─交差する思い─
「オルヴァ!!お前は私に意見するというのかっ!!!」
ベンガーナ城内の執務室に、いつになく大きな怒号が響き渡る。言うまでもなくその声の主は国王のクルテマッカⅦ世だった。
「皆が口を閉ざすなら私が進言する他ないでしょう!!父上のやり方は少々強引過ぎます!!!」
しかし、そのクルテマッカにも負けない勢いで声を上げているのは、その息子でありベンガーナ王国の王子オルヴァであった。
「我が国の防衛力を増強させるのに何の不満があると言うのだ!!!」
「無論、防衛力の増進には私とて全面的に反対をしているワケではありません!!十数年前の魔王ハドラーの様な事態がまた起こらないとも限らないでしょうし!!しかし今の父上はあまりに軍備拡張のお考えがいき過ぎております!!!平和は武力だけで勝ち取れるモノではありません!!!」
「青二才の分際で偉そうな口を叩くな!!!」
オルヴァが妹アリアと交わした約束の日から約二ヶ月が経とうとしていた。
オルヴァはあの日、妹アリアから父クルテマッカとの関係性を心配され彼女からその改善の為に父の仕事を支えて欲しいと懇願された。ただオルヴァとしては特に父クルテマッカと反目をしあっていたワケではなかったのだが、病弱な妹に負担を掛けぬよう父との関係を良好にする目的で、こコ二ヶ月はその父の推し進める軍事関連の公務をサポートしていた。その為にオルヴァ自身もイチから武器や兵器、更にそれらを駆使したいわゆる軍略などというような、殆ど触れたコトさえないような知識を身につけることに必死だった為、あっという間に時間が流れていった感覚でいた。だか、そうなると今度は父クルテマッカの様子がどうにも気になって来たのだ。
妹のアリアによれば、父が軍事面により多くの資金や関心を注ぐようになったのは病弱な妹に強い父親の姿や国の形を示して、安心させる為だということではあった……
しかし、それを踏まえたとしてもクルテマッカの軍事や兵器に執心する姿勢は度を越している様にオルヴァは感じていた。
「父上……父上は何のために我が国の軍事力を増強させようとしているのですかっ!!!?」
オルヴァは改めて父クルテマッカに向き合い訊ねる。
「何度も言わせるな!!我が国の軍拡事業を広げ、より強い兵器を持つ兵団を作り上げるコトが、我が国の為になるのだ!!!」
「なら父上はご存知ですか?リンガイア王国で我が国はどうみられているか?」
「リンガイアだと?どういうことだオルヴァ!」
クルテマッカはオルヴァに強い視線を向ける。
「ベンガーナは戦争の準備でもしているのか?と、そう言っている者もいるそうです……」
「なっ……!?なんだと……っ!!!?」
その言葉にさすがのクルテマッカも目を見開いて驚きの表情を見せる。
「リンガイアは言わずと知れた古より続く要塞国家……軍事力の面に関しては、あのカール王国と並び定評がある国です……しかし、そのリンガイア王国が今の我がベンガーナ王国に対して、警戒とも取れる見方をしているコトが世界の平和に歪をもたらす可能性だってあり得ると思いませんか?」
「フ……ッフン!!そう見るリンガイアに問題があるだろう……っ!!!我が国は他国と一戦交える気などないわ…っ!!」
「過ぎた軍備は誤解を生むと言っているのです!!!」
「えーい!!うるさいっ!!!」
「父上!!!!」
「やめて!!!!」
「…………っ!!!?」「………っ!!!?」
クルテマッカとオルヴァの激しい言い争いに悲痛な叫び声が割って入った。と、そこには寝間着のままの姿で執務室の扉にもたれ掛かる様にコトの次第を見ていたアリアの姿があった。
「アリア!!!!」「アリア!!!!」
クルテマッカもオルヴァも同時にアリアの名を叫ぶと彼女は崩れ落ちるように床に身を伏せながら息も切れ切れに告げる。
「お……お父様……も……お兄様……も……お願い……もう……争わない……で……お願い……です……」
「王女様っ!!!」
「アリア王女様ーーーっ!!!」
その場にいた大臣やアリアの後を追ってきたのだろう侍女達が慌ててアリアに駆け寄りクルテマッカとオルヴァもそれに続いた。
「これは……ひどい熱だ……!!!」
「とにかく寝室へ運びましょう!!!」
大臣の言葉にオルヴァが応えながら、アリアを抱きかかえて急いで彼女の寝室へ向かった。
