─呪詛計画─
「俺はお前のあの光る剣に希望を見た」
そう、ロカはあの時のアバンにもそう語ったのだ。
そして、あれから十五年以上も経った今この時も……アバンのその名を聞いたロカは、同じ希望の光りをその胸に見た。
「アバンも俺を魔界から地上に戻す方法を探ってくれていたのか……」
「あったりめぇだろ!あの時のアバンの苦悶に満ちた顔を……俺達は忘れるコトは出来ねぇさ……なぁブロキーナ……」
マトリフの言葉にブロキーナも頷いて応える。
「ウム……あの日……ワシらはレイラ殿から連絡を貰ってネイル村ではなくパプニカ南西部の古代遺跡……ヨミカイン遺跡に集まったのじゃ……」
「え……っ!?ヨミカインって……あの……俺と……いや、俺達とマトリフが初めて出逢った場所じゃねぇか……っ!?」
そう言いながら、ロカは初めてアバン達とヨミカイン遺跡に足を踏み入れた時のコトを思い出す。
「ああ、アバンと俺とブロキーナ……そしてレイラ……だがそれはレイラの提案だったんだ……」
「レイラの……?」
「おそらくレイラは、お前が戻ってくる可能性を信じてはいたが、それでも不確かな状況でそれを村の連中に悟られるコトを恐れたんじゃねぇかと思う……」
「不確かな状況を……」
「ウム……お主はレイラ殿と結婚してからずっとネイル村に住んでおったじゃろ?」
「はい、そうです……あの村……なんだか居心地が良くて……レイラが育った村でマァムをあいつと一緒に育てたいって思ったんスよ……へへっ……」
「おめぇがそう思う様に、村の人達もみんながおめぇを信頼してたもんなぁ~まるで、ずっと前から一緒に住んでいたかのように……」
「そ、そうか?そんな風に見えてたか?マトリフ……」
「俺だけじゃねぇさ、アバンのヤツもそう言っていたぜ……だからよ、お前が居なくなっただけでも村人はショックを受けちまうコトが予想される中で、また戻ってくると皆に言っても、あの時点じゃその見込みは限りなくゼロに近かった……だからそれが実現されなきゃ二度も村のみんなを悲しませると、レイラはそう考えたのさ……だからあの日、ロモスの地ではなく、わざわざパプニカにあるヨミカイン遺跡に俺達を集めた……万が一にもおめぇを救出する為の話が他に漏れて、ぬか喜びさせねぇように……それに、お前が戻るかも知れないなんていう、その不確かな情報がやがてマァムの耳に入る可能性も配慮したのかもな……」
「レイラ……そうか……俺はあいつにそんな苦労を……すまねぇレイラ……マァムにも……本当に寂しい思いを……」
「だから、それは地上に帰ってきてからレイラの目を見て言え……マァムのこともちゃんと抱きしめてやれ……」
「それとアバン殿にも、お主の元気な姿を見せなくてはのう……」
すると、そのマトリフとブロキーナの言葉にロカは涙を拭って前を向きながら言う。
「アバン……へへっ……あいつにも一発や二発殴らせなきゃかもな……」
「それも含めて……地上に帰ってきてからにしろや……ヒヒ♪」
「よしっ!!やっぱりこうなったらなにがなんでも地上に帰ってやらぁ!!!!」
ロカはマトリフとブロキーナの言葉を受け、アバンやレイラとマァムの笑顔を胸に秘めながら、改めて地上に帰ると強い決意を固めた。
しかし、そう決意したその時、とある不穏な存在がその場の空気を乱した。
『ホウ……?なにがなんでも……と来たか……ロカよ……』
「………っ!!!?」
「………っ!!!?」
「なっ……!!?ま、まさか……っ!!!?」
