─フォルケンの報せ─
その空間は高濃度の闇を湛えていた。
パァァァ…………
「アバン殿……っ!!?」
ディードックは自分と兵士の周りに作られた破邪の魔法陣の中からアバンに声を掛ける。
「お二人もそのフェザーの魔法陣の中にいて下さい……」
すると……
ヒュン……ッ!!
ドス…ドス……ッ!……
「アバン様……っ!!?」
「オルヴァ王子とメティスさんもその中から出てはいけませんよ……」
アバンはオルヴァとメティスの周りにもゴールドフェザーで破邪の魔法陣を作り出しその中から出ないように告げた。
「まさかアバン様……お一人であの魔女と戦うのですか……っ!?」
メティスのその言葉にアバンはオルヴァとメティスを見つめて優しく微笑だけを返した。
「アバン様っならばこの剣を……っ!!」
するとオルヴァは先刻アバンより借り受けた奇跡の剣を差し出す。
「オルヴァ王子……」
「貴方とこの奇跡の剣のおかげで私はあのウィングデビルに勝つことが出来ました……ですからアバン様もこの奇跡の剣で……」
オルヴァは熱い眼差しでアバンのその目を見つめながら告げた。そして…… 「わかりました…」
そう言うとアバンは差し出された奇跡の剣をその手に取り腰に装備した。
「ご武運をアバン様……っ!!」
オルヴァは右の拳を作るとそれを左手で包み込み武運を祈る武人の作法で力強くアバンの勝利を祈った。
「ありがとうございますオルヴァ王子……貴方の先刻の戦いでの勝利に私も力を頂きました。必ず貴方に続いてベンガーナ王国に……そしてこの地上に平穏を取り戻します!!」
「はい……信じております!!」
そうしてアバンは魔女マナルガとの一対一の戦いへと臨んでいった。
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「……っ!?」
「どうかなされましたか?フローラ様?」
未だ復興途中のカール王国でその指揮を取っていたフローラは一瞬感じたその胸のざわめきに遠い空を見据えた。
「あちらの方角は……ベンガーナ王国よね……」
そう呟くフローラの瞳にはやはり憂いの彩が浮かぶ。
「ええ……」
フローラの側近の兵士はそんなフローラの様子に首を傾げる。
「悪いけどアキーム隊長を呼んでもらえるかしら?」
「あ!は、はい!ただいま……っ!!」
そうして兵士は敬礼すると、急いでアキームのいる復興現場に駆けて行った。
「ベンガーナ……」
人知れずそう呟くフローラの執務室の机上にはつい先刻、テラン王国のフォルケン王から急遽届けられた書簡とある歴史資料があった。
フォルケンの書簡によれば数日前、テラン王国の古い書庫で見つかった歴史資料を研鑽していた時に『凶神』の名が記されたモノがあり、そこにはおよそ五百年前に今のベンガーナ王国周辺地域に突如現れた邪悪な闇の魔神が多くの軍勢を率いてこの地上を蹂躙したと記されていた。
「それが凶神……」
フローラは不安気な表情でそう呟いて更に次の資料に目を向ける。
側近の兵士からこのフォルケンの書簡とテランの歴史資料を受け取ってスグに一度フローラは全てに目を通りしていたが、今再び改めてその内容を確認している。
「時を統べる存在と祈祷師一族の始祖……」
そして次の資料にはその五百年前の凶神の地上侵攻の際にあった出来事が記されていた。それはテランの地に代々伝わる祈祷師一族の始祖が時を統べる存在と呼ばれる異界の者からその力の一部を譲渡される契約を交わしていたという内容であり、その力というのが”時の魔力"といわれるものであった。
「”時の魔力"……か……」
祈祷師一族の始祖は、凶神とその軍勢との長い熾烈な戦いの中で自らの命を賭した封魔の術を施しその封印に成功した。しかし、それでも時を経ればその封印の効力が弱まるコトを懸念した始祖は自らの子孫にその封魔の術を伝える為の掟も作り、更に時を統べる存在と契約を交わし未来においてもし封魔の術が解かれる危険性があった際にその封魔の術と”時の魔力"の二つの力を用いて二度とこの地上に凶神やその軍勢が現れない様に手を尽くしたという内容がその歴史資料から読み取れた。
「今から五百年も前に…そんなコトがあったなんて……」
