─祈虹の指輪─
「光り羽ばたきし祝福の風よ
天より授かりし聖なる御名のもとに
暗き漆黒よりの使者の呻きに耐え
朽ちることなき時の支配に
永劫の誓いを求めん」
ミネルヴァは先刻よりも深く集中して封魔の詠唱を唱え始めた。
「穢れし焦土に生まれし闇の支配者
純白の祈りに天は微笑み
地の底の神は血塗られた瞳のまま
朝の陽光にその身を焦がす」
祈祷師一族に代々伝わる詠唱はようやく最後の段階へと突入する。
「我今こそここに告げん
無垢なる光を風の声に変え
冥府への道を永遠に閉ざし
凶々しき漆黒の息吹を
一塵の侵食をも妨がん
光司りし夜明けの守護者よ
この身に闇を封じし時を与えよ!!!
この身に漆黒を封じし力を与えよーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「ウォォォォォーーーーーー!!!!」
その時地の底より重苦しく凶々しい声が響いたかと思うと、クルテマッカの傍らで倒れていたウィングデビルが叫び声を上げた。
「も、申し訳ございません!!!マナルガ様ぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!ギィィィヤァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!」
「……っ!?な、なにっ!!?マナルガっ!!!!?」
クルテマッカはウィングデビルが断末魔の言葉と共に口にしたその存在の名に驚愕する。
「マナルガ!!!まさかそれが凶神の名なのかっ!!!?」
クルテマッカはウィングデビルにそう問い質そうとしたが既に石像の魔物はその身が封魔の術によって消え掛かっていた。
「まっ待てっ!!!今のマナルガとやらが凶神なのかっ!!!?」
しかしウィングデビルは何も応えずただ最後にクルテマッカに視線だけ向けると不気味な笑みを残してその場から完全に消え去ってしまった。
「クソ……っ!!?」
クルテマッカはその顔を歪めて悔しさを滲ませた。
しかし直ぐに向き直るとミネルヴァの方へ駆けていった。
「こ、これは……っ!!!?」
するとそのクルテマッカの目に飛び込んで来たのは祭壇に深く祈りを捧げるミネルヴァを優しく包み込む不可思議な光だった。
「……っ!?あのミネルヴァ様を包み込む光は?柔らかい白い光と清浄な青い光……」
クルテマッカがミネルヴァを包む二色の光を見つめているとその光はやがて一つになりより神々しく輝き始めた。
「ウォォォォォーーーーーー!!おのれーーーーーー祈祷師の一族!!!」
「永劫この地上を穢すことを許しませんっ!!!闇に沈みなさいっ!!!」
「クッ……!!!?口惜しや……口惜しや……されど我もこのままでは終わらんぞ……」
「なにをっ!!?」
闇の底からの声は既にミネルヴァの意識にしか聞こえていなかったが彼女の様子を見つめていたクルテマッカは不穏なモノを感じた。
「なんだ?ミネルヴァ様の様子がどこかおかしい?」
「祈祷師の娘よ……我は必ず必ず蘇る……ククク予言しよう……必ずや我は未来において貴様の血筋に仇をなしてやる……」
「そんなことはさせませんわっ!!!」
「ククク……ククク……」
「凶々しき闇の支配者よ永劫の深き牢獄に今こそ封じますっ!!!!」
「ギャァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーー祈祷師一族ーーーーーーミネルヴァァァァァァァーーーーーー!!!!!」
ミネルヴァの意識に闇の底からの声は最後の断末魔を残して封魔の術により封じられた。
シュウゥゥゥゥゥーーーーーー
やがて祭壇の前の強烈な光が少しずつ消えていくとそこには未だ胸の前で手を組み合わせているミネルヴァの姿だけがあった。
「ミネルヴァ様!!」
クルテマッカが急いで駆け寄るとそれを合図にしたかのようにゆっくりとミネルヴァの身体が糸の切れたマリオネットの様に崩れていく。
「ミネルヴァ様ぁぁぁ!!!」
ミネルヴァの身体が地面に崩れ落ちる前にクルテマッカは彼女の身体を抱き止めて支える。しかし……
「ミネルヴァ様!!ミネルヴァ様!!」
クルテマッカの声に彼女は応えない。
「これはいけない!!急がねば!!!」
クルテマッカは青褪めた表情で彼女の容態を確認すると血の気の引いた白い顔で眠る彼女を背負って急いで神殿遺跡からの脱出を図った。
「ミネルヴァ様!!必ず!!必ず私がお助けしますっ!!!頑張って下さい!!!ミネルヴァ様ぁぁぁぁーーー!!!!」
