─振り返らない友
漆黒の巨竜
安らぎの手─
見覚えのある湖が目の前にある。しかし、湖以外は靄が掛かっているのか、ぼんやりとしてよく見えない。
(「ここは………あ!そうだ!テランの湖!?」)
少年は訝しんでいる。何故、自分がここにいるのか解らなかったからだ。
(「ん?湖の上に誰かいるのか?」)
少年はちょうど湖の真ん中辺りに佇んでいる人物に目を凝らす。
(「誰だ!?まさか……!?まさか!ダイか………!?」)
少年には見覚えのあるボサボサ頭の少年が見えた。
(「ダイ!俺だよ!ダイ!聴こえてるんだろ!?………こっち向けよ!!ダイ!!」)
少年は湖の上の少年に駆け寄る。徐々にその距離は縮まる。もう既にその人物が先程から呼び掛けている人物だとわかる所まで来ている。
しかし………
(「ごめん、ポップ………」)
(「………!?」)
二度と聞きたくなかった言葉。
(「なんで、ダイ………お前なんでだよダイ!答えろよ!!なんであの時!!」)
少年の名はポップ。ポップは目の前にいる自分の親友に呼び掛ける。そして、問い掛ける。
(「使命だったんだよ」)
(「え………!?」)
(「大好きな人をかばって命をかけることが、ずっと受け継がれてきた俺の使命なんだよ」)
(「使命?………使命?………わかってるよ………わかってるよ!!そんなこと!!でも……でもそれじゃあ!俺たちはどうしたらいい!?使命だから、お前が犠牲になるのはしょうがない!?そんなこと!!俺たちが言えるかよ!!姫さんはどうするんだ!?マァムに何て言うんだ!?ヒュンケルには……!?先生には!?ブラスじいさんには!?………俺には!!お前を信じてる!お前を大好きな人達には何て言うんだよ!?なぁ!?ダイ!!答えろよ!!答えろよダイ!!!」)
ポップの瞳からは涙が溢れている。
ダイの肩は震えていた。そして、拳を強く強く握り締めていた。
(「ポップごめん」)
(「やめろ!そんな言葉聴きたくねぇ!やめろ!!戻ってこい!!ダイ!!俺たちの所に!!戻ってこいよ!!ダーーーーーイ!!!!」)
ポップの意識は急激にその場から遠退いた。
そして………
(「う……ん……なんだ?ダイ……ダイは何処だ!?」)
ポップは気が付くと慌ててダイの姿を探した
(「うっ……!?なんだよ、今度はなんなんだよここは……!?」)
ポップの目の前には暗黒の大地が広がっていた。
(「死の大地……いや、違う!似てる気がするが、根本的な何かが違う!なんだよ!なんだってんだよ!ここは…!?」)
グォォォォォーーーーーーー!!!
突如、とてつもなくおぞましい声がポップの耳を貫く。全身が凍り付くような、または身体の芯から破壊される様なすさまじい雄叫びだった。
(「な、なんだ……今の……」)
そう思っていたその瞬間、今度は強烈な風が吹き荒れた。
(「どういうこったよ!これは……!?」)
ポップはもう既に混乱している。すると、突如上空から影が射した。
そして、見上げるとそこには、漆黒という言葉よりも遥かに黒い巨大な暗黒が広がっていた。しかし、よく見るとそれはとてつもない大きさの巨竜だった。
(「な、なんだよ!あ、あれは!!」)
すると、今度はポップ自身、自分の身体と思っていた手がその巨大な竜に対して竜の彫像が施された剣を構えた。
(「なっ……!?これって確か!!真魔剛竜剣!!!?」)
その瞬間から、この剣を持った何者かと目の前の闇色の巨竜との壮絶な戦いが始まった。
ポップは人智が遥かに及ばないであろう凄まじい死闘をただ、ただ、見つめているしかない、そんな状態だった。
