新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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パプニカ外交

 

 ─魔の残穢─

 

 数日後。ベンガーナ王クルテマッカⅦ世とその息子のオルヴァ王子はパプニカの地に赴いた。

「よくぞおいで下さったクルテマッカ陛下!船の旅は如何でしたか?」

 レオナの父パプニカ王はクルテマッカを笑顔で出迎える。

「ハハハ!これはご丁寧にパプニカ王殿。ええ、船旅も順調で貴国の城が見えてくる頃にはその海と空の美しさも相まって実に感嘆したモノです!いやぁなんとも美しい国ですな!ワハハハ!!」 

「それは嬉しいお言葉、私も貴国の文化の発展には目を見張るばかりですよ!ハハハ!」

 そうしてパプニカ王とベンガーナ王の会談は和やかに始まった。

 今回クルテマッカがここパプニカに訪れたのは自国ベンガーナとパプニカの交易に関する繋がりをより強固にする為の重要な外交だった。

 元々パプニカの衣類や金属は他国でも高値で取引される程に評判がよく、当然ベンガーナでもパプニカ製の製品を多く輸入している背景があった。

 また、逆にベンガーナの製品をパプニカに輸出していることもあり、互いに国益において重要な取り引き相手でもあったのだ。

「ところで今回のご滞在は三日程と伺っておりましたが?もう少しゆっくりされては如何です?陛下には是非とも我がパプニカを心ゆくまで堪能して頂きたいのですが……」

 パプニカ王はクルテマッカに滞在日程の延長を持ち掛ける。

「いやぁそれはなんとも有り難いお話しではありますが……この後はロモスに立ち寄る予定もありましてな、またの機会にゆっくりと貴国を巡らせて頂こうと思います……そうそう!実は娘にも前々から貴国に連れて行けとせがまれてましてな!娘はレオナ姫様を憧れの姫様と言って慕っておられるのですよ!ワハハハ!!」

「ち、父上!!」

 オルヴァは父クルテマッカの親バカ振りがまた発揮されないかと思わず諫める。

「ハハハ!そうでしたか、しかし娘のレオナには色々と振り回されますよ!思ったことをスグに口にする子ですから……もう少しお淑やかにしてくれれば良いのですが……」

「いやいや子供は元気にすくすく育ってくれれば言うことはありますまい!ハハハハ!!」

「そう言えばご息女のアリア姫様はもうすっかりお身体のご心配はなくなられたとか?」

「ええ、昨年までは気が気でなかったが今はおかげ様で元気にしてますわ!カール王国のフローラ王女とアバン殿にも世話になりましてな……」

「そういえばその話しは娘からも少し伺ってましたが……」

 そう言いながらパプニカ王はアリアの快方の詳細を訊ねるとクルテマッカは上機嫌で話し出した。

 

「ほう……祈虹の指輪ですか……」

「ええ、なんでもアバン殿が破邪の力を込めた虹色の宝石を作ってくれましてな……」

「だとすると……アリア姫様はなにか良からぬモノに?」

「詳しくはわかりませんが……しかしアリアが快方に向かったのもその指輪をフローラ様とアバン殿から贈られた後のことですし……」

「破邪の力か……我が国パプニカも神に仕える家系ですから……とても関心がありますね……」

「それならもし今度カールに行った際には詳しく訊いてみましょう」

「そうですかフローラ様には我々もレオナ共々お世話になってるところもありますからな……私の方でも伺ってみましょう」

 そうして、両国の王の会談はつつがなく進んでいった。

 その後、クルテマッカとオルヴァはパプニカ王から用意された昼食会に参加し、更にパプニカの城下町を共に散策しながらパプニカの魔法文化や産業などについても詳しく紹介され互いの国の繋がりをより強く結んでいくことを確認し合った。

