☆妹の矜持
今日は家の近所の夏祭りに、お兄ちゃんと二人きりで来ている。
仕事の都合をつけられなかったお父さんには「小学生だけで危ないから、二人とも絶対一緒にいるように」としっかり言い含められた。
心臓に響いてくるような和太鼓の演奏やきれいな笛の音、はしゃぐ人々の喧騒、あとは屋台のおいしそうな食べ物の匂いがどっと押し寄せる。
会場に着いてからしばらくの間は、お兄ちゃんもわたしに気を使ってゆっくりと歩いてくれていたけど、だんだんとお祭りの雰囲気に吞まれてどんどん進んでいってしまう。
家を出るときにはあれだけ「虫よけはしたか」とか「歩きやすい靴にしておけよ」とかお兄ちゃんしてくれてたのに。
さりとてここで「はぐれちゃうよ、気を付けて」なんて注意したら、お兄ちゃんの中の〝兄の矜持〟が傷ついてしまう気がする。……それはちょっと避けたいな。
迷っている間にも二人の距離は離れていく。
ああ、もう!
焦ったわたしはとっさにお兄ちゃんの手を握った。
「どうかしたのか、七海?」
「あ、いや、えーと……あ、お兄ちゃん! あれ取って! 射的のクマさん欲しい!」
繋いだ手が目的達成の証ではあるけれど、なんだか気恥ずかしくなってついついごまかしてしまったわたしがいた。
うう、お兄ちゃんがクマさんに集中している間に次の作戦を考えないと……。
☆むしよけ
今日は家の近所の夏祭りに、お兄ちゃんと二人きりで行く予定。
せっかくの夏祭りデート。華やかな浴衣を着て、髪飾りで彩り、支度を完了させる。
「お待たせ、暁君」
「ああ。……似合ってるな、浴衣。可愛い」
「ありがと。暁君も似合ってるよ、甚平姿」
「七海が着ろ着ろうるさいからな。まあ涼しくていいけど」
「じゃあちょっと早いけど行こうか。下駄履き慣れてないからゆっくりになるし」
「待った七海。出る前に虫よけしとけ」
「え? 浴衣着る前にしたけど。スプレーの」
「そうじゃなくて。もっとでっかい虫用だな」
そう言って暁君は少し視線を外して照れくさそうにわたしの左手の薬指を掴む。
「本物は流石にまだ早いけどな。それ、付けておいてくれ」
精一杯の澄まし顔に感じてしまう胸の高鳴りと、ほんのちょっぴりイタズラ心。
「えへへ、ありがと。……でーも、本当はこんなの要らないかも」
「気に入らなかったか? 七海の好みとかも考えて用意したんだが」
「そうじゃなくて。これよりも、もっと大きな虫よけがここにいるでしょ?」
「なるほど。そういうことなら、今日はずっと離さないからな。さ、行こう七海」
差し伸べられたその手をしっかり握りしめて、わたしたちは家を出た。
☆妹の矜持
ちゃんとわたしのこと見ててよね、てお話。
一週間連続七海ちゃん投稿第6弾。
幼いころの夏祭りの一幕。
暁は七海のことをしっかり見ていようと思ってはいても、まだまだ子どもだからいろんなことに目移りしてしまいそう。
なんだかんだで七海ちゃんのほうがしっかりしていそうな気はする。
このころは別に異性としての意識はしていないとは思いますが、ふとした瞬間にドキドキしてると嬉しいな。
☆むしよけ
虫除けにおひとついかが? なお話。
一週間連続七海ちゃん投稿第8弾。
あのころとは違って徹頭徹尾七海ちゃんの王子様役ができていたら嬉しいな。
せっかくの舞台を利用して思う存分イチャコラしてほしいです。