─アバンの背中─
「そんな……アリア……アリア!!やめてっ!!アリアを……!!私達のアリアを返してっ!!!!」
王妃ミネルヴァは愛娘の変わり果てた姿を目の当たりにして悲痛な声を上げた。
「ミネルヴァ!!」
クルテマッカは王妃の傍に駆け寄ると力強く抱きしめながら彼女を落ち着かせるように努めたが、そのクルテマッカ自身も混乱を来たしていた。
「貴様ぁぁぁーーーっ!!!」
オルヴァは打ちひしがれる父母と変わり果てた妹アリアの姿をみてウィングデビルに怒りを込めた眼差しを向けながら咆哮し剣を構える。
「おーっと王子様!かわいい妹もろともワシを斬るつもりかな?ホーホホホ!」
しかし、ウィングデビルはアリアを自分の盾とする様にオルヴァの前に翳す。
「く……っ!!おのれ!!!」
「オルヴァ頼む!!アリアを……アリアを……!!!?」
「父上……!わかっております……アリアを傷付けることはこの命に換えても絶対にしません……っ!!しかし……!!」
アリアを人質にされたオルヴァはその後ろに控えるウィングデビルに手を出せずにいた。
「ホホホ……それではこちらは粛々とコトを進めさせて頂こう……」
「なんだと……っ!!!?」
ウィングデビルはアリアを盾にしながら床一面の青白い円に邪悪な力を注ぐ……
「な……っ!!?なんだこれは……っ!!?」
「足が……っ!!う……動かない……っ!!?」
クルテマッカとミネルヴァは共に支え合いながらその動きを止められた。
「なにをするつもりだ……っ!!?」
オルヴァも足の動きを封じられながらウィングデビルを睨み付ける。
「ホーホホホ!お次はこういう余興はどうかな?オルヴァ王子よ……」
するとウィングデビルは掌に再び邪悪な青白い力を灯すとその力をオルヴァの後方に向けた。
「きゃあぁぁぁーーーーーーっ!!!」
「………っ!!?あぁ!!メティス先生っ!!!?」
足の動きを封じられた状態にありながらもオルヴァが首だけで振り返るとメティスが青白い光に包まれ宙に浮いていた。
「あの壁に叩きつければ脆弱な人間の身体などグシャグシャに潰れるだろうな……ホホホ」
「やめろっ!!やめてくれぇぇぇ!!命なら私の命をやる!!!だからその人を……その人を放してくれぇぇぇーーーっ!!!!」
「オルヴァ様ぁぁぁーーーーー!!!」
オルヴァのその想いの溢れた叫び声にメティスは涙を溢れさせる。
「ホーホホホーーーーーー!!!お前にとって余程大切な存在なようだな!!ならばこの女の潰れた後のお前の絶望に打ちひしがれた顔をを存分に愉しむとしよう!!ホーホホホーーー!!!!」
「やめろぉぉぉーーーーーっ!!!!」
「ホーホホホ!!死ねぇぇぇぇーーーーーっ!!!!」
「オルヴァ様ぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!!」
ヒュッ!!
しかしウィングデビルがメティスを壁に叩きつけようと邪悪な力を放とうとしたその瞬間!!その腕に一本の金色の羽が突き刺さった。
「ぬっ!!?なんだコレは……っ!!?」
するとメティスを覆っていた青白い光が消え去り彼女はそこから解放されると脱力しながらもその場に膝をつく。
そして更にオルヴァやクルテマッカ達の動きを封じていた力も消えた。
「な……っ!!?何者だ……っ!!!?」
ウィングデビルがそう叫びながら牢の入口付近を睨み付ける。
「二人もの女性を蹂躙するとは許せんっ!!醜悪なる魔物よ!このアバンが相手になるっ!!!」
するとそこには邪悪な気配を追って駆け付けて来たアバンがゴールドフェザーを構え鋭い視線をウィングデビルに向けていた。
「ま、まさかお主は…!!?あの勇者アバン殿か……っ!!!?」
「アバン様……!?」
「あ、あの方が……っ!!?あの勇者アバン……」
クルテマッカ、ミネルヴァ、オルヴァはそのアバンの突然の登場に驚愕しながらもその勇姿に思わず見惚れていた。
「アバン……さま……?」
「……っ!!!?」
「アリア……っ!!?アリアが……っ!!!?」
「意識を……っ!!!?」
アバンの名を耳した為なのか邪悪な意志に支配されていたアリアの意識がほんの僅か反応した。
「皆さんっ!!ここは私にお任せ下さいっ!!ディードックさん!!皆さんの介抱をお願いしますっ!!」
アバンは振り返るとディードックも兵士と共にこの地下牢に辿り着いていた。
「おうよっ!!さぁ兵士のあんちゃん!!」
「は……はいっ!!」
「ヌウゥ……ッ!!勇者アバン……だと……」
(「ウィングデビルよ……ヤツは何者だ……?」)
その時、再びウィングデビルの脳裏にあの声が響く。
(「わ、わかりません……!少なくともあの神殿遺跡があった頃にはあのような男はいなかった……」)
ウィングデビルがそう思うのも当然で、25年以上前のアバンはまだ幼い少年だった。
(「たが……誰かに雰囲気が似ている……」)
(「なんですと……っ!!?」)
(「ん……?なんだあの石像の魔物……急に黙りこくって……よし!ならば……っ!!」)
アバンは再びゴールドフェザーを構えると今度は床一面に広がる青白い円に向けて数本のフェザーを投げる。
「な……っ!!?」
ウィングデビルはそれをみて思わず驚愕する。
と、今度はその青白い円から邪悪なエネルギーがみるみる消え失せていった。
「なにぃぃっ!!し、しまったぁぁぁ!!なんということだぁぁぁ!!
