新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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ベンガーナ王国・王妃ミネルヴァ

 

 ─テランの災厄─

 

「はぁっ……!!はぁっ……!!」

 ベンガーナ城内の長い廊下を息を切らしながら走る王妃ミネルヴァは、娘アリアの元に一刻も早く駆け付けんとばかりにその寝室に急いだ。そしてその手には、つい先刻カール王国王女のフローラから帰り際に手渡されたあるモノを携えていた。

 

 やがてミネルヴァは、アリアの寝室の前に着くと、先ずは乱れた呼吸を整えて次に娘を想うあまりのその焦燥を落ち着かせ、ゆっくりと気遣うようにその扉を開けた。

 

 ガチャ……

 

「……?……!?母上……っ!!?」

 と、寝室の扉が開く音にオルヴァは気が付くと、振り向いた先の母の姿に声を上げる。

「オルヴァ……」

 ミネルヴァは息子の顔を見て何処か安堵を覚えながらも、思わず声を上げるオルヴァに優しく人差し指を立てる仕草をしながらアリアの眠るベッドにゆっくりと歩み寄った。

「母上……申し訳ありません……」

 オルヴァはここで、先刻アリアが自分と父の諍いをその病の身を押して止めに来た際にその場で倒れてしまったことを話した。

「そうだったの……アリア……」

 ミネルヴァは優しくそう呟くと、そっとアリアの頬に触れる。

「ん……うん……」

「あら……」

「ん……お母様……?」

 アリアは母の手の温もりを感じてゆっくりと目を開いた。

「ごめんなさいね……起こしてしまったわね……」

「ううん……平気よ……」

「身体の調子はどうだ?アリア……」

 オルヴァが心配そうに訊ねる。

「うん、だいぶ楽になったわ……ありがとうお兄様……」

「いや、俺は……すまないアリア……お前にツラい思いばかりさせて……」

「お兄様……」

 アリアはオルヴァのその言葉と表情に胸を締め付けられる痛みを感じた。

「俺はお前に言われて、父上のことを支えるつもりが……どうしても……どうしても……分かり合うコトが出来なくて……正直もう……どうしたらいいかわからないんだ……本当に自分が情けなくなるよ……」

「そんな風に言わないでお兄様……大丈夫よきっとお父様だって分かってくれるわ……」

「そう……だろうか……時々……本当に父上が何を考えているのかわからなくなる時があるんだ……どうして、あそこまで軍や兵器にこだわるのか……」

 オルヴァとアリアはそうして互いに俯き合いながら沈んだ表情になる。すると、そんな子供たちの姿を悲しそうに見つめながらミネルヴァが告げた。

「ごめんなさい……貴方達にそんなツラい想いをさせて……母として、また一国の妃としても……重く受け止めているわ……」

「お母様……」

「しかし、母上は懸命に父上を支えておられます……そこへいくと私は……」

 そう呟いて再び俯くオルヴァにアリアとミネルヴァは言った。

「お兄様……そんなことないわ……」

「ええ、そうよオルヴァ…あなたが父上を懸命に支えてくれていることは私もアリアもよくわかっているわ……そしてもちろん……父上自身もね」

「え……父上……が?」

 オルヴァは母の言葉に顔を上げる。

「時々、父上は仰るのよ……自分の背中が随分と頼もしく感じると……」

「それって……」

「あなたのコトよオルヴァ……幼い頃は乗馬もままならなかったあなたが、自分の元で働く姿勢をみせてくれた事を心から喜んでいたのよ……そして今だって本音はきっとそうよ……」

「で、ですが父上は……」

「確かに頑固なところはたくさんあるけど、でも決して悪い人ではないわ……だからそれだけは信じてオルヴァ……」

「母上……」

 そして、オルヴァは改めてこの二ヶ月あまりの父との時間を振り返りながら、始めの頃に父クルテマッカが語っていたコトを思い出した。

(「ワシの夢はな……このベンガーナ王国を大きくしたいのだ……人口、経済、軍事……国の主として果たさなければならない務めは山程あるが……それでもワシは先代に恥じぬようこの国を大きくしていきたい」)

「国を大きく……」

「え……?なんです?お兄様」

 オルヴァの小さな呟きにアリアが耳聡く訊ねる。

「ああ……いや、いつか父上が仰っていたんだ“この国を大きくしたい”って……」

「国を大きく?」

 アリアは少し落ち着いて来たのか、母の手を借りながらも身体をゆっくり起こしながら訊ねる。

「ああ、父上と一緒に国の仕事に携わる様になって暫く経った頃に、父上が言ったんだ……先代に恥じぬようにこの国を大きくしたいと……」

「それはどうしてだかわかる?オルヴァ」

「え……?」

 今度は母ミネルヴァが優しくオルヴァに訊ねる。

「このベンガーナ王国がギルドメイン大陸の丁度真ん中に位置する国であるコトは知っていると思うけど、ずっと昔には少し北に行ったテラン王国との交流が盛んだったのよ……」

