─祈祷師ミネルヴァの光─
「こっちだ石像のバケモノめっ!!」
「………っ!!?」
クルテマッカはウィングデビルに罵声を浴びせながら駆け出すと素早くその背後に回り込んだ。
「なにぃぃ!小癪なっ!!」
するとウィングデビルはクルテマッカに気を取られ思わず吹雪を止める。
「今だっ!!」
「今だわっ!!」
クルテマッカとミネルヴァが同時に声を上げる。そこから先ずはクルテマッカが手にしていた煙幕玉をウィングデビルの顔面に投げつけた。
ボォォォーーーーーーン!!!
「ぐわぁぁぁ!!なっ!?なんだこれはーーーっ!!!」
更にミネルヴァは煙幕玉の煙に巻かれているウィングデビルの隙を突いて祭壇に向かって全力で駆け出した。
「どうしたマヌケめーーーっ!!!こっちだ!!こっちだ!!」
「おのれーーーーーーっ!!つまらん真似をーーー!!!カァァァァーーーーーーッ!!!!」
クルテマッカが更に嘲るように煽るとウィングデビルは怒りを顕わにして再び凍える吹雪を吐き出した。
だがその吐き出した吹雪の先にはクルテマッカもミネルヴァもいなかった。
「どうしたどうした!!大ハズレだぞ!!!私はこっちだーーー!!!」
するとクルテマッカはミネルヴァが向かった祭壇とは逆の方向にウィングデビルを誘い込みミネルヴァから距離を取らせた。
「えーーーいっ!!小賢しいっ!!こんな煙幕など一気に掻き消してくれるわ!!!!」
視界を遮られたにことに業を煮やしたウィングデビルはその背中の大きな翼を再び羽ばたかせて煙幕玉の煙を吹き飛ばした。
一方その頃ミネルヴァは祭壇に到着すると徐ろに凶神の像を取り出した。その後すぐさま祭壇に像を安置すると胸の前でそっと手を組む。やがて心を落ち着かせて集中し封印の術の詠唱を唱え始めた。
「光り羽ばたきし祝福の風よ
天より授かりし聖なる御名のもとに
暗き漆黒よりの使者の呻きに耐え
朽ちることなき時の支配に
永劫の誓いを求めん」
すると、祭壇に置かれた凶神の像の両目が何故か怪しく光り出した。そこから更にその祭壇の周りを包み込むように冷たい空気が辺りを覆っていった。
「なっ!!?しまった!!あの女!!封印術をっ!!!?」
そんな中ウィングデビルは祭壇前のミネルヴァに漸く気付くと青褪めた表情で叫んだ。
(「しめた!ヤツめミネルヴァ様の封印術に相当焦っているぞ!!よしっ!!ここからが勝負だ!!」)
「おいっ!!まぬけモンスター!!いいのかっ!!?お前の背中がガラ空きだぞっ!!!」
「な……っ!!!?」
その瞬間ウィングデビルは更に焦りの表情を見せるとクルテマッカはそれを見逃さなかった。
(「やはりそうか!!ヤツの弱点は背中!!つまりあの翼だ!!!」)
クルテマッカはウィングデビルの表情のからその大きな翼が弱点であることを読み取ると改めてウィングデビルに真正面から対峙した。
「ウィングデビルとか言ったな!!貴様にこの私と一対一で勝負する度胸はあるかっ!!!?」
クルテマッカは挑発する様に言った。
「人間風情が調子に乗りおって!!いいだろう!!貴様なんぞすぐさま八つ裂きにしてあの女も後を追わせてやるわーーーーーーっ!!!」
するとウィングデビルはクルテマッカに向けて急降下しながら鋭い爪で襲い掛かって来た。
(「あの急降下!あのタイミングを掴むんだ!!」)
「死ねぇぇぇーーーーーっ!!!!」
そんな中、ミネルヴァは突如覆われた周りの冷たい空気に不穏なモノを感じながらも詠唱の続きを唱えていた。
「穢れし焦土に生まれし闇の支配者
純白の祈りに天は微笑み
地の底の神は血塗られた瞳のまま
朝の陽光にその身を焦がす」
と、今度は祭壇の上の凶神の像から重苦しい邪気が放たれたかと思うとミネルヴァを包み込む。
「こ、これは……っ!!?」
ミネルヴァは自身のその身が飲み込まれそうな恐ろしい感覚を覚えた。
「何者かが私の封印術をジャマしているというのっ!?」
「ウォォォォォォーーーーーーーーー」
「なっ!?なに!!?今の声はっ!!!?」
地の底から響いて来る様な悍しい呻き声がミネルヴァの耳に響いた。
「我……地の底に眠りし闇の支配者なり」
「ま、まさかっ!?」
「我を封じる詠唱の声を耳にした」
「そ、その通りですわ!!凶神を封じる為に私は!!」
「それは困る」
「そうはいきません!!」
「ならば死んでもらおう……」
「えっ!!?」
その瞬間、突然ミネルヴァを覆っていた冷たい空気が彼女の身に入り込み更に急激に呼吸器官を凍結させていった。
「かっ……!?かはっ……!!?い……息……が……」
「身体が内部から凍りつく気分はどうだ?」
「あ……ああ……ル……ルティ……ナ……ねえ……さ……ま……」
ミネルヴァは呼吸困難によって意識が混濁する中で微かに姉の名を呼んだ。
「ではさらばだ忌々しき祈祷師の一族よ」
「………き……とう……し……いち……ぞ……く……」
深く深く暗いところに意識が沈み込んでいく……ミネルヴァの瞳はそうしてゆっくりと閉じられていった。
(「ミネルヴァ!!!!」)
その時だった。ミネルヴァの意識に呼び掛けるようなその声が響くと突如祭壇の上の凶神の像に亀裂が入った。
ビシィィィィーーーーーー!!!!
