─ディードックとマトリフ─
クルテマッカがパプニカから帰国してからのベンガーナ王国は何かと慌ただしさが目立つようになった。
「陛下……昨日も数時間しか睡眠を取られてませんわ……もう少しお休みになられてはいかがです?」
ここ夫婦の寝室で王妃ミネルヴァは夫クルテマッカが朝から早々と支度をしているその背中に告げた。
ここ連日において睡眠時間を削ってまで軍事関連の仕事に心血を注いでいる彼を心配していたのだ。
「心配するなミネルヴァよ……ワシは大丈夫だ!なんとしてもこのベンガーナを強くせねば守るモノも守れん!!どこにも負けない兵団をワシは作ってみせるぞ!!」
「ですが……」
「スマンな色々と忙しいのだ……子供たちのこと宜しく頼むぞミネルヴァ!」
そう言ってクルテマッカは今日も執務室に向かった。
パプニカから帰国したその日、彼はミネルヴァの前で恐ろしさのあまり涙を流しながらパプニカで目の当たりにしたあのキラーマシンの話しをした。
ミネルヴァ自身にもパプニカ王国がまさかそんなモノを保持しているコトに大きなショックを受けたが、後にクルテマッカは共にキラーマシンを目にしたオルヴァと王妃ミネルヴァの三人だけの秘密としてそれ以降は一切パプニカでの出来事を口にすることはなかった。しかしその翌日からクルテマッカはあの恐れ慄いていた涙が嘘であったかの様にベンガーナ王国の軍備拡張にこれまで以上に精力的に取り組んでいった。
「クルテマッカ様……」
ミネルヴァは憂いの表情を浮かべながらクルテマッカを見送る。彼女は妻としてクルテマッカのあの涙を見た以上彼のその胸にある不安や恐怖を取り除く必要があると強く思いながらも今はその為の最適な道筋を見つけられなかった。それ故に今のクルテマッカを止める手段も得られなかった。
それから更に数日が立った頃……
「オルヴァお兄様……」
「ん?」
城内の廊下でオルヴァは妹のアリアに呼び止められた。
「どうしたアリア?」
「お父様はパプニカからお帰りになってから随分とお忙しい様ね……」
アリアはクルテマッカが帰国してから数日経った今日までまともに父と会話をしていなかった。
「あ、ああ……すまないな、私もサポートしてはいるのだが父上の公務の広げ方が尋常ではなくてな……実は私もあまり最近は公務以外はまともに話も出来てないのだ」
「そうでしたか……お兄様まで」
オルヴァはパプニカから自分たちが帰ってからアリアが少し気落ちしている姿を見ていた為に気掛かりではあったが、彼自身もクルテマッカを支える仕事に従事している為になかなか彼女の支えになることも充分出来てはいなかった。
「なにか父上にお話があるのだろう?」
「え……っ!?」
「お前の兄だぞすぐにわかるよ、それにそう顔に書いてある」
オルヴァは元気のないアリアを少しでも元気づけようと敢えてそう揶揄するように告げる。
「お兄様ったら……でも、そうね……お兄様もお忙しいかも知れないけどよければ少しだけお話し聞いてくれる?」
アリアがそう告げるとオルヴァは頷いて彼女の部屋で話を聞くことにした。
「いつかお兄様にお話しした小さな勇者様の夢のこと覚えてる?」
「ああ、あの怪物が住む島にいる勇者様だろ?この前は悪いニセモノの勇者をやっつけた話だったな?」
オルヴァはまだアリアの体調が良くなかった一年ほど前に彼女から訊いた夢の話を思い出した。
