新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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フローラの願い

 

 ─カールの希望─

 

【カール王国】

 

 その小さな小屋の窓から朝の陽光が差し込む。そこは、カール王国の王女フローラがここ数日で拵えた仮の執務室であった。

「あら、もう夜明け……?」

 そう一人呟くフローラの手元には、自国カールの復興計画の図面が広げられ、彼女は徹夜でその復興計画を見直していた。

 大魔王バーンからこの世界を取り戻し、平和が再び戻ったこの世にあっても未だ魔王軍によって刻まれた傷跡は世界各国に広がっていたが、それぞれの国が皆、王族も民達も皆が懸命に復興に励んでいた。

 そして、ここカールは特に激しく、壊滅的な攻撃を受け、一時は周辺の国からもカールは再起不能だという声が聴こえていたが、王女フローラが生き延びて大魔王バーンを討った一助を担ったという話しが広がり、カールは元より同大陸のベンガーナやリンガイア、そしてテランからも歓喜の声が広がっていた。

「ふぅ〜さすがに徹夜は堪えるわね……でも、時間はいくらあっても足りないわ……」

 フローラは背中を伸ばしながら、疲れた身体を労るが、それでも疲労はそう簡単に自身の身体から離れてはくれなかった。

(「いけませんね〜フローラ様!公務がお忙しいのはわかりますが、無理をなさっては〜」)

 ふと、フローラは昔を思い出す。それはまだアバンがこの国の兵士としてフローラの側にいた頃……若さにかまけて今と同じ様に徹夜で公務に励んでいたフローラにアバンはいつもの笑顔でそう忠告してきたコトがあった。

「なによ……だったら早く帰ってきなさいよ!全く!フフ……♪」

 しかし、思い出の中のアバンに毒づきながら、フローラは懐かしそうに目を細めて微笑を浮かべる。

「アバン……」

 大魔王バーンが倒れた後、アバンはこのカールの地に帰る筈だった。しかし、キルバーンの黒の核晶(コア)により激しいダメージを受けた自らの弟子であるポップを救うために、アバンはパプニカにて彼の治療にあたることになったのだった。そして、その後パプニカ王女レオナからの連絡でポップが無事に回復した旨を聞いて、フローラも胸を撫で下ろしたのだった。

「フローラ様っ!!」

 と、フローラは小屋の外から聞こえる兵士の声に顔上げる。

「どうぞ」

「はっ!失礼します!」

 そう言うと、その小屋の扉を開けて一人の兵士が顔を見せる。

「おはよう、いい朝ね……」

「おはようございます!フローラ様!もしかして、また徹夜をなされたのですか!?」

 兵士は半ば恐縮しながら訊ねる。

「ええ……でも、やることが山積みなのだから仕方ないわ……でも、大丈夫よ」

 そう言って苦笑しながら兵士に応える。

「あまり無理をなさらないで下さい……申し付けて頂ければ我々も……」

「ありがとう……でもいいのよ……私にしか出来ないコトもあるから……それで、何かあったの?」

 フローラは兵士を諭して、彼の訪問の理由を訊ねる。

「はっ!只今パプニカ王国より、支援物資と復興の為の資材が届きました!」

「まぁ!もう到着したいうの!?レオナ先日送られてきた書簡にもあったけど、こんなにも早く来るなんて……有り難いわ……わかったわ!私もスグにそちらに行くから手配を進めておいて!」

