テンプラと自虐する男の㊙手記   作:Mak

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テンプラの秘密: 実は……、コーヒーはブラック派


小川に咲き誇る大輪の花

「ふぅ……、すっかり遅くなってしまったか。 今日のレースはG1でも無いのに凄い観客数だったな。 まあそれだけ彼女の存在が大きくなった証拠かな?」

 

 

時計の針はてっぺんに差し掛かろうとしている。

そんな真夜中にこの男、青田はやっとの思いで自宅に帰宅したところであった。 

その肩には仕事道具であるカメラと取り外された望遠レンズがぶら下げられており、手にはコンビニのビニール袋を持っていた。 

どうやら取材の帰りらしい。

 

 

「さてっと、軽く飯食ったら彼女のここ3年間の記録をノートに纏めるとするか。 いつもなら彼女たちが味わった勝利の美酒程ではないにせよ、それなりに高いワインを開けるところだが……うん、今日はコーヒーにするか。 それもとびきり濃い奴を」

 

 

そういうと彼は買った弁当を電子レンジで温め始めると棚からミルとお気に入りのコーヒー豆を取り出す。

苦みが少なく柔らかな酸味と甘い香りですっきり爽やかな味わいが特徴の結構値の張るこのコーヒーに出会って数十年、すっかりこの魅力にやられた彼は家で飲む際にはこのコーヒーだけと決めていた。

それほどに彼にとっては衝撃的な出会いだったのだ。

ヒトとはコーヒー一つにこれほどの衝撃を覚えるのだ……、ましてそれがヒトとウマ娘の場合、それは計り知れないものだろう。

 

 

「文頭はどう始めようか。 ……うん、盗用・剽窃も甚だしいがやっぱり彼女たちを讃える名文句にこれ以上のものは無いだろう。 俺の頭じゃあ偉大なるコピーライターを超えるなんぞ土台無理な話だしな」

 

 

苦笑いしながら手慣れた手つきで豆を挽くとそれをコーヒーマシンにセットしスイッチを入れる。

同時に弁当も温まり終わったことを告げる音が流れ、しばしの小休憩。

 

数分後、芳しいコーヒーの香りが立ち籠もるコーヒーサーバーを持って書斎に入っていく。

青田の長い夜が始まった……。

 

 

 

 

 

本当の出会いなど、一生に何度あるだろう。

とある名馬を讃える名文句の一つだ。

例え世界が変わろうとも、この言葉は彼女の為にあると断言しても良い。

それほど美しい物語を魅させてもらった。

 

そして私にとっても、一方的ながらもこの名馬とウマ娘に出会えたのは本当に幸運だと言える。

 

実際には幸運ではなく、私だけの役得でもあるゆえ他の記者たちに対して引け目を感じない訳ではない。 

だが、やはりデビュー前から追いかけた選手というのは愛着が湧くもので、その地位を不動のものにした瞬間まで無事立ち会えたのはやはりどうしようもなく嬉しいものである。

 

 

そのウマ娘の名はスーパークリーク。

 

 

今やなぜかスーパーヒールと呼ばれ、彼女の一挙手一投足が多くのウマ娘に恐怖を与える存在となった大スターである。

 

……なのだが実際にはかなりおっとりした娘であり、正直年齢に合わない程の母性溢れる優しいウマ娘なのだが、圧倒的強さは時に受け手側にあらぬ誤解を生むものらしい……。

 

そう言えばどっかの三流雑誌が彼女をこう評していたっけか。

 

 

「一見小川の様に穏やかそうだが騙されてはいけない。 その実態は反乱間近の大河のごとく荒々しいので近づかない方がよいだろう……」

 

 

なぜこうなったのやら。 

追い続けた身としては失笑を禁じ得ない内容だがまあ、態々それを訂正する火消し記事を書く必要はないだろう。

いまさらこんな記事に精神を乱されるような二人ではない。

そう、あの二人には……

 

 

 

実を云うと彼女をここまで集中的に取材する予定は当初無かった。

取り上げるにしても葦毛の怪物二人を中心にそのライバルとして紹介するぐらいだろうなと漠然と考えていたぐらいだ。

なぜならその方が盛り上がるだろうという打算があったし、当時は然程興味の対象ではなかったからだ。

 

もちろん彼女が素晴らしい成績を残すことは会う前から確信していた。

とはいえ、彼女の場合はちょっと特殊で、ただ強いだけではどうしても物足りないという想いが自分の中にはあった。

 

ワガママなのは承知しているし勝負に懸けるウマ娘に、いや、すべてのスポーツ選手に願う想いではないのだが、たとえウマ娘に転生しようと、何となくだが彼女には自身のために勝利を勝ち取るよりも、誰かのために勝利を捧げて欲しいという想いがぬぐい切れなかった。

 

その誰かとはファンにではない。

それはこの世界のレースとあちらの競馬、その最たる違いである、とあるジョッキーに対してだった

 

 

基本、ウマ娘たちにとってレースとは個人競技だ。 

所属という意味でのチームは存在するし、仲間のウマ娘やトレーナーからのサポートは有るのだろうが、一度ターフに出ればそれは自分と鎬を削り合うライバルとの戦いとなる。

 

対して競馬とは人と馬の共闘、謂わば二人三脚みたいなものだ。

 

私は別にどちらが優れているのかを論じるつもりはない。

しかし単純に命が1つ分多く、意思疎通が容易ではない生命体のタッグという要素がレースに複雑さと深みを出していることは否定のしようがない。

 

その出会い、対話の果てに心が一つに交わり人馬一体となる瞬間にこそドラマが生まれること知っている身としては、詮無いことは承知だがやはり寂しく感じずにはいられないのだ。

 

 

……書いている途中もしもこの世界にもジョッキーが存在するとしたらどのようになるのか想像してみたのだが、字面も絵面も非常によろしくないので割愛とする。 

 

 

話は脱線したがスーパークリークの最も象徴となる逸話の要が存在しない以上、前世のように人々の心を豊かにしてくれるエピソードが期待できないと思い込んでいた私は、トレセン学園がマスコミ向けに発行する入学生徒名簿で彼女の名を見つけたときでも特に何とも思うところは無かった。

 

 

もちろん、スーパークリーク単体でも十分魅力的なウマ娘であることに変わりはない。

選手としては典型的なステイヤー型の特徴であるスタミナ量を持ちながら中距離でも十分通用するスピードを兼ね備えているためレースでは終始安定した走りを展開できる。

ひいき目に見てもこれ以上ない程お手本となり得る存在だ。

 

……また、競技に真剣なスポーツ選手たちを容姿の部分だけ抜き出して褒め称えるのは個人的には好きではないのだが、眉目秀麗、容姿端麗なウマ娘の中に合ってもトップクラスの美貌の持ち主でもあるため、たとえ成績が振るわなくてもアイドルとしての素質も要求されるこの世界においても十分ファンの人気を集める存在になるだろうとは思っていた。

 

とはいえ、その程度の内容なら私でなくても良いだろうと思っていたのが正直な気持ちだ。

浅ましい理由から始めたトラックマンの仕事ではあったが、それなりに誇りと楽しみを見出していた私としてはそんな結果を報じるだけの簡単な仕事をする気にはなれなかった。

 

 

そんな考えを変えさせたのはトレセン内で行われた選