新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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地の底の冥獣

 

 ─リレミトリオン─

 

「はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!!」

 メドゥルザはそれまで座っていた玉座から腰を上げ一歩、二歩とたどたどしい足取りで歩を進める。しかし、三歩目で体勢を崩しその場に膝をついた。

「はぁっ……!!はぁっ……!!や、やはり……今の俺の魔力でオセロットの召喚は無理があったか……はぁっ!!はぁっ!!」

 メドゥルザの手にしていた黒い宝玉も玉座の下で砕けている。これで暫くは地上世界への通信やあらゆる魔力を駆使したトラップ等は不可能となった。

「だが……これで確実にヤツらは始末出来た……”全てを飲み込む者“か……フフフ……」

 メドゥルザは息も絶え絶えな状態でありながらも、不敵な笑みを浮かべながらマトリフ達の最後を確信していた。

 

 オセロット……。それは魔界に於いて数千年に渡って語られて来た伝説の魔獣である。

 かつて、魔界の全てをその圧倒的な暗黒魔力で支配していた恐るべき邪神が存在していた。暗黒魔力を生み出した始祖とも言うべきその存在は、やがて魔界のみならず地上、そして天界への侵攻をも目論んでいた。そう、魔界の奥底に封じられたとはいえ、その野望の火を未だ灯し続けている冥竜王や勇者ダイに破れた大魔王バーンの様に……

 しかし、その当時の神々の力は絶大であった。魔族、人間族、そして天界族の三界の神々は、世界のバランスを崩そうとするその邪神の侵攻を許さず、神々の力によって邪神をその邪悪な計画ごと魔界の深い深い闇の底に封印した。そして、更に力を分散して二度と暗黒魔力を使う事がないようにする念の入れ様だった。

 ところが、封印された筈の邪神は神々の思惑を超えた一手を密かに打っていた。邪神は神々に封印を施される直前、自らの分身となる魔獣を神々さえも気付かない闇の底に生み出していたのだ。そうしてその後、邪神が神々によって封印されると、生み落とされた魔獣の元となる邪悪な生命体は神々の目を巧みに擦り抜け、密かに魔界のあらゆる負のエネルギーを喰らいながら数千年の時を掛けてゆっくりと成長していった。

 

「メドゥルザ様………っ!!!?」

 その声にメドゥルザはゆっくりと目を開いた。

「しっかりなさって下さい!メドゥルザ様……っ!!!」

 自分を呼ぶその声にメドゥルザはぼんやりとする意識の中で呟いた。

「アギス……か………何故……ここに……?」

「ワズを連れて戻って玉座の間にてご報告をしようと思っておりましたが、いらっしゃらなかったので随分とお探し致しました……そしたら……」

 そう言ってアギスは回復呪文をメドゥルザに掛ける。

「そうか……だが、この召喚の間は……お前にも教えていなかったがな………」

「偶然です……何を焦っておられたのか解りませんが……この部屋の扉が少し開いておりましたので……」

 そう言ってアギスは自分が入ってきたこの部屋の扉に視線を向ける。

「フ……俺としたことが……ぬかったわ……」

「とにかくかなりお力をお使いになられてしまったご様子……今暫くはお休み下さい……アギスが……傍におりますので……」

 そう言うとアギスは、体勢を整えてメドゥルザをしっかりと支えて養生を促した。

「ああ……わかった……」

 やがてメドゥルザはアギスの肩を借りて力なく立ち上がると、自分の掌を数回握っては広げる仕草をしてから小さく呟いた。

「……クソ……ッ!また暫くは力が使えんな……」

 メドゥルザはアギスに支えられながらゆっくりと歩を進める。

「アギス……暫く任せる……」

「はっ!畏まりました……!!」

 その言葉を最後に二人は無言のままこの召喚の間を後にした。

 

 一方、メドゥルザから城への招待という挑発を受け、5日が期限のワズの救出に臨むロカは、素早く身支度を整えてメドゥルザの城に向けて発とうとした。  と、その時だった。

「ん……?」

 ロカはふと誰かに呼ばれたような気がして振り返った。だが、振り返った先には誰もいない。

「気の所為か………」

 首をひねりながら部屋を出ようとしたが、何かに思い当たるとやはり踵を返し自室に戻った。

「やっぱり……お前は連れて行くべきだな……」

 ロカはそう言うと、立て掛けてあったその大剣を握り、鞘からゆっくりと引き抜く。しかし、その剣の装飾や刀身から醸し出されている雰囲気は異様な禍々しさを放っていた。

「屍黒竜の牙……アレから婆さんがあまり使うなって言うから暫くコイツを振ってなかったけど……」

 そうしてロカはその屍黒竜の牙と呼ばれる大剣を改装備して、改めてワズの住居を後にした。

「婆さん待ってろよ……!!」

 メドゥルザの居城まで五日の旅路……地上世界とは違い、魔界の大陸を進む旅は想像以上に危険な旅となる事も必至であったが、その覚悟も携えてロカはメドゥルザの居城に向けて旅立った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「く………っ!!ぐぅぅぅ…………!!!」

