─勇者の空─
アバンがランカークス村を後にして暫く行くと、大きなベンガーナの町並みが見渡せる場所に出た。
「おー!やはり大きな町ですね〜♪前に来た時よりも遥かに賑わっているようでなによりなにより♪」
アバンはそう笑顔で頷いていると、アバンが歩いてきた道とは違う道から馬車を引く男性がこちらにやって来るのが見えた。
「おや?アレは行商人の馬車でしょうか?」
目を凝らしてみると、確かにその馬車を引く男性の後ろには多くの荷物が積んである。
「ん?あの方はもしかして……!?」
「ん?アレは……?ま、まさかっ!!?」
アバンもその行商人の男性も互いにその姿を見咎めて思わず驚きの声を上げた。
「スト〜ップ!!パトリシア!!スト〜っプだぁ!!!」
その男性は慌てて言い聞かせる様にその愛馬の歩みを停めた。
「これはっ!!アバン殿っ!!!」
「おやおや!お久しぶりですね!ディードックさん!!」
アバンの言うこのディードックという行商人は元は自称冒険家で(マトリフによると海賊)かつてはマトリフやまぞっほと同じく大賢者バルゴートに師事していた一人だった。しかし、バルゴートのとてつもなく厳しい修業にあっさり音を上げて、結局まぞっほよりも早くバルゴートの元を逃げ出すハメになったが、マトリフとは昔から繋がりがあったらしく、かつて魔王ハドラー討伐の旅の最中にあったアバンもサババの港でマトリフを通して顔見知りとなっていた。
「いやぁまさかこんなトコで出くわすとはな!!魔王ハドラーをアンタが倒してから随分と経つがどうやら元気にしていたみてぇだな!色々とウワサは聞いてるぜ!!」
「はっはっはっ!本当に偶然とは言え驚きです!!それにしても私のウワサはさておき、マトリフからもアナタの話しをとんと聞かなくなりましたが、どうされていたのですか?」
「ああ、まぁ……暫くはサババの店をやっては居たんだけどな……結局ハドラーが倒されてからは世の中が平和になってよ、俺のトコで売ってる高額で貴重なアイテムなんかもわざわざ買いに来る客もいなくなっちまって……んで、結局店畳んでまた冒険の旅ってヤツを暫くしてたんだよ……だが、今度は大魔王バーンとか言うハドラーの時よか遥かにヤベェやつが出てきたろ?だからそれからはフツーの行商人に鞍替えしちまったワケさ……」
ディードックはそう言って自身のこれまでを語った。
「そうでしたか……それはなんとも……」
「いやいや!別にアンタがハドラーを倒してくれたのは感謝してるんだぜ!店を畳んだ時だって世の中平和になったのを本気で喜んでいたしよ!!でもやっぱ店構えてるより俺は世界中を回ってた方が性に合っていたってことさ!!」
「そうでしたか……」
「だが、大魔王バーンの時代が来た時はさすがに俺も絶望的な気分になったもんさ……俺はハドラーの時代も知っていたが、バーンの時は本当に本気でこの世界は終わると思ったからな……その頃にはもう世界中旅して回るなんて、とても出来なかった……」
「確かに……ハドラーとてあの大魔王バーンからみれば駒の一つに過ぎなかったのでしょうからね……私も対峙しましたが大魔王バーンは本当に恐ろしい相手でした……」
アバンはバーンパレスでの熾烈な戦いを振り返った。
「そうかい……やっぱアンタやマトリフの旦那がやってくれたんだな?」
「いいえ……大魔王バーンを倒して世界に再び平和を取り戻してくれたのは、私の弟子達なのです……」
「なっ!?じゃ、じゃあ!!やっぱさっきの俺が言ったウワサは本当だったのか!!?」
「ああ、そういえば私のウワサとか言ってましたね?」
「そうさ、アンタが勇者の家庭教師をしてるって商人仲間から聞いててよ!俺もアンタとは顔見知りだから仲間内では鼻が高ぇほうなんだが、まさか本当に勇者の家庭教師なんてしてると思わなかったぜ!!」
「実はそうなんですよ♪その私の弟子達の中でも最も年少のダイという少年が大魔王バーンを討ってくれました……彼には勇者としての素質が私より遥かにありましたからね♪」
「ほぇ〜ハドラーを倒したアンタよりも勇者の素質がね〜そりゃあ確かに大したモンだぜ!!俺もその勇者ダイの話しは耳にはしていたが、そうかい……やっぱでもアンタはスゲェな!!一度ならず二度も世界を救う為に力を尽くしてるんだからな!!」
