あまりにも面白いので他の連載が滞るという障害が発生しましたが、しばらくすると題材にしたくなるという困った発作が発症したという……
アニメはまだ未視聴で、あくまでアプリゲーム版で育てたウマ娘たちの感想文形式でお送りしたいと思います。
「ボツ。 こんなありきたりな内容を掲載できると思っているのか?」
数あるウマ娘専門誌の中でも格式高いと讃えられる一冊、「優俊」の編集室は活気に満ち溢れていた。
今日もチーフは部下たちにネタ探して来いだの、書き直せだのと檄を飛ばす。
その強さは期限が近づくほど機嫌も悪くなる物らしく、〆切3日前にして渾身の記事を書けたと意気揚々と持ってきた新人記者はその厳しい裁定に眩暈を起こしそうであった。
没の烙印を押された部下にとっては堪ったものではないが、それは没にしたチーフ当人も同じ気持ちであった。
〆切はもちろん大事だが毎月雑誌を楽しみにしている読者たちを満足させることの方が大事なのだと理解しているからだ。
だからと言って雑誌に穴をあけることはたとえ読者が許しても自分より上の鬼デスクが許すはずがない。
先ほど没を貰い、涙目でこちらを恨めしそうに睨む部下の能力では〆切内に自分を納得させる良い記事を書けと言うのは酷だし、他の部下たちもラストスパートをかけているためとても頼める状況ではなかった。
八方塞がりのように思えるこの状況、だがチーフには秘策があった。
「仕方がない。
そう呟くとチーフは携帯電話を取り出し目当ての電話番号を探し始める。
それに驚いたのは恨めしそうに睨むあまり自席に戻るタイミングを失った新人記者であった。
「て、天ぷら!? あのチーフ。 先ほどお昼食べていましたよね? というより今そんなもの食べている余裕なんてあるんですか!?」
自分のせいでヤケになったのではないかと心配する部下をチーフは手で制し、やっと見つけた連絡先にテンプラと登録された番号に電話を掛ける。
「もしもしテンちゃん? 俺だ俺。 突然でスマンが、なんか良いネタない? 出来ればデビュー前でこれから大活躍しそうな未来のスターになれる
「チーフ! 先ほどの電話なのですが、テンプラって人に穴埋めを頼んだように聞こえましたけど何者なんですか!?」
険しい顔でチーフに詰め寄る新人記者。
まだ編集部内の先輩方に頼むのなら納得がいくが外部の人間に頼んだことに恥ずかしさと怒りが半々に混ざり合った複雑な感情を持て余していた。
だがチーフは涼し気に、と言うよりは問題が一つ解決した為か満足気な顔だった。
「ん? あ~そうか、君はまだ会ったこと無いのか。 テンプラっていうのはペンネームだ。 本名は
「トラックマン? 運送業の人ですか」
思わずズッコケるチーフ。 反射反応で怒鳴り散らそうとしたが、最近研修を受けたハラスメント防止教育を思い出しグッと抑える。
一度冷静になれば業界人になって日の浅い人間ではそう言った奇想天外な勘違いも仕方がないのではないかと思い直した。
「……君の教育担当は何を教えているんだ、まったく。 トラックマンというのはウマ娘たちのレース専門紙の記者の総称だ。 レースに出る予定のウマ娘のタイムを集計してレースの予想を立てたり、普段の様子を報道しウマ娘の魅力をファンに伝えるのが仕事だ。 つまり、俺たちも広義ではトラックマンだ。 業界常識なので覚えておくように」
「はい。 勉強不足で申し訳ありません。 それで、話は戻りますが・・・何者なんですか? その人」
「予言者だよ」
「予言者?」
「そうだ。 あいつは何故かどのウマ娘がどのくらい活躍するのかある程度分かるんだそうだ。 それもデビュー戦の前から」
「まさか! そんなことが可能なのですか?」
「実例があるんだから認めるしかないさ。 シンボリルドルフは知っているだろう?」
「はい、あの皇帝ですよね?」
「そうだ。 その皇帝をデビュー前から目を付けて最初に取材したのがそいつだ。 もちろん、皇帝が世間の注目を集めるのに然程時間は掛からなかったがその僅かな時間の差で手に入れられたかもしれない情報は膨大だ。 しかも、注目が集まり過ぎたからか途中から皇帝への取材は制限されてな、多くの出版社がテンプラから莫大な金額でネタを買ったということがあったのさ」
