─時を統べる存在─
「凶神のその身の一部が…我が屋敷の地下にあるだと…?」
アバンは先刻のマナルガの言葉に未だその動揺を隠し切れない。
「その通りだ…そしてその凶神様の御身の封を解くには…そこの娘アリアの力がどうしても必要だったのだ……」
「な…っ!!なんだとっ!!!」
この時、声を上げたのはクルテマッカだった。
「先刻も告げたようにその娘アリアは強大な魔力を秘めている……"時の魔力”だ……ミネルヴァよお前達祈祷師一族の中でも"時の魔力”の使い手などそうそういなかった筈だな…?」
暗闇からの悍ましいマナルガの声はミネルヴァに問う。
「確かに…少なくとも私や姉が知る限りではそのような力を持つ存在は我が一族にはいません……」
「だがミネルヴァよお前達祈祷師一族の始祖である存在は過去にただ一人その"時の魔力”を携えていたのだ……」
「な!なんですって……っ!!?」
ミネルヴァ自身も知り得なかったその話しに傍にいたクルテマッカやオルヴァ、そしてアリア自身も驚いている。
「ミネルヴァ……」
「ええ……あなた……まさかそんなことが……」
ミネルヴァは震える自身の身をクルテマッカに預ける様に寄り添いながらも思わず力を込めている。
「どういうことなのだ…ミネルヴァの……祈祷師一族の始祖の力が我が娘アリアに受け継がれていたというのかっ!?」
するとクルテマッカはミネルヴァの代わりにに暗闇のマナルガに向けて強く問い質す。
「そうだ……お前達には想像すら適わない遥か昔にな……」
マナルガはそうして語り出す。
「今から数百年前……我等の創造主である凶神様はこの地上界を我がモノにしようとその侵攻を開始した……」
「す…っ!数百年前だと……っ!!?」
クルテマッカが声を上げる。
「何を言うかっ!?先刻貴様は父上がお生まれになった四十数年前のその時が地上侵攻計画の最初の一手だと言っていただろうっ!!?」
この時オルヴァがそう言って強く問い質す。
「そうだ……だが、それはあくまで凶神様の意志を継いだ我々の計画……妾が今話しているのは凶神様自らの侵攻よ…」
「凶神自らの侵攻だと……っ!?」
オルヴァのその身が無意識に震える。
「数百年前のその当時、凶神様はこの地上界を手に入れるために魔界で率いていた凶魔の軍勢を指揮してかつてこの地上界に混乱と破壊を齎した……」
「凶魔の軍勢……っ!!?」
アバンは厳しい表情で告げる。
「ただの魔族の軍勢ではないぞアバン……妾も含めた魔界の中でも選りすぐりの戦士の軍勢だ…しかしその凶魔の軍勢…そして凶神様の前に当時立ちはだかったのがミネルヴァよお前達の祖先である祈祷師一族の始祖であった」
「我が一族の始祖が……」
ミネルヴァがその顔を顰めて呟く。
「つまりお前達祈祷師一族と我等の因縁は正にその時から始まったのだ……そして凶神様と祈祷師一族との熾烈な戦いはこの地上で数十年に渡って続いた……」
凶神と祈祷師一族との過去の因縁が数百年前という遥か昔に地上界への侵攻を企てた凶神自らの手によって生まれていた事実をこの場の一同は知ることとなった。が、しかしここでアバンが疑問を呈す。
「だが……祖父ジニュアールⅠ世は生前過去のあらゆる歴史や伝説に纏わる数多くの蔵書を遺していたが…私の知る限りそんな話しは遺されていなかった……」
「……っ!?」
そう呟くように言うアバンに皆はその視線を向ける。
「いやアバンよ…知っていた筈だあの男は…知っていたからこそあの地下室に封じたのさ……我が主である凶神様の御身の一部と数百年前から続く祈祷師一族との因縁が深く刻まれていた歴史資料をな……」
「なんだって……っ!!?ということはあの地下室には今お前が言った凶神の身の一部があるだけではないのかっ!?」
「ククク……そういうことになるな、だが貴様の祖父ジニュアールⅠ世は自らの死を持ってその地下室の封印を施したのだろう……あの地下室の解錠も凶神様の封印の解除方法もアバンお前にさえ伝えずに……な?」
「確かに…私はそのどちらも知らない…」
マナルガの嘲嗤うその問いにアバンは顔を顰めて頷く。