「いえいえそれならディードックさんだってご立派ではないですか!見たところ今だってこんなに沢山の荷物を積んで、来た方向を見るとテランからのお帰りでしょうか?」
アバンはそうして目ざとくディードックの馬車の荷物を見やる。
「お!流石に目がいいな♪ああ、ベンガーナで仕入れた品をテランで捌いてきた帰りよ!!しっかしテランの国民ってのは大人しいというか、人が良いと言うか、こっちが戸惑っちまうくらい純朴だよな……」
「もしかしたらフォルケン王の穏やかなお人柄がテランの国民に染み渡っているのかも知れませんね……」
「あそこの王様に会ったことあるのか?」
「ええ、ハドラーを討った後に各国の元首の方々とお会いさせて頂きましたので」
「あーなるほどな……まぁそりゃ世界を救った勇者には各国の王様達だって会いたくなるわな!」
「アハハ……そういうモノですかね?」
「ん?てことは、これからベンガーナに行くのも?」
「ハイ!我が祖国カールに支援物資や復興作業の為の人員など随分と尽力頂けているとフローラ様から伺っておりますので、御礼も兼ねてクルテマッカⅦ世陛下へご挨拶にと思いまして」
「そうか、そういう事か〜」
ディードックは合点がいったと言うように頷いている。
「ディードックさんはベンガーナに戻られてどうするのですか?」
「俺はもう一仕事終えたからコレよコレ♪」
そう言って彼は酒を煽る仕草をしてみせる。
「まだ、明るいウチなのに……」
「まぁまぁいいじゃねぇか〜ハッハッハッ!!!」
ディードックはアバンの背中を叩いて豪快に笑った。
「お!そうだ!ベンガーナの街までなら乗っかっていくかい?荷物はあるが一人分くらいは全然乗れるぜ?」
そう言って愛馬とその馬車を親指で指し示す。
「よろしいのですか!?いやぁ有り難い!!もう少しお話ししたいと思っていましたので、それでしたらお言葉に甘えさせて頂きます!」
「おうっ!俺もマトリフの旦那の事も聞きたいしよぉ!!まぁだくたばってねぇんだろ?あの化け物ジジイ!!」
「ええ!しっかり顕在です!!」
そうして、アバンはディードックの図らいで彼の馬車に同乗させて貰い、懐かしい昔の話や今現在のマトリフや仲間達の状況などで話を弾ませながらベンガーナの街に向かった。
【ベンガーナ城】
ベンガーナ王国は、世界最強の兵団を保有し、かつては一番安全な国としてベンガーナの国民は勿論、世界中からもその防衛力に於いて信頼が厚かった。そして、それ故に国王であるクルテマッカⅦ世はその兵力に絶対の自信を持っていた。
それは数週間前のこと。レオナ姫の呼び掛けによってパプニカ王国で実現した世界会議(サミット)の場に於いて、魔王軍の本拠地と思われていた鬼岩城が命を得たかの如くその巨大な体躯を持って襲撃して来た際にも、ベンガーナ王クルテマッカⅦ世は、自国の軍艦や戦車隊に絶対の自信と誇りを見せつけていた。
ところが、鬼岩城の圧倒的な攻撃力にクルテマッカ自慢のベンガーナ兵団はことごとく殲滅の憂き目に遭い、その目の前で魔王軍の恐るべき力を逆に見せつけられる形になってしまった。そして、世界会議(サミット)によって集められた各国の首脳達の前でクルテマッカは自身の浅はかさを恥、意気消沈してしまった。
だが、そんな自分を励ましてくれたのはその場にいた各国の王や首脳達だった。そして、極めつけはたった一人であの巨大な鬼岩城を真っ二つに切り裂いて自分達を救ってくれた勇者ダイの勇姿だった。
それ以降、クルテマッカは勇者ダイのその強さのみならず勇者として、また人としての資質を信頼するに至った。そして彼は、その後ダイを見習い自分自身も世界中で魔王軍の犠牲になっている人々にベンガーナ国としてあらゆる手を差し伸べていくという決意の元に幅広い支援活動を行っていった。先刻のカールへの復興支援に於いても当然、その一環であった。
そんな中クルテマッカは、今も更なる一手を打つべく新たな計画に着手しようとしていた。
「陛下!こちらに地図をお持ち致しました!」
「うむ、ご苦労……してオーザムからの連絡はまだなのか?」
