─レオナの采配─
今朝方、フローラの口からアバンが近々このカールの地に帰還する事を知らされた兵士や民達は、その喜びから昨日までの復興作業で身心共に疲れ切っていたのが嘘だったかのように張り切っていた。
全世界に轟く勇者アバンの名は、その英雄譚を始め多くの人々の間で交わされその彼の評判は魔王ハドラーを打ち破った後の十数年経った現在も、世界各国に於いて目覚ましいモノであった。そして、ここカールではアバンの故郷という事もあり、民達はまさに国の誇りとして常日頃よりアバンを讃えていたのだった。
「アバン様がお戻りになられたらどんな話を聞かせてくれるだろうか?」
「なんでも勇者の家庭教師をされていたと言うじゃないか!」
「ああ、大魔王バーンを倒したのはそのアバン様のお弟子さんの勇者だと言うが、なんでもまだ少年だと!」
「はぁ〜!やっぱりアバン様のお弟子さんてのは、みんなスゴイんだろうな!」
「そりゃあなんと言ってもアバン様が家庭教師だからな!」
「そりゃあスゴイわな!!」
と、カール王国は復興作業の最中にあってもアバンやその弟子のアバンの使徒達の話題で持ち切りだった。
「フローラ様!やはりアバン様の影響力は凄いですね!兵士達の間でもアバン様の帰りが待ち遠しいようで、今か今かと首を長くしております!そのおかげで随分と士気も上がり復興作業がはかどってますよ!」
フローラの側近の兵士が嬉々として彼女に兵士達の状況を告げた。
「フフ♪そうね、皆もイキイキとしてきたわね♪復興作業は確かに一朝一夕ではいかないけど、このエネルギーがあれば必ず私達のカール王国を再建出来るわ!故郷に帰還するアバンの為にも頑張りましょう!!」
「はい!!」
そういうフローラの表情には、毅然とした風格を伴いながらもそこには希望に満ちた一人の人間としての笑顔が輝いていた。
と、そこへ別の兵士がとある報告に訪れた。
「フローラ様!只今ベンガーナ王国よりアキーム戦団長率いる救援部隊の方々がサババの港に到着されました!!」
「あら!もう来て頂けたの!?」
「は!ベンガーナ王から迅速に我が国の支援をとの命を受けたとアキーム様より伺っております!」
「そう、わかりました!私も後程伺いますが、カール王国として御礼の旨をしっかりとお伝えして頂戴」
「畏まりました!」
「フローラ様!」
「あら?今度はなにかしら?」
「は!サババの港を目指してロモス王国からの船団がもうすぐ到着される模様だと、港の管轄兵から報告がありました!」
「そう!このタイミングでロモス王国からも来てくれたのね!本当に有り難いわ!国が復興途中故に心ばかりで大したおもてなしは出来ないけど、早速お出迎えの準備を整えて!」
「は!畏まりました!」
続々と各国から復興支援の人材を投入され、フローラは心から熱い感謝の念を禁じ得なかった。
一方、ロモス王国の船団よりも一足早くサババの港に到着していたアキーム率いるベンガーナ王国の復興支援隊は、早々にその隊列を整えてていた。
「皆の者よく聞け!!これより我らベンガーナ王国復興支援隊は敬愛する隣国カール王国の復興支援にあたるわけだが、我が国王クルテマッカⅶ世殿下の名代としてこの地に赴いたという事を肝に銘じよっ!!」
「ははっ!!」
ベンガーナ王国のアキームが部下の兵士達を前に復興支援に向けてその士気を高めていると、サババの港を担当しているカール兵士が彼に声を掛けた。
「これはアキーム戦団長!この度は我が国カールの復興支援の為にはるばるありがとうございます!」
「いえ!こちらこそ先の大戦に於いて貴国のフローラ王女様の勇猛かつ清廉の如き指揮に我らベンガーナの兵も随分と助けられました!その御礼も兼ねまして今日よりは粉骨砕身の思いで復興支援に尽力させて頂きますので何卒、宜しくお願い申し上げます!!」
そう言ってアキームが姿勢を正し敬礼すると、ベンガーナの復興支援隊もそれに倣って皆が敬礼し、その確かな決意を示した。
その後、アキーム達ベンガーナ支援隊は船に積んであった沢山の支援物資を運び出し、カールの中心地域までの運搬の段取りやカールの兵士達の指示も受けながら復興作業の持ち場の割り当てなどを行っていた。