すると、ロカ達の会話に割り込んで来たその声にいち早く反応したのは、これまで静かにロカとマトリフ達の様子を見ていたヒュルトだった。
『フフフ……どうしたヒュルトよ……その姿は……なかなか懐かしいではないか……』
不敵に笑うその男はヒュルトをよく知る間柄のようだ。
「何モンだ……っ!?てめぇ!!!」
そんな中、乱暴に声を上げたのはマトリフだった。
『ああ……そうだったな……こうして地上の人間と話すのは久しぶりだからな……自己紹介をしておこうか……』
「なぁにが自己紹介だ気取りやがって!!ふざけんなっ!!とっとと名乗れバカヤロウが!!!!」
マトリフは強い言葉を投げつける。
『なかなか威勢のいいジジイだ……まぁよかろう……我が名はメドゥルザ。この魔界を支配する冥竜王ヴェルザーの実子だ……以後お見知りおきを……地上の強者よ……』
「………っ!!!?」「………っ!!!?」
このメドゥルザの発言に、驚きを示したのはマトリフとブロキーナだった。
そして、ロカ、カイアそしてヒュルトの三人はこのメドゥルザという男を知るが故に警戒の色を示していた。
「メドゥルザ……てめぇどういうつもりだ……」
と、その警戒心と同時に静かに憤りを露わにしたのはロカだった。
『どういうつもり……だと?フフフ……ロカよ貴様あまりに剣ばかり振っていて頭の回転が鈍くなったか?あ〜いや、お前の頭が悪いのは元々か……?』
「なんだとっ……!!!!」
「待ってロカ殿!!あなたの周りにメドゥルザがいるの?」
「え………っ!?あ、い……いや……!!どこにも………」
カイアの問いに、ロカは周りを見渡すが確かに声はしてもメドゥルザの姿はなかった。
「どういうコトなのかしら?呪神冥竜……」
『フフフ……嬉しいなカイア……君ほどの美人が俺の通り名を覚えていてくれたのか……』
「黙れ……貴様もヴェルザーも我が鬼眼族における永劫の敵!!貴様ら一族が滅びるまで忘れるものかっ……!!!」
メドゥルザの讒言にカイアは怒りを露わにする。
『まぁ、そういきり立つなお前もロカも……しかしよくもまぁ……それなりの時を費やした我が計画を見事に打ち砕いてくれたモノだ……なぁヒュルト』
「うっ……!!?」
「耳を貸すなヒュルト!!!二度とお前を奪わせはしない!!!」
「母さん……」
『フハハハハ!!!美しい親子愛の復活か?ハハハハ!!!』
「本当にてめぇ……生け簀かねぇ野郎だな……」
「全くじゃ……カイア殿の言う悍ましさがよくわかるわい……」
マトリフとブロキーナは初めて接するメドゥルザに対し、その下卑た印象を遠慮なく口にする。
『それはそれは、地上のゴミにそのような評価を頂けるとは光栄だよ……さて、それではそろそろ本題に入ろうか……』
そう言うとメドゥルザの声のトーンが一段低くなる。
「本題……だと?」
その雰囲気にロカが恐る恐る訊く。
『一つは……ヒュルト……お前の処遇だ……』
「………っ!!!?」
「な………っ!!?メドゥルザ!!貴様まだヒュルトを………っ!!!!?」
ヒュルトに向けられた矛先にカイアは厳しく反応する。
『なんだ?まさかこのままお咎めなしなどと都合のいいコトを考えていたのではあるまいな?ん?どうなんだヒュルトよ……』
「ウ……ッ!!?そ、それは……」
メドゥルザの声だけの威圧で、ヒュルトは怯えの表情になる。
「案ずるなヒュルト!!ヤツにはもう手出しはさせない……っ!!!この私が必ず守る!!!」
「母さん……」
『フハハハハ!!!何か昔に聞いたことがあるセリフだなぁ!!カイアよ!!必ず守るだと?ハハハハーーー!!!』
