会場はブーイングの嵐の最中であった
ステージ上に立つのは轟と麗日
準決勝進出を賭けた戦いである
ヒーローの卵達がお互いの“個性”をぶつけ合い、
身体能力と知略を尽くした戦いを観客は見に来ていた
しかし、その期待は裏切られたのだ
ミッドナイトによる試合開始宣言の後
2人は睨み合いを続けていた
お互い、これまでの試合や競技で“個性”を知っている
いや、同じクラスで授業を受けていたのだ
知らないハズがなかった
制空権の取り合い
或いは相手を警戒し認めているからこそ
下手に仕掛けることができないでいた
その一触即発の空気の中、麗日は微笑んだ
一旦、仕切り直しだと言わんばかりに
微笑み、ゆっくりと前進し右手を差し出す
「轟君、私を警戒し、私の戦い方を軽蔑するのはわかる
…砂藤君は私より格上だったんや
アレしか勝つ為の手がなかったんや…
そんでもな、轟君
君は強い、私より砂藤君よりもや…
正直言って勝てると思ってない
だから…胸を借りるつもりでいくわ
私がこう言うんのも変やけど、いい試合にしようなぁ」
諦めたように、
また、新たに決意をしたように右手を出した麗日
握手だ
友好のためか、決意の証か、はたまた…
「…いい試合になるかはわかんねぇ
ただ、俺も全力で戦う」
『試合中にも関わらず!!
熱い!!熱い握手を交わしたァ!!
とっても私好みのシチュエーションよ!!』
『これぞ青春って感じですね!!』
━━握手
友好を意味するソレを交わしている時、
轟は麗日のことを対戦相手ではなく
1人のクラスメイトとして接してしまった
「ふっ」シュッ
轟の端正な顔に麗日の裏拳が炸裂した
…したかに思われた
拳と顔の間には轟の腕が差し込まれガードが成功していた
「……」
「やるなぁ轟君、私の思った通りや!!
戦おう轟君!!今度こそ正々堂々と!!」
麗日は再び微笑みを携え右手を差し出す
轟は麗日を睨みながらも差し出された右手に…
「おりゃっ」グリッ
「ちっ…」
掴んだ右手をそのままに
麗日は旧式一本背負いを仕掛けた
旧式一本背負いは柔道の試合では使用が禁止されている
いわゆる柔道の技の一本背負いは
あくまで競技用、スポーツの技であるが
旧式一本背負いは古武術の流れを組む殺人技
戦国時代の合戦を前提とした技であり
特徴として投げの際に腕をひねり関節を決め、
相手の腕を折りながら投げること
不安定な姿勢のために受け身が取りにくく…
というより首の骨が折れれば上等という技である
しかし、男女の筋力差か積み重ねた技量の差か
轟はなんなく窮地を脱することに成功した
『友好の儀式と思いきや奇襲に相次ぐ奇襲!!
麗日さんはいったい何を目指しているかしら!?』
『少なくともヒーロー向きの行動ではありませんね
おや?…麗日さんの様子が…?』
「轟君、握手しよ!
前、言ってたよね?“個性”のリスクを聞いた時、
“握手…避けられるようになること”って!」
『~~っ!!言葉もありません!!
3度目!!3度目です!!』
『麗日さん…何を考えているのかしら…』
黙する轟
されど、麗日は微笑んだまま饒舌で
「この手が取れるん?…轟君
この手を取る勇気はあるん?」
「………」
『あ~っ!!なんということでしょう!!
轟君、麗日さんの魔の手を取ってしまったぁ!!
麗日さんの微笑みは悪意に満ちているぞぉ!!』
『でもこういう何度やられてもすり寄ってくる感じ…
なんか“わんこ系男子”って感じで好み!!』
『あ、ソレはわかります』
「信じていたよ!轟君がこの手を取ってくれるって!」
「…………」シュッ
「がぁっ!?」
『ここで轟君の怒りの鉄拳炸裂~!!』
『その冷たい表情も素敵ね!!