【パプニカ王国】
「姫様!そろそろ出港致しますので、港の方までお越し下さい!」
「わかったわ!」
側近の兵からの報告を受け、パプニカのレオナもカール王国への復興支援団の出発を見送る為に、港へ向かった。
アバン、ポップ、マァムが昨日それぞれの故郷へと旅立ち、その前日にはパプニカをあげての復興の決意と称したパーティーも開催されたが、その前日までにはレオナの采配で、アバンのサポートも得ながらパプニカのみならずカール王国への復興支援の準備も着々と進められていた。そして、その復興支援団の体制が整い、今日晴れてカール王国へ向けて、出港が為されることとなった。
「支援物資の準備も人員も問題ないかしら?」
「はい!問題なく整っております!!」
共に連れ立って港に向かうパプニカ三賢者の一人エイミにレオナは最終確認を取る。
「ありがとう!それじゃあ後は彼らの準備だけね……」
そういうと、レオナは城を出たところで後ろを振り返る。
「ご心配には及びませんよ姫様♪」
「え……?」
「クロコダインさんやチウさんをはじめ、カールに向かう予定の皆さんは既に港に向かいました。もちろん、ヒュンケルも……」
そうレオナに告げるエイミの瞳にはどこか力強さが浮かんでいた。
「そう……エイミ、よく決断出来たわね、立派よ!」
「いえ……ですが、やはりまだ少しばかり心配ではあります……」
エイミは、普通の生活に於いてはなんら問題はないとは言え、それでも熾烈な戦いの中で積み重なったヒュンケルの身体に残る甚大なダメージを考えると、未だ心からの安堵を抱く事は出来なかった。
「でも、あなたもあの時ちゃんと見ていたでしょ?ヒュンケルの決意を……」
エイミはレオナのその言葉に数日前、ヒュンケルがアバンやレオナと交わしたある会話を思い出していた。
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「リハビリ……ですか?」
「ええ、しかしそうは言っても身体のリハビリではありません……心のリハビリです……」
「心のリハビリ?」
ヒュンケルのその問い掛けにアバンは頷いて語り出した。
「先の大魔王バーンとの熾烈な戦いに於いて我々は力を合わせてこの世に平和を取り戻す事が出来ました。そして、その勝利の過程には一人一人の成長があったことも確かです……あなた自身も、自らの光を持って闇の力との決別を成し遂げましたよね……」
アバンはヒュンケルがミストと最後の決着を果たした時の事を思い出していた。
「あの時、自らの内で放った光の力でミストという闇のエネルギーを消滅させる事が出来た……そう、それは一切肉体の強さを使わずに精神の力のみで果せた事だった……」
「その通りです……そして、それは同時にもうあなたの中には闇の力など一切存在しない事の証明でもあるのです……」
ヒュンケルはその言葉にアバンの目を見ながら静かに頷く。
「ただ、ヒュンケル……あなたがその今の境地に至るまでには多くの傷をその身心に刻み込んでしまいました……」
「………それに関しては、不思議と悔いはありません……」
「ヒュンケル……」
エイミはそのヒュンケルの心情に寄り添う気持ちで彼を見つめる。
「ええ……戦士としてのあなたは充分過ぎる程にその使命を果たしたと言えます……だからこそ私はあなたを誇りに思うのですよ……」
「先生……」
アバンもエイミと同様に彼の思いを受け止めながらヒュンケルの眼差しを真っ直ぐに受け止める。
そして……
「ですからヒュンケル……次は戦士としてではなく一人の人間として、新たな自分を見つける旅を始めなければなりません」
「一人の人間として……それが今言った……」
「はい、心のリハビリです……」
ヒュンケルはアバンの目を真っ直ぐに見る。すると、そんな自分をやはり同じ様に真っ直ぐと見つめるエイミに気付いた。そして、彼女の表情からは何処か不安気な空気を感じた。
「ヒュンケル……」
と、ここでそう呼び掛けたのはレオナだった。
「姫……」
「私はこういう性格だからハッキリ言ってしまうけど、正直に言えばあなたがこのパプニカで行った行為に対しては、まだ全てのパプニカ国民の中で許し難いと思う存在もあるのは確かよ……」
