─ベンガーナ城地下牢跡─
「確かに怪しい雲が広がってやがるな……」
ディードックが不穏な空を睨め付けながら言う。
「ディードックさん……もしもの場合は戦闘になるかも知れませんのでアナタは門の前まででお願いします」
アバンがディードックを気遣ってそう言うと彼は不敵な笑みを浮かべながらアバンの肩に太い腕をまわす。
「見くびんなよアバン殿!今は確かにしがない旅の商人だけどよ……腐ってもあの大賢者バルゴートの弟子にして大魔道士マトリフの弟分だぜ!それなりに腕っぷしには自信あるからよ!」
「しかしどの様なことがあるかわかりませんよ……」
「なぁに武器だってちゃんと持ってくさ……ホラよ♪」
そう言ってディードックは懐から数本の毒蛾のナイフを見せる。
「やれやれ……わかりました……まぁアナタにはこの剣の借りもありますからねぇ……では参りましょう!」
「おうっ!!」
アバンはお手上げのポーズでそう言ってディードックから借り受けたある剣に視線をやると彼と共にベンガーナ城の門を潜る事にした。
「失礼致します!私カール王国のフローラ様の使いで参りましたアバンと申しますが、クルテマッカⅦ世陛下にお目通りをお願いしたいのですが」
アバンはベンガーナ城に到着するとその大きな門の番をしている兵士に丁寧に対応する。
「ややっ!!こ、これはこれはアバン様っ!!?あなたの御高名は私共も聞き及んでおります!」
「ハハハ!さすがアバン殿!有名人だな?」
と、ディードックがアバンを肘で軽く小突くとアバンは苦笑する。
「それは勿論です!あ、ですが……陛下は只今オルヴァ王子がこれから向かわれるオーザムへの支度を見届けておられますので申し訳ございませんが少々お待ち下さい!只今確認して参ります……っ!」
「大変だ!!」
「………っ!?」
と、その時だった!ベンガーナの別の兵士が門番の兵士の元に駆け込んで来た。
「ど!どうした!?」
「アリア様が……っ!!?アリア姫様のお姿が消えてしまったのだ!!城の外には出ていないと思うが見掛けなかったか!?」
「失礼……!」
ここでアバンが二人の兵士の間に立つ。
「アバン様……!?」
「アバン様?おおっ!?あの勇者アバン様が……っ!?何故ここに……っ!?」
「我が国カールの使者としてクルテマッカ陛下にご挨拶をと思って伺ったのですが……どうやら大変な事態な様ですね?私共でよければお力になりますっ!?」
そう言ってディードックの方に顔を向けると彼も真剣な顔で頷き返す。
「それはありがたい!しかし客人にそのような手間をお掛けすれば国王陛下にお叱りを受けるかも知れませんが……」
「アリア姫様の緊急事態故に国王陛下もきっと赦してくれるだろう!なんせタダの客人ではなくあの勇者アバン様ですからっ!!」
と、二人の兵士はやや強引な解釈をしてアバンとディードックを城内に招き入れた。
「ありがとうございます!では、ディードックさん!手分けして探しましょう!!」
「おうっ!わかったぜ!!兵士のあんちゃん!悪ぃが俺一人じゃ怪しまれるから一緒に来てくれや!」
「は、はい!しかしアバン様は……」
「アバン殿は大丈夫だろ?世界一の有名人だしよ!怪しまれやしねぇさ!なぁ勇者殿っ!!」
「ハハハ……そうかも知れませんね……では、向かいましょう!!」
「は、はい!」
そう言ってアバンとディードックとベンガーナの兵士は二手に別れてアリアの捜索に向かった。
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「どこだっ!!アリアは一体どこにいったというのだ!!?」
クルテマッカは愛娘が今朝、久方振りに体調を崩していた事も当然知っていた為にかなり焦りの色をその顔に表していた。
するとオルヴァはここであることに思い至る。
「父上……もしかしたらあそこでは!?」
「あそこだと……?」
「はい!幼い頃に大臣から決して行ってはならないと言われていたあの…地下の……」
「ま、まさかっ!!あの開かずの間かっ!!?」
クルテマッカの言う開かずの間とは、かつてベンガーナで罪を犯した罪人を収監していた地下牢の施設で現在は使われる事なく数十年も前に閉鎖されていた空間だった。
「勿論私は入った事はありませんが、これだけ探しても見当たらないとなると……」
オルヴァの生まれる遥か昔に閉鎖された施設だった為、彼自身も己の言葉に半信半疑な感は否めなかったがそれでもクルテマッカにそう進言した。