ゾクゾクしちゃうわ!!』
これまでのお返しとばかりに
轟の左のラッシュが麗日に突き刺さる
右手の握手はそのまま握り続け
友好的な握手ではなく
決して逃がさないという闘意の現れのようだった
「…ぐぅ、信じて…いたよ…
この手を取ってくれるって!!!」
轟の怒涛のラッシュの最中、
麗日は握り合った右手を引き轟の体勢を崩した
それにより轟の攻撃は逸らされ外れた
そうしてできた隙を麗日は見逃さない
投げ…からの
乾いた木の枝が折れるような音がステージに響いた
折れたのは木の枝などではなく…
苦痛に顔をしかめる轟
対して麗日は颯爽と立ち上がると
パタパタと体操服の汚れを払い…
「立って、轟君」
その言葉に会場の観客、生徒、教師は唖然とした
何を言ったんだ?
いや、何を言っているんだコイツは…と
「立って戦おうやないか!なぁ!轟君!!」
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轟 焦凍は家族思いの少年である
家事の手伝いもする
自室よりも家族で居間で過ごす時間の方が長い
家族の誰かの誕生日には貯めた小遣いでプレゼントを買う
もっとも、それはここ十年のことであるが
本人は気がついていない
幼かったために記憶があやふやなためだ
焦凍が5歳の頃、
父親から虐待に近い指導を受けていた
家族の仲は冷え込み
1人の”ヒーロー”と“成功作”、
“後継者を生む道具”と“後継者に成れなかった失敗作”
そんな“家族”という括りになっているだけの道具だった
そんな中で末っ子であり“成功作”である焦凍は愛された
父親が厳しい分、母は父の居ない場所では可愛がり、
いつの日だったかデパートに行った時には
オールマイトのオモチャを買ってくれ
父には内緒だとレストランでケーキを食べさせてくれた
姉もだ
姉も焦凍を可愛がり、
おやつだったり、ご飯のおかずで焦凍の好きな物が出ると
いつも分けてくれた
そんな母と姉が大好きだった
轟 焦凍本人も忘れている
だが、深層意識に刻まれた大切な記憶
そして、とある変態の魔の手によって
父親はあらゆる意味で変わってしまった
性別すら別人のようにだ
休日の家族サービスどころか
家族第一主義、仕事より家族と明言し、
季節ごとに家族旅行は行く、
夏場の週末は家族でバーベキューだったりレジャーに、
朝食と夕食は家族揃って食べる
そんな素敵パパになっていた
そのような暮らしが十年続いたために
焦凍の父への印象も上書きされていった
しかし、深層意識に刻まれたソレは変わらずにいた
母と姉に━━ひいては女性に優しくあろうとした
訓練だと、試合だと頭では理解していても
思わず力を抜いてしまう
隙ができてしまう
本人はその理由に気がついていない
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プッツン、何かが切れる音がした
ソレは決して“音”として発生した物ではない
聴こえたとしたらば幻聴であろう
しかし、その幻聴を会場の全員が耳にしていた
思い切り振り抜いた左腕
その先端は麗日の顔面にめり込んでいた
一拍を置いて、膝を着く麗日
その顔と轟の左拳の間には血が糸を引き…
思い出したように鼻血が吹き出した
ボタボタボタリ
血が、麗日の血がコンクリートの上に溜まる
信じられないような目で麗日が轟を見つめる
雄英高校体育祭は“個性”の使用が可能だ
むしろ、鍛えた“個性”を見せる場とも言える
轟の左手が炎を纏う
相手が女性だからなんだというのか
昔からよく言うではないか
“汚物は消毒だ~!!”と
地獄の悪鬼もかくやという表情の轟に対し、
短く悲鳴をあげて
麗日は呆気なく背を向け逃げ出した
