─不思議な夢と約束─
オルヴァが14才になった頃、四つ離れた妹のアリアが突如夜中に高熱を出し、三日ほど生死を彷徨ったことがあった。その時、クルテマッカは王妃と共にアリアの身を心底案じ、国の内外から医者や果ては祈祷師などを求めて娘の全快に出来る限りの手を尽くした。そうしてその甲斐もあってか四日目にようやく熱も下がり出し、なんとか快方に向かうと思われていた。
しかし、アリアはそれから何度も体調を崩すことがあり、それからは寝室が彼女の居場所となってしまった。
そこで、オルヴァはそんな妹を少しでも元気づけようとアリアが幼い頃から好きだった世界中のおとぎ話を話して聞かせて上げていた。
オルヴァは元々優しい性格の王子で、父のクルテマッカが力を入れている軍や兵団のことには一切興味を持てなかった。その為に幼い頃から父親のクルテマッカからは男らしくしろ!と常々言われてはいたが、それでも彼は妹のように世界中のおとぎ話を読んだり、またはその国々の成り立ちや歴史などに興味を持ちベンガーナ城にある図書館が彼の居場所になっていた。
「お兄様がいつも楽しいお話を聞かせてくれるので私は幸せ者です……」
ある日、いつもの様に妹におとぎ話を聞かせているとアリアは優しい笑顔を湛えて彼に告げた。
「なんだよ?突然そんなこと言うなんて」
オルヴァはやや面食らって妹に訊ねる。
「実は、昨日……おかしな夢を見たの……」
「おかしな夢……?」
そうしてアリアは小さく頷くとオルヴァに更に告げる。
「うん、とても不思議な夢なの……」
「どうしてだ?」
「誰かに話したいと思うのだけど……お父様やお母様にお話ししようと思っても、そのときになるとどうしても思い出せなくなるの……」
「思い出せなくなる……?じゃ、じゃあ今は思い出せるのか?俺には話せるのか……?」
オルヴァは怪訝な顔をする。
「うん……話せるわ、今なら……」
「そうか……うんわかった。聞かせてくれ……その夢の話……」
そうしてアリアは再び優しい笑顔を向けると小さく頷いてゆっくりと話し出した。
「それはね、小さな小さな勇者様のお話し……」
「小さな勇者……」
「ええ、その勇者様はたくさんのモンスターのいる島でモンスターのおじいさんに育てられてるの……」
「モンスターに……っ!?で、でもモンスターって凶暴で恐ろしいモンスターもいるぞ!!それなのに勇者がそんなところで育てられてるのかっ!?」
オルヴァは思わず興奮して声を上げる。
「お兄様……夢のお話よ?」
「え……!あ、ああ……アハハハ!そ、そうだったな……ハハハ……」
「もうっ!お兄様ったら……フフ……それでね、その勇者様とその島のモンスターはとても優しくて穏やかで毎日笑顔で過ごしてるの……」
「モンスターの中で……か……?」
「うん、おかしな夢でしょ?」
「ああ、そうだな……びっくりしたけどでも面白い夢だな……どんなおとぎ話にも出てこないアリアのおとぎ話だな♪」
「私の?フフフ♪そうね私のおとぎ話ね♪うん!嬉しいな〜フフフ♪」
そう言ってアリアは兄オルヴァの言葉に満面の笑顔を見せる。そしてそれは、病の床に伏せがちな妹が久し振りに見せる笑顔だった。
「でも勇者様ってことは……」
「え?なぁに?」
オルヴァの小さな呟きにアリアが訊き返す。
「ん?ううん!いやなんでもないよ!俺もそんな面白い夢を見てみたいな!」
「じゃあ、もしそんな夢をお兄様も見れたら私に聞かせてね♪」
「うん!約束だ!!」
そう言ってオルヴァとアリアは指切りの約束をした。
「あとお兄様……もう一つ、お話しがあるの……」
すると、アリアは少し神妙な表情をする。
「ん?どうした?」
「少しだけ……少しだけでいいの……お父様のお仕事を手伝ってあげてもらえないかしら……」
「え?なんだよまた急な話だな……」
妹の言葉にオルヴァは再び驚く。
「お父様が……今、たくさんの武器や兵器を作って私たちの国を強くしようとしていることをお兄様も知ってるでしょう?」
「あ、ああ……」
「時々、私のところにも来てその話を少しだけしてくれるの……国にたくさんの武器や兵器を作って強い軍隊や兵団を作ってベンガーナ王国もそして私のことも守ってやるぞ!って……だから安心して身体を治せって……」
「父上が……そんなことを……」