「つまり永遠にあの地下室に凶神様の御身を封じておけばこの地上界には二度と侵攻出来ないと踏んでお前にさえあの地下室に近づくことを禁じた……」
「そ、それならば……!!?やはり凶神はもうこの地上に出て来れないんじゃ……っ!?」
ここで再びオルヴァが声を上げる。
しかし……
「ククク……そう、それだよオルヴァ王子…その鍵こそがアリアなのだ……」
「な…っ!?なにぃ!!?」
オルヴァを始め皆がミネルヴァの腕の中のアリアに視線を向ける。
「私……?」
「アリアよ…お前が見ていた夢は未来の勇者ダイの姿だったな……それこそがお前が祈祷師一族より”時の魔力"を受け継いだ一つの証だ…そして”時の魔力"というのはな……過去においても発動するモノなのだ……」
すると、今までこの地下牢の暗闇から全体に響き渡るように聞こえていた悍ましい声がより明確になる。更にその闇底から今まで以上の禍々しい黒いエネルギーが漂い始めた。
ズズズズ……
すると闇の底から更にその闇を引きずるようにしながら邪悪な漆黒の闇を従えた悍ましい存在がその姿を顕にしていく。
「ま、まさか……」
「お、お前が……」
ゆっくりと少しずつ歩むその禍々しい一歩一歩に一同が慄く中、その深淵とも思えた暗闇から邪悪な凶魔のエネルギーを携えた巨大な悪魔の翼を広げる地獄の女神がその姿を現した。
そう、それこそが凶神の率いる凶魔の軍勢の一柱であるヘルヴィーナスの魔女マナルガだった。
「く…っ!!?なんという悍ましいエネルギー……」
さすがのアバンも魔界の強豪モンスターの前にその身を固めている。
「こ、こんなヤツがワシの……いやワシ等のこの国に……ベンガーナに……」
その時、ミネルヴァがアリアの異変に気付いて声を上げる。
「…っ!!?アリア…っ!!?アリア……っ!!!?」
「……っ!!?どうしたミネルヴァ……っ!!!?」
「あなた…っ!!アリアが…っ!!?アリアが…っ!!!?」
青褪めながらミネルヴァは突如異常に震え始めたアリアの様子に狼狽えている。
「どうした…っアリア…っ!!?」
ドス……ッ…ドス……ッ
ドス……ッドス……ッ……ドスッ!
パァァァァァァーーーーーー
「おお…っ!?こ、これは…っ!!?」
「ひ、光の魔法陣…っ!?」
「あ……」
その瞬間クルテマッカ、ミネルヴァ、アリアの三人は五芒星の光の魔法陣に包まれた。
「このゴールドフェザーで破邪の魔法陣を作りました…僅かではありますが回復系の魔法力も込めてあります……」
「アバン殿……」
「大丈夫ヤツのあの邪悪なエネルギーはその魔法陣には届きません、その中にいれば安心です……」
そう言ってアバンは優しく頷くとすぐさま力強い視線で油断なくマナルガを見据える。
「アバン様……」
アリアはそのアバンの強い意志の籠もった瞳を見つめながら、彼の決意に気付いた。
「アリア様……皆がアナタのことを大切に思っています……ですから私は絶対にあの邪悪な輩の思い通りにはさせません!」
「……はい……信じてますアバン様……」
そうしてアバンはアリアの小さな手を優しく包み込むように握り締めた。
「ククク……ハハハハ……ハーハハハハ!!笑わせよるわアバンよ…っ!!」
そのアバンとアリアの光景をみていたマナルガは嘲るように笑い声を上げるとその右手に不可思議なエネルギーを湛えていた。
「これがなんだかわかるか?アバンよ……」
「そ、それは……っ!?」
「ククク……これこそが"時の魔力”よ……」
「それが時の魔力…っ!!?」
銀色の光を湛えるその不可思議な魔法力はアバンでさえも初めて目にするモノだった。
「確かに妾は先刻お前の破邪の力の前にそのアリアの身から追われた……しかしその寸前にこうして力の一部を頂いておいたのだ……」
「私の…力の一部……?」
アリアは恐れ慄きながらも呟くように問う。
「先刻の話しが途中だったな……アリアよお前の中にいた時に妾は確信した……やはりお前達祈祷師一族の始祖は自らの”時の魔力"を使ってその力そのものを数百年の時を超えてお前に受け継がせたのだとな……」