「確かに……お前の言う通りかも知れんな……よしっ!行くぞオルヴァ!!」
「はいっ!!」
二人は頷くとベンガーナ城の地下牢跡に向かった。
「マギサ!本当なの?まさかあの娘があの地下牢に?」
ミネルヴァは今訊いた侍女のマギサの言葉に顔を顰めて訊ねる。
「も、申し訳ございません!以前に一度アリア様にお話ししてしまいまして……それから何度となくあの地下牢のお話をされていて……」
マギサは恐る恐ると言った表情でミネルヴァに告げた。
「そう……わかったわ……」
「あ!ミネルヴァ王妃!!」
ミネルヴァはその声に振り返る。
すると、そこにはアリアの家庭教師であるメティスの姿があった。
「メティス先生!」
「今日はアリア様のお勉強の日でしたが先程お城の兵士の方から大変な事になられていると窺いまして……私もここまでこころ辺りを探して来ていたのですが……」
メティスもどうやら城の人間に事の次第を訊いて来たようだった。
「そうでしたか……!先生にまでご心配お掛けしてしまい本当に申し訳ございません……」
「そんな!お顔をお上げ下さい!失礼を承知で私にとっても大切な妹の様にアリア様のコトを思っておりますので……どうかお気になさらず……とにかく!今はアリア様を……!!」
メティスは普段の温厚な雰囲気を感じさせつつも深く頭を下げるミネルヴァを支える様に力強い視線を浮かべて言った。
「そうですね……!マギサ!そしてメティス先生!宜しくお願いします!!それでは地下へ参りましょう!!」
「はい!」
「はい!」
そうして彼女達も開かずの地下牢へと向かった。
「それにしてもやっぱり世界有数の金持ち王国ベンガーナだな!おそらく城のデカさも世界一だぜ!!」
「そ、それは光栄です!」
ディードックは広いベンガーナ城の廊下を見渡しながらそう言うと同行するベンガーナの兵士は恐縮する。
「でも今回ばかりはそのデカさが仇となったか……消えた姫さんってのはいくつくらいの娘なんだ?」
「アリア姫様は今年で12才になります」
「そっか……小さな女の子がこんなバカでけぇ城のどこに行っちまったったんだか……」
そう言ってディードックは懐から一本の不思議な彫物のある蝋燭を取り出すとそこに持っていたマッチを擦って火を点けた。
「悪ぃな城の中で火はマズイかも知れねぇが……ここの姫様の緊急事態ってことで勘弁してくれや……」
「は、はい!しかしその蝋燭……女性の顔が彫られてますね」
兵士はその珍しい蝋燭をしげしげとみつめている。
「こいつはヴォルの神灯っていう魔法のアイテムでな……隠されたモノなんかを探り当てる力があるのさ……」
「ヴォルの神灯ですか……はぁ世の中には珍しいアイテムがあるものですなぁ」
「ま、商売柄いろいろと珍しいモノに巡り合うのさ♪コイツはヴォルっていう詮索好きな女神の力が宿ってるって話でよ……この蝋燭の火の勢いを見て捜すんだ……だからきっと姫様もみつかるぜ!」
「ほ、本当ですか……っ!?」
「ああ……まぁでもさっきまでうっかりコイツのこと忘れてたが……アバン殿にも持たせりゃ良かったかもな?」
「ハハハ……そ、そうですね……で、ではとにかく行ってみましょう!」
「おう!頼むぜ女神さま〜♪」
ディードックと兵士はヴォルの神灯という不思議なアイテムを頼りに改めてアリアの捜索に向かった。
「ふむ……やはりこの異様な感覚……確かにこの城内に広がっている……」
アバンはベンガーナの街で感じた不吉な空気をこの城の中でより強く感じていた。
「しかもかなり色濃く……コレはいけない……」
そう言ってアバンはディードックから借り受けた剣を握る手に力を込める。
「魔界の輩……でしょうかね……」
眼鏡を指で持ち上げながらその奥の瞳に力強い光が宿ると彼はその一歩にも更に強い覚悟を込めて踏み出した。
行き先はもう既にわかっている……先刻より感じていた邪悪なる気配が最も色濃く滲み出ている場所……暗い暗い闇の底にアバンは迷うことなく向かっていった。
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「ホーホホホ!まさかこんな素晴らしい場所がこのベンガーナ城の地下にあるとは……思わずあの遺跡を思い出すわ……」
一切の光も射さないこの地下牢。そこに邪悪な禍々しき黒いエネルギーが満ちている。
ベンガーナ城の闇と呼んでも決して過言ではないこの地下牢跡にあの巨大な翼を持つ石像の魔物ウィングデビルがいた。