「姫様……!?」
エイミはレオナのヒュンケルに対する言葉に声を上げる。しかし、レオナはそんな彼女を視線だけで制した。
「そしてその現実が今もあるとして、ヒュンケル……あなたの中にもその罪の意識はあるのでしょう?」
「これは……俺が一生抱えていかなくてはいけないモノです……喩えどんな理由があろうとも……この罪が赦されることなど有り得ない……」
「ヒュンケル……」
エイミにとっても、沈痛な面持ちで語るヒュンケルの言葉は重く辛かった。祖国パプニカをかつての不死騎団長として蹂躙した彼を恐ろしいと思った事もあった。しかし、今自分の目の前にいる人は誰よりも愛を感じる存在だった。だからこそ彼の痛みを苦しみを、エイミはその傍で癒やしたいと心から思っていた。
「ええ……そう思うわね……あなたなら……でもヒュンケル、それは逃げよ……」
「……っ!?」
「……っ!?」
その言葉は強かった。ヒュンケルの胸にもエイミの胸にもそれだけの衝撃を与えた。
「姫……」
「ごめんなさい……でも、私はこのままでいいとはどうしても思えないのよヒュンケル……それに本当はあなただってそう感じてるんじゃない?」
エイミは、今その瞳から流れる熱いモノを必死に耐えていた。自分が仕える君主と自分が愛する人の間にある深い信頼とこの先の未来の可能性を探るその姿勢に……。
「姫……ここからは私が……」
そうして、ここでアバンがレオナに告げる。
「はい……」
「ヒュンケル……先程あなたに告げた心のリハビリとは……あなたがこれから人の中で生きるコトなのですよ」
「人の中で……?」
アバンの言葉、そして声は優しく柔らかかった。
「そうです……あなたは過去の罪を重く感じている、無論それはあなたがその心に抱えていくべき現実なのかも知れません……しかし、あなたは過去に生きているワケではありません」
「先生……」
「過去の罪を抱えて生きなければいけないのなら、それが今なのかも知れませんが、この先の未来までもそうとは限らないのですよ……」
「未来は違うと?」
「はい、それが赦される……という事なのです」
「だが、俺がしてきた事はそう簡単に赦されるべきことではないっ!!」
ヒュンケルはその罪の意識に思わず言葉を強くする。
「簡単?あなたは何を思い違いをしているのですか?」
「え……?」
「あなたはまだこれからなのですよヒュンケル……」
「これから……これから俺は……」
「あなたは命を懸けて先の大戦で光の戦士として覚醒し、生き残った……しかしそれはまだ始まりなのです」
「…………」
アバンはここでヒュンケルを見つめる視線に力を込める。
「私があなたの問いに誇りだと答えた時の事を覚えていますか?」
「はい……」
ヒュンケルにとってそれは永遠に忘れられない瞬間だった。
闇の闘法の師ミストとの最後の戦いをその光の力で制した後、ヒュンケルは本来の師であるアバンに自身の存在を問うた。
「しかし、あの時のあの問いに対する私の答えには続きがあるのですよ」
「え………」
「それはヒュンケル、あなたがこれからのあなた自身で示していく事……私にとっての誇りであるあなたは、これからも私の誇りとして存在して欲しいという願いでもあるのです」
「先生の誇り……」
「そうです。しかし間違えないで下さい……あなたにこうあって欲しいという私の理想を押し付けるという事でもありません……あなた自身の姿であなたの道を探し、あなたの人生を築いていって欲しいのです」
「人生を築く……だが、俺は……」
「いいえヒュンケル……贖罪もその一つならあなたはそれを力に変えるべきなのです……」
「……先生……そうだ、俺はそれを……その道を探していた……だからこそ、再び力を取り戻したいと思って……」
「そうですね……ラーハルトさんにエルフの話しを聞いてから、あなたの本来の力を取り戻す為に今も懸命に模索している……しかし、同時にあなたは人の中でその未来を模索する事も私は大切なことだと思うのですよ……だからヒュンケル……私の故郷に来てくれませんか?」
「先生の……故郷……それは……」
「カ、カール王国にってことですか!?アバン様!!」
エイミはそのアバンの言葉に思わず声を上げた。