フローラはその資料を改めて読み返しながら背筋に冷たい感覚を覚える。そしてそんなフローラの危惧を見透かすかのようにフォルケンはこの歴史資料を急いでフローラとアバンに渡し彼らなりの研鑽を求めたのだった。
「フォルケン様……ありがとうございます……」
しかしそれでもフローラの胸の内の不安は完全に拭えない……それはやはり長い間隣にいて欲しいと感じているアバンに対する想いからだった……
そしてもう一つ……この歴史資料にある
『凶神レノクス』──。
その不吉な名がフローラの胸に重苦しい胸騒ぎを覚えさせていた。
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「奇跡の剣……か…」
アバンがその剣を携えてマナルガと対峙すると彼女はその紅い瞳に笑みを浮かべずに言った。
「嘲笑う様な顔はもう浮かべないんですか?」
そう告げるとアバンは逆に微笑を浮かべている。
「我等の神である凶神様と相対する光の神の祝福に満ちたその剣……見せつけられて笑えるものか……先刻より目にしてから警戒はしていたが……」
マナルガは自身の身を取り巻くように漂わせている闇の力を更に増幅させる。
「お前のその闇色の力は……」
アバンのその言葉にマナルガは今度は不敵な笑いを浮かべながら告げる。
「ホウ……お前にも知らぬモノがあるか?これは暗黒魔力というモノよ……」
「暗黒魔力?暗黒闘気とは違うのか?」
「単純に闘気と魔力は違うだろう?だが……こういうコトは出来るぞ?」
するとマナルガはこれまで自身の右手に携えたいたアリアから奪った”時の魔力"を自らの闇の力に取り込み始めた。
「何をする気だ……っ!!?」
「融合だよアバン……妾の暗黒魔力とそしてこの"時の魔力”を合わせるとどうなると思う?」
マナルガは再び嘲る嗤いを浮かべてそう訊ねながら、自身の周りの闇の力である暗黒魔力を禍々しいエネルギーを湛えた幾本もの黒い尾のような異形に変えていく。
「ただその暗黒魔力が強化された…というワケでは……ないのだろうな?」
今度はアバンが警戒の彩をみせる。
「ククク……聡いな……やはりお前はオモシロい……」
アバンは腰に携えた奇跡の剣を……そしてマナルガは自身の身に纏わせていた暗黒魔力を……互いに隙を見せない様に構えを取りその相手の出方を探り合う静かな戦いが始まった。
「オルヴァよ……これより一切目を逸らすことを禁ずる……アバン殿の戦いを刮目せよ……」
クルテマッカはこの静けさの中でオルヴァに告げた。
「畏まりました父上……」
そうしてオルヴァも父クルテマッカの言葉通りアバンとマナルガの戦いを揺るぎない眼差しで見届ける事を改めて心に固めた。
「勇者アバン様と凶神の徒……魔女マナルガ……互いの最初の一手を探り合っているのですね……」
「ウム……先手をどう打つか……戦に於いてこれを取れるかどうかでその後の戦局は大きく変わる……」
世界に誇る兵団を持つベンガーナ王クルテマッカはミネルヴァに先手の重要性を説く。
「無論アバン殿もその先手の重みを充分に理解しているだろうがな……」
ポタ……ッポタ……ッ……
アバンの額から滲む汗が頬を伝い顎からその足元に落ちる……。これまでハドラーやキルバーン、ミスト……そして大魔王バーンなどその度に想像を絶する様な強さを誇る多くの強敵と対峙して来た彼だったが…これ程までに重苦しく禍々しい邪悪な力に彩られた敵はまた初めてだった……
強いて言えばあのバーンの身体に寄生し凍れる時の秘法によってミストバーンとして存在したミストに近いモノを感じさせたが……それでも今こうして対峙するマナルガという相手はあのバーンとも異なるまた異質な暗闇の空気を纏っている様だった。
(「やはり魔界という世界は恐るべきモノだ……これ程までに得体の知れない凄まじい闇の力を携えた存在がいたとは……」)
アバンの眼差しはマナルガのその一挙手一投足を見逃さんと鋭さを増している。そして彼のその頭の中では氷よりも冷たい冷静さでこの戦いの分析が始まっていた。
(「私の攻撃の手札は残り三本のゴールドフェザーとこの奇跡の剣…どちらもこの闇の属性であるマナルガには効果的だが……」)
アバンはマナルガが纏う漆黒の闇の力……暗黒魔力という恐るべき力に更に時の魔力を融合させたその力がどういうモノなのか……また、マナルガがそれをどう使うのかわからないこの状況が不気味だった。