マナルガ様ぁぁぁーーーっ!!!?」
ウィングデビルは焦りの表情をみせると自らの主の名を叫びながら我を失った様に混乱し始めた。
「……っ!!?マナルガ……!?」
が、ウィングデビルから放たれたその名はさすがのアバンでも耳にしたことはなかった。
「ア、アバン殿……っ!?」
「……っ!?」
その時、兵士に支えられながらもクルテマッカがアバンに声を掛けて来た。
「クルテマッカ陛下!」
「何故にお主がここに来たのかはさておき……今ヤツが口にしたマナルガとやらは恐らく我が妻のミネルヴァが封じた凶神なる者だ……」
「凶神……っ!!?」
「うむ、文字通り凶々しき力を持つ魔界の神と言われていた……」
と、ここでミネルヴァも間に入る。
「はい……私はテランに伝わる祈祷師一族の家系でした……ですが25年以上前にあのウィングデビルと凶神を我が封印術でテランの北の神殿遺跡に封じた筈でしたが……」
ミネルヴァは目の前のアリアやウィングデビルに視線を向けて悔しそうに顔を顰める。
「そうでしたか……やはり魔界の輩……どうりで私も聞かない名でした……」
「アバン殿!無茶を承知で頼むっ!!変わり果てたあの我が娘をなんとか救ってくれないだろうかっ!!このとおりだアバン殿っ!!」
「お願いしますっアバン様っ!!あの娘はアバン様にお会いすることをずっと夢見て来ましたっ!!どうかどうか!!お力をお貸し下さいっアバン様っ!!!」
クルテマッカもミネルヴァも涙ながらに床に額を擦り付けてアバンに懇願する。
「お顔を上げて下さいお二人共……大丈夫私に任せて下さい!!」
アバンは優しく柔らかい笑顔を湛えてクルテマッカとミネルヴァに告げた。
「アリア姫様のことは我が国のフローラ様からもたくさん窺っておりますので私にとっても大切な姫です……必ずご無事に邪悪なる者の手から取り戻します!!」
アバンは優しく語るその言葉の中に邪悪な力を打ちのめす勇者としての信念を込めた。
「アバン殿……ありがとう……ウゥ……」
「あなた……」
「アバン様っ!!」
「……っ!!?」
振り返るとそこには強い気迫に満ちたオルヴァの姿があった。
「私も……!!共に戦わせて下さいっ!!アバン様っ!!!」
「あなたは……オルヴァ王子……」
「はい!ベンガーナ王国王子オルヴァですっ!!」
「……っ!」
アバンはこの時、不思議とダイと初めて出会った時のことを思い出した。
デルムリン島で出会った頃の彼は、まだ未熟な少年とは言え勇者に強い憧れを持ちその気迫と希望に満ちていた。
アバンはあの時の輝かしいダイとオルヴァを重ねていたのだ。
「わかりましたオルヴァ王子!!それでは行きましょう!!」
「はいっ!!」
アバンは力強い彼の声を耳にしてその胸を熱くした。
ダイ……彼と初めて出会った時もそうやって力強い声で自分の声に応えていた……
そうしてアバンはその背中でオルヴァに語る。
新しい時代の新しい世代に生まれし勇者……それはダイ一人だけでなく世界中にその存在が現れる可能性があるということ、そしてこの背中を預けられるだけの力をそれぞれが秘めているということを……
「オルヴァさん……あなたはあのウィングデビルを倒してください!」
「はい!わかりました!!」
オルヴァはやや震えていた。だがウィングデビルが怖かったからではない、あの勇者アバンに一つの戦いを託されたことからの武者震いだった。
「私はアリアさんを必ず救い出します……そしてアリアさんの中の邪悪な存在を討伐しますっ!!」
「妹を……アリアをお願いします!!!」
「はいっ!!」
そうして二人は力強く走り出した。
「ミネルヴァ……見てみろ……あのオルヴァが……勇者アバン殿と共に戦っておる……」