「そ、そんな凄い人に穴埋めを頼んだんですか!? しかし、変わったペンネームですね。なんでテンプラなんでしょう?」
「さあな? 縁あってそれなりに親しくなれたんだがその理由は教えてくれんのだ。 ささ! ぼやぼやしてないで次のネタ探してこい! あいつの原稿料高いんだから頼むぞ。 それこそ老舗天婦羅屋にしばらく通えるぐらいにはな!」
◇◇◇
「ふぅ……まったく、あの人はいつも無茶な注文をする。 まぁ、我ながらあんなバ鹿高い値段で定期的に買ってくれるんだからそのぐらいのサービスをしないと罰が当たるよな」
チーフから先ほど依頼を受けたこの男、自らをテンプラと卑下する青田海渡は書斎へと向かう。
自宅の北向きに設置された窓以外の壁一面に大量の本やノートでびっしりと埋められた本棚で覆われているその部屋は昼間でもかなり暗かった。
少しばかりブラインドの角度を変えると春の柔らかな日差しが書斎を照らし、青田は本棚からお目当ての取材ノートを探し始める。
「お、あったあった」
しばらくノートを取り出してはページをめくり、そして戻し、ノートを取り出してはページをめくり、そして戻しを繰り返すと目当ての情報へとたどり着くとそこに書かれた内容に目を通し始める。
「……内容はまあ十分かな? けどこの内容に合う写真が不足しているからトレセンに撮りに行かないと。 取材申し込みの時間は……うん、今から出れば間に合うな」
そういうと青田は簡単に身支度を整えると自宅を後にする。
最寄り駅であるKO線下高井戸駅から東府中まで各駅停車の電車に乗り、そこから乗り換えで府中レース場正門前行きに乗り換えること41分少々。
その間青田はノートを読み返し、自分の記憶との相違がないことを確認しながら脳内で原稿の草案を練っていた。
「遂にあの名馬の名前と魂を受け継いだウマ娘が世に出るのか。 一体どんな娘になっているのか……楽しみだな。 しかし何回経験しても不思議な気持ちだ。 名馬が輪廻転生した世界に異世界転生ってどんなジョークなんだ?」
誰に語り聞かせる訳でもなく、感慨深げに言葉がポロポロとこぼれ落ちていく。
傍から見れば危険人物に見えなくもないが、平日の昼過ぎ、それもレースが開幕していない日にこの電車を利用する人は少ないことを彼は知っていたからこその行動であった。
「ウマ娘、彼女達は走るために生まれてきた。 時に数奇で、時に輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る。 それが彼女達の運命。 この世界に生きるウマ娘たちの未来のレース結果はまだ誰にも分からない。 俺以外は……というのは彼女達への侮辱だよな。 彼女達は一つの命だ。 ある程度の運命が働くのかもしれないがそれを撥ね退けるだけの力を有している。 だからこそ気高く、美しく、人々の心を動かすんだ」
『まもなく~、府中レース場正門前、府中レース場正門前でございます』
もうすぐ目的地に着くことを知らせるアナウンスが流れ始める。
男は一旦思考を止め、目を瞑り、心の中で宣誓を行い始める。
それは彼が取材前に行うルーティンであり、懺悔でもあり、戒めでもあった。
一つ、ウマ娘たちへのリスペクトを忘れるな
二つ、情報は力だ、過剰な力はウマ娘たちへの枷になることを忘れるな
三つ、これは前世で夢を見させて貰った名馬たちへのささやかな恩返しなのを忘れるな
宣誓が終わると丁度電車のドアが開く。
レース開幕日なら人でごった返す広いホームに降りたのは青田以外いなかった。
こうして彼の新たな3年間が始まる。 彼が取材したウマ娘たちがどのように活躍するのか……。 彼が前世から持ち込んだこの世には出せないエピソードや記録をベースにどのような活躍を魅せてくれるのか……。
このお話はサラブレッドがアラブと偽るかの如く、この世界の住人と偽って生きるテンプラと自虐する男が取材で得た情報を、持ち越した元ネタと照らし合わせた独自の見解をまとめた手記である。
主人公がテンプラを名乗った訳を知りたいですか?
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