「テラン?母上の故郷ですよね……」

 王妃ミネルヴァは、今でこそこのベンガーナ王クルテマッカⅦ世の妻として、また王妃としてこの国を支える一人ではあったが、彼女の出自はテラン王国にルーツのある血筋だった。

「ええ……まぁ、でも今だってもちろんテラン王国との交流は僅かながらもあるけれど、昔はもっと多くの国民同士がお互いの国をよく行き来していたくらいなのよ」

「そうだっんですか……そうか!そこで母上は父上と……?」

「フフ……そうね、まだお互いに若い頃だったわ……ただね、あなた達の生まれる数年前から、ベンガーナとテランの交流は急激に減っていったのよ……」

「え……?どうしてです?」

 オルヴァはアリアと顔を見合わせると直ぐに母に向き直り訊ねる。

「当時のテラン王国である事件が起きたの……」

「ある事件……?」

 そうしてミネルヴァは、居住まいを正してオルヴァとアリアに改めて向き合った。

「私とクルテマッカが初めて出逢ったのもその頃だったわ……その日、私はテラン王国の現在の国王でもあるフォルケン王からお城に呼ばれてある相談を受けたの……」

 オルヴァとアリアは真剣な面持ちで母の話に耳を傾けている。そしてそんな母の語る話しは以下のようなモノだった。

 

 それは25年前のこと……。

 その頃ミネルヴァは、まだテラン王国に住む一人の娘だった。しかし、その家系は代々伝わる祈祷師の家で、ミネルヴァ自身も時に不思議な力を発する存在としてテラン王国内では名前が知られていた存在だった。

 そして、そんなある日ミネルヴァはテランの城の方角に何か不吉なモノを感じた。

 今となっては同じテラン出身のメルルも不思議な予知などを施してダイ達の冒険に大きな役割を果たしていたが、この頃のミネルヴァも同じ様な力があった。ただ、当時はどちらかと言えば占いというよりも神や超自然的な存在に祈りを捧げ、その力を借りるといういわゆる祈祷術がスタンダードのようだった。

 

「お母様は、それでテランの王様のいるお城に行かれたのですね?そのご祈祷の為に……?」

「ええ、そうなの……テランのお城の方角に怪しげな黒雲が浮かんでいたのを見て何か良くないコトが起きると感じたのよ……そして、それから間もなくしてテランのお城からお呼びが掛かったというワケなの……」

「その良くないコトとは……一体……?」

 

 オルヴァは母ミネルヴァに問うと彼女は神妙な表情で再び語り出す。

 

 ミネルヴァはテラン国王のフォルケンから呼ばれて事情を訊くと、その当時フォルケンに相談役として仕えていたミネルヴァの姉であるルティナが突如眠りから醒めなくなってしまったとのコトだった。しかし、それは命を落としたというコトではなく、心臓や他の部分にはまったく異常はみられないのにただ静かに眠ったままなのだった。そこでミネルヴァは姉ルティナの様子をつぶさに観察しながら、ここ最近の彼女の様子をフォルケンに訊ねた。

「お前も知っての通りルティナにはワシの傍でこの国に伝わる竜の伝説を始めとする、あらゆる伝承についての研究のサポートをして貰っていたのだが……ルティナがこの様な状態になる数日前、彼女はある伝承の調査のため北の山の遺跡に足を踏み入れた……そして、その時にルティナはその遺跡でこの様なモノを見つけて来たのだ……」

 フォルケンはそう言うと側近の兵士に目で合図を送り、ルティナが持ち帰ったというあるモノを持ってこさせた。そして、兵士が包みに覆われたソレを開くと、中から見るからに悍ましい異形な怪物の像が現れた。

「こ、これは……まさか……っ!?」

 ミネルヴァはその像を見た途端、驚愕の表情を見せる。

「やはりお前も知っておったか……」

 フォルケンはそう言うと手元に持っていた古い本を開いてミネルヴァに見せる。そこにはこの像についての伝承が記されていた。

「はい、私もこのテラン王国に先祖代々仕える祈祷師の一族ですので、この像についてはこの文献にあるようにこの世に厭わしきモノであるという事はよく分かります……何よりもこの像から発せられる悍ましくも不吉な邪気は、このお城の方から私もここ数日感じておりました……」

「そうか……実はルティナはこの像を持ち帰る際に封魔の術を施したと言うておったのだが……」

 フォルケンは神妙な表情でその像を見つめている。

「はい、そうでもしなければ持ち帰る事などとても無理だったでしょう……おおよそ人の手に触れるコトさえも不可能な程に強力な邪気に覆われていたことが伺えます……姉の……ルティナの力で本来の邪気が抑えられていたのだと思います……ですが……」