「確かに我々祈祷師一族には数百年の歴史があることは一族の血と力を受け継ぐ者として当然知っていました……しかしその”時の魔力"や始祖と凶神の戦いのことは……」
ミネルヴァはアリアを強く抱きしめながらマナルガに告げる。
「だがミネルヴァよ…お前達祈祷師一族だけではなかったのだ…もう一人お前達以外にも凶神様の封印にその心血を注いで来た者がいたのだ…それがアバンよ…お前の祖父ジニュアールⅠ世だ……」
「つまり凶神の封印には時期は違えど二つの力か働いていたということかっ!?」
今から42年前と27年前……この二つの時期に凶神の下僕であるマナルガの封印が施されていた。
「厳密には凶神様の封印ではなくその意志を継いだ我々凶魔の軍勢に対する封だがな……しかし妙だと思わないかアバンよ……」
マナルガはここでアバンに問う。
「祈祷師一族の血族しか施せない封魔の術をなぜなんの繋がりもないお前の祖父ジニュアールⅠ世が我等を一度切りとはいえ封印出来たのか?」
「おそらくは……それがさっきからお前が見せているその”時の魔力"に関係があるのではないか?」
アバンはそう言いながらマナルガの手にある”時の魔力"を見据えて語る。
「祖父はその昔に時を統べる存在の話を聞かせてくれたことがあった……」
「ホウ……」
「それが神なのか魔の存在なのかはわからないが過去も未来もそして現在もその時を統べる存在がこの世界を支配していると話してくれた…そして私はお前の話を今まで聞きながらこう考えた…祖父の…ジニュアールⅠ世の封印は…魔法使いでもない学者の祖父が施せたモノではなくその時を統べる存在と契約を結んだ結果によるものなのではないかと……」
「その時を統べる存在なら”時の魔力"を使うこともきっと……」
オルヴァがアバンの考えに頷きながら告げる。
「ええ、祖父は私自身でさえも理解出来ない不思議なところがありまして…でも私は決して嫌いではなかった…いや寧ろだからこそ尊敬に値する祖父だった…だからそんな祖父なら…」
「なるほどな、あの祖父にしてこの孫というところかなアバンよ…そうヤツはジニュアールⅠ世は正にその手を使っていた…我等に対する封印は自らの力ではなくあくまで時を統べる存在との契約に基づくモノだ……」
マナルガのその言葉に一同が目を見開く。
「……っ!?時を統べる存在のことを祖父はお前にも語っていたのか…っ!!?」
アバンの言葉にマナルガは不敵に嗤う。
「ククク…侮るな我等とて封じられて闇底で大人しくしていたワケではない……祈祷師一族以外に我等に対抗し得る存在があれば調査くらいしないとな……」
「調査だと?使い魔か何かの類に……は…っ!?ま、まさか……っ!!?」
シュウゥゥゥゥ…………
「お……っ!?おい……っ!?この侍女の遺体が……っ!!?」
「マギサさんの遺体が……と、溶けて消えていく……っ!!!?」
すると突然ディードックと兵士がマギサの遺体の変質をみて驚愕の声を上げた。
「なんだとっ!!?マギサの遺体が…っ!!?」
「ああ〜!!?なんてことを……っ!!?」
「マギサさぁぁぁぁーーーん!!!」
「ハーハハハハ!!愚かな!!アバンよその女こそがお前の言う妾の使い魔よ!かつては人の身でありながら妾の甘言に誘われた愚かな女……クククまぁ絡繰るには丁度良い玩具であったが…最もやはりそれでも人の身…高々数十年程度しか保たなかったがな?」
「そんなことない……」
「なに……?」
「マギサさんは……マギサさんはあんなに私達に…あんなに優しくしてくれた……いつでもいつでも傍にいて…私は……本当にマギサさんが大好きだった……」
「ハーハハハハ!!そうかそうか!!マギサはそれ程までにお前達からの信頼を得ていたのか!ならば褒めてやらねばなぁ!!アリアよ…マギサがお前に与えたあの人形もホラこうしてこちらにあるぞ?」
「………っ!!!?」
と、マナルガは自身が纏う闇の中からいつかアリアがマギサから受け取ったあの人形を見せ付ける。
「そんなその人形は……」
「ククク…これでお前やお前達の動向を監視していたのさ……そして更に……」
カラン……カラ〜ン……!