「ありがとうございます、まさか王自らご案内頂けるとは……」

 クルテマッカはパプニカ王の丁寧な外交姿勢に思わず頭を下げる。

「いえいえ!クルテマッカ陛下とは年も近しい間柄ですし、つい私も時間を忘れて楽しんでしまいました……お疲れではありませんか?」

「ええ、こう見えても乗馬で鍛えておりますからな!意気軒昂というヤツですわ!!ワハハハ!!」

「おおっ!それは素晴らしい!!ハハハハ!!」

 まるで昔からの親友のように笑い合いながら互いに親交を深めつつある父クルテマッカとパプニカ王のその光景にオルヴァは安堵の笑顔を浮かべていた。

(「よかった……今回の外遊は成功のようだな……これでパプニカ王国とのパイプもより強固になるだろう……」)

 オルヴァは既にベンガーナ国の王子としての高い意識を持って今回のパプニカ外交の重要性を深く認識していた。

 と、そんな中パプニカ王の傍らにいる一人の老齢の男に目を留めた。

(「ん?確かあの方はパプニカ王の側近のテムジン司教とか言ったか……」)

 オルヴァはそのテムジンがパプニカ王や父クルテマッカ達とは違う方向を見て何やら気にしている素振りが気になった。

「テムジン様……どうかなされましたか?」

 オルヴァは父とパプニカ王が話し込んでいるのを横目に思い切ってテムジンに訊ねた。

「へ?あ、ああ〜!い、いや!なんでもありませんよ!ハハハ……」

 そう言いながらテムジンは首を横に振るがオルヴァにはその姿がやや狼狽えている様に見えた。

(「なんだ?この男は……どうもいけ好かないな……」)

 オルヴァはテムジンにそんな印象を抱くと同時にどこか胸騒ぎを覚えた。

 

 その夜、パプニカ王との夕食会も和やかに終えてクルテマッカとオルヴァは城内の豪華な客室を用意されると旅の疲れも出たのか割と早い段階で就寝した。

 やがて夜も深まり城の内外が完全に漆黒の闇に包まれた頃、オルヴァは一人その身を大きな柔らかいベッドからゆっくりと起こした。

「やはりどうも気に掛かる……」

 オルヴァは隣の部屋で眠る父を気にしながら簡単な外着に着替えると音を立てずに部屋の扉を開いた。

「こんな夜中に出歩くなど客人として招かれている身で決して許されないコトだろうが……」

 そう自分に戒めるように呟きながらもオルヴァは静かにパプニカ城内の長い回廊を歩いていく。その向かう先は昼間テムジン司教が気にしていた城の裏側にある施設だった。

 

 一方、クルテマッカはオルヴァとはまた違う意味で目を覚ますとその部屋のテラスに出る大きな窓を開いた。

 夜の心地よい風が海の香りと共にクルテマッカの身を包み込む。

「夜の海はまさに漆黒……恐れさえ覚えるものだが……このパプニカの海は何故か不思議と気持ちを落ち着かせてくれるな……」

 クルテマッカは目を瞑ると今日の事を振り返る。

「パプニカ王……あれ程の好人物とはな……どうやらこれからもパプニカとの付き合いはより深くなりそうだ……」

 昼間のパプニカ王の丁重な出迎えから共に歩いた街の散策、更に昼食会や夕食会での彼の振る舞い、そして国としての確かな信頼、どれを取ってもクルテマッカにとって満足のいくモノだった。

 と、城からの夜の海を眺めながら今日の外交の成果を噛み締めていると、視線の先に見覚えのある人物の姿が見えた。

「ん?あれは……オルヴァかっ!?」

 クルテマッカは微かな月明かりを頼りに目を凝らすとそれは明らかに息子のオルヴァの姿だった。

「なっ!何をやってるんだアイツは……っ!!」

 しかし、クルテマッカはそのオルヴァの姿を改めてみるとなにかを探している様にも見えた。

「なんだ?オルヴァのヤツ……どこに行こうと言うのだ……」

 するとクルテマッカは徐ろに部屋に入るとオルヴァと同じ様に簡単な外着に着替えへオルヴァの後を追う為に静かに部屋を出た。

 

