだぜおめぇは……っ!!俺になんかじゃねぇだろう!!そのセリフは!!!!」
マトリフの瞳には熱いモノが光りながらもその言葉と表情には怒りが滲んでていた。しかし、すぐに……
「誓えロカ!!必ず戻ると!!!」
「え……っ!!」
「俺達にじゃねぇぞ!!お前の帰りを信じて待ってるレイラとマァムの元に必ず帰ると誓え!!!!!」
「マトリフ………」
「おめぇのいない中でマァムもよ……アバンの弟子として大魔王バーンやその魔王軍から世界を救う為に懸命に強くなって、戦ってきたんだ……そしてレイラもそんなマァムをしっかり支えて生きてきた……でもよ……二人ともおめぇがいなくてどんなに、どんなに寂しかったか……」
「……マァム……レイラ………」
マトリフのその言葉にロカは強くレイラとマァムの顔を思い浮かべながらその瞳に潤いを湛えていた。
「だからよ……ロカ……おめぇはおめぇらしく真っ直ぐに……望む道を進め!!」
「俺が……望む道を……?」
「バカ正直なおめぇのコトだ……魔界に堕ちてもう二度と地上に帰れねぇなんて思っちまってんだろう……だがよ、俺の知ってるお前はそれでも決して自分を見失わない強い男だ……お前はどんな時だって諦めるコトなんてしなかっただろうが!!!」
「マトリフ……」
「あのハドラーに一人で立ち向かって……その攻撃に耐えて、耐えて、アバンのヤツに最後の一撃を託した時の……あの気持ちを、今こそ思い出せ!!!そんな暗いジメジメした魔界なんかで、いつまでも燻ってんじゃねぇ!!ロカ!!!!」
「ロカ殿!!!!」
「ロカ殿!!!!」
マトリフの魂からの言葉に、ブロキーナとカイアもロカに呼び掛ける。そして……
「マトリフ……ブロキーナ老師……カイアさん……ああ、わかった……もう俺は下を向かねぇぜ……絶対になにがなんでも地上に帰ってやる!!!!!」
「そうだ!!そうやって不器用でも前を向いてるのがおめぇらしいってもんよ!!」
「お、おいおい!!随分な言われようだなっ……相変わらず口のワリィじじいだぜ!!」
「ヒヒ♪」
そうしてロカは、地上に必ず帰るという強い誓いを新たに立てた。
「でもよ、俺だってこの十四年なにもしてなかったワケじゃねぇぜ……」
「ほう?魔界で何かしておったのか?」
ここでブロキーナが訊ねる。
「そうなんすよ老師、さっきも言ったけどココ魔界のモンスターは半端なく強いんで、かなり鍛えないといくら命があっても足らないくらいだから、剣の腕をかなり磨いているんですよ……まぁもっとも俺にはそれしか無いしなぁ……」
「いやいや立派なコトじゃよ……魔界という環境にその身を置いても己の鍛錬を欠かさない……やはりお主はマァムの父親じゃな……あの子もワシのところに弟子入りに来てから日々の鍛錬を欠かさずやっておるようじゃ……」
「マァムも!?そういえばさっきアバンの弟子にもなったって……へへっ……そうか……アイツおっきくなったんだろうな……」
ロカはまだ幼い赤ん坊だった頃のマァムの顔を思い浮かべて優しく微笑む。
「ヒヒ♪まぁ……色んなトコがなぁ〜ヒヒ♪」
「ちょっとマトリフ!!!」
マトリフがスケベなだらしない顔になると、間髪入れずカイアが強めに突く。
「マトリフ〜おめぇ……レイラにもちょっかい出してたよな〜マァムにも何かしてるんじゃねぇだろうなっ!!!」
「なっ……!!?そうなのマトリフ!!!」
「い、いや!!な、なにも…………………してない」
「なんだぁ!!今の間はーーーーーー!!!!」
「マトリフーーーーーーっ!!!!」
「ひぃ……っ!!ゴメンナサイ!!!」
「くっそーーーーーーっ!!!今すぐ帰りてぇーーーーーーーーー!!!!」
「大丈夫よロカ殿!!私がビシバシお説教しとくからっ!!全くもうっ!!!!」
「お、おてやわらかに……おねがいします……」
ロカとカイアの波状攻撃に自業自得なマトリフはタジタジだった。
(「こりゃヘタにポップのコトを出したらアイツ……ロカに殺されるかもな……」)
しかし、すぐさま自分のコトを棚に上げて弟子の心配をするマトリフだった。
ところが……
「そうじゃ、マァムには大魔道士のボーイフレンドが出来たぞロカ殿♪」
「へっ……?」「へっ……?」
このブロキーナの発言にロカとマトリフは思わず揃って同じ反応を示した。
「ろ、老師……?えと……ボーイフレンド……?マァムに……?」
「ウム、なかなかスゴイ魔法を使う男でな……まぁそれもそのハズ実はこのマトリフ殿の………」