途中で転び、怯えるように頭を抱えてうずくまる
胸糞わりぃ…轟は思う
奇襲、騙し討ちを仕掛けておいて
いざ戦いとなったら逃げて震えだす
気分が悪いし、つまらない
ただ、ただ嫌悪感が湧き出るばかりだ
もっとも、これで試合は終わりだ
相手は試合放棄した
試合放棄かな…?」
怒りは冷静さを失わせ
冷静さを失うと判断力が鈍り
判断力が鈍ると隙ができ
隙ができると思わぬ攻撃を受けることもある
そう、教わってきたが
轟は怒りも一線を越えれば逆に冷静になると学んだ
爆豪ではない
思わず左手の炎と共に轟の口から飛び出した言葉である
轟は冷静だ
すこぶる冷静だと思っている
自分では
ステージ上を焼き尽くす炎はなかなか消えない
轟の限界を超えた炎だ
その温度はステージのコンクリートすら融解していた
そして、炎が消えた時には
とても、とても小さな塊が残っているだけだった
『え!?ちょっとコレ大丈夫なの!?』
『救急車!!いやリカバリーガールを早く!!』
恐慌状態となる会場
非常に騒がしいハズだが
轟には何も聴こえなかった
酷く静かでそれでいて耳鳴りが五月蝿くて
頭からザーッと音を立てて血が引いて
顔が冷たくなって
目の前の景色が白と黒で点滅を始めて
心臓が痛いほどに高鳴って
息の仕方を忘れたように呼吸は乱れ
声は…“個性”で封じられたかのように出なかった
…5秒が過ぎ、10秒が過ぎ
嗚咽がでないように、噛まないように、
嘘だと思いたくて、信じたくなくて、祈るように、
掠れた声で、呟くように、途切れながら、
返事は………………………………………………
返事は遥か上空から落下してきた麗日の膝蹴りだった
━━━轟 焦凍、意識不明の重体により緊急搬送
精密検査の結果、
右肘頭骨折、右腕部内側側副靭帯損傷、
上腕二頭筋腱断裂、前頭骨亀裂骨折、脳挫傷、
頚椎損傷…他18箇所の亀裂骨折及び単純骨折
リカバリーガールによる“治癒”及び
複数の“医療系個性”、色丞による“特殊治療”
医師達の懸命の治療により
翌日に意識を取り戻し、
身体に後遺症なく退院するととなった
心に深い傷を負ったためか、
「女こわい、女キライ」と繰り返し呟いており
経過観察が必要と思われる
※轟 焦凍の設定
体育祭最大の被害者(物理部門)
翌日には肉体的には回復したものの
女性恐怖症を患う(母、姉は平気)
今後、男に走るか家族(意味深)に走るか要経過観察
※轟!!空から女の子が(物理)!!の説明
自らの身体に“無重力”を使用し浮いて緊急回避
その際に体操服を盾にした
轟の炎により発生した急激な上昇気流で上空へ
熱かったので体操服を捨て移動速度を重視
“無重力”の範囲外だった体操服は落下し焦げ焦げに
炎が納まり次第、“無重力”を解除し落下開始
ちょうど轟が立ち竦んでいたので頭に膝蹴りかました
全体重が乗り高高度からの落下により加速していた為、
予想以上に強力で凶悪な一撃と化してしまった
※雄英体操服の設定
UA(雄英)デザインのジャージ
ヒーロー科の過酷な訓練用に耐えられるように
断熱、難燃、防刃、防汚、耐酸、耐塩基性に優れている
公式ショップ様より13200円で販売中
(販売されているものはコスプレグッズであり
一般的な衣類程度の防御性しかありません)
※麗日 お茶子の設定
メテオシュート(物理)ガール
試合に勝ったのにクラスの誰も目を合わせてくれなかった
轟の治療を終えて帰ってきた色丞にガチ説教された
女の子が人前で下着姿になっちゃいけません、と
※峰田 実の設定
轟戦で負傷し入院中
麗日が体操服を脱ぎ捨てるタイミングで
意識がないまま起き出し雄英高校に向かい移動開始
取り押さえるために医師から金的を受け入院延長