「なっ!!?なにぃぃぃーーー!!!」
凶神と思われる存在の驚愕する声がミネルヴァの内側で響く。
その瞬間!彼女の中で何かが弾けた。
ヒィィィーーーーーーーーーン!!!
ミネルヴァはその胸の辺りに仄かな暖かさを感じていた。そして不思議とその瞬間から呼吸器官の苦しみが和らぎ彼女は深く息を吸い込んだ。
「はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」
荒い呼吸をゆっくりと整えながらミネルヴァはそっと胸の辺りに手を伸ばす、すると仄かな温もりを感じた。
「お姉様が……助けてくれた……」
ミネルヴァはそう呟くといつか姉が話してくれたことを思い出していた。
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「おめでとうミネルヴァ!あら?なぁにせっかく祈祷師としてこれからって時に浮かない顔して〜」
それは四年前。
ミネルヴァが13才の誕生日を迎えたその日。彼女は一族の掟により洗礼を受けて祈祷師としての一歩を踏み出した。
因みに姉のルティナは三年前に洗礼を終えて既に一人前の祈祷師としてテラン国中で活躍していた。
しかしミネルヴァはその洗礼の直後に不安な胸の内を姉に吐露した。
「お姉様……私、お姉様のように祈祷師としてやっていけるのかしら……」
ミネルヴァは俯きながらそう一言呟く。
「私のように?何言ってるのよそんなの無理に決まってるでしょう?」
「えっ!!?」
思わぬ姉の言葉にミネルヴァは戸惑いの表情を見せる。
「洗礼の儀式の時にも言われたでしょう?一人の祈祷師としての覚悟と信念を持って臨めって!」
「え、ええ……」
ミネルヴァはしずしずと頷く。
「それはねミネルヴァ、貴女には貴女にしか救えないこともあるし私には私にしか救えないこともあるってことだと思うのよ」
「私にしか救えないこと……」
「そう……譬えば私とか」
「お姉様を救う?私が……?」
「そうよ、だから私がピンチの時はきっと助けてね!ミネルヴァ……」
「ルティナお姉様……ええ……約束」
「うん!そして貴女は私が必ず守るから……」
そう言ってルティナはミネルヴァの胸の小さな首飾りにそっと触れる。
「私達が持ってるこの小さな首飾りは父様と母様の形見でもあり……」
「祈祷師としての証……」
二人は互いの胸にある首飾りに触れながら優しく見つめ合った。白く輝く首飾りの宝石はミネルヴァに、青く輝く宝石はルティナに……二人の幼い頃に他界した両親はその二つの宝石に姉妹の永劫の幸せと祈祷師として彼女達がもたらす人々への幸福の願いを込めていた。
姉のルティナが始めにその首飾りを受け継ぎ。次に妹のミネルヴァがもう一つの首飾りを受け継いだ。
古より祈祷師の一族に伝わるこの二つの首飾りはミネルヴァの小さな誇りでもあった。
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「ルティナお姉様……今こそ私がお姉様をお救いする時……」
ミネルヴァは姉との昔を思い出すとその胸に強い決意の火を灯した。
「ぐわぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
と、その時だった!ウィングデビルと交戦中だったクルテマッカの叫び声がミネルヴァのその耳に飛び込んで来た。
「クルテマッカ様ぁぁーーー!!」
更にミネルヴァの目に飛び込んで来たのは傷だらけのクルテマッカの姿だった。
「ミ、ミネルヴァ様……も、申し訳ありません……こんな姿をお見せして……」
「貴様ごときにいつまでも構っている暇はない!!さぁ!!これで終わりにしてやるわっ!!!」
ウィングデビルはこれまで以上に勢いよく上空に飛び立つとクルテマッカに狙いを定めて言い放つ。
「ホーホホホ!!どうやらあの女の封印術も上手くいかなかった様だな?」
「な……っ!!?なにを言うかっ!!ミネルヴァ様は必ず凶神の封印を成し遂げる!!」
「クルテマッカ様……」
クルテマッカのその言葉にミネルヴァはその右手の中で力強く首飾りを握り締める。
「ホーホホホ!!未熟な祈祷師などにそんな封印が出来るモノか!!!地上は再び我等のモノにしてやるわーーーーーー!!!死ねぇーーーーーー!!!!」
ウィングデビルは両翼を大きく羽ばたかせるとクルテマッカめがけて最速の急降下をして来た。
(「……っ!!?来た!!このタイミングだっ!!!?」)
クルテマッカはこの瞬間を待っていた。これまで何度もウィングデビルの攻撃を受けながら絶妙のタイミングを見計らっていたのだ。
「うぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!!」
「クルテマッカ様ぁぁぁぁっ!!!!」
ヒィィィィィーーーーーーン!!!