 漆黒の闇の底。そう表現するのが相応しいオセロットの腹の中。しかし、そこにとある一つの空間が作り出されていた。

「ん………?なんだ……?」

 カイアは、遠のいていた意識が回復すると、奇妙な呻き声を耳にしてゆっくりと目を開いた。すると……!

「ヒュルト……っ!!?」

 みると、そこには自身の鬼眼の力を開放して異次元の空間を作り出しているヒュルトの姿があった。しかし、その表情は苦悶に満ちている。

「まさかお前……っ!!今までずっと一人で私達を……っ!!?」

 カイアのその言葉にヒュルトは微笑を浮かべながら、マトリフとブロキーナに視線を向ける。

「母さん……オレは、マトリフさんやブロキーナさんに助けて貰わなければ、今頃まだメドゥルザの元で自分の過ちに気付かずに……ずっと母さんを苦しませていた筈だよね……」

「ヒュルト……」

「だから……だからさ……オレ……絶対にこの人達を死なせたくなかった……この偉大な恩人である二人を……そして母さんを……失いたくなかったんだ……」

「お前という子は……本当に……なんて……なんて優しい子なの………」

「ハハハ………親バカだな……母さんは………」

「フフ……そうね………」

 カイアは涙を拭いながら苦笑する。

「確かに親バカだな……ヒヒ♪」

「ホホ♪ありがとうヒュルトくん」

 すると、どうやらマトリフとブロキーナも目を覚ましたようで、優しく笑い掛けている。

「マトリフ!ブロキーナ殿!良かった……」

 マトリフはカイアに安堵の笑顔を返す。しかし、その表情はスグに固いものとなった。

「だがヒュルト……おめぇ本当に大丈夫なのか?この空間は異次元ってヤツだろ?……相当辛そうだぞ……」

「ハハ……そうだね、まだこの身体に戻って慣れてなかった事もあるケド……正直もうそろそろ限界なんだ……」

「待ってて今から私の鬼眼の力をアナタに与えるわ!!」

 カイアも心配そうにヒュルトに申し出る。

「あ、ありがとう母さん……でも、その前にみんなに頼みが……あるんだ……」

「頼み……?」

 ヒュルトのその言葉にカイアを始めマトリフとブロキーナも首を傾げていると、ヒュルトが苦悶の表情に耐えながら語りだした。

「この異次元の空間は、まさに文字通りオセロットの腹の中とは異なる次元だ……でもだからといってこのまま安全なワケじゃない……」

「ああ、確かにお前の鬼眼の力が尽きちまったらこの空間は消えちまうんだろう?さっき俺達と戦ってた時みてぇによ……」

 マトリフは先刻の戦いを振り返る。

「そうなんだ……今も言った通りオレの力も限界が近い……でもここから地上に脱出出来る方法は、万に一つの可能性ではあるけど……あるにはある……」

「万に一つ……?」

「それはどういう方法じゃ?」

 マトリフとブロキーナが神妙な面持ちでヒュルトに訊ねる。

「ここにいる皆の力を合わせるんだ……」

「俺達の……力を?まぁ確かにここなら魔法封じの影響もないからリレミトで出れそうなモンだが……」  

 しかし、マトリフのその発言にカイアが首を振って告げる。

「いやマトリフ……普通のリレミトではこの異次元空間からは脱出は不可能よ……それが出来ていたら私もヒュルトに封印されていないわ……」

「あ!……確かに……そういう事か……別次元じゃあリレミトは通用しないのか……」

「ええ……あなたがやってくれた様に外側からこの空間を破壊してくれでもしない限り……」

「だからといってこの異次元空間を解除してしまえば、また魔法封じの影響を受ける……かのう?……」

