☆お姉ちゃん
あ、これはきっと夢なんだな、とわたしは思った。さっきまでリビングで洗濯物をたたんでいたはずで、おそらくはそこでうたた寝をしてしまっているのだろう。
だって今目の前にいる暁くんの背が私よりも低いんだから。しかも、私のことを「七海ちゃん」と呼んでくる。お父さんの「七海ちゃーん♡」と可愛がるような呼び方ではなく、むしろわたしに甘えてくるような呼び方。やだかわいい。
「ねえねえ、暁君。ちょっとわたしのことを〝お姉ちゃん〟って呼んでみてよ」
とお願いしてみる。暁君はちょっと戸惑った様子で
「お、お姉ちゃん……?」
きゃーーー‼ 思わず歓声を上げてしまう。かわいい! かわいい! かわいい! 抱きしめちゃいたい。抱きしめちゃおう。ぎゅーー。
「わっぷ!?」
暁君がちょっと苦しそうな声を出した気もする。でもだめ我慢できない。
「んー、いい子だね暁君。今日はお姉ちゃんが暁くんの好きなもの作ってあげるからね。何食べたい?いっぱい作ってあげるからね。お姉ちゃんがいっぱい甘えさせてあげるからね。思いっきり甘えていいんだからね!」
その日の晩御飯、暁君がいつもより手伝いをしてくれた気がする。途中で、なにかぼそぼそと「下剋上阻止……」と聞こえた気がした。
☆妹
わたしが引き取られた先には一つ年上の男の子がいた。ぶっきらぼうで話しかけにくくて、それでもわたしのことをしっかり見ていてくれているのがわかった。だからわたしはこの人の「妹」になりたいと思った。
学院の放課後、特にあてもなく敷地内をさまよう。もう慣れた道だけどなにか変化はないか、「夜」に支障の出ることはないか、少しでもサポートできることはないか。
そんな感じで歩いているとよく見知った顔を見つけた。
「あっ、暁く……
「見つけたー!」
わたしの声はもっと大きな声にかき消された。声はこの学院に転入してから知り合った女子生徒のもの。暁君に駆け寄りなにか話し始める。
わたしには聞こえない声。わたしには向けない目。わたしには見せない顔。……わたしはそんな表情見たことない。少し赤らんで照れたように笑っている。こちらからは見えないけど女子生徒の方も同じなんだろう。
きっとこの先わたしには見せてくれない、あの女子生徒だけのものなんだ。
二人並んで遠ざかっていく背中を見送りながらわたしは一人そこから動けなかった。
わたしはあの人の「妹」になりたいと思った。
わたしはあの人の「妹」にならなくちゃいけないと、思った。
☆お姉ちゃん
もうね、ノリッノリで書いたやつです。きっと七海ちゃんはお姉ちゃんになったら壮絶甘やかし系の姉になりそう。
暁も暁で別にいいじゃない。毎日起こしてもらってて、ご飯作ってもらってて何が不満なのか。プライドか? 兄のプライドなのか? それを捨てたらきっと新しい世界が見えてくる。ダメ人間確定だけど。
☆妹
一転して失恋模様を描いたものです。各√で暁君の恋心に気づいたときの七海の反応に心が痛みます。
ちなみにやなやはこういうお話も好きです。だからきっとまたやります。ごめんね。
そういえばTwitterで初リプライをいただいたのがこの話でしたね。
もう嬉しくて仕方なかったです。Twitterの更新見たら気軽に感想言ってもらえると喜びます。