側近の兵士が何やら大きな地図を大テーブルに広げていると、クルテマッカが徐ろに訊ねる。
「はっ!先程、勇者ダイ様捜索隊からオーザムの地に到着したとの連絡を頂きました!!」
「そうか!リンガイアのバウスン将軍からも、オーザムが陥落してからの情報を共有する事で話をつけたからな、ここはダイ君の捜索と並行してオーザム王国の調査も重要だ!」
「はっ!御子息のオルヴァ様がこの度は指揮を取られておりますので、そこは御安心かと!!」
クルテマッカは自らが立ち上げたダイの捜索隊の指揮を実子であるオルヴァ王子に命じて北のオーザムの地に送り込んでいた。
「ウム、しかし油断はならん……オルヴァには滅ぼされたオーザム王国で生き残った民達の救助活動や支援も命じたが、とにかく詳しい事が掴めていない状況だからな……」
「はい、ですが大魔王が倒れた今はモンスターの脅威は無いかと思われますが……」
「そうだな……まぁオルヴァならきっと良い成果を上げてくれると信じよう……」
「はい!!」
クルテマッカは側近にそう告げると、執務室の机上に飾られているポートレートに目を向ける。そこには自身と王妃である妻、そして幼い日の息子と娘が笑顔で写る写真があった。
ゆっくりと目を瞑り、クルテマッカは数日前の事を思い出す。
それは、ダイが空に消えたとの一報が入った日の事ーーーーーー。
「父上!!ダイ君が……っ!!?」
クルテマッカの執務室に血相を変えて入って来たのは、息子のオルヴァだった。
「ウム……今大臣から報告を受けたところだ……」
その言葉にオルヴァは父の傍らに控える大臣を一瞥して、改めてクルテマッカに告げた。
「捜索を!!彼の捜索を今すぐに始めましょう!!!」
「………っ!!!?」
「オ、オルヴァ王子………っ!!?」
オルヴァは興奮を抑えられない様子で言い放った。しかし、その彼の言葉に応えたのは、父のクルテマッカではなく傍らの大臣の方だった。
「し、しかし!いきなりそのような事を申されましても………!!」
「捜索隊の指揮なら私がやります父上!!ですから何卒!!何卒勇者ダイの捜索を一刻も早くご決断下さい!!父上!!!」
オルヴァ王子の勢いは留まることを知らなかった。そして、クルテマッカはニ、三度小さく頷くと、その息子の真っ直ぐな姿勢を正面から受け止める。
「よくぞいったオルヴァ!!それでこそ我がベンガーナ王国の王子だ!!!」
「父上!!それではっ……!!!?」
「うむ、スグに捜索隊の編成をしよう!!大臣、今ベンガーナにいる兵士長を全員集めよ!!」
「かっ畏まりました!!」
大臣は慌てて執務室を飛び出していった。
「オルヴァ頼むぞ!!」
「はい!!父上!!!」
そして、オルヴァも敬礼を示して執務室を出ていった。
クルテマッカはそんな息子の背中を見ながら思う。
(「幼い頃は馬を怖がって乗馬もままならなかったアイツが……これ程までに頼もしくなるとはな……」)
そうしてほんの数日前の事を思い出しながら、クルテマッカは家族のポートレートに微笑み掛ける。
「ダイ君……知らないだろうが、君は私を……いや、私の家族を……救ってくれていたのだよ……」
彼はそう呟き窓際に移動すると、そこから見える青く広い空を見上げる。そしてゆっくりと目を細めると、そこには彼がパプニカで目の当たりにしたダイの勇姿が浮かび上がる。
勇者の帰還を世界中が待っている。
ベンガーナ王クルテマッカⅦ世は、その手に力強く拳を握り、静かにダイの生存を信じていた。
今回は、アバンのベンガーナへの道中の話になります。ここで出てくるディードックは現在、Vジャンプで連載中の獄炎の魔王で登場する、マトリフの旧友です。アバンとの面識もあるので、きっと道中は昔の話でかなり盛り上がったことでしょう。彼もこれからの展開に必要不可欠なキャラなので、活躍してくれる存在です。
さて、場面が変わってベンガーナ王国が舞台になりましたが、クルテマッカの息子が出てきました。彼には息子と娘が一人ずついますが、本編では名前も一切出てきませんので、ここで勝手に登場させました(笑)彼の詳しいエピソードは次回に載せようと思います。