「うん、そうなんだ……それにオセロットの腹の中に戻るからあっという間に消化されてしまう……」

「げぇ……っ!!そいつはシャレにならねぇな……」

「でも、ヒュルトそしたらどうすれば……」

 カイアのその言葉に、マトリフとブロキーナもヒュルトを窺う。

「母さん……あの呪文知ってるよね……?異次元を破壊することなく脱出する呪文……リレミトリオン……」

「………っ!!!!?」

「リ、リレミトリオン……っ!!!?なんだそれ?俺は聞いたことねぇぜそんな呪文……」

「ふむ、マトリフ殿さえも知らぬ呪文とは……」

 マトリフとブロキーナは顔を見合って首を傾げているが、カイアの反応だけは違った。

「ヒュルト!!お前何をバカなコトを……っ!!!あ、あんなのはお伽噺の中の呪文だろう……っ!!!」

「お、お伽噺だぁ?オイオイ……どういうこったよヒュルト!?」

 カイアは声を上げて反論するが、マトリフの質問にヒュルトは真剣な表情で語る。

「うん、確かにリレミトリオンは魔界でも子供さえ知ってるお伽噺の中に出てくる架空の呪文って言われているんだ……」

「そのお伽噺に出てくる呪文が実際に使えるのかのう?」

「わからない……でも……母さんオレ……知ってるんだ……」

「え……っ?」

 その瞬間、カイアの表情に一瞬の戸惑いとも憂いとも言える彩が浮かんだ。そして、マトリフだけはそのカイアの心の動きを微かに感づいていた。

「オレの父さん………鬼眼族のラーノが、かつて魔界で実在していたあらゆる魔法や呪文を研究しているある魔道士と接触していたコトを……」

「ヒュルト……なぜそれを……っ!?」

 カイアは今度はハッキリと戸惑いの表情をみせる。

「もちろん……父さんから聞いたのさ……それと、さっきのお伽噺もね……」

 ヒュルトのどこか懐かしむその瞳にカイアは少し胸の痛みを覚える。

「それじゃあ……やはりリレミトリオンという呪文も実在するという事か……?」

 マトリフがヒュルトにそう訊ねると彼は頷き……

「オレはそう信じてるよ……だってそのリレミトリオンの発動方法を父さんから教えて貰ったからね……」

 ヒュルトはマトリフではなく、カイアに答える様に告げた。

「ラーノが……お前に……?」

「うん、父さんはオレに色々教えてくれたよ………だから……」

 カイアはこの時、ヒュルトのその後に続く言葉を瞬時に理解した。そして、優しい眼差しを向けて頷いた。

「そうか……わかった……」

「よしっ!!んじゃさっさとやっちまおうぜ!!そのリレミトリオンとかいうヤツをよ………っ!!」

「ウム!ヒュルトくん頼むわい!」

「よしっ!!じゃあ先ずは三人でオレを囲むように立って貰える?」

 そうしてマトリフ、カイア、ブロキーナはヒュルトを中心にしてその周りに立つ。

「そうだな……母さんはオレの後ろに来てオレの背中から鬼眼の力を注いでくれるかい?」

「後ろだな……わかった」

「マトリフさんとブロキーナさんはそれぞれオレの手を取って下さい」

「わかった」

「了解♪」

 そうして、カイアはヒュルトの背中に、マトリフとブロキーナはそれぞれヒュルトの手を取り、そこから更にヒュルトの説明が続く。

「ここから先ずオレの鬼眼の力に母さんの鬼眼の力を注いで貰ってこの異次元空間を安定させる………そして、その後ブロキーナさんの鬼眼の腕輪に俺達の力を溜め込みます。ブロキーナさんは鬼眼の腕輪の発動の為に闘気を込めておいて下さい」

