新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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アバンの予感

 

 ─ベンガーナに巣食う者─

 

 黒い雲が少しずつベンガーナの街の上空に広がっていた。

「イヤな雲です……」

 アバンはディードックの荷馬車で共にベンガーナの城下町に到着してからは、小一時間ほどディードックの仕事を手伝いながら街中を散策し、今は近くの食堂のテラスでやや早めの昼食を取っていた。

「ん?ひと雨来るかな?」

 ディードックは頼んだ肉料理を楽しみながらアバンの声に反応して空を見上げる。

「いやそういうモノではありませんが……」

 さっきまで一緒に街を散策していたアバンの表情と打って変わって神妙な面持の彼にディードックもダダならぬモノを感じ声を潜めて訊ねた。

「大魔王バーンは倒れたんだろ?なのにアンタがそんなに深刻になる様なことがあるってのか?」

「確かにディードックさんのおっしゃる通り大魔王は倒れましたが私も知らない未知の存在とてありますからね」

「おいおいっ!!じゃ、じゃあ本当にっ!!何かヤバいってのかよっ!!?」

 思わず声を上げるディードックにアバンは人差し指を口元に立てて静かにするよう告げた。

「せっかく大魔王から取り戻した平和の時……なにもわからない時点で騒ぎ立てるのは得策とは言えません。ですがわからないからこその、この不気味な気配……ディードックさん申し訳ありませんが少しだけ助けて頂けませんか?」

 アバンはその眼鏡の奥の瞳に強い光を宿す。

「え!?な、なんだよ!急にそんなツラしてっ!!?」

 アバンの真剣な顔にディードックは気圧される様にたじろぐ。

「フフ♪確かにまだ何も起きてないのに変ですよね?ですが念には念を入れておきたいのです」

「念には念を入れる?」

「ええ、実は先程ディードックさんの馬車に乗せて頂いた時にチラっと荷の中にあるモノを見てしまいまして……」

 アバンはやや苦笑しながら言う。

「あっ!アンタあれを見たのかっ!?あーまぁ別に隠してたワケじゃねぇから良いケドよっ!アレを売ってくれってことかい?」

 と、ディードックは頷いた後に指で輪っかを作って銭の形を表すと商売人の顔をアバンに向けた。

「アハハハ……ま、まぁ購入して良いなら後ほどお金は払いますよ?でもかなり珍しいモノだとも思いますけど?」

「そりゃあそうさ!相当レアな品だぜ!!そうさな〜50000ゴールド出してくれたら考える!!いや、6……いや7でも……」

「は、跳ね上がり過ぎですよ……今日だけもしくわ数時間のレンタルではどうですか?」

 と、アバンはディードックに妙な交渉を始める。

「レンタルだぁ?おいおい聞いたことねぇぞそんな話し」

「お願いしますディードックさん!この通り!!」 

 アバンはテーブルに突っ伏す様にディードックに深々と頭を下げる。

「わーかった!わーかったよっ!!他でもないアンタの頼みなら仕方ねぇ……でも一つ条件がある!」

「条件?なんです?」

「コレだけの品だぜ?それにわかってるだろうが間違いなくコイツは数少ない伝説の武器の一つだ……」

 ディードックは人差し指を立てながら言う。

「ええ、もちろんです!正直私も文献でしか見たことはなかったので、少々驚きました」

 どうやらアバンが見つけたディードックのお宝とは伝説の武器に数えられる一つだったようだ。

「アンタ程のヤツが驚く程のそんな伝説の武器を一体何に使うんだよ?」

「もしかしてそれをお教えするのががレンタルの条件ですか?そうですねぇ私の思い過ごしなら使うことはないんでしょうケド……」

 と、アバンは改めて深刻な表情を見せるとベンガーナ城の方を見つめる。

「ん?ベンガーナ城になにかあるってのか?」

 アバンの表情に倣うようにディードックもベンガーナ城の方を振り返り眉間に皺を寄せる。

「とりあえず行ってみましょう……先程あなたにお会いした時にも言いましたが、フローラ様の命でクルテマッカ王にもご挨拶をしなければいけませんし……」

「あ?ああ、そうかそうだったな……わかったぜ!んじゃとりあえずあの剣は貸しといてやるよ!」

 その言葉にディードックも頷きアバンにその武器を貸す許可を出すと二人は共にベンガーナ城へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃ベンガーナ城では昨日に父クルテマッカからオーザム行きを命じられたオルヴァがダイの捜索と併せて魔王軍に滅ぼされたオーザム王国の生存者への救助支援の為の準備を整えていた。

「オルヴァ様!全員分の防寒着は準備出来ました!」

「オルヴァ様!救援物資は先遣隊に送りました!!」

「よしっ!!今日の午後には出発するぞ!!」

「はっ!!」

 今回のオーザムへの旅はオルヴァにとってその肩に大きな重責を担うモノだった。しかしそれはクルテマッカからの信頼がそれだけ大きなモノであるとも言えた。

「後はノヴァとの待ち合わせ場所だけど……確かランカークス村だったか?」

「はっ!ランカークスの村はベンガーナの町から東の位置にある小さな村ですが、そちらには宿屋が一軒しかないそうです」

「そうか……ならランカークスには少数で行こう、残りの部隊はテランの地に先に赴いて貰いそこで翌日落ち合うとしよう……父上が先んじてテラン国王のフォルケン様に我々が訪れることを書簡でお伝えされているとのことだったからな……」