(「ヒュンケルに訊いた事がある。かつてダイの親父さんのバランは魔界で冥竜王ヴェルザーと戦って、死闘の末に勝利したと……でも……なんで俺は今……その戦いを見てるんだ?しかも、この目線……バラン!?」)
そう、目の前の漆黒の巨竜に対して繰り出す技や呪文などの攻撃は明らかにバランのそれによるものではあったが、この熾烈な戦いに臨んでいる目線だけはそのバランと同じモノを捉えていた。が、しかしそれは実際にその目で見えているというよりも、ポップの脳内で展開されている様な感覚だった。
バランとヴェルザーの互いの一挙手一投足がポップの感覚に流れ込んでくる。どちらも一歩も引けをとらない死闘に感情がまるで追い付いていかない。時間という概念さえない空間で、永遠と思われたその死闘は互いのフェイバリットを繰り出したところで一呼吸置き、漆黒の巨竜と竜の騎士バランは間合いを取って睨み合った。
「グフフフフ………ッ」
巨竜は不適な笑いを浮かべる。
「………何がおかしい!」
バランはその眼光に力を込めて睨み付ける。
「グフフ……オレは嬉しいのだ。まさか、ここまでオレと戦える存在が在るとはな……かつてオレと竜の世界を奪い合った雷竜以上の存在だ」
「戯れ言を……貴様を喜ばす為に俺はいるのではない!」
「グフフ、わかっておるわ……下らぬ神々共の使いで我が一族を滅ぼしに来たのだろうからな」
「神々は貴様のような自身の欲望の為に三界のバランスを崩す輩を廃する為に竜の騎士という存在を生み出したのだ。だからこそ、俺はその使命を果たす為に貴様ら一族を今ここで滅ぼす!!」
バランは再び剣を構え竜闘気を高める。しかし……!
「グフフ……フフ……フハハハハハ……ハァーーーハハハハ!!!!」
ヴェルザーは先程よりも高らかに笑い出した。
「貴様…!まだ嗤うか!?」
「竜の騎士よ……フフフ貴様は何もわかっておらん」
「なにぃ……!?」
「確かに貴様の言う通り我が野望が達成されれば天界、魔界、そして地上界のバランスを崩す事になろう。しかし、それは、その原因は全てその神々の下らぬ思考が招いたものよ」
「何を言う……!?」
「フッまぁ聞け、竜の騎士よ……オレが真に望むのは三界の破壊だと思うのか?」
「どういう事だ!!」
「この魔界に於いて、我々は永きに渡り言われのない冷遇を強いられてきた。貴様らが崇敬する神々の手によってな」
「それは貴様らが他の世界を蹂躙し破滅をもたらす可能性のある存在故に神々が世界を守るべく行った処置。それを今更、恨み辛みを吐くなど逆恨みの極みだ!」
「我々が欲するのは世界の破滅ではない。むしろ我等こそが新たに世界の主として相応しいと思い至ったまでよ!弱き愚かな人間共に与する神々よりもな!!」
「己の野望の為に他を蹂躙する事など許される事ではない!!」
「フフ……貴様が言うその野望を抱いているのはオレだけではないがな、だがオレはヤツと違って地上を欲している」
「ヤツ!?」
「まぁそれはいいだろう……どうせ貴様はここで死ぬ。オレとこの魔界を二分するその存在とは顔を会わすことはない」
そう言うとヴェルザーは黒い波動を体内から高め始めた。
「貴様……!?何をする気だ!!」
バランはヴェルザーのただならぬ様子に警戒する。
「グフフフ……神々の遺産たる強き竜の騎士よ……素晴らしかったぞ貴様の強さは……しかし、どれ程の強さを持ってしてもこの破壊力からは逃れられん……」
バランはヴェルザーの様子を警戒しながらも、冷静に観察している。そして……!