「うるせぇぞ!!このクソ野郎がっ!!」
「マトリフ……」
カイアの代わりにマトリフが激高すると、カイアはマトリフを見つめる。
『なんだ人間……貴様には関係のない話だろ?黙って引っ込んでいろ……』
「黙って引っ込めだぁ?ハン!!俺は誰の指図も受けねぇよ!!!特にてめぇみてぇな生け簀かねぇクズ野郎の指図なんかなっ!!!」
『フッ……先刻から聞くに耐えぬ讒言を並べおって……だがまぁ焦るな……貴様らを消すのは飼い主の手を噛もうとする犬の始末を終えてからだ……』
「なにぃ……っ!!!」
『さぁヒュルト……最後に何か言い残すことはあるか?』
「くっ……!!?だが、そうは言っても天界の精霊の力で魔界から出られないお前に何が出来る!!」
『フフフ……フハハハ……ハーハハハハ!!!!』
「なんだこの野郎!!また急にバカ笑いしやがって!!!」
嘲笑するメドゥルザの高笑いに改めてマトリフ達は一様に憤る。
『いや実際笑わせてくれる、この俺がなんの策もなしにこうして貴様らに接触したと思っているのか?』
「メドゥルザ……忘れたのか?この二人はお前の自慢のヒュルトを倒したのだぞ?今の幼いヒュルトではなくお前が手塩に掛けて暗黒エネルギーを注いだヒュルトをな……」
「そうだ……!!お前の暗黒エネルギーの力でオレは強化されたが、ここにいるマトリフさんとブロキーナさんはそのオレの闇を打ち破ってくれたんだ!!!」
「おめぇら……」
「カイア殿……ヒュルト殿……」
『ああ……解ってるさ……わざわざお教え頂かなくても、見ていたからな……カイアとその人間共がヒュルトの玉座の間に辿り着いたところからな……』
「やっぱりそうか……」
メドゥルザのその言葉に反応したのはロカだった。
『…………』
「ロカ……?おめぇ何か知ってるのか?」
「ああ、このメドゥルザってヤロウは精霊の力で魔界の奥地に追いやられてる割には妙に色んな情報に長けていてな……その理由を俺がこっちで居候していてるトコのバアさんが言ってたんだが、なんでもメドゥルザは魔界にも地上世界にも使い魔を放って情報を集めているって話だ……」
「使い魔だと………っ!?」
『フフ、ロカ……そうだな……たが、その回答は半分正解で半分不正解だ……』
「なんだと……っ?」
『確かに俺は魔界は疎か地上世界にも使い魔を放って情報を得ている。因みに地上にはバーンの元に死神を送っておいたがな……だが、この解呪の洞窟では違う……俺がヒュルト達の状況を見物出来たのは、使い魔ではなく、その呪精木の力さ……』
「呪精木の……っ!!?」
『そうだヒュルト……敢えてお前にも教えていなかったのは、当然秘密裏にお前を監視するためさ……呪精木を通してその解呪の洞窟の最深部の状況は、逐一オレの城で見ることが出来る……』
「………やはり、オレを信用してなかったんだな……」
「我が子を利用するだけ利用して……メドゥルザ……貴様というヤツは……!!」
『何を言うか……魔界での裏切りなど日常茶飯事……ましてやヒュルトの近くにはヒュルト自身が封印したとはいえカイア……貴様がいたのだからな……こちらも裏切りに対応する為の監視としては当然だろう?』
「なるほどな〜信用しないで利用して……おまけに覗きかよ……ホンモノのゲス野郎だぜ……」
マトリフが憎らしそうに言うと、メドゥルザはやや苛立ちを覚えて暗黒魔力を静かに高める。
『人間よ………あまり調子に乗るなよ……呪精木にはこういう使い方も出来るのだぞ……ハァーーーッ!!!』
バリバリバリバリーーー!!!!