「な…っ!?まさかそれは……っ!!?」
「祈虹の指輪……っ!!?」
ミネルヴァとアバンはマナルガが闇の中から投げ込んだ変わり果てた祈虹の指輪を凝視している。
「その指輪のお陰でアリア……少々お前の身体を奪う計画に支障を来しそうだったのでな…?その人形を使ってその指輪の破邪の力を抑え込ませて貰ったわ……」
「そうだわあの人形……そういえばあの人形を貰ってから……」
「確かにそうだ…!アリアが再び身体を悪くし始めた時期と重なる……」
「マナルガ…お前は……」
アバンは闇の力で黒くくすんでしまった祈虹の指輪を手に取り握り締めながらマナルガを睨みつける。
「アリアの中の”時の魔力"……妾はなぜそれを欲したのか?もうお前ならわかるだろうアバンよ……」
「アリア姫の中の”時の魔力"で我が祖父ジニュアールⅠ世が時を統べる存在と交わした封魔の契約を解除する為……つまり我が屋敷の地下に眠る凶神の身の一部の封印を……」
「御名答だアバン……27年前の神殿遺跡で凶神様の力の一部と共に妾は封じられた…ならば手は一つ……ジニュアールⅠ世が封じた凶神様の御身の封を解けば我等は再びこの地上界に打って出ることが叶うというモノ!!」
「その為にマギサさんを使って祖父と契約した時を統べる存在やその”時の魔力"と同質の魔力を持ってすれば封が解けることを調べ抜いた……」
「ああ、ジニュアールⅠ世は我等を封じる際にうっかり口を滑らす失態を犯してな……時を統べる存在のことを口走ってしまった…故にそれが我等にとって良いヒントとなった……クククそれが先刻より妾が言っていたジニュアールⅠ世の業というモノよ……」
「もし祖父がお前達に時を統べる存在のことを話していなければ……」
「我らにとっては望ましくはないことだが…こういう事態にはなっていなかったかも……な?ククク……」
「いいえ!そんなことはありませんアバン様……っ!!!」
と、ここでミネルヴァがアバンとマナルガの会話の間に入って叫ぶ。
「私は先代の祈祷師からあなた様のお祖父様のお話を伺っておりました!あの方はいつもこの世界の平穏と幸福だけを考えて自ら身に付けた知識と知性を惜しげもなく注がれている偉大な方だと!!そしてその四十数年前の当時……祈祷師一族でも気付けなかった凶神の野望を未然に察知して我々祈祷師一族に代わってその封印を施してくれた……私は…私達祈祷師一族は貴方のお祖父様には感謝と陳謝の念が絶えません……」
「ミネルヴァ……」
「母上……」
「お母様……」
「アバン様……ミネルヴァ王妃のおっしゃる通りです!私も師であるミネルヴァ様の姉上であるルティナ様からジニュアールⅠ世様のお話を伺ったことがあります!師ルティナ様は貴方のお祖父様ジニュアールⅠ世様の描く理想の世界こそがこの世の平和そのモノなのだと……」
「皆さん……」
アバンは祖父ジニュアールⅠ世を想いこうして慕ってくれるミネルヴァやルティナ……そしてメティスの想いにその瞳を熱くした。
「ありがとうございます……あなた方のその想い…祖父に代わって感謝致します…そしてその孫である私自身も力に変えて……」
そうしてアバンはその全身に闘気を張り巡らせる。
「穢れ淀んだ邪悪な闇とその悪意を撃ちます……っ!!!!」
眼光鋭くアバンは凶魔の女神魔女マナルガと対峙する。
強大な闇の力を誇示するかつてない魔界の強敵…そして時を統べる存在との契約まで交わし凶神の意志を受けた者への封印を施した祖父ジニュアールⅠ世の強い決意と意志を胸に……アバンは目の前の深い闇色の使徒との戦いに挑んだ。
なかなか複雑な話になって来てしまいましたが、もし上手く伝わってなかったらすいません…(-_-;) 書き手自身も頭をこねくり回しながらなんとか書いてます(^_^;)
さて、時の魔力という今までにない魔法力や時を統べる存在などという神様に限りなく近いもしくわ同列とも言える存在があることも今回の話で明らかになりました。祈祷師一族の始祖にはその時を統べる存在の力の一部が元々あり数百年の時を経てその時を統べる存在の力の一部である時の魔力を受け継がせたというワケです。もちろん時の魔力を使ってですね。理由は未来において凶神の封印が解けてしまう恐れがあったからそれを再び時の魔力で封印する為でした。しかもマナルガが言うように時の魔力は過去にも力を使えるので、マナルガからしてみたらその時の魔力で凶神の過去の封印を解こうとしているワケです。それがジニュアールⅠ世と時を統べる存在との契約にあった封印です。この封は凶神の身体の一部を封印するコトで当然凶神が地上に出ることを封じる効果がありますが、凶魔の軍勢まで封じることは完全には出来ないのでそれが、神殿遺跡のエピソードに繋がるワケです。
あーわかりづらいですよね〜(-_-;) 我ながらなんでこんな話を…(笑)