オルヴァは元々軍隊や兵団など武力に対しては興味を示さない性格ではあったが、近頃のクルテマッカの武力兵力への力の入れようはどこかやり過ぎな気もしていた。しかし、その背景には妹を励ます為のモノだったと今、初めて知ったのだ。
「そうか……そういうことか……」
「でも、でもねお兄様……お父様だって本当はとても優しい方よ……でもお父様がこのままでは変わっていってしまう気がして……私……どうしたら良いかと……それで優しいお兄様がお父様のお側にいてくれればきっとお父様も……」
「アリア……お前そこまで……」
「私は……私はただ、昔のあの優しい家族に戻りたいだけなの……でも、私の……私の所為で……お父様とお兄様が違う方向を向いてしまっている気がして……」
「な!なにを言ってるんだアリア!お前の所為なワケないだろ!俺は元々父上の様に軍や兵器に興味がないだけさ!喧嘩だってしてるワケじゃない……お前が気に病むことなんてないんだよ……」
オルヴァは強く言葉を発したが、終わりには穏やかな口調で幼い妹に言い聞かせる様に言った。
「お兄様……」
「でもわかったよアリア……父上には話してみるよ……」
「本当に!良かった……」
「だからもう心配しないで、ゆっくりと身体を休めて早く元気になるんだぞ……そうしたらそうだ!パプニカに行こう!」
「パプニカ!?」
「前に話したろ!パプニカはホルキア大陸にある唯一の国でさ!海と山に囲まれた綺麗な国なんだ!!」
「お兄様は本当に世界中の国のことをよく知ってるわね♪」
「アリアも元気になって絶対一緒に行こう!」
「ええ!じゃあそれも約束♪」
「ああ!約束だ!!」
そうして二人は二度目の指切りをした。
その後、彼が妹の寝室を後にするとすぐ外には母であり王妃のミネルヴァが優しく微笑みを浮かべてオルヴァを待っていた。しかし、その瞳にはやや輝るモノが見えた。
「母上……」
「オルヴァ……ありがとう……」
「何をおっしゃいます母上……兄として妹の身を案じるのは当然ですよ」
「あなたが優しい子で本当に良かった……母はあなたを誇りに思います」
「そんな……私などまだまだですよ……それにアリアにも言われてしまいました……父上の力になってくれと……」
「アリアに……?」
ミネルヴァは怪訝な顔をする。
「どうやら私と父上は反目し合っていると思わせてしまっていたようで……それが自分の身体の事でそうなってしまっていると心配させてしまいました……」
「まぁ……あの子がそんなことを……」
「でも大丈夫です、ちゃんとわかってくれましたよ……それと約束もしました」
「約束?」
「パプニカに……あの美しい国のパプニカに元気になったら一緒に行こうと……」
「そう♪それは良いわね♪」
「アリアはきっと家族で行きたいと思ってますよ母上」
「家族で……ええ……そうね昔のように家族で笑い合いたいわ……」
「だから私が父上の力となって必ず父上を昔のように優しい父上にしてみせます!!」
「オルヴァ……もちろん私もあなたやアリアの為に力になるわ……」
「ありがとうございます!母上!!」
そうして、オルヴァは母ミネルヴァとその誓いを交わして父クルテマッカの元に向かった。
その後、オルヴァが父クルテマッカの元を訪れ、これまでの自分自身を改め彼の元で働くことを告げると、父はようやく自身の手掛ける仕事に関心を見せてきた息子オルヴァを快く受け入れた。
少し短いですが、ベンガーナ王クルテマッカⅦ世の家族の過去です。本編の世界会議(サミット)編でもありましたが、彼が戦車隊や軍艦などの兵団に対して異常なまでの自信を誇っていたのは、クルテマッカの娘アリアのことが背景にありました。クルテマッカ自身の育ちやその際に植え付けられた性格もあるようですが、彼は強い父親を示すことで娘にも元気を与えられると思い込んでいたようです。しかし、本編でもあるようにクルテマッカという人物はその豪胆な性格故に失態もみせました。ただ、それでもしっかりと自らの浅はかさを恥じて過ちを正せる好人物でもあります。特に他国の首脳陣に対する礼節や思いやりは彼の本当の姿なのでしょう。それ故に息子のオルヴァやアリアに優しさとして受け継がれている部分もあると思うのです。というワケでそんなクルテマッカの家族の話になりますが少しだけお付き合い下さい。
因みに小さな勇者の不思議な夢は言うまでもなくダイのコトです。もちろん、この夢にも理由はありますが…それはまた後ほど… ✨