今からおよそ25年前。テランの北の山に存在していた神殿遺跡。その最奥部の地下においてこのウィングデビルは凶神と呼ばれた邪神の下僕として若きクルテマッカとミネルヴァの前に立ち塞がったのだ。
しかし、その際に凶神と思われたその存在はミネルヴァの力によって封印されウィングデビルもクルテマッカの手により深手を負わされてから今日まで彼らの前にその姿を表すことはなかった。
「あの時の恨みをとうとう今日この場で……しかも奴等の目の前で晴らしてやれるわ……かわいいかわいいこの娘の前で……いやこの娘の手でな!!」
するとウィングデビルは暗闇の中でその両目を青く光らせる。
「新たに与えられたこの力で先ずはアリアよお前を我らの傀儡としてやろう……」
暗闇の中にウィングデビルの禍々しき声が響き渡り床一面に青白い円形が浮かび上がる。すると、その中央には横たわるアリアの姿があった。だが彼女のその意識は無くピクリとも動かない。
「カァァァァーーーーーーーーー!!」
ウィングデビルはその瞳に邪悪な力を込めて青白い円形に力を注ぐ。と、横たわるアリアの身体は怪しい青白い光に包み込まれて浮かんだ。
「アリアよ……お前は今から我が主の依代となるのだ……光栄に思うが良い……」
「ウ……ウゥ……ウゥ……ッ!」
「抵抗などムダなコトよ……余計な真似をしなければ苦しまずにあの世にイケるぞ!!カァァ!!」
「アァァァァァーーーーーー!!!!」
「………っ!!!?」
「………っ!!!?」
地下牢跡の入口付近まで来ていたクルテマッカとオルヴァの耳にその声は届いた。
「父上っ!!今のは……っ!!?」
「間違いないっ!!アリアの声だ……っ!!!」
二人は青褪めながら地下牢の入口に走る。
「鍵が……っ!?開いている!!?」
見ると厳重に閉鎖されていたはずの牢の鍵が壊され床に落ちていた。
「父上!急ぎましょう!!」
「あ、ああ……!!」
オルヴァに言われてクルテマッカも慌てて駆け出し地下牢の最奥部の空間に走った。
「アァァァァァーーーーー!!!!」
「アリアァァァーーーーーー!!!!」
アリアの苦しみに喘ぐ叫び声に合わせてクルテマッカとオルヴァも彼女の名を叫ぶ。
「父上!!アリアの声はあの最奥部からです!!」
「うむ!!アリアーーーーーー!!!」
二人は息せき切って地下牢跡の最奥部に駆け込むと暗闇の中で宙に浮かぶアリアの姿を発見した。
そして……その背後には……!
「な……っ!!?なんだとぉ!!き、貴様は……っ!!あの時の……っ!!」
「ホーホホホ!!ようやく来たか……ワシを覚えていてくれたようだなクルテマッカよ……」
「ウィングデビル……っ!!!?」
およそ25年の年月を経て、今彼らは因縁の相手と再び顔を合わせた。
「父上!!ウィングデビルってまさか……っ!!?父上が若かりし頃に倒したというあの……っ!!?」
「倒した……?バカを言うなこの青二才めが!!」
「な……っ!!?なにぃ!!」
オルヴァはウィングデビルの物言いに憤りの声を上げる。
「確かにあの時のワシは貴様の父親に後れを取ったが……息の根までは絶たれてはいない……それどころかあの日の復讐を果たす為にこうして新たな力を与えられ貴様ら一族を凶神様への供物とする為の計画を進めていたのだ……」
「凶神の供物だと……っ!!?しかも我が一族を……」
クルテマッカの顔が更に青褪める。
「そうだ……クルテマッカよ……お前の妻ミネルヴァもこの娘アリアも……そしてオルヴァ……貴様も……父親と共に我が凶神様の供物としてその命を捧げよ……さすればそれが我が復讐を果たすことにもなるというモノよ……ホーホホホホーーーーーー!!!」
「ふざけるなっ!!!」
するとオルヴァは腰の剣を勢い良く引き抜き鋭い眼光と強い言葉をウィングデビルにぶつける。
「父上も母上もこの地上の平和の為にその命を賭して貴様らと戦ったのだ!!そして私はそんな父と母の平和への思いを受け継いでいる!!こんなところで貴様らの供物などになる気はないっ!!!」
「オルヴァ……お前……」
「大丈夫です父上……ここは私がいきますのでお下がり下さい……」
「し、しかし……!!」
「父上の言いつけどおりしっかりとアキーム殿に剣術も鍛えて貰いましたので御心配には及びません……必ずやアリアを救ってみせます!!」
クルテマッカは今この時、息子の背中が大きく見えた。
