「お約束」/体操服
☆「お約束」
「お待たせ柊史くん、待った?」
「全然、俺も今来たところ」
待ち合わせ定番のお決まりの言葉からデートが始まる。そして、俺が次の「お約束」を言おうと思い彼女の格好に目をやるとそれが見たことのない服だと気づいた。
「ふふ、今日のために新しい服を買ったんだ。どう?」
紬は見せつけるようにその場でくるりと回った。花が咲くように白とピンクのスカートが浮き上がりまぶしい脚が視線を呼び込む。ウエスト部分をタイトに締めたくびれと胸元部分にあしらったフリルが彼女の女性らしさを強調する。最後に一回転してこちらの様子を窺うその笑顔に紬以外の存在が視界に映らなくなった。
「あ…あれ?どうかな、似合う?」
俺の反応の薄さに紬が心配そうに意見を求めてくる。その声にはっとして慌てて言葉をまとめる。
「うん、すっごく似合ってる。見惚れてた。かわいいよ」
「よかった。この服見せるのは柊史くんが初めてなんだ。そっか、見惚れちゃったかぁ」
ふふふ、と満足そうに笑う。俺も「お約束」を果たせたことに安堵する。
「じゃあ行こうか。今日はどこに連れて行ってくれるの?」
そういうと紬は俺の手を引いて歩き始める。俺はその手をしっかり握り返しながら、きっとどこに行ったとしても今日は紬以外は目に入らないだろうなと考えていた。
☆体操服
夏の日差しが照り付ける、どこに行っても日差しからは逃げられない校庭の隅で一人座って休憩していた。なんで海道たちはあんなにずっと動いていられるのだろうか。
今は正午前。昼休み直前の体育の授業。こんな暑くちゃやってられないとうなだれていると、強い日差しのおかげでやけにはっきりした影が一つ近づいてくる。
「お疲れ様、保科君。大丈夫?」
「ああ、椎葉さん。お疲れ、大丈夫だよ。ちょっと暑さに打ちのめされてるだけ」
言い返しながら椎葉さんの格好に違和感を覚え、まじまじと見る。
「あ、体操服…」
そうか、体育はいつも女子とは別の場所でやっていたから体操服姿が新鮮なんだ。
「うん。体育だからね。体操服は女の子っぽくはないけどみんなと同じ格好ができるから、体育は苦手でも体育の授業は好きなんだ」
そう椎葉さんは笑う。確かにあたりを見れば他の女子もみんな同じ格好をしていた。
しかし。女の子っぽくないは絶対に嘘だろう。薄い生地のシャツが汗を吸って張り付いている。さすがに学校指定の服だけあって透けて見えはしてないけど、その格好は十分に〝女の子らしさ〟を強調していた。ちょっと直視できない。
「保科君?どうかした?やっぱり具合悪い?」
自分のことを邪な目で見る俺に彼女は心配そうに言う。この天使をせめて他の男に見せてたまるかと、うまくはないおしゃべりでどうにかこの場につなぎとめようと決心した。
☆「お約束」
この二人は絶対にべたないちゃつき方をするだろうという独断と偏見によるお話です。
「待った?」から始まって格好をほめるところまでデートのたびにやってほしい。
☆体操服
男女差の違いがあまりない服なら紬も問題ないのでは?というお話。
呼び方からお察ししての通り付き合う前時点、魔女の代償は継続中です。
女の子〝らしい〟恰好ではないかもしれないけど、絶対魅力的。