「おっけ〜♪わかったよ〜ん♪」

「そして、最後にマトリフさんはブロキーナさんからの鬼眼の力を受けて魔法力を限界まで高めて下さい……」

「よし……っ!わかったぜ……」

「マトリフさんの魔法力とオレ達の鬼眼の力が完全に合成されたら、マトリフさんはオレの詠唱に続いて下さい……そして、最後にオレの合図でリレミトリオンを……!」

 ヒュルトとマトリフは互いに頷き合って最終工程を確認し合う。

 そして………

「よしっ!!それじゃあいこう!!!」

「よっしゃぁぁ!!」

 ヒュルトの掛け声でマトリフ達はそれぞれの役割に集中し始める。

「いくわよヒュルト……はぁぁぁーーー!!!」

 先ずはカイアが自らの鬼眼の力をヒュルトに注ぎ込む。すると、力が尽き掛けていたヒュルトの表情にも活き活きとした変化が見え始める。

「おお……っ!!力が……鬼眼の力が戻っていく……!!!安定感も問題ないっぞ!!よしっ!!それじゃあ次はブロキーナさんに……」

 そうして次にヒュルトはブロキーナに向けて鬼眼の力をゆっくりと注ぐ。

「フム……鬼眼の腕輪に力が集まっておるのがよくわかるぞい♪力が増幅しておるようじゃのう♪」

「うん、その鬼眼の腕輪にはあらゆる力を増幅させる力もあるんだ……腕輪の宝玉がブロキーナさんの力に呼応して赤く光ったコトがあったでしょ?」

「おお!確かにそうじゃった!!なるほどのう♪」

 ブロキーナはニカッと笑って頷いた。そして、次に腕輪の中で増幅させた鬼眼の力をマトリフの魔法力と合成させる為に彼の様子を窺う。

「マトリフ殿……」

「ああ……いつでもいいぜ!」

 マトリフはブロキーナに頷いてみせる。

「では、ブロキーナさんの腕輪の力を少しずつ繋いだ手から受けて下さい……そして、マトリフさんの魔法力と鬼眼の力を一つにするイメージを作って下さい」

「もしかして……メドローアのセンスと同じか?」

「さっすが!その通りです!!あの呪文を見た時からマトリフさんの魔法センスには驚いてました!だから確信したんです!マトリフさんとなら必ずリレミトリオンを発動させるコトが出来るって!!!」

「そうか!ヒヒ♪よっしゃぁぁ!!やってやろうじゃねぇか……っ!!どのみちこのままじゃ全滅しちまうしな!!」

 そうして、改めて四人は各々が集中しリレミトリオンの発動に備えた。

 カイアからヒュルトにヒュルトからブロキーナに……そしてブロキーナからマトリフに鬼眼の力の伝導が成されていく……

「ナルホドな……これが鬼眼の力か……自分の身で受けると、またその凄みがわかるぜ……」

 マトリフは、ブロキーナと繋いだ手から鬼眼の力を受け、更に自らの魔法力との合成を試みながら呟いた。

「今のあなたなら鬼眼の力と魔法力の合成は可能だと私も思うわ……」

 カイアがマトリフの目を穏やかに見つめながら言うと、微笑を浮かべながらマトリフは言った。

「今の……か……まぁ、あのデステマを身に着けちまったら正直怖いモンはねぇな……ヒヒ♪」

 マトリフはカイアの言葉に力を得て、鬼眼の力と魔法力の合成に改めて集中する。 

 すると、マトリフの左手に凄まじいエネルギーの塊が集まり始めた。

「こ……っ!?こいつは……!!!スゲェ……っ!!!!」

 数多の呪文を使いこなし、更に今では究極破壊呪文デステマさえも身に付けたマトリフであっても、今自らの手の内に集まるそのエネルギーの凄まじさに驚きを隠せないでいた。

「そのエネルギーの合成や集束は誰にでも出来るモノじゃないわ……マトリフ……あなただから出来るのよ」

 カイアのマトリフを見つめるその眼差しには、彼に対する思慕の情だけでなく、深い尊敬と信頼の念が込められていた。

「ありがとうよ……カイア……おめぇに言われると不思議と力が湧いてくるぜ……それにヒュルト……ブロキーナも……最後の最後の本当に最後の一手を……俺に託してくれて……ありがとうよ……」

「マトリフさん……」

「ウム……」

「さあ!マトリフ……!!!」

「よっしゃぁぁぁーーーーー!!!!」 

 仲間達の思いを受けて、マトリフはその手に収めた鬼眼と魔法のエネルギーを完全に融合させた。

「では、オレの詠唱に続いて下さい!!」

「おうっ頼むぜ!!」

 そうしてヒュルトは更に集中力を高めて厳かに詠唱を告げ始めた。

「縛りを統べし者よ」

「縛りを統べし者よ」

「汝敵対せし異界の闇よ」

「汝敵対せし異界の闇よ」

「幽かの光に道を定め」

「幽かの光に道を定め」

「我今こそ光翼の如く」

「我今こそ光翼の如く」

「この声を叫ばん!!」

「この声を叫ばん!!」

 そして、ヒュルトはマトリフの目を真っ直ぐに見つめて小さく頷き、最後の合図を送る。

 マトリフはそれを受け魔法力を最大限に高めた状態で、その大呪文の名を叫んだ。

「リレミトリオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」

 

 瞬間ーーー。神々しい強烈な光が放たれたかと思うと、既に四人の姿はその異次元の世界から消え去っていた。

 

 

 




 解呪の洞窟編いよいよ終盤です。とにかく長かった こんなに長引くとは本当に思いませんでしたが、漸くここまでこれました。お付き合い頂いた読者のみなさんに本当に感謝申し上げます。
 さて、その最後の最後で、大呪文リレミトリオン出ました(笑)リレミトの最上級呪文です。はい、勝手に作りました(笑)ですが異次元からの脱出という設定でしたので相当な魔法力を使いますし、鬼眼の力も合わせないと発動しないという厳しい条件付きの大呪文です。
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