「はい、しかしカールはご存知の通り魔王軍の侵攻による爪痕が世界で最も残っている状況です……復興にはかなりの時間と労力を要するでしょう……しかし、ヒュンケルが来てくれれば私にとってもフローラ様にとっても大きな力になります、それにヒュンケルにとってもカール騎士団との交流は決して無駄にならないと思います」
「カール騎士団?」
「ええ、カールはかつては世界最強の兵団と言われていた程の国です。それ故に代々に渡ってその武力に磨きを掛けて来た歴史は、例えば剣術や槍術にも色濃く受け継がれております。あなたにとっても利点が多いと思うのです」
「確かに先生の故郷でその技の研鑽が出来る事は有り難い……」
「それにカールの地に於いても何かエルフについての情報がある可能性だってありますから」
「そうか……そうだな……」
「ヒュンケル!」
アバンの提案に前向きになるヒュンケルにエイミは驚いた。
「でも、身体の方は大丈夫なの?もう少しパプニカで静養した方が……」
「いやそれなら大丈夫だ……普段の生活なら問題はない……」
「でも……」
「エイミ、ここで少しヒュンケルがカールの復興に携わればパプニカの国民も理解をしてくれるわ……」
「え……?」
「パプニカの復興はもうほぼ為されているし、それなら他国の復興にパプニカの復興支援団の一員として向かってくれればパプニカの誇りとして彼を讃えてくれる人々も現れると思うの……」
「姫様……」
「勿論、私達も生まれ変わった彼の素晴らしさをパプニカ国民に広げる良い機会にもなるわ!」
「そこまでお考えに……」
「ええ、まさにこの采配はレオナ姫の発案なのですよ、ヒュンケルへの世間の見方を変えたいと……」
「姫……ありがとうございます……」
ヒュンケルはそのレオナの姿勢に心から感激をしていた。
「ヒュンケル……そしてエイミも……この案に賛成してくれるかしら?」
レオナはヒュンケルとエイミに向き直り二人に訊ねる。
「はい!」
「私も……異論はありません」
「そう、ありがとう二人とも!」
そう言ってレオナはアバンと顔を見合わせて笑顔を交わした。そして、ヒュンケル、エイミ共にがっちりと手を重ねてこれからのパプニカ、そしてカールの未来を築いていく事を深く誓い合った。
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「おや?その書簡は数日前に届いたパプニカからの?」
フローラの側近の兵士がフローラが目を通している書簡に気付いて声を掛けた。
「ええ……もう何回目かしらこの書簡に目を通すのも……でもやっぱり立派だわレオナ……本当に彼女がいてくれてパプニカは安泰ね♪」
フローラはそう言ってレオナからの書簡にあった彼女の采配を讃えた。
「レオナ姫はフローラ様をいたく尊敬されていると知り合いのパプニカの人間から聞きましたが、レオナ姫様の視線はきっといつまでもフローラ様に注がれているのかも知れませんね……」
「あら!それなら私もうかうかしてられないわね!もっと頑張らなくちゃ!さぁ!今日もいきましょう!!」
「はっ!!」
そうしてフローラはレオナからの書簡を大切に仕舞い、今日もカールの復興に臨む。
フローラもレオナも、そしてアバン、ヒュンケル、エイミ……共々にそれぞれの立場でそれぞれの場所で、未来を築く為の時が動き出していた。
各国の救援がぞくぞくとカールに集まってきています。一足先にベンガーナのアキーム率いる部隊が到着しましたが、これからロモス、パプニカとそれぞれカールに馳せ参じる展開にしていきます。ロモスからは誰が来るのか?パプニカからは?と、想像するのも楽しいかも知れません(笑)
また、数日前のエピソードとしてヒュンケルのこれからの生き方について、レオナやアバンが彼に訴えるエピソードもここに添えました。ヒュンケル自身の罪はやはりなかなか拭えないモノではありますが、だからこそ戦い以外の方法で彼には償う機会を与えたいと考えてこのような話になりました。エイミのサポートも彼をどう支えていくのか?暫く二人はカールとパプニカで離れてしまいますが、そんなところも今後の展開に含めていきたいですね。