「ウム……ルティナの封魔の術を持ってしても完璧にはこの邪気を封じられなかったのだろう……そして、恐らくはこの像は自らの意志で……」

「自身の力を封じようとした姉を長い眠りにつかせた……」

 フォルケンとミネルヴァは、ルティナの身に起きた原因をそうして分析し答えを導き出した。

「そこでミネルヴァよ、今回お前を呼んだのは他でもない……この邪悪な……そうこの文献にもあるように、”凶神の像“と呼ぼうか……コレを北の山の遺跡に戻して貰いたいのだ……」

 フォルケンは重々しくそう告げると、ミネルヴァも頷いて言う。

「はい、畏まりました……一刻も早くこの像を戻し、改めて封印を施すしか姉の呪いを解く方法は考えられませんから……」

「ウム、恩に着る……最も本来ならワシ自身がその遺跡まで行かねばならぬのだが……」

 そう言ってフォルケンは自身の服の裾をやや上げて、その足を見せる。

「………っ!!!?こ、これは……っ!!!!?」

 見るとフォルケンのその足は、石膏の様な白い石と化していた。

「王様……っ!!!?いつからこの様な状態に……っ!!!?」

 ミネルヴァが驚いてフォルケンの顔を見上げると、彼は告げた。

「この像をルティナが持ち帰ってスグの事だ……しかし、彼女の所為ではない……ルティナはワシに決してこの像のこの瞳に目を合わせてはならないと忠告してくれたのだが……」

「そう……でしたか……」

 フォルケンのその話しにミネルヴァは深刻な表情で頷いた。

「古より北の山には、魔界に関する伝承があった……しかし、我が国は代々武力というモノを持たない事を国の矜持としてきた……故にもし、北の山の遺跡から魔界の者が現れこの国に災厄がもたらされるコトがあっても我等は戦う術を持たない……だからこそ今、北の山にある遺跡に眠る伝承を解明し本当に魔界に繋がる何かしらがあるとしたら、なんとしてもその遺跡を封印しなければならぬと思っていたのだ……」

 フォルケンは北の山の遺跡を調査しようとした理由を明らかにした。

「そんなワケがあったのですね……」

「この凶神の像をルティナが持ち帰ったのも恐らくは、その封印の為の調査のためだったのだろう……だが、すまないミネルヴァよ……お主の姉にこの様な災いをもたらしてしまい……ワシは我が浅薄さを恥じるところだ……この通りだ……」

 フォルケンは自身も足が動かない状況にも関わらず頭を下げて、姉ルティナの現状をミネルヴァに謝罪した。

「お、王様……っ!!?どうか、そのようなコトをおっしゃらないで下さい!!テラン王国の危機を事前に防ごうとした結果ではありませんか……っ!!?!誰が悪いという話しではございませんっ!!お任せ下さい!必ずや私がこの“凶神の像”を北の山の遺跡に戻して封印を施して参ります!!」

「そうか……すまないな……では、せめてこちらで用意した護衛に同行して貰うとしよう……」

「護衛……ですか?」

 フォルケンのその言葉にミネルヴァは首を傾げていると、フォルケンは側近の兵士に声を掛け、ミネルヴァのボディガードとなる人物を呼ぶように命じた。

 

 そうして、暫くすると兵士に伴われた一人の逞しい青年が現れた。

「うむ、よくぞ来てくれたクルテマッカ殿」

「いえ、フォルケン様のお頼みであれば私はいつでも馳せ参じます……」

「ウム、では早速だがお主にこのミネルヴァの護衛を頼みたい」

 若きクルテマッカは顔をあげると、フォルケン王の傍らに控えるミネルヴァにその視線を向ける。と……

(「な……っ!!?なんと美しいお方なのだ……!!!?ミ、ミネルヴァ……殿……と仰るのか……っ!!!!?」)

 クルテマッカは一発でミネルヴァのそのどこか神秘的な美しさに心を奪われてしまった。

「お主の父上であるクルテマッカⅥ世殿には、この国も大変世話になっておるが、この度はお主にも世話になる……お主がたまたまこの国に来てくれていて本当に良かった……」

 このテラン王国は先述のフォルケンの言葉通り武力を持たない国である為、腕の立つ兵士や戦士なども皆無だった。しかし、当時のベンガーナで武勇に優れた王子がいるというウワサがあり、それはベンガーナの近隣国であるテラン王フォルケンの耳にも聞こえていた。それ故にクルテマッカが偶然この時にテランの地に赴いていたコトは良い機会であった。

 そして、ミネルヴァはフォルケンの紹介を経て、クルテマッカと共に北の山の遺跡にその“凶神の像”を納めに向かった。

 




 ベンガーナ王国とテラン王国の繫がりをここでは書いてみました。若きクルテマッカとミネルヴァとの出逢いの場はテラン王国及びその国王フォルケン、そしてミネルヴァの実姉ルティナの危機的状況下でありました。そこで、クルテマッカとミネルヴァは力を合わせてこの試練に立ち向かうという展開です。冒険はここでもあったワケですね〜^^;
 ドラクエ2で邪神の像というアイテムがありましたが、凶神の像はまさにそこからインスパイアさせて頂きました。
 というコトで、次回はその遺跡の冒険となります。
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