「……!?まさか!それは暗黒闘気か!?我が竜闘気と匹敵するエネルギー!」
ヴェルザーは不適な笑みを浮かべている。
「フフフ……確かにその通りこれは暗黒の力だ。しかし暗黒闘気とは少々違う」
「なんだと?」
バランはこれまでヴェルザーと対峙して来て初めて背筋に異様な冷たさを感じた。
「思えば、この地に貴様が足を踏み入れる様に仕向けた事が一つの運命だったのかも知れんな」
「……!?何を言っている?」
「賭けをな……しているのだよ。あヤツとな……」
「賭け……だと!?」
「先程話しに出た、オレと魔界を二分するヤツとの賭けさ……互いの知略を尽くして事を進め成功させた方に従うという賭けだ」
「ふざけたことを……!!」
「何を言うか……我等は神々のまさにふざけた愚挙を正すためにこの賭けを始めたのだ。無価値な弱き者共に入れあげる愚かな神々共に代わってな!!」
すると、ヴェルザーの両眼は紅く血の様に輝いた。そして、同時に強い地響きが起こり始める。
「貴様!!何をする気だ!?」
「グフフフフ……出来ることならこれは使いたくはなかったがな、何しろオレの支配権をも巻き込む事になるだろうからな……だが、貴様にこれ以上時間も掛けられん、貴様を一気に葬るには致し方なし!!ヤツが動き出す前にオレは地上をこの手にしその野望を果たさなければならんのだ!!!!」
ゴゴゴゴゴゴコーーーー
地響きが更に大きくなる。
「クッ……!!なんて力だとてつもない暗黒エネルギーが膨らんでいる!!一体何をする気だ!!」
「フフフフ、いいだろう。まさに冥土の土産だ、オレがこれからする事を教えてやろう。黒の核晶(コア)……」
「黒の核晶(コア)……!?」
「そうだ、周りをを見てみろ……」
「……!?」
バランはヴェルザーを警戒しながらも、言われるままに周りを見渡すとヴェルザーの暗黒エネルギーに呼応するかのように、周りの岩山が同じ様なエネルギーを発していた。
「こ、これは……!?」
「ここの岩山は全て黒魔晶という特殊な鉱物でな……魔力を無尽蔵に吸収するという性質がある」
「魔力を……!?まさか、ということは貴様のその暗黒エネルギーは!魔力……!?」
ヴェルザーは声には出さない不敵な笑みを浮かべている。そして……
「半分正解とだけ言っておこう……」
「なにっ……!?」
「さて、そろそろ頃合いだ……」
そう言うとヴェルザーはその巨躯を浮かせ、バランはそれを見上げる形となった。
「最後に今一度、誉めてやるぞ竜の騎士よ……よくぞ俺を……この冥竜王ヴェルザーをここまで追い詰めた!願わくば貴様のその力も我等一族の野望の為に欲しかったが……止むを得まい……」
ヴェルザーの巨躯を漆黒のエネルギーが包み込んでいく。
「ヴェルザー……!!」
「グフフフフ……さらばだ竜の騎士よ……さらばだ愚昧なる神々の僕よ!!!!」
ヴェルザーは両の掌を胸の前に相対する様に翳し、とてつもない力を膨らませていく。バランは悟っていた。このままでは、死ぬ……!?しかも、間違いなく跡形もなく魂ごと吹き飛ばされる!と……。
「バランと言ったな……貴様の名は忘れんぞ、オレをここまで追い詰めた貴様の名はな……!!」
ヴェルザーの両の掌に何かの塊が現れた。
「それが……!?黒の核晶(コア)!?」
「そうだ、先程貴様が指摘した答えのその半分。オレのこの呪力によりこの魔界最強の破壊力を誇る爆弾が生まれるのだ!!」
「なんだと!?だが、それ程のエネルギーではこの大陸ごと吹っ飛ぶぞ!!」
「承知の上よ……それでも貴様をここで葬れるのならば、構わぬ!!貴様という邪魔が消えれば難なく地上を手に出来る。太陽の輝きの届かぬこんな大陸など消し飛ばしてもなんの痛手もないわ!!」
「き、貴様!!狂ったか!?」
「グフフフフ……さぁ!!終わりだ竜の騎士よ!!そして神々よ!!暗黒の世がこれから始まるのだ!!この冥竜王ヴェルザーの手によってな!!!!」
ヴェルザーはその巨大な翼を大きく広げ更に上空に飛び立とうとする。黒の核晶(コア)の爆発から自身の身を守る為だった。しかし、その瞬間、バランは目にしていた。ヴェルザーが飛び立とうとしているその上空に光の環が現れたのを。
「……!?あれは……!?」
「ヌ……!?なんだ……!?これは!」
ヴェルザーもさすがに驚きを隠せなかった。
(「バラン…!バラン…!!」)
バランの脳裡に何者かが呼び掛ける。
「何者だ!オレの脳に直接呼び掛けるとは、神の力でもなければ不可能なこと!!」
(「その神々の命令によりそなたに尽力する者です。我等は天界よりその力を持って冥竜王の野望を止める者」)
「天界……!?まさか天界の精霊か!?」
(「ヴェルザーの動きを我等が抑えます、そなたはその隙に更に上空へ行きなさい!そこで、あの技を!!」)
(「よし!」)
バランは天界の精霊を名乗る者達の声に従いヴェルザーの更に上空へと飛び立とうとした。しかし……!