その時ミネルヴァの小さな首飾りにある白い宝玉が激しく光り出した。するとその光を目にしたウィングデビルが苦悶の悲鳴を上げた。
「ギィィィヤァァァーーー!!!!」
「しめた!!!
ここだぁぁぁーーー!!!!」
突如苦しみ出したウィングデビルはその勢いのまま急降下して来る。
ザンーーーーーーッ!!!!
瞬間!クルテマッカは手にしていたその剣でウィングデビルの背中の片翼を見事に切り裂いた。
ドガァァァァーーーーーーン!!!!
これまでその大きな翼を駆使してクルテマッカをいたぶっていたウィングデビルは、その自慢の片翼を切り裂かれたことでコントロールを失い固い地面にその身を激しく打ち付けられた。
「バ……バカなっ!!?こ、このワシが……地上の人間ごときに……」
「はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」
クルテマッカは息を乱しながらも地に落とされたウィングデビルに油断を排した強い視線を向けている。
「クルテマッカ様!!」
「……っ!!?ミネルヴァ様っ!!ありがとうございます!!!」
クルテマッカは自分の位置からやや距離のある祭壇の方を見るとそこに佇んでいるミネルヴァに声を張って感謝を伝えた。
そして……
「次は貴女の番です!!貴女なら必ずやり遂げられます!!!私は貴女を信じています!!!!」
「………クルテマッカ様」
優しくそれでいて力強いクルテマッカのその想いを受けて彼女は微笑を浮かべる。
姉と交わした約束を胸に祈祷師としての決意を固めていたミネルヴァ。彼女はクルテマッカというもう一人の大切な存在から最後の一押しを受け取ると彼の感謝の言葉に深々と頭を下げた。
もうミネルヴァには一切の迷いも不安もなかった。ゆっくりと再び祭壇に向き直ると彼女は首飾りをもう一度握り締める。
「さぁミネルヴァいくわよ!!」
自身に向けた鼓舞を皮切りにミネルヴァは胸の首飾りを取り出した。それは姉ルティナの首飾り。出発前に彼女は眠りについている姉の首飾りをお守り代わりにして胸に忍ばせて持って来ていたのだ。そう先刻ミネルヴァの危機を救ったのはこの姉の首飾りだった。
「お姉様の力と……私の力を合わせて……必ず凶神も魔界への穴も封じてみせる!!」
そう言って次にミネルヴァは自身が授かったもう一つの白い宝石の首飾りを取り出すと姉の首飾りと共にそっと祭壇に置く。
祭壇に置かれた二つの首飾り。そのそれぞれに光る青い宝石と白い宝石。
ミネルヴァは心にその二つの光を感じると彼女は再び封印術の詠唱を唱えはじめた。
少しだけ凶神を登場させてみました。凶神は神殿の底に封印されているという設定になっておりますが完全復活にはまだ時間が掛ります。そもそもこの物語においての封印術とはその定義として、より強大な力を持った存在を封じると譬えばその配下なども当然その封印の力によって封じられます。ですが逆に封印の効力が薄れていくとその封印術の薄れ具合によって力の弱いモノからその封印の影響を外れていくという設定にしています。なので、凶神はまだ完全復活は出来ない状態ですが、ウィングデビルなどのザコモンスターはその封印から外れるコトが出来たというワケです。強大な力を持つことでその封印から外れるのも一番あとになりますから、強ければ強いほど封印されたくないモノなのです。