「だぁぁぁーーーーーー!!そ、それよりロカ!!レ、レイラは元気にやってるぜ!!!」
「………マトリフ………お前……まだ何か隠してるコトがあるな……?」
「な、なんのことだよハハハ……」
「どうした?マトリフ殿?ポップ君のコトは紹介せんのかのう?お主の自慢の弟子じゃろう?」
「弟子ぃぃぃーーーーーー!!!!マ、マァムのボーイフレンドが………マトリフの……弟子……?嫌な予感しかしねぇ……おいっマトリフ!!!!」
「ハッ……ハイッ!!!!」
マトリフは先刻の影響で、ロカの怒鳴りに敏感に反応する。
「そいつは……おめぇみてぇなヤツじゃねぇだろうな……」
「と、申しますと〜ハハ……」
「もし、そいつがマァムになにかしてやがったら……地上に戻り次第真っ先に……」
「ホホ♪それは大丈夫じゃよ♪ポップ君は今じゃマトリフ殿を超えつつある大魔道士……先の大魔王バーンとの最後の戦いに於いても目を見張る大活躍をしてくれた……ワシも間近で見ていてとても頼もしく感じたよ♪安心なされよロカ殿♪」
「そ、そうスカ?ま、まぁマトリフを超えつつあるってのはスゲェなぁ……でも……老師がそういうなら……」
ブロキーナの言葉にロカは頷きつつも、やはり長い間会っていなかった自分の娘に、まさかのボーイフレンドという衝撃的な展開を受け、その不安とわだかまりは、なかなか消えそうになかった。とりわけマトリフの弟子という部分が特に不安のタネであった……
「ま、まぁロカ殿……!とりあえず理由はともかくこれで地上に帰る目的も明確になったし、私も及ばずながら力にならせてもらうぞ!!」
すると、カイアはそんなロカの気持ちを察したのか尽力の旨を告げた。
「カイアさん……ありがとうございます!十四年前も命を救われて、本当にアナタには感謝しかない……」
「まぁソコは俺の女だからな……大したヤツさ♪」
「マ、マトリフ……!!?そ、そんな急にロカ殿にそんなコトを……」
マトリフの言葉にカイアは顔を赤らめている。
「女……?マトリフ……お前……今カイアさんを……」
「ああ、俺の女になった♪まぁついさっきだけどな♪」
「なぁぁぁにぃぃぃーーーーーー!!!!マトリフお前自分がいくつだと思ってんだよ……っ!!!!」
「もうちょいで100歳だぜ♪ヒヒッ♪」
「ハ……ハハハ……俺がいない間に地上ってどうなってるんだ……?ハハ……」
「地上の事はヨクわからないけど、私が最初にマトリフに夢中になっちゃったの……ダメかしら?」
「いやいやいや!ま、まぁそういうのは俺は正直よくわからないですから……でも、マトリフ……お前やっぱスゲェな……もう何がなんだかわからないからホント……地上に帰るわ……とりあえず……ハハ……」
もうロカは完全に頭の中がショートして、話の展開について行く自信がなくなっていた。
「ま、おめぇに話したいことは沢山あるってことさ……ここにはいねぇが……おめぇの親友だってその筈だぜロカ……」
その言葉にロカはアバンの顔を思い浮かべる。
「そうか……アバン……」
そうして、アバンと過ごしたいくつもの時間をその心に思い浮かべながら微笑している。
「ロカ殿……私も色々と魔界の伝手を辿ってみるコトにしようと思うが……どうやらマトリフ達にも何か計画があるらしいぞ……この解呪の実を使ってな……」
そうしてカイアは自分達の頭の上になっている解呪の実に視線を向ける。
「解呪の実を……?」
「ああ、コイツをアバンのヤツのところに持っていく……」
「………っ!?アバンに……っ!!?そ、そうか……もしかしたらアイツなら何か掴んでくれるかも知れねぇ!!!」
ロカはアバンの名をこの時改めて耳にして、希望の光が見えた気がした。
いつも隣にいた掛け替えのない相棒であり親友……そして、かつて世界を救った勇者としてのアバンをロカはその傍で見てきたのだ……
そう彼にとってもアバンはいつでも希望の勇者であり光だったのだ。
前回の奇跡的な展開より、引き続きその時間をじっくりと書いてみました。今回はやはりロカとマトリフ達との時間のギャップみたいなモノをどうやって面白味を交えて埋めていくか?という作業になりましたが、とても楽しまさて頂きながら書けました(笑)マトリフをロカとカイアが叱るシーンなどはホント漫画でみたいなぁ〜と思いながら書きました。また、ロカとポップの関係性にも少し触れながら遊ばせていただきました(笑)案外とブロキーナがマァムの相手はポップだと認識しているところが個人的にはエモいところですね(笑)