「え……っと……確かにこの辺りだと思ったんだけどな……」

 昼間のテムジンの様子を詳細に思い出しながらオルヴァは城の裏側を探索している。すると、一つの建物から仄かに灯りが漏れていた。

「ん?あの建物……」

 オルヴァは改めて周りを警戒するとゆっくりとした足取りでその建物に近付いていく……

「誰かいるようだ……」

 そう小さく呟くとオルヴァはその建物の中の様子を探れる場所を探し始めた。

 

「どうだバロン……乗り心地は?」

「ええ……悪くありませんね……早くコイツで暴れたくなりますよ……フフフ」

「お前の魔法力でコイツを自在に操ることが出来ればワシ等の計画もつつが無く遂行できるというモノよ……」

「確かにこのキラーマシンならば、他国の制圧など容易いでしょうな……ベンガーナ王国さえも恐れるに足らずですよ……」

 テムジンとバロンは先日に引き続き、このキラーマシンの分析を進めながら悪意の籠もった企てを立てていた。

(「キ!キラーマシンだって……っ!!?」)

 と、この建物の外で二人の会話に聞き耳を立てていたオルヴァが声を抑えながらも驚きの表情を浮かべていた。そして建物の小さな窓越しにその二人の顔を見咎める。

(「あれはっ!?やはりテムジン司教!!それと……もう一人のあの賢者の姿をした男は一体……」)

 オルヴァが見知らぬ若い長髪の男に訝しむ表情を浮かべていると……

(「あれはパプニカ王のもう一人の側近、賢者バロンだ……」)

(「ち……っ!?父上……っ!!?」)

(「静かにしろっ!オルヴァ!!」)

 すると、いつの間にかオルヴァの跡をつけて来たクルテマッカが声を抑えて彼を諫める。

(「いつからいらっしゃったのですか!?」)

(「ついさっきだ……お前の姿をテラスから見付けてな……ところでここはなんなのだ?それにあの……」)

 クルテマッカは改めてその視線を建物の中に向けるとその瞳にキラーマシンの姿を捉えていた。

(「キラーマシンとか……言ってましたね……」)

(「ウム……それにしても何と禍々しい風貌だ……あれは……あれはまるで歩く兵器だオルヴァ……」)

(「歩く兵器……」)

 オルヴァはクルテマッカのその言葉に戦慄を覚えると共に言い得て妙だとも思えた。丁度この位置からはキラーマシンの全体像が見えているがその体躯は恐るべき凶暴性を纏った巨人のような邪悪な空気を醸し出していた。それでいて当然のごとく一切の感情を感じさせないまさに無機質な機械的な冷たさも相まって、よりその不気味さを感じさせた。

(「オルヴァよ……先程のあの二人の会話をワシも耳にしたが……我がベンガーナを恐れるに足らずとか言っていたな……」)

 クルテマッカは憎々しげな視線を窓越しにテムジンとバロンに向ける。

(「まさか……!?アレを兵器としてベンガーナに侵攻して来るのでしょうか!?」)

 オルヴァは我ながら恐ろしい考えだと思いながらもそう口にする。

(「さすがにアレ一体ではあり得ないだろう……だから今すぐにどうかするというワケでもないだろうが、ただ……もし量産が可能だとしたら……」)

(「量産……っ!?あ、あんな兵器がいくつも出来たらとても太刀打ちなど出来ませんよっ!!?」)

 オルヴァは興奮を抑えきれない。

 と、その時……!

「誰だ……っ!?誰かいるのかっ!?」

 突如バロンが表に気配を感じたのか声を上げた。

(「いかん……っ!!」)

(「ち、父上……っ!!」)

 クルテマッカとオルヴァは自分達の存在がバレたと思い身を硬くすると、この建物の入口付近から男の声がした。

「も、申し訳ございませんバロン様!テムジン様!ですがそろそろ消灯致しませんと……」

 巡回の兵士だろうか、彼はバロン達に消灯の催促を告げる。

「なんだお前か……わかった……もう戻る」

「はっ!それでは失礼致します!」

(「オルヴァよ……この隙に部屋に戻るぞ!」)