「うん、そうよ……それでね実はお兄様たちがパプニカから帰国されたその日の夜にまたあの小さな勇者様の夢を見たの……」
「え……っ?あの夜に?」
オルヴァはそう語る妹の表情からなにか不穏な空気を感じた。
「そうなの……それでね今度の夢はその勇者様が恐ろしい巨大な機械人形と戦ってる夢だったわ……」
「な……っ!?なんだって!!?」
機械人形。その言葉を耳にしたオルヴァの脳裏にはあのパプニカのキラーマシンの映像が浮かんだ。
「お!お兄様……?どうされたの怖い顔をされて……」
「はっ……あ、いや……なんでもないよ」
オルヴァは慌てて笑顔を作る。
「それで、その機械人形はどうなったんだ?」
「うん、その小さな勇者様がバギクロスっていう呪文を唱えたら倒れたのよ!スゴイわよね!勇者様!」
自分の見た夢の話にやや興奮気味に話すアリアにオルヴァも笑顔で応える。
「ああ!そうだな!ハハハ!アリアの勇者様はとんでもない強さだな!!」
「そうでしょ!カッコいいのよ!あ、それでね!その勇者様の額にこういうしるしが浮かんでたの!」
そう言ってアリアは傍にあった紙とペンでその絵を書く。
「しるし……?紋章みたいなモノかな?う〜ん、見たことないけど……なんだか竜の形に見えないか?」
オルヴァがそう言うとアリアも目を輝かせながら頷いた。
「そうよね!私もそう思ったの!この竜の形をした紋章の力があの小さな勇者様の力なのよきっと!」
「へぇ〜やっぱアリアの話しは面白いな!」
そう言ってオルヴァはアリアの頭を撫でながら彼女に笑顔を向けたが、そのアリア自身はどこか浮かない顔をしている。
「アリア?どうした?」
「うん……お兄様……私ねお父様にこのお話をしたかったの……小さな勇者様とこの竜の形をした紋章のお話し……お父様ならなにかわかるんじゃないかしら?」
アリアのいつになく真剣な表情にオルヴァは気圧されそうになったがすぐに表情を変えると出来るだけ優しく彼女に告げた。
「そうだな……でも前に言ってたろ?父上や母上にその勇者様の夢の話をしようとしても何故かその時になると思い出せないって……」
「う、うん……でも、きっと今度は話せる気がするの」
「ん〜そうか……でも、やっぱりその話しはちょっとな……」
「え?どうしてお兄様……」
オルヴァは妹のその問い掛けに諭すように告げる。
「お父様も今はとてもお忙しいし……それに……」
「それに?」
オルヴァはアリアの夢の中の機械人形のことが気になっていた。彼女の小さな勇者が機械人形……それを倒したというならパプニカに行く前の父であれば楽しんで聴いてくれただろうが、オルヴァとて出来ることならあのパプニカの夜のコト、とりわけキラーマシンのことは忘れたい思いでいるくらいなのだ……故に今の父クルテマッカにそのキラーマシンを彷彿とさせる様な話をするのは決して良いこととは思えなかった。喩えそれが父が愛する娘の無邪気な戯れだとしても……
「折を見て父上にはオレから話をしておくよ」
「お兄様……が?そ、そう……うん!わかったわ!」
少しだけ不審な顔をみせるアリアだったがオルヴァのその言葉に結局は頷いた。
「あと、その竜の形をした紋章のこと俺も調べてみよう……」
「え?どうやって……?」
アリアがそう言って首を傾げていると。
コンコン……!
