☆タオルに込めた想い
げほ、げほ、とやけに乾いた音の咳が聞こえる。
昂晴君が大学に入学してから約一ヶ月。新しい環境にもそろそろ慣れたかという油断からか、風邪をひいてしまったようで。それとなく毎日様子を聞いていたら、何やらおかしい。その疑念からこうしてお見舞い……というか看病に来ていた。
「悪いな、希。いきなりこんなカッコ悪いところ見せて」
「んーん。カッコ良い昂晴君はわたしも見たことないから大丈夫」
「希さん⁉ 病人にはもう少し優しくしてくれてもいいんじゃないですかね⁉」
「うそうそ。ほら、そんなに大声出すと喉痛めるよ。この土日でしっかり治さないと講義に出られなくて困るんじゃないの?」
そうやって昂晴君を宥めながらなんとなく散らかっている部屋の掃除をする。
大学生になって少しは大人になったかと思えばそんなことないし。
というか、わたしをおいて一人で大人にならないでほしいし。
まあ話を聞く限り、昂晴君の想い描いていたバラ色の大学生活と現実は違ったようで、未だに浮ついた話の一つも聞かないのは安心しているのだけど。あ、そうだ。
「お昼、お粥とおうどんどっちがいい? ……ってやけに静かだと思ったら寝てるし」
風邪を治すためにはそれでいいんだけどね?
「まったく。こっちの気も知らないでいい気なもんだよ」
わたしはこの秘めた想いを冷たいタオルに込めて昂晴君の額にバシッと叩きつけた。
☆欲しかった思い出
学校の友達と一緒に写った写真を、昂晴君家のテーブルに並べてみる。
「お、修学旅行の写真か。俺の時もここに行ったな。懐かしい」
「うん。昂晴君の時にたくさん写真見せてもらったからね。見覚えのある場所では大体撮ったかな」
「……本当だ。ここもそこもあっちも、なんか見覚えあるな」
「でしょ? わたしは初めて行ったのになんだか懐かしくなっていっぱい撮っちゃった」
「楽しかったか? まあ笑顔で写ってる写真がこれだけあるなら聞くまでもないか」
「もちろん楽しかったよ! さすが修学旅行だね、一生の思い出だよ!」
もちろん楽しかった。大切な思い出だ。
……でも。
友達と笑いながら初めて歩く道の途中で、なぜかここにいない人の顔が思い浮かんだ。
どうして今、その人がわたしの隣にいないのかがわからなかった。
本当、同じ年に生まれて、一緒に学校に行けたらよかったのになぁ。
授業中に先生の目を盗んで手紙の交換をしたり、ふと目が合って笑いあったり。
出席番号で指名される日の朝になって慌てて「宿題見せて!」なんて言ってみたり。
そんな些細なやり取りだって、きっとかけがえのない思い出になったのだろう。
あなたがその道を歩いたのは四年も前のことなのに、いつまでもそれを考える。
そしてその四年後に、あなたとの架空の思い出を辿ってわたしの思い出を作り上げる。
☆タオルに込めた想い
わたしの気持ちなんてこれっぽっちも知らないくせに、てお話。
年下幼馴染の心情を書き連ねるのはとても楽しいものです。
もっとこういうの書きたいですね。
浮いた話の一つも聞かないのは安心とか、普段から違う環境に身を置いていて相手の生活がわからないからこその考えが漏れていてとても好みですね。
ところで最後のタオルを叩きつけるのはなんなら起こしちゃってもいいやくらいはちょっぴり思っていると思います。多分。
☆欲しかった思い出
どうして今この瞬間にあなたはわたしの隣にいないの? てお話。
ちょっと暗めのお話になりました。
個人的に何が面白いかって、これサッカー漫画の「ジャイアントキリング」読みながら書いたんですよね。試合盛り上がって熱い展開だったのにどうしてその熱が反映されなかったのか……。
でもこういうのもすごく好みなんですよね。
妹だとか幼馴染だとか、幼いころからの想いの積み重ねがないとどうやってもできない回想です。
授業中に先生の目を盗んで~からのところはもう本当に好み。大好き。
「架空の思い出を辿る」というのがあるはずのない可能性への未練が窺えてよいのです。