「天界の精霊だとっ!?フフフこんな脆弱な光の環などでオレを抑えられるとでも思ったか!!」
なんと、ヴェルザーは自身の身体を捕らえていた光の環を破壊する為に暗黒エネルギーを増大させた。
(「な!なんという暗黒エネルギー!!これではヴェルザーを抑えておけない!バラン急ぐのです!!」)
「グハハハハーーー!!愚かなり精霊共!!バラン!やはりお前はここで散るのだ!!」
その瞬間、ヴェルザーは両の掌にある黒の核晶(コア)を下方から迫るバラン目掛けて放った。
「うぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!!!」
(「バラン!!竜闘気で身を守りなさい!」)
バランは瞬間的に竜闘気を全開にして、その身を包んだ。
ズオオオォォォーーーーン!!!!
(「ん……うぅ……あれ?また違う所か……?」)
つい今しがた、ヴェルザーがバランに放った黒の核晶(コア)の強烈な爆発の衝撃に見舞われたかと思ったら今度はまた、さっきまでとはまるで異なった穏やかな世界が目の前に広がり、ポップは頭が追い付いていかなかった。
(「どうなってんだよ全く!」)
改めて周りを見てみると何処かの森の中だろうか、鬱蒼と木々が繁っていて、その中心には穏やかな陽射しに照らされた泉がある。そして、その水面は鮮やかな虹色の輝きに満ちていて、仄かに不可思議な力を漂わせていた。
「森の中か……?うっ…!?な、なんだ身体中が痛い……」
意識がはっきりしてくると、今度は身体中の強烈な痛みに襲われた。そして、その身を改めて観察するとどうやらまたもやバランの身体でまともに動けない程の大きなダメージを負っている様だった。
(「これって相当マズイんじゃねぇか……」)
今度はその痛みで意識が朦朧としてくるが、それがバランのものなのか自分のものなのかすら解らなくなってきていた。
(「こっ……これまでか……っ」)
そう頭に浮かんだ時だった。
ポタッ……
頬に何かの雫が落ちた。
見上げるとそこには掌に清らかな水を湛えた人物がいる。しかし、太陽の光でその顔はよくわからなかった。ただ……
(「なんだろう……この暖かさ……さっきまでの傷みが和らいでいく……暖かい……暖かい……」)
ポップはいつの間にかバランの意識からは乖離していた。しかし、不思議な優しい暖かさを感じながら少しずつ穏やかな気持ちになってきていた。
(「右……手……か?この……暖かさの元は………眠れる……ようやく……眠れそうだ……」)
ポップの意識はゆっくりゆっくりと深く穏やかに落ち着いていった。
ポップの今後を示唆する話です。
最初の夢はダイとの関係。
二つ目のバランとヴェルザーの戦いは今後の戦いに向けてのプロローグの一つ。
そして、最後のバランとダイの母であるソアラとの出会いはポップのマァムを想う気持ちと少し重ねてみました。ま、彼らの出会いはバラン達ほど穏やかではなかったですが、一人の女性を想う気持ちは同じかと思うので、そこにバランの記憶とポップの中の情景を重ねてみた感じです。