と、その時、部屋の扉をノックする音が聴こえた。
「はい?どうぞ……」
アリアがそう応えると侍女のマギサが扉を開けて顔を覗かせた。
「あ、オルヴァ様やはりこちらで……」
「あらマギサさん?どうしたの?」
「これは失礼しましたアリア様……オルヴァ様にお客様でして……」
「あ、ああ!わかったよ……今行く!」
「お兄様?」
アリアが首を傾げてオルヴァをみると彼は何処か落ち着かない態度で慌てて立ち上がると彼女に告げる。
「ちょっと約束があってさ……あ、あの紋章の件もちゃんと訊いてみるから……」
「え?あの紋章をご存知の方なの?」
「え……っ?あ、あーいや……ま、まぁもしかしたら……ね!」
「オルヴァ様?何かメティス様にお訊ねされたい事があるのですか?」
と、ここでマギサがオルヴァに告げる。
「お!おい!そ、それは……!?」
「なぁに〜お兄様ぁ〜そういうコトなの〜?」
狼狽えているオルヴァに妹のアリアは兄の心中を見透かしてニヤニヤしている。
「あ!い、いや!違うよ!そういうんじゃなくて!その!オレもちょっと公務のコトで他国のちょっと情勢というかそういう知識をだな……」
「お兄様?素直になられた方がよろしいわよ♪なにもそんなに狼狽えなくても」
「なっ!なんのことだ!?」
「オルヴァ様……メティス様がお待ちになられているかと?」
「あーわかったよ!今行くから!じゃ、じゃあアリア!そういうコトでまたな!」
オルヴァはそう言って慌ててアリアの部屋を後にした。
「全くお兄様ったら♪フフ♪」
アリアはそう言って笑顔を浮かべる。
「私、なにか余計なことを言いましたでしょうか?アリア様もてっきりご存知のことかと……」
「え?何を?」
「近ごろオルヴァ様はお忙しい公務の暇を見つけてはメティス様とお過ごしの様ですが……あ、もしかしたら!また私余計なことを……」
そう言ってマギサは自分の口元を抑える仕草をする。
「フフ♪ううん!貴重な情報をありがとうマギサさん!ちょっとは元気が出たわ♪」
「そうでしたか……それは良かったです♪」
「うん!お兄様もありがとう……」
アリアは兄オルヴァが図らずも妹を元気付ける役目を果たしたコトに優しい気持ちで感謝していた。
「あら?これはなんです?」
と、マギサはアリアの傍らにあった紙をみて訊ねる。
「ああ、それねマギサさん知ってる?この竜の形をした紋章」
「竜の……?あ、いえ……申し訳ありません……」
「ううん、いいのよ!お兄様が調べてくれるって言ってたしデートのついでに♪」
アリアはそう言ってまたニヤニヤしながらも兄の幸せを願っていた。
「私にも素敵な方が現れないかな〜たとえば……」
その時、アリアはあの夢の中の小さな勇者の姿を思い浮かべていた。
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その後、クルテマッカは益々ベンガーナ王国の軍事関連の事業に力を注いでいった。また、今回はオルヴァ自身父と共にこの目で見たキラーマシンの脅威を知る為か以前の様にいき過ぎる父の姿を嗜める気持ちになり切れず、クルテマッカの思惑通りに国の兵力は強く大きくなっていった。
「オルヴァよ紹介しよう……この度、我がベンガーナ王国の戦車部隊の隊長に任命したアキームだ」
「オルヴァ王子様!アキームでございます!我がベンガーナ王国の守護に粉骨砕身!身命をとして臨む所存であります!以後お見知り置きを!!」
ここベンガーナ王国の兵士修練場の前でクルテマッカに紹介されたベンガーナ王国戦車部隊長のアキームは無駄のない動きで姿勢を正してオルヴァに敬礼した。
「あ、これはどうも……」
「オルヴァ!お前もベンガーナの王子ならシャキッとせんか!!アキームを見倣え!!」
「あ、は……はい!!」
オルヴァはクルテマッカに窘められると慌てて敬礼をする。
「アキームよお主には大いに期待しておるぞ!!」
「ハッ!ありがたきお言葉でございます!!」
