私を呼ぶ声/壁ドン
☆私を呼ぶ声
日中の賑やかさは欠片もなく、ただ手元の調理の音だけが耳に届く。バイトの子たちは既にみんな帰り、今店に残っているのは新作メニュー検討のため一人鍋を振るう私と
「涼音さん、ちょっと」
私の手伝いを買って出てくれた昂晴だけだ。
新作メニューはアイデアだけでは完成しない。何度も何度も試作品を作り微調整を加えつつお客様に提供できる基準をクリアしなくてはならない。そのために自分で何度も食べるけど、こうも同じのばかり食べていると味の良し悪しがわからなくなってくる。だから手伝ってもらえるのは素直にありがたい。
「?…涼音さん?」
私は火の通り具合を見ながら火力の調整を行う。焼きすぎても焼けてなくてもダメ。自分自身の納得できるポイントを手探りで見つけ出す。おっと、ここでアレとソレを加えて、と。
「涼音さんってば、聞いてくださいよ!」
「ん?ごめん、調理で聞こえてなかった。なに?昂晴」
嘘だ。しっかり昂晴の声は聞こえていた。調理音がうるさいのは事実だけどそんなの昂晴も分かったうえで声を出している。
ただ、私の名前を呼ぶ声が嬉しくて愛しくて。つい聞こえないふりをして何度もそれを求めてしまう。誰にも言わないささやかな私の幸せ。
☆壁ドン
「壁ドンってしたことある?もしくはされたこと」
「なんですかいきなり。どっちもないですよ」
閉店後、キッチンの片づけ最中に涼音さんが話を振ってくる。
「…いやあるでしょ、私に。壁ドンってか押し倒しだけど」
「あれは事故です。というか、ならなんで聞いたんですか」
「いやね、漫画とかでは見るけど実際やられたらドキドキするものなのかなーって」
「実体験がないから何とも言えないですけど、あれのドキドキって恐怖カウントだと思うんですよ。自分より大きな相手に逃げ場なくされて迫られたら心臓バクバクですよ」
なるほど、と涼音さんは考え込む。
「じゃあさ、君より背が低くて力も弱い私が壁ドンしてもなんとも思わないわけだ」
「まあ怖くはないですね。…あ嘘、包丁はしまってくださいって。そもそも涼音さん、壁ドンっていっても届かないでしょ?」
「…上等。年上をなめるな!」
そういうと俺の肩あたりをどつく。一歩引いて耐えようとするが何かが足にぶつかって背中から倒れ込む…前に壁に背がついた。そして、ドン。
「どーよ昂晴。ドキドキした?」
転びかけたパニックと突然きれいな顔が目の前に至近距離にあるせいで涼音さんのことしか考えられなくなる。なるほど、壁ドンって効果あるんだな。
☆私を呼ぶ声
やなや渾身のお気に入り作品。
すごく気に入ってます。
何度でも大好きな人に名前を呼ばれたい…。
なにこれ涼音さん超かわいい。
☆壁ドン
そりゃあの綺麗な顔がゼロ距離にあったら即落ちますよ、てお話。
「どーよ?」って聞くとき絶対に超どや顔してる。