(「はい!父上……!」)

 そうしてクルテマッカとオルヴァは巡回兵士とバロン達の動きに気を配りながら速やかに来た道を戻って行った。

 

 その夜、クルテマッカもオルヴァも一睡も出来なかった。特にクルテマッカに至ってはあのキラーマシンから感じた魔の残穢とも言うべき悍ましさを背景にテムジンとバロン達の企みを目の当たりにしてから、オルヴァにも一言も口を開く事なく重苦しい朝を迎えることとなった。

 

「なっ……!?なんですってっ!!?そんな突然帰国するなどと!!どうなされましたクルテマッカ陛下っ!!?」

 朝食を摂る前に、謁見の間で突如クルテマッカから伝えたれた申し出に温厚なパプニカ王も声を上げた。

「急遽、帰らねばならぬ事態になりましてな……申し訳ないパプニカ王……」

 しかし、クルテマッカは一切パプニカ王と目を合わそうともせずに終始伏し目がちに謝辞を告げるばかりだった。

「まさか……アリア姫様のお身体のご様子になにかありましたか?」

「え……っ!?」

 この時のパプニカ王の言葉にクルテマッカはようやく顔を上げる、しかしスグに顔を背ける様な仕草で口籠った。

「え…ええ……ま、まぁその……」

 と、そんな父の素振りに業を煮やしたのかオルヴァが代わりに応じる。

「パプニカ王陛下、本当に申し分けございません……妹の容態も詳しくはまだわかっていないのですが……兎に角一刻も早く帰国しないとならない状況でして……この後のロモスへ向かう予定も延期するコトとなりそうでして……」

「そうですか……今宵は最後の夜ゆえ晩餐会の支度も進めていたのですが、それならば致し方ないですね……」

 パプニカ王は心底残念そうな表情で言った。

「だが、パプニカ王……お主も恐ろしい男よ……」

「は?今……なんと?」

「ち、父上……っ!?あ!も、申し訳ございません!父上もこの様なコトになって畏れ多いことだと!!」

 クルテマッカの声がくぐもって聞こえパプニカ王の耳に明解に届かなかったことを幸いにオルヴァは慌てて父の発言をフォローする。

「い、いや……そんなお気になさらず……またお越し下さい……」

「痛み入ります……パプニカ王殿……」

 クルテマッカは漸くそれだけ言うと徐ろに踵を返して、その場から立ち去ろうとした。

「父上!!?あ……そ、それではパプニカ王陛下これで失礼致します!!種々お世話になりました!!」

「い、いや……とんでもない!どうか道中無事に帰国の途にお就き下さい……神のご加護がありますようお祈りしております」

「ありがとうございます!失礼致します!!」

 そうして慌ただしくクルテマッカとオルヴァはパプニカ王に別れを告げてベンガーナへの帰路に就いた。

(「それにしてもクルテマッカ様は……どうしてあのような……」)

 英明な君主として知られるパプニカ王と言えどもクルテマッカの突然の変化に困惑の色を浮かべていた。しかしながらその後、自身の言葉通り彼やその家族……また、ベンガーナ王国に神の加護が有る様にと彼は深く祈りを捧げた。

 

 

 




 パプニカ王の知らないところで、悪人たちは暗躍していたワケですね。やだやだ……(-_-;) しかもベンガーナ王国をも巻き込みかねない状況でした。この時のクルテマッカとオルヴァはキラーマシンという存在を殆よく知りません。獄炎でロカとアバンがキラーマシンを撃破した後にテムジンを中心にそのキラーマシンが解析され、そこまではパプニカ王も知るところでしたがその後秘密裏にキラーマシンを起動させ後のレオナ暗殺の為にテムジン&バロンが悪巧みしていたことまではさすがのパプニカ王も気付けなかった様です。十年以上もどうやって隠し通せたのか……(^_^;) 知りませんが…… (笑)
 さて、ベンガーナのクルテマッカはどうするのてしょうか?
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