「ウム!我がベンガーナの為に励んでくれたまえ!!」
「ハッ!お任せ下さいませ!クルテマッカ国王陛下!!」
やがてアキームは礼儀正しく一礼をしてその場をあとにすると、オルヴァは去り行く彼の背を見つめながら父クルテマッカに訊ねた。
「彼はこれまでの部隊長の中でもトップクラスのエリートだと伺いましたが?」
「ああ、その通りだ……アキームには戦車隊のみならず戦艦や銃器、兵法術、無論剣術など戦に必要なことは全て叩き込んである……頼もしい男になったモノよ」
「そうですか……」
しかし、そう意気揚々と語るクルテマッカにオルヴァはやや寂しそうな表情を見せる。
「お前ももっと身体を鍛えてアキームに戦の知恵をつけて貰え!最近のお前と来たら暇を見付けては女のところばかりだろう!!」
クルテマッカはオルヴァに強い言葉で苦言を呈する。
「女って……!メティス先生をそんな風に言わないで下さい父上!!」
「フン!色気づきおって!!男なら先ずは仕事でみせてみろっ!!ワシの役に立ってみろ!!」
そう言い放ってクルテマッカは去って行った。
「父上が遠くへ……か……いつかアリアもそう口走っていたな……」
そう呟きながらオルヴァはここから見える妹のアリアの部屋の窓を見上げた。
そうして再びクルテマッカとオルヴァの親子の絆に溝が出来始めてから数ヶ月後……世界は再び混乱の闇に落とされる。
それは十数年前、世界を邪悪な力で支配しようとしていた魔王ハドラーよりも遥かに恐ろしい存在が世界中を破壊と絶望の炎で焼き尽くそうとし始めたからだった。
その恐るべき存在の名は
大魔王バーン……
しかし、クルテマッカが誇るベンガーナ兵団はその大魔王バーンが創り上げた魔王軍の一団である妖魔士団の侵攻からベンガーナ王国を守り切り一時期は世界にその名を轟かせた事実もあった。
ところがそれは魔王軍が本腰を入れて侵攻を進めていなかったという背景が齎した仮初めの勝利であったことを後にクルテマッカは身をもって知ることとなる。
だが、この頃のクルテマッカはベンガーナ王国兵団が世界に先駆けて大魔王バーンの魔王軍を自らのその力で殲滅出来ると心底信じていたのだ。
そして、そんな時に彼の耳にあるウワサが聞こえて来た。
「なに……っ!?南海の孤島で巨大な機械人形の残骸だとっ!?」
クルテマッカはいつもの様に執務室で国の軍備拡張の計画案に熱を込めていると、外の情報に明るい側近の一人が彼に告げた。
「それは確かなのかっ!!?」
この時、クルテマッカはあのキラーマシンの悍しき巨躯な姿を脳裏に浮かべながらその側近に訊ねた。
「は、はぁ……我が国に出入りしている商人がその南海の孤島辺りを航行している際に船上で見かけたと……しかもその話には続きがございまして……」
「続きだと?なんだ申してみよ……」
「は、その商人が旅先のパプニカで耳にした話しらしいのですが、その機械人形を倒したのはなんと!まだ小さな少年であったと……」
「小さな……少年だと?フ……フフフ……フハハハハ!!!馬鹿げたことを申すなっ!!なんだマジメに訊いて損したわ!!」
クルテマッカは大きな笑い声を響かせたかと思うと次の瞬間にはその側近に怒声を浴びせた。
「し……!しかし!!魔王軍が大軍でロモスを襲撃した際も、その魔王軍の一軍団長を打ち破ったのもやはりその少年とその仲間たちだったとのウワサもありますし……っ!!」
「え〜い!!クドいわ!!そんなおとぎ話の様なことがあってたまるかっ!!十五年前に世界を救った勇者ならまだしも小さな少年だとっ!!そんなことがあるワケがなかろうっ!!下らぬことを言ってないでもう少しまともな情報を持って来い!!」
この時の世界の情勢は各国が魔王軍の襲撃に遭遇していた時期で噂レベルの情報が数多く飛び交っていたのもまた事実であった。
しかしその背景には各国共に他国への情報収集などをまともに出来る状況ではなく、その為にいい加減な情報にクルテマッカが苛立つのもムリはなかった。