すると、マトリフ達が触れている呪精木から黒い稲妻が迸った。
「ぐあぁぁぁーーーーーー!!!!」
「キャアァァァーーーーー!!!!」
「ぬおぉぉぉーーーーーー!!!!」
「みんなぁぁぁーーーーー!!!!」
マトリフ、カイア、ブロキーナは黒い稲妻を全身に浴びて呪精木から跳ね飛ばされた。
『我が崇高なる計画を踏みにじった貴様達に俺がどれほど怒りを感じているのかを少しは思い知ったか……』
「クッ……!!?なんだ……今の黒い稲妻は……っ!!!?」
「あ、暗黒魔力のようじゃったが……」
「アレも……魔界特有の呪文……ダークデイン……」
「ダークデイン……!!!?」
「闇の電撃呪文か……そりゃ効くワケじゃ……」
カイアの説明にマトリフ達は驚愕する。
『ゴミ共は暫く大人しくしているしかないだろう……その闇の稲妻による感電はそう容易く回復はしないからな……さて、ヒュルト……お前の処刑だ……』
「待て!!メドゥルザ……!!!」
と、今度はロカがメドゥルザに抗うように声を上げる。
『フッ……ロカよ、お前に何が出来る……この俺はお前が先刻言った通り魔界の奥深くにある我が城から一歩も出られないのだぞ?同じ魔界とは言え、その遥か遠い地にいるお前が俺をどうにか出来るのか?お得意の剣を振るうことも殴り掛かるコトさえも出来はしないだろう?』
「クソッ……!!!」
『それにロカよ……いいのか?そんなところでのんびりとしていて……』
「なに?どういう意味だ……!?」
メドゥルザの意味ありげな言葉にロカは不審を抱く。
『ワズは……元気にしてるか?ロカ』
「な、なんだと?ワズ……婆さん……?」
『今頃どこぞの女魔族に囚われている……かもな?』
「ワズ婆さんが……っ!!!?」
ロカは思わず声を上げる。
「な、なんだ……ロカ……どうした?」
「マトリフ……!!?さっき言った俺が居候していてる家のバアさんがなにかヤバいらしい……っ!!!」
「ど、どういうコトじゃ……メドゥルザよ……」
マトリフとブロキーナは痺れながらもメドゥルザとロカの話の詳細を訊ねる。
『地上の人間共には関係のない話だ……あくまでロカの問題……』
「メドゥルザ!!お前まさかワズにまで………っ!!?」
『なら、様子を見に行ってみろ?簡単だろう?』
「クッ……!!?しかし……っ!!おいっ!!マトリフ大丈夫か……っ!!!?」
「ああ……俺達は大丈夫だ……早くそのバアさんのところに行ってやれ……!」
「ウム……少しだけだが話せて良かったぞいロカ殿……レイラ殿とマァムにもちゃんと伝えておくよ……ロカ殿は……生きておると……」
「ブロキーナ老師………」
すると、ここでメドゥルザが口を開く。
『マァム……そうか……ロカ……貴様の娘のマァムか……さぞ美しく育っているコトだろうな……』
「…………っ!!?メドゥルザ……!!てめぇマァムを知っているのかっ!!!?」
「ど、どういうコトだ……?」
「マァムのコトを……?」
ロカもマトリフもブロキーナもメドゥルザの言葉に困惑している。
『当然だろう?何のためにあの娘に呪いを掛けたと思っている?俺は探していたのさ………』
「探して……いた……だと……?」
『ああそうだ………この俺の子を生むに相応しい人間の娘をな……』
「…………っ!!!!?」
「…………っ!!!!?」
「な、なんだとぉぉぉーーー!!!!」
その場にいたメドゥルザ以外の者達が驚愕する中、当然ロカだけはその声を上げずにはいられなかった。
そして、十四年前の呪いによる悲劇の真実と更なる衝撃の計画が、その呪いの当事者である呪神冥竜メドゥルザの口から今語られようとしていた。
魔界にいるロカと地上のマトリフ達がようやく声だけ(正確には意識の中ですが)とは言え、互いの存在を確認し、喜ばしい交流を果たせたと思ったところで、やはりこのままスムーズに行かせないとばかりに、呪神冥竜メドゥルザが割り込んできました。とにかくコイツは性格がクソなので、そんなところを意識して読み手の方々に出来るだけイヤなヤツという印象を感じて貰えるように心掛けました。
性格悪くて、頭がよく、強い。ちゃんとした悪役です(笑)
マァム狙われてますね……