クルテマッカの声が響く中、二人は凶神と魔界へと通じる道を命懸けで封印し北の山の神殿遺跡を後にした。
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「そんな事が私達の生まれるずっと前に……」
オルヴァとアリアは母ミネルヴァの25年前に起きた恐るべき出来事を聞くとその表情を硬くした。
「でも!!お母様はご無事だったのですね!?それにフォルケン王の石化やルティナ伯母様の呪いも……」
アリアは母の話の様子から目の前にいるミネルヴァや当時呪いの影響下に置かれていたフォルケン王とルティナのことを心底案じて訊ねた。
「ええ、フォルケン様もルティナお姉様も無事に呪いから解放されたわ……もちろん私もこの通り元気にあなた達の前にいるし……あなた達の事も無事に産んだのだもの、でも神殿遺跡で意識を失ったあの後はあなた達の父上がご自分の傷付いた身体を顧みず私をテランのお城に運んでくれたのよ……まぁ最も私も目覚めてからテラン国王のフォルケン様からそう伺ったのだけれどね」
「お兄様、お父様ステキね♪」
「ん?あ、ああ……まぁな……」
アリアの茶目っ気が浮かぶ顔にオルヴァな素っ気なく応える。
「しかし母上がまさか祈祷師の一族だったのは驚きでした」
「ええ、私も驚きでした!」
「そうねこれまで話したことはなかったものね、でもその神殿遺跡での一件から何故か私の祈祷師としての力もお姉様の力も消えてしまったのよ……」
「ええっ!!そうだったんですか!!?」
「でもその凶神への封印の術は消えなかったんですよね?でなきゃ今頃は世界が奪われていた筈だし……そう考えれば今もその封印は生きている……」
オルヴァは推測を口にする。
「確かにそういうことになるわね……でも結局は詳しいことはわからないの……その後にも封魔の術についての文献や改めて凶神の像やテランの北の神殿遺跡の文献を研鑽してみのだけれど私達に起きた現象についてはどこにも記されてなかったのよ……」
「そんな……」
「でもねオルヴァ貴方の言った通りそれ以降北の神殿遺跡からは怪しげな不穏な気配も一切感じられなくなったからテランの国は今日まで穏やな平和に守られているのよ」
「それでは祈祷師としての力も……」
「ええ……必要なくなったということなのよね……きっと……」
そう口にするミネルヴァはやや寂しげな表情を浮かべた。
するとアリアはそんな母の顔を見て敢えて明るく訊ねた。
「あ!でもお父様とはその時から上手くいったのねお母様!」
「フフフ♪そうね……あの後父上とのことはベンガーナ王国とテラン王国でいつの間に広まっていて、その話で持ち切りになってしまったわ……それで私達はその一年後に婚約したのよ」
「へぇ〜そうだったんですか〜」
「ただね、やはりその神殿遺跡での恐ろしい出来事も少しずつ人々の耳に入るようになってね……時を同じくしてテランの山で採掘されていた鉄鋼石も神殿遺跡の近くにあったものだからそれまで採掘していたベンガーナの鉱夫達も段々とその場所に訪れなくなってしまったのよ」
「テランとベンガーナの交流が少なくなっていった原因がまさにその神殿遺跡の騒ぎだったんですね……」
オルヴァはミネルヴァがこの話しを始める前にベンガーナとテランの交流が薄れてしまったきっかけとして話し出した事を思い出していた。
「それでも父上はね、いつか時が経てば人々の噂は薄れていくと仰ってテランのことを気に掛けてくれていたのよ……ベンガーナで使う鉄の製品の元となる鉄鉱石は今でもテラン王国から仕入れているしね」
「確かに現在は鉄鉱石をベンガーナの鉱夫からではなくテランの鉱夫や他の国から来ている鉱夫から買ってますね」
「ベンガーナの鉱夫はやはりテランには行きたがらないの?お兄様?」
するとアリアが疑問を挟む。
「ああ、父上からも少しは聞いていたがそんな詳しい経緯までは聞いていなかったけどな」
「あなた達の父上はだからこそ、このベンガーナを大きくしたいと思っているのよ。自国だけでなくテラン王国さえも守れるように……そしていつかまたベンガーナとテランが安心して交流出来る様に……」
オルヴァはその母の言葉に深く頷いた。
「だからオルヴァ……父上をどうかどうか支えて上げて……」
「母上……」
「父上にも私達にも……そしてこのベンガーナにも貴方の力が必要なの」