クルテマッカはその目の前でアバンと戦場に駆け出しあの強敵ウィングデビルと対峙する我が子オルヴァをみて胸を熱くしていた。
「ええ……あなた……あの子があんなに立派になって……」
ミネルヴァもその瞳に涙を湛えてオルヴァの勇姿を見つめている。
「クルテマッカ陛下……ミネルヴァ王妃……」
と、そこにスッと優しい手がクルテマッカとミネルヴァを労るように触れる。
「メティス先生……」
「ご立派な方です……オルヴァ様は…本当に素晴らしい方です……」
そう語るメティスの瞳にも熱く輝るモノが溢れていた。
(「ウィングデビルよっ!!いつまで狼狽えておるかっ!!!青魔陣のエネルギーが途絶えても妾は既にこの娘の意識も身体も乗っ取っておる!狼狽える必要はないっ!!先ず貴様はそのクルテマッカのガキを確実に始末しろっ!!妾はこの訳の分からぬ男を血祭りにあげる!!我らの計画はまだ何一つ変わってはいない!!わかったなっ!!」)
マナルガと呼ばれるその存在は下僕のウィングデビルに強い叱咤を浴びせる。
(「はっ!!?はいっ!!申し訳ございませんっ!マナルガ様っ!!仰せのとおりに…っ!!!」)
ウィングデビルはマナルガの叱咤を受けて我に返ると再びオルヴァと対峙した。
(「幼いアリア様を人質にするとは!絶対に許せないっ!しかし下手に動けばアリア様を傷付けてしまう……ならばやはりここは……」)
そうしてアバンは再びゴールドフェザーに手を伸ばす。
「ククク……ハーハハハハッ!!!」
「……っ!!?」
すると、突如アバンを前にした幼いアリアが忌まわしく嘲笑する。しかしその笑い声はおよそ幼いアリアの声とは思えない大人びた女性の声だった。
「お前は何者だ……っ!!?」
アバンは叫ぶ。
「何者だ?……だと?ククク……それはこちらのセリフだ……貴様こそ何者だ……」
「私はアバン……アバン・デ・ジニュアールⅢ世だ……!!」
「ジニュアール?ジニュアールだと……っ!?そうか貴様はあの男の……っ!!?ハーハハハハ!!そうか!!どうりで見掛けた顔だと思ったわ!ククク…これは良いっ!!」
「何がおかしいっ!!?」
アバンは自身の名を名乗った途端に再び笑い出した相手に強い言葉をぶつける。
「ククク……まさかこんな偶然が……いやこれはまさに凶神の巡り合わせよな……貴様は今確かにジニュアールⅢ世と言ったな?」
「そうだ!それがどうしたっ!!」
「ならばジニュアールⅠ世は貴様の祖父というコトだな……?」
「……っ!?祖父を私の祖父を知っているのか……っ!!?」
するとアリアの中の存在は操る彼女の顔を歪めて嗤う。
「いいだろう……貴様があのジニュアールⅠ世の子孫というのならヤツと我らの浅からぬ因縁を知ってあの世に逝くのも悪くはなかろう……ククク……」
「私の祖父と……お前達の因縁だと?」
「とりあえず貴様の先程の問いには答えておこう……妾は偉大なる魔界の闇を統べる凶禍の神に仕えし魔女ヘルヴィーナス!!名をマナルガと言う……」
「魔女マナルガ……っ!!!?」
「そうだその目……そしてその口振り……やはり貴様の祖父と良く似ておるわ……」
そう嘲るようにアバンに語る魔女マナルガは彼の祖父ジニュアールⅠ世との只ならぬ因縁を匂わせつつ奪い取ったアリアの身から禍々しき邪悪な力を漂わせていた。
遅くなりましまが、今年一発目の投稿というコトで今年も是非とも宜しくお願い致します✨
さて、アバンがいよいよ本格的に参戦してきました。ベンガーナ王国の秘密の地下牢での戦いが始まります。
この回のテーマとしては因縁という言葉が当てはまるかと思いますが、ウィングデビルはクルテマッカ一族に…そして魔女マナルガと名乗ったアリアに取り憑いた敵はアバンの祖父であるジニュアールⅠ世との因縁があるようです。つまりこの戦いは互いの因縁を断ち切る戦いとなるというわけですね。