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クルテマッカ、オルヴァ、側近の大臣や侍女が見守る中、アリアは未だ多少の息の乱れはみられるがようやく少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「ミネルヴァがいない時に何故アリアから離れたのだ!!」
クルテマッカが小さく侍女を叱責する。
「も、申し訳ございませんっ!!少し目を離した間に……」
しかし、侍女が恐縮しているとオルヴァがベッドで眠るアリアに目を向けながらやはり小さく告げる。
「父上……我々にも問題はあります、あまりにも軍備拡張の議論をはじめ国の事業に従事するあまり家族の……アリアのことをしっかりとみていなかった……」
「そ……それは……」
オルヴァの重い落ち着いた言葉にクルテマッカも伏し目がちに呟く。
「アリアが求めるモノを……見落としてしまっていた……」
「オルヴァ様……申し訳ありませんでした……」
遣り切れない思いからか、侍女が再度自らの不手際を詫びる。しかし、オルヴァはゆっくりと首を左右に振り訊ねる。
「いや、君だけの責任ではないよ……ところで母上はいつ頃戻られる?」
「あ、はい!ご予定ではもう間もなくかと……」
「王妃様は今朝からカールにお出ででしたな……?」
クルテマッカ側近の大臣が言う。
「ああ、今日はカール王国のフローラ様の御生誕の日だ、母上はフローラ様とは幼い頃から懇意にされているしな……」
「そうでしたな……しかし、今朝はアリア様も体調が珍しく良かった故に王妃様はご心配されながらもお出掛けになられましたが……」
「フローラ様の御生誕のお祝いにはアリアから母上に行くように言われたのだ」
「アリアが?」
クルテマッカがここで口を開く。
「ええ、ほら見て下さい父上……アリアの枕元……」
そう言ってオルヴァがアリアの枕元を指してクルテマッカに告げるとそこにはカール王国で発刊された『勇者アバンの冒険』という絵本が置かれていた。
クルテマッカはそれを見て静かに手に取ると目を細めてその表紙を見ている。
「昔からその本はお気に入りでしたから……フローラ様の御生誕の日が近付くと必ず引っ張り出して来て、母上とこのお話をよくしてました……なので、これは私の勝手な想像ですが、きっとフローラ様の御生誕のお祝いの時にアバン様のことを聞いて来るように母上にお願いされていたのではないでしょうか……」
「アリアがミネルヴァに……そうか……」
クルテマッカはその事実を知らなかった。勿論、オルヴァとて本人達から直接訊いた話しではないが、アリアや母ミネルヴァの日頃の様子からそう察しただけのことだった。
と、クルテマッカはアリアの額に滲む汗を側にあったタオルで拭うと、そっと背を向けて扉に向かって歩き出しながら側近の大臣に告げる。
「会議に戻るぞ大臣……」
「ち……!父上……っ!!!?」
アリアに背を向けるように公務に戻ろうとするクルテマッカにオルヴァが声を掛ける。
「もう間もなくミネルヴァが戻るのだろう……ワシにはワシのやるべきことがある……」
「し……しかし……っ!!!」
「オルヴァよ……お前はいい……」
「な、何故です!!何故……!!!?」
「お前はアリアの側にいてやれ……」
「………っ!!!?」
父の振り向き様のその肩越しにみた眼差しには、どこか寂しげなそれでいて優しい温かみがそこにはあった。そして、オルヴァはその父クルテマッカの姿にアリアを思う彼の気持ちを感じ静かに頷くとそれ以上何も言えなかった。
ベンガーナ王国の過去にも色々とありました。ダイがレオナ達と共にベンガーナ王国に初めて来た時から、この頃は2年ほど前になるのですが、細かいところではベンガーナ王クルテマッカⅦ世の妃ミネルヴァはカールのフローラと昔から懇意の仲であったし、この小説のフィクションですが『勇者アバンの冒険』の絵本も登場しました。フローラとミネルヴァの繋がりはまた後ほど書く予定ですが、ここにアバンも絡んでくると、アバンも決してベンガーナとは無関係ではないだろう……という予想も考えられるワケで……とすればバーンとの大戦が終わった今、彼がベンガーナに足を向ける理由もこの先の展開に意味のないコトではないのです〜✨