オルヴァはそう言って自分を見つめる母の優しくも熱い視線に父や自分達だけでなくベンガーナという国と更に自身の故郷であるテラン王国に向けた深い愛情を感じていた。
「わかりました母上、もう一度……いや何度でも父上と話をしてみます……それに私も……父上の様に強くなりたいですから!」
「オルヴァ……」
「お兄様……」
ミネルヴァもアリアもそんなオルヴァの姿に優しい微笑を送ると彼は最後に告げた。
「父クルテマッカⅦ世に私も負けないように頑張ります!!」
そう力強く拳を掲げてガッツポーズをするとオルヴァは笑顔でクルテマッカの執務室に向かった。
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「大臣よ……子育てというのは本当に難しいモノだな……」
アリアの寝室を出て会議室に向かう廊下の途中でクルテマッカは力無くそう呟いた。
「ま、まぁ……そうですな……し、しかし!オルヴァ様は大変ご立派でございます!」
大臣は取り繕うように慌てて言う。
「………オルヴァもそうだが……ワシはアリアが心配なのだ……」
「へ……?」
クルテマッカのその意味深な言葉に大臣はキョトンとしているが、その二人の様子を廊下の端から怪しげに見つめる目がそこにはあった。
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「そうだわアリア!これあなたにってフローラ様からよ♪」
「え?フローラ様から!?」
そう言うとミネルヴァは手にしていた小さな箱をアリアに開いてみせた。
「わぁーーー!!ステキな指輪!!」
アリアが胸をときめかせながら見るとそこには虹色の宝石が嵌め込まれた指輪があった。
「あなたのお誕生日も近いからってフローラ様がアバン様に作って欲しいってお願いしてくれたらしいわよ……良かったわねアリア♪」
「えーーっ!!アバン様がーー!!!」
アリアは絵本で読んでいた憧れの勇者アバンから指輪を作って貰えたことに大はしゃぎで喜んだ。
「なんでもアバン様のお家に伝わる聖なる石を呪法で加工したモノらしいわ。ほら見てご覧なさい、この虹色の宝石」
「本当だわ〜凄いキレイな虹色〜♪」
「その虹色の光に破邪の効果があるとアバン様が仰っていたらしいわよ」
「破邪の効果?」
「ええ、良くないモノを寄せ付けない力ね。だからアリアの身体もきっと良くなるってフローラ様も仰っていたわ」
「そっかぁ〜嬉しいなぁ〜フローラ様もアバン様も私にこんなに素敵なプレゼントをくれるなんて♪」
「そうね、お会いする事があったら必ず御礼を言うのよアリア」
「はい!お母様!」
アリアは満面の笑みでそう返事をすると、しげしげとその指輪を見つめながら訊ねた。
「そういえばこの指輪のお名前ってあるの?」
「あ、そうそう!その指輪は祈りの指輪をモチーフにして形を作ったから祈りの指輪に虹を添えて祈虹の指輪と言うらしいわ」
「きこう?の指輪?」
「祈るという字に虹と書いて祈虹。アバン様の造語みたいだけどね」
「へぇ〜祈虹の指輪かぁ〜♪フフ♪大事にするわ!お母様!」
「ええ、良かったわ喜んでもらえて」
「フフフ♪」
アリアはそう微笑んでまだ幼さの残る自分の手を翳しながらいつまでもその指に煌めく虹色に目を細めていた。
しかし、そんな微笑ましい親子の時間を昏い闇の底で蠢く邪悪な意思が怨めしさを孕んだ瞳で見つめたいた。
「おのれ……祈虹の指輪だと!!アバン……あのハドラーを倒したあのアバンか……っ!!?余計なことを……おのれおのれ……ここまで積み重ねてきた我が計画を壊れさてたまるか……このままでは終わらぬぞ……アバン!!!」
それから数日後。
アリアの容態は急激に快方へと向かった。
彼女は数年振りに外の風を感じている。花の香りや街の香り、広がる青い空にも目を細めて彼女は目の前に広がる世界を心から楽しんでいた。
クルテマッカ達はそんな彼女の姿を見つめながら、涙を流して日々笑顔をアリアに向けている。
アバンとフローラから贈られた祈虹の指輪はそうしてアリアの身を清浄なる破邪の力で守っていた。
さて、25年前のクルテマッカとミネルヴァの冒険はここまでとして、アリア達のシーンになりました。ここで出て来ましたね新たなアイテム祈虹の指輪。こちらはアバン制作のたった一つしかないシロモノです✨効果としては、防御力、回復力、そして破邪の力が込められた超レアアイテムです。この指輪が今後の鍵となると言っても過言ではないです。
ちなみにこのベンガーナ編は原作のダイ大からおよそニ年前の話です。