「良いかよく聞け!我が国ベンガーナは世界でも魔王軍の侵攻をその兵力で持って最も食い止めている王国なのだ!!そんなおとぎ話に毛の生えた情報などに耳を傾けている暇も必要もないわっ!!オルヴァ!!オルヴァは何処にいる!!」
と、その時ちょうどオルヴァが執務室に入って来た。
「父上!!どうされましたかっ!?」
「現在、我が国に侵攻を仕掛けている魔王軍の情報はどうなっているのだ!!」
クルテマッカはオルヴァに厳しい口調で敵方の情報を問う。
「は!魔王軍の妖魔士団と奴らは名乗っております!!戦況から察するに奴らは魔法攻撃に長けた軍団であると思われますが、その代わりに物理攻撃に弱い性質を孕んでおるかと思われますので叩くならまさに兵団を駆使した武力火力での戦い方が有効だと思われます!!」
オルヴァはこの数ヶ月で一から軍事関連の勉強をしなおし更に新しく任命された戦車部隊長アキームにも剣術や兵器の指南を受けて武人としても更に一国の王子としても大きく成長を遂げていた。
そう、その成長度合いだけを見ればアバンの使徒達にも負けていないだろう。
「そうか!良い分析だ!!では更にその妖魔士団を一気呵成に攻め立て壊滅に追い込むぞ!!アキームにもそう伝えよ!!」
「はっ!!畏まりました!!」
オルヴァはそう告げると早々に執務室を後にして戦車部隊長のアキームの元に向かった。
「よし……っ!!」
クルテマッカはそう小さく口にすると去っていく息子の背に目を細めていた。
しかし、その約二ヶ月後……
クルテマッカは世界会議(サミット)が開催された因縁の地パプニカに於いて魔王軍の恐るべき力の前に自慢の戦艦や戦車隊などの兵団が次々と殲滅されていく状況を目の当たりにした。そう、あのキラーマシンを目にした時以上の絶望を味わうこととなった……
だが、神は彼をそして世界を決して見捨てなかった。世界会議(サミット)の為に集められた自身を始めとする各国の王や指導者たちがその命の危機にあった時、颯爽と現れたあの小さな勇者によって彼らの命は元よりパプニカの地も魔王軍の恐るべき攻撃から救われたのだった。しかもたった一本の輝く剣だけであのキラーマシンよりも遥かに巨大な鬼岩城と呼ばれた巨人をクルテマッカの目の前で真っ二つに切り裂いてみせたのだった。
彼はその時……パプニカの若き国主であるレオナ姫からその小さな勇者ダイの名を訊かされた。
やがてクルテマッカは後に気付いた。あの……まさにあの時の勇者ダイの勇姿が自身の胸を蝕んでいた恐怖の種を一太刀の元に切り裂いてくれたのだと……
そうして時を経て勇者ダイはその後も数々の試練を乗り越えて仲間たちと共に大魔王バーンの野望を見事に打ち砕いた。
しかし、その勇者は訊けばその後、空に消えたと言う……
彼が消えたその数時間前にクルテマッカは不思議な感覚で世界中の人々とほんのひと時その心を共有する現象に遭遇した。そして、それ故に勇者ダイが見ていた景色もその心で感じることが出来た……
「ダイ君……」
と、その時クルテマッカはふと自身の背後に気配を感じて振り返る。
そこには……
「あなた……」
「父上……」
「お父様……」
「お前達……」
家族……だった。
彼をずっとずっと……どんな時も見捨てずに支えて来てくれていた家族が、柔らかい微笑を湛えてそこにいた……。
クルテマッカの瞳から一筋の涙が零れ落ちる。
「父上……っ!?」
「なっ……!なんだお前達!?ノックぐらいせんか……っ!!」
「あらフフフ♪しましたわ、何度も……ねぇアリア♪」
「ええ!本当よお父様♪」
「そ、そうだったのか……」
クルテマッカは照れ臭そうに自身の涙を拭う。
「ダイ君のことですか……父上……」
「ああ……ワシは彼を……彼をこの地上に……」
クルテマッカの瞳から再び一粒、二粒……涙が零れ落ちる。
「我々も同じ思いです父上……」
「ええ……あなた……」
「そうよお父様……だって私は勇者様の……ダイ様の夢だって見たんだもの!」
そのアリアの言葉にクルテマッカは顔を上げる。