「畏まりました!それでは部隊の者にはその旨を伝えて参ります!」

「よろしく頼む!」

「はっ!!」

 そう言ってお付きの衛兵は勇者ダイ捜索部隊のメンバーの元に向かった。

「いよいよね……オルヴァ」

 その声に振り返ると母ミネルヴァがやや深刻そうな表情でそこに佇んでいた。

「母上!はい!いよいよダイ君の捜索に我が国も本格的に動き出します!!その先駆けに父上が私をご指名頂けたことを誇りに思います!!」

 オルヴァは今はカールの地へ復興支援に赴いているアキームの様に姿勢を正してミネルヴァに向けて敬礼する。

「ええ……頑張って来るのよオルヴァ!でも決して無理はしないこと……母の願いは皆と同じ様に勇者ダイ君の発見とオーザム王国の傷付いた人々を救う事ではありますが、貴方が無事に帰ることもしっかりと祈っていますからね……」

 ベンガーナ王国の王妃として毅然とした態度を示しながらもミネルヴァは最後には優しい母の顔でそう告げた。

「ミネルヴァ様っ!!あ、オルヴァ様も!!大変ですっ!!アリア様が……っ!!!」

 その時だった侍女のマギサが顔面蒼白でミネルヴァとオルヴァの元に駆け付けて来た。

「どうしたの!!?マギサ……!!」

「今アリアがどうしたとか……っ!!?」

「はい!アリア様が突然また高熱を出されて!!!」

「なんですって!!!?」

 ミネルヴァは口元に手を当てて驚愕する。

「そんな……ここ最近は何事もなかったのに……と、とにかく母上アリアの元に行きましょう!!私もオーザム行きの兵士長に事の次第を伝えてスグにアリアの寝室に向かいます!!」

「ええそうね!!急ぐわよマギサ!!」

「はい!ミネルヴァ様っ!!」

 アリアの突然の事態にミネルヴァもオルヴァも浮足立ちながらもそれぞれ動き出した。

 

 オルヴァは息せき切って捜索隊の準備に勤しんでいる兵士長の元に行くと丁度その場に父クルテマッカがいた。

「ああっ!父上!!良かったこちらでしたかっ!!?はぁ……っ!!はぁっ!!」

 アリアの緊急事態にここまで全力で走って来たオルヴァは肩で息をしながらクルテマッカを見付けて告げた。

「なんだオルヴァ!!随分と取り乱して……」

 クルテマッカは息を乱しながら焦るそんな息子の姿に驚く。

「はぁ……っ!はぁっ!大変です父上!!アリアが……!?アリアが再び高熱を出して……今、母上とマギサがアリアの元に……!!」

「な……っ!!?なんだとぉ!!!?」

 クルテマッカは当然、目を見開いて声を上げた。

「兵士長っ!!申し訳ないがオーザムへの準備は少し待っていて貰えないだろうか!?可能な限りの準備はしておいて貰って構わないが妹の容態をせめて確認させて貰いたいんだ……」

 懇願するオルヴァに同行予定の兵士長は戸惑いつつも頷いた。

「はっ!畏まりました!」

「よしっ!行くぞオルヴァ!!」

「はい!父上……っ!!」

 クルテマッカとオルヴァの二人は駆け出す二人に敬礼を向ける兵士長を背にしてアリアの元に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ククク……よしよし……どうにかあの祈虹の指輪の力も抑えられた……これであの娘も終わりだ……最も最後の仕事をきっちりと終えて貰ってからだがな……」

 その闇の中の悍しき存在はアリアを盾にクルテマッカとミネルヴァへ数十年に及ぶ復讐をまさにこの時に果たそうとしていた。

「お前もさぞその翼の恨みを果たしたいところだろう……ウィングデビルよ……」

「モチロンです……あの時に斬られたこの翼の痛みを一時も忘れることはありませんでした……しかしその復讐の機会を与えて頂きこの上もなく感謝しております……」

「なぁに復讐心は己を強くするモノだウィングデビルよ我と共に数十年の恨みを果たそうぞ……」

「はっ!ありがたき幸せ!!」

 ベンガーナの闇に潜む邪悪なる輩がいよいよその牙を剥き始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「い、いらっしゃらない……っ!!そんなっ!?さっきまでベッドにいらしたハズなのに!?」

 アリアの寝室にミネルヴァと共に赴いた侍女のマギサはベッドがもぬけの殻になっている状況に愕然としていた。

「そんな……アリア……どこに…っ!!?」

「も、申し訳ございませんっ!!ミネルヴァ様……っ!!私が目を離さなければ……」

「そんなことを言ってる場合ではないわマギサ!!とにかく探しましょう!!」

「は、はい!!ミネルヴァ様!!」

 そうして二人はアリアの寝室を出ると他の侍女や家臣たちにも声を掛けてアリアの行方を探し始めた。

 やがてベンガーナ王国の上空にはアバンの予感が的中したかの様な重苦しい様相の不吉な黒雲が更に広がり始める。

 復讐の闇色が今、ベンガーナの城を黒く覆い尽くそうとしていた……

 

 

 




 およそ25年前にテランの神殿遺跡でミネルヴァとクルテマッカにその野望を打ち砕かれた闇の住人達が再び動き出しました。長い時間を掛けて当時のミネルヴァの封印から逃れ、更に復讐の機会を狙っていたこの邪悪な存在たちはクルテマッカの一族を根絶やしにして今度こそ凶神の復活を果たし地上を我がものとすることが目的です。ミネルヴァの力も過去の封印術でその力を使い果たし、クルテマッカも当時の様には戦えません。果たして再びの危機に地上はどうなるのか!?そしてアバンはどうするのかっ!?これからの展開に御期待下さい✨ ✌️
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