「畏まりました!あ、後はこちらも……」

 そう言うと兵士は一通の手紙をフローラに渡す。

「ただ、差出人が明確でないのでお渡しするのはどうかと思ったのですが……」

 そう言う兵士からその手紙を受け取ったフローラはその手紙の右下にあったある小さなサインをみて小さく微笑んだ。

「大丈夫よ……誰かはわかるから……ありがとう……」

「……?さ、左様でありますか!それでは、失礼致します!」

 そうして兵士は敬礼をした後、フローラの元を後にした。

「今日は何のご報告かしら?」

 フローラが兵士から受け取ったその手紙には、彼女にしかわからないある相手からのサインが記されていた。

 かつて、彼女はこれと同じ手紙を何通も受け取っている為に、その小さなサインを一目みただけでその相手が誰なのか解るのだ。

「アバン……」

 そう、その手紙の相手はアバンに他ならない。

 魔王ハドラー討伐の旅に出てからアバンはこうして秘密のサインを記した手紙をフローラに送るようにしていた。何故なら彼女はこのカール王国の王女、つまり王族であり、魔王ハドラーがこの世界を支配していた頃はどのような形で彼女に危険が及ぶかも知れない状況の中で、手紙一つにも厳重な警戒が必要だった。そこでアバンが考えたのが、二人にしか解らないサインが記された手紙だった。

しかも、アバンはこの手紙に記されたサインに使用されたインクや紙自体に破邪の魔力を染み込ませており、邪悪な存在には決して渡らぬ様にするという、念の入れようだった。そして、平和になった今でも、その名残なのか、クセなのか、アバンからフローラに送られる手紙には毎回のように、その様な小さなサインが記されていた。

『フローラ様へ

  大戦後、なかなかカールへの帰還が叶わず申し訳ありません。レオナ姫からもご報告があったと思いますが、ポップの容態も回復致しまして、その後はパプニカの復興とこのパプニカの地より世界各国への支援計画などに少々お手伝いをさせて頂いてました。

 おかげさまでロモスやリンガイア、またベンガーナやテラン各国とも連携を取れまして、今後の各国の復興と何よりも先ずは身心共に傷ついた人々への支援を優先的に行うといった方向に於いてもそれぞれの国と強い意志の連携を確認する事が出来ましたので、後はこのパプニカに於いてはレオナ姫と三賢者の皆さんにお任せして私はお暇させて頂きました。ですので、漸く我が祖国カールへの帰還が叶いそうです。長らくお待たせしてしまいましたが、今後は腰を据え祖国カールの復興に尽力させて頂きたいと思います。

 

             アバン』

 フローラはアバンからの手紙に優しく微笑みを返しながら、ふと窓の外を見る。すると、まだ早朝にも関わらず兵士や一部の民達が既に今日の復興作業の準備を進めていた。

「漸くねアバン……全くどれだけ待たせるのよ……でもアナタが戻って来てくれれば、百人力どころじゃないものね……」 

 そうして、フローラは自身も復興作業の支度をする。

「アナタの帰還はこのカールの望み……そして、私の……」

 

 呟いたその先の言葉を敢えて声にせず、小さな執務室の扉を開いて、フローラは表に出る。

「フローラ様!!」

「おはようございます!フローラ様!!」

 扉を開いたその先には、逞しいその瞳に輝きを湛えたカールの民がいる。

「おはよう!みんな!!」

 フローラは決して気負う気持ちではなく、真からのありまのままの自分を目の前の輝く瞳に応える様に朝の声を上げる。

 そして……

「今朝は皆にご報告があります!!」

「……?」

 ザワザワザワ………

 その場にいた兵士も民達も皆がそれぞれの顔を見合いながら、フローラの言葉の真意を計り兼ねている。

「漸く我が国……いえ……かつての世界を救った勇者が帰還するわ……」

「え………?」

「フローラ様……それはまさか?」

「ええ、アバンからまもなくこのカールに帰ると報せを受け取ったわ!」

「アバン様が……っ!!?」

「あのアバン様が帰ってこられる!!」

 

 わぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!

 

 フローラの口から告げられたアバン帰還の報せにその場にいた兵士も民達も皆が歓喜の声を上げた。

 そして、フローラはその歓喜の様子を暖かい笑顔と眼差しを浮かべながら優しく眺めていた。

 希望の勇者の帰還。

 かつて世界を蹂躙した魔王ハドラーの手からこの世界を救い一時代の平和を齎した存在。そして更に、先の大魔王バーンとの熾烈な戦いに於いてもかつての勇者として以上にその知略と勇猛を駆使し、勇者ダイを始めとする自らの弟子達であるアバンの使徒と共に大魔王バーンとその魔王軍の打倒に多大なる貢献を収めた事は、このカールに於いてはフローラの口から既に皆に伝えられていた事だった。

 そして、カールの民達は同時に強く望んでいた。このカール王国をこれまで先頭に立って導いて来てくれたフローラへの思いから、その隣にはやはりあの大勇者の姿があって欲しいと……。

 

【ネイル村】

 

 ドォォォーーーーーーン!!!