(「……あの暗黒魔力と時の魔力の融合した力がどういったモノなのかわからない……ならば!!」)
するとアバンは奇跡の剣を鞘から抜くとゆっくりと前傾姿勢を取りあの技の構えを取る。
(「私の最大の技であのマナルガの力を先ずは推し量るのみ……っ!!!」)
「ホウ……」
アバンストラッシュの構えを取りその手の奇跡の剣に闘気を込めるアバンをみてマナルガは嬉々として告げる。
「フハハハ!やはり面白いっ!!いや、相手にとって不足なしと言ったところか……地上の人間世界にもこれ程の男がいるとはな……」
すると、マナルガもアリアから奪った時の魔力を融合させた強大な暗黒魔力をまるで悍ましい生き物の様に動かし異形なモノを形成し始めた。
「なんと禍々しい……」
「ククク……褒め言葉として受け取っておこう」
徐々に暗黒魔力の塊がその形を成していく。それはマナルガの全身を包み込むとその背後から闇色の漆黒の尾のようなモノが幾本も伸び相手を威嚇するかの様に大きく広げられた。
「蜘蛛だ……巨大な黒い蜘蛛の脚が伸びていてる…」
オルヴァは独自の表現でマナルガのその姿を語る。
「フハハハ!よく勘づいたな!褒めてやろうオルヴァ王子っ!!いかにもこの暗黒魔力の型の名は闇蜘蛛のローブ!!」
「闇蜘蛛のローブ…っ!!?」
「貴様らの希望の勇者がこの闇蜘蛛に切り刻まれるのをそこでみていろっ!!」
その瞬間!マナルガは多くの闇蜘蛛の脚先を鋭い刃の形に変貌させるとアバンに向けて放った。
(「あれ程の数では一発のアバンストラッシュでは迎撃出来ないっ!!」)
アバンは闇蜘蛛のローブによる攻撃をそう判断すると素早く躱した。
「フハハハ!!いいぞ!なかなか良い動きだ!!」
しかし、闇蜘蛛のローブから放たれた幾本もの漆黒の脚は次々とアバンを狙う。
「フハハハ!!踊れ踊れっ!!蜘蛛の脚に追いつかれるぞ!!フハハハ!!」
(「……くっ!!?早い……っ!!!」)
ズガガガガガァァァーーーン!!!
「アバン様ぁぁぁーーーっ!!!」
アバンの危機にアリアの悲痛な声が響く中、闇蜘蛛の鋭利な先端は硬い床を次々に破壊しながら更に勢いと威力を増してアバンに襲い掛かる。
「どうしたどうした!!せっかく構えた技も出せずに逃げ惑うだけかっ!!?」
(「こんな序盤で使うことになるとは……」)
アバンは一本のゴールドフェザーを取り出す。するとそのフェザーに込められていたとある呪文が増幅された形で発動する。
(「む…っ!?あの羽根は先刻の……っ!?」)
マナルガはそのゴールドフェザーに警戒の彩をみせる。
「ピオラ……っ!!」
その瞬間、アバンの手元のゴールドフェザーが輝き出し強い魔法力が放たれた。
「あれがピオラの魔法力……っ!!?」
先のマホトーンやフバーハのみならずピオラなどの補助魔法も数多く習得しているメティスは従来通りのピオラの魔法力以上に発せられたゴールドフェザーの力に驚きを示す。
「これは……っ!!?」
そしてマナルガ自身もそのフェザーから発せられた輝きと魔法力に顔を顰める。更にアバンは増幅ピオラの効果で通常以上の素早さを手に入れるとマナルガの闇蜘蛛の脚の攻撃を難なく躱せる様になった。
「おのれ…っ!ちょこまかと……っ!!」
「よしっ!!」
すると、アバンは闇蜘蛛の脚の攻撃を見極めそれを足場に素早くマナルガの眼前に迫るとその一瞬で彼女の目の前から姿を消した。
「な……っ!!?消えた……っ!!!?」
「こっちですよ……」
「なに……っ!!!?」
マナルガは頭の上から聴こえたその声に反応するがその瞬間!彼女の血のように紅い瞳は眩い一閃の光を捉えていた。
「アバンストラッシュ!!!!」
ゴールドフェザーにより効果の増幅されたピオラによってマナルガの死角を突いた渾身のアバンストラッシュが、まさに漆黒の闇を切り裂く閃光の如く凄まじい光と共に放たれた。
いよいよベンガーナ王国編ラストバトルが開始されました。ダイの大冒険や獄炎を片手にハドラー戦やキルバーン戦などアバンの強敵との戦いを参考にしながら書いてますが、文字だけの表現はやはり臨場感も伝わりづらいので難しいですね(-_-;) でもまぁアバンも頑張ってますのでなんとか書き手のこちらもガンバります✨
それにしてもなかなかフローラのところに戻れませんね〜アバン殿〜(笑)(^_^;)