「夢……だと?」
「そうよ!悪いニセモノの勇者をやっつけたり!恐ろしい大きな機械人形をふっ飛ばしたり!!それだけじゃないのよ!!スゴイんだから!!私の勇者様はっ!!」
「私の……?フフ……フハハハハ!!そうか!!そうかアリアよ!!それは面白いな!!もっと訊かせてくれ!!その勇者の話を!!」
「うん!!」
アリアはこの時点で勇者ダイの夢を何度も見ていた。キラーマシンを打倒した夢の後も、ロモスでのクロコダインとの死闘やパプニカでのヒュンケルやフレイザードとの戦い、そしてバランや後の超魔生物となったハドラーやその部下のハドラー親衛騎団……そして大魔王バーンとの戦いも……一つ一つの夢は朧げではあっても、彼女は懸命に父クルテマッカに夢の中のダイの勇姿を語って聞かせた。
「そうか、そうか……スゴいなその小さな勇者は……」
クルテマッカは父親の目でキラキラと輝く笑顔を見せて夢の中の勇者の話をする娘を微笑ましく見つめている。
「うん!だから私も……彼に会いたいわ!!」
「そうだな……よし……オルヴァよ……」
「はい!わかっております!父上の御申し付け通りこれより明日オーザムの地にて勇者ダイの捜索に向かいます!!それとリンガイアのノヴァは幼少の頃からの親友でもありますので、彼からも何か情報得て向かいます!!」
オルヴァは先立ってクルテマッカからダイ捜索隊の隊長を命じられ既にオーザムの地に向かう準備を進めていた。
「ウム!明日には向かえるのだな!!」
「ハイ!!」
「よしっ!!頼むぞオルヴァ!!頼りにしておるからな!!」
「ハ、ハイ!!」
オルヴァは心から嬉しかった。あの厳しい父が……ベンガーナ王国の国王陛下クルテマッカⅦ世が今、自分の目を真っ直ぐに見てその力強い言葉をくれたのだ。
そうして翌日……正午よりオルヴァはオーザムの地に向かうこととなった。
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一方、ポップの家族と別れたアバンはランカークス村からベンガーナ王国へと向かう道すがらで、偶然出会った旧知の友であるディードックと共にようやくベンガーナの城下町へと行き着いた。
「はぁーーーやはり素晴らしい町並みですね〜ベンガーナは♪」
「ああ、ちょっと前にドラゴンの群れが襲って来たとは思えねぇよな!すっかり復興完了してるぜ!」
ディードックはこの町に魔王軍のヒドラやドラゴンの群れが急襲して来た時の話しをする。
「ええ、私も伺いましたが……どうやらダイ達が打倒してくれた様ですね♪」
アバンはそう言って後に訊いたダイやポップの活躍を思い浮かべながら微笑んだ。
「ああ、あん時ゃオレも別の町にいたから危ねえ目には遭ってないケドよ……でもこの町の連中はアンタの弟子の勇者に助けられて礼も言わねぇどころかそのドラゴンを倒した姿がおっかねぇとか抜かして怖がってたらしいぜ……」
「そ、そんな事があったのですか?」
アバンはそこまでの話しは初耳だったらしくその表情を思わず強張らせた。
「ああ、助けてもらって礼も言わねぇであまつさえ勇者に恐れ慄くとはな!だから俺ぁその話訊いて腹が立ってよ!!片っ端からその時の連中を見付けて怒鳴り散らしてやったぜ!!」
「へ……?」
ディードックのその言葉にアバンは気の抜けた返事を返す。
「大体助けられて礼も言わねぇってのが許せねぇ!!てめぇ等が安心安全で生きていられるのが当たり前だと思ってやがんだっ!!だから言ってやってのさ!!おめぇらが知らねぇでのんきに生きてる裏では命懸けで戦ってる連中だっているだ!!!ってな……」
「ディードックさん……あなた……」
アバンは彼のその言葉に気持ちが暖かくなる思いだった。
「オレもな、マトリフの旦那と同じ師匠に師事してたこともほんのちょこっとあったからよ~ちっとエラそうに言っちまったが……それを聞いてたこんなちっこいお嬢ちゃんがさ……あの時のお兄ちゃんに謝りたいって泣き出しちまってよ……」
「小さなお嬢さん?」
「ああ、どうやらその子が最初に声を上げちまったらしんだ……そのアンタの弟子をコワイってな……」
アバンはこの時思った。確かに自分たちは正義の名のもと厳しい修行や鍛錬の末に人智を越えた力に近付く事がある。もちろんそれは世界の平和や人々の幸せを脅かす輩との戦いに打ち勝つ為のモノであるが、と同時にその世界や人々の幸せを守るべきモノだ……しかし、それは時に守られる側からしたら世界を脅かす力と同じ様に感じてしまう事もあるのかも知れないと……
「でもな、そのお嬢ちゃんがさ謝りたいって思う気持ちもわかってよ……人間って弱いだろ?だから時に心無い言葉や態度で大切な人やモノを傷付けちまう……俺にだってそれは経験があるしよ……マトリフの旦那にも言われたコトがあったんだが……俺がバルゴート師匠の元から逃げ出した時に……師匠がその当時のマトリフの旦那に言っていたそうだ……」
「バルゴート様がマトリフにですか?」
「ああ、バルゴート師匠は俺に厳しく当たり過ぎたかも知れねぇって言ってたらしいんだよ……でも、それ聞いて俺ぁ目の前に師匠がいないのをイイコトに思いっきり師匠の悪口をマトリフの旦那の前で叩いちまってよ……」
「………」
ディードックはその瞳に輝るモノを湛えている。
「後にも先にもそれ一回切りだが……そん時に思いっ切りぶん殴られたぜ……マトリフの旦那に……」
「マトリフがそんな事を……!」
アバンはマトリフと知り合って彼が本気で人に手を上げるところを少なくとも一度も見たことはない……だが、その時のマトリフの怒り……そして悲しみは……とても大きなモノだったのだろうということは想像に難くなかった。
「そん時の旦那の言葉も忘れらんねぇんだわ……」
「マトリフは……なんと?」
アバンは優しくディードックに訊ねる。
「人の情けや感謝を忘れちまったヤツは外道だ!!……ってな……」
「そうでしたか……マトリフらしい」
「ああ……そんでよ大切なことに気付かせてくれたマトリフの旦那とはどうしても縁が切れなくてよ……ま、今に至るのさ……」
そう言ってディードックはマトリフの事を思い浮かべていた。
「なんだかんだで優しい人ですから……マトリフは……」
「ああ、そうだな……間違いねぇ……な」
二人はそうしてお互いに笑顔を交わし合った。
「それでディードックさんはそのお嬢さんになんと?」
「ん?あ、ああ……別に大したことは言わねぇさ……ただ、その気持ちを忘れなければきっとまた会えるってよ……そうつまんねぇ説教くれちまったよ♪」
「フフ……そうですか……ステキなお説教だと思いますよ♪」
「持ち上げたってなんも出ねぇよ!こちとられっきとした商売人なんでね……」
「いえ……私の弟子の為に……ありがとうございますディードックさん……」
「よせよせ!なんも出ねぇって言ってんだろ?」
「ハハハハハ♪」
「ワハハハハ♪」
そうして二人は再び笑顔を交わした。
このディードックという男にもそんな過去があり、その過去から大切なことを学んで今を懸命に生きている。
人はいつまでもそこに立ち止まってはいられない。何故ならそれは人としての成長を放棄することに繋がるからだ。
年齢も立場も一切が関係なく人はその瞬間から成長の為の一歩を踏み出すことが出来る……アバンはそう感じながら空に消えた小さな勇者を思っていた。
長くなってしまい申し訳ありません(-_-;)どうしてもクルテマッカのエピソードをここで仕上げてアバンにバトンを渡したかったモノで……
さて、ベンガーナ王国クルテマッカの家族の過去を一通り終えまして、いよいよアバンの話に本格的に入ります!クルテマッカにしてもアバンにしてもダイの事も少し触れながらの展開になりましたが、皆の心の中には常にダイという大きな存在があるという確認作業的な部分でもあります。
次回はアバンが、いよいよベンガーナ王国城に入ります!もちろんタダのご挨拶ではありませんのでお楽しみに〜✨