 

 日は既に登っていたが、まだ充分早朝と言える時分にけたたましい衝撃音が村中に響き渡った。

「マトリフ!!」

「おう!レイラ!!戻ったぜ……」

 衝撃音に驚いて表に出てきたレイラの姿を見つけてマトリフは彼女に軽く手を挙げて帰還を告げた。

「母さん今の………!?おじさん!!ろ、老師も……!!」

「ホホ♪すまんのう起こしてしもうたかな……」

 早朝の……しかもルーラでの訪問にブロキーナは謝辞を示す。すると、マトリフがブロキーナに目配せしながら言う。

「でもホラよ、ブロキーナ……」

「うむ、ホレこの通り目当てのモノは手に入れてきたよ〜ん♪」

 そういうと、ブロキーナは懐から解呪の実を取り出してニカッと笑う。

「それが……あの日、ロカが口にした……」

「解呪の実!!」

 レイラもマァムもブロキーナからその実を受け取りまじまじと見つめている。

 と、その時……

「なんじゃどうした?おぉ!?これは、マトリフ殿にブロキーナ殿!!お二人……ん?お二人ではないようじゃな……」

 ネイル村の村長が驚きながら現れるとマトリフとブロキーナの他に二人の姿を見咎めて言った。

「おう村長!悪ぃな朝から騒がせちまって……えっと……それでだな……こっちの二人は………」

「人間……いや、地上の皆さん……お初にお目に掛かります……今、夫からもありましたが、朝早くから申し訳ございません………私は鬼眼の一族のカイアと申します……そして、こっちが……」

「あ……そ、その……ヒュ、ヒュルトと言います!」

 カイアとヒュルトはたどたどしくも、丁寧な挨拶を村長やレイラやマァムに示した。

「お、おぉ……これはこれはご丁寧に……ワシはこのネイル村の村長じゃ……よろしくのう♪」

「私はレイラです、そしてこの子が娘のマァム。よろしくお願いしますカイアさんと……ヒュルトさん……」

 村長やレイラがカイアとヒュルトに丁寧に挨拶を返す。

「よろしくお願いしますカイアさん、ヒュルトくん……ん?アレ?そういえばカイアさん、アナタさっき………夫って……」

 マァムもレイラや村長に倣ってカイア達に挨拶をしたが、カイアの先刻の言葉に気付いて訊ねる。

「こちらこそよろしくお願いします……ええ、マトリフは私の夫、私は彼の妻になりましたわ♪ついさっき……ね、マトリフ♪」

 そう言うとカイアはマトリフの隣に立って頬を赤らめながら、寄り添う。

「ええーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「マ、マトリフ!!本当なのっ!!?」 

「あ、ああ……まぁそんなトコだ……」

「まだまだ至らないところもありますが、息子のヒュルト共々、皆さんどうぞ宜しくお願い致します」

「あ、は、はい!こちらこそ宜しくお願いします…それと、お、おめでとうございます……」

 そうしてマトリフとカイアの結婚という思ってもみない展開にレイラとマァムは驚きと戸惑いの入り交じる中で二人に祝いの言葉を告げた。

 

 




 今回から新しい展開という事で、久し振りにバトルなしの物語となります。色々どのキャラを主軸にしようか考えてましたが、ここはアバンとフローラの話を書こうと思い至りました。原作のラストシーンでどうやらアバンとフローラは結ばれた様で、アバンはカールの国王になっているみたいですが、この物語ではその展開はまだ先になると思います。その前にカールの復興という大仕事がありますので、今回はその物語をお届けしようと思います。
 解呪の洞窟編よりも長くはなりませんので、何卒お付き合い頂ければ有り難いです。宜しくお願い致します✨
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