幼い頃から優しさだけが取り柄だったオルヴァは剣術どころか乗馬にさえも興味を示さず、すぐに泣きべそを掻く弱々しい息子だった……しかし、今こうして目の前にいる息子のその姿は、自分を……そして家族を守るために恐るべき敵に立ち向かおうとしている。クルテマッカとて若かりし頃に戦った経験からウィングデビルの恐ろしさをよくわかっているつもりだ……しかしオルヴァはそう、あの時の自分の様に邪悪なる敵に勇猛果敢に立ち向かおうとしているのだ。
「オルヴァ……なんと勇ましく……勇敢になったものだ……」
「それは……ヤツに勝ってから言ってください父上……」
「オルヴァ……!!!」
「………っ!!?」
振り返るとそこには母のミネルヴァと侍女マギサ、そしてメティスの姿があった。
「レミリオーーーーーーン!!!」
と、メティスがそう叫ぶと彼女の手から光の玉が飛び強烈な光が辺りを照らし出した。照明呪文レミーラの上位魔法である。
「メティス先生!!」
「ルティナ様から魔法の手ほどきを少々されておりましたので……ですがそれはともかく!アリア様は一体っ!!?」
その言葉に一同は改めてアリアに視線を向ける。
「ホーホホホ!ようやくお前の家族が揃ったな……余計な者までいる様だがまぁいい……まとめて凶神様の……っ!!?」
「てやぁぁぁーーーーーーっ!!!」
その時だった、オルヴァがウィングデビルの言葉を待たずに勢い良く斬り掛かった。
「ホーホホホーーー!!!」
しかしウィングデビルは翼を広げて難なくオルヴァの斬撃を躱す。
「なかなか良い躾をしているなクルテマッカよ?それとも妻のミネルヴァの躾かな?ホーホホホ!!」
「黙れっ!!オルヴァよ逃がすなっ!!追撃だ!!」
「はい!!父上!!」
そう言うと更に勢い良くオルヴァは剣を振るいウィングデビルを追う。
「はぁぁぁーーーーーー!!!」
「ホーホホホーーー!!届かぬ届かぬ!!」
翼を羽ばたかせてオルヴァの剣撃を躱すウィングデビルは彼を嘲笑う。
「ならばこれならどうだ!!」
ここでオルヴァは突如納刀し数秒間構えると勢い良く剣を抜き放った。
「くらえっ!!
トゥルースヴァロースラッシュ!!」
「なにぃ……っ!!!」
と、その瞬間オルヴァの闘気の斬撃がウィングデビルに向けて放たれた。
「く……っ!!」
ウィングデビルは驚きの余り躱すのが遅れオルヴァの斬撃がその翼を掠めた。
「くそっ!!やはりまだ精度が……っ!!」
覚え立ての技なのだろうオルヴァは斬撃の行方を恨めしそうに睨んだ。
「おのれ……!よくもワシの翼を……」
(「ウィングデビルよ……いつまで遊んでいる……」)
「………っ!!?」
するとウィングデビルの脳裏に怪しげな声が響いた。
(「娘を使え……既に準備は出来ている」)
「か……っ畏まりました……っ!!!マナルガ様……っ!!!」
「……っ!!!?な、なんだと!!貴様っ!!今なんと言ったっ!!?」
クルテマッカはウィングデビルのその言葉に驚愕の声を上げる。
「ホホホホ……聞いたとおりだクルテマッカよ……貴様の娘はもう既に我が主のモノとなったわ……ホーホホホ!!!」
するとウィングデビルは再び両の瞳に禍々しき青い光を灯らせると、青白い光に包まれたアリアをその邪悪な魔法力で引き寄せクルテマッカやオルヴァ達の前に晒した。
そして、そのアリアの瞳にはクルテマッカ達が見たこともない悍ましい闇の力が讃えられていた……。
色々出てきました~✨新アイテムや新呪文 ✨こういうの考えるの楽しいんですよね✨✌️
ヴォルの神灯のヴォルとは北欧神話にある詮索好きの女神ヴォルから取りました。彼女からは隠し事が出来ないという由来からこの名前のアイテムとなりました。次に新呪文のレミリオンですがこれはレミーラの最上級呪文でレミーラの松明のように灯りを照らすのに比べてイメージとしては大体洞窟内のワンフロアを照らす照明呪文ですね✨はい、勝手に作りました✌️ これからもどんどん新アイテム新呪文も張りきって考えていこうと思います✨
さて、今年もこんなに進みの遅いダイの大冒険を読んで頂いてありがとうございましたm(_ _)m✨なんせまだ物語の中では2週間位しか時間が進んでないですからね(^_^;)
ま、それはそれとして読み手の皆さんの応援やお気に入り登録でなんとか頑張らせて頂いておりますので、また来年も引き続きのご贔屓を何卒よろしくお願い致します✨
というワケで誠に勝手ながら来週はお正月 休みを頂きたいと思いますので、宜しくお願い致します✨
それでは皆さんも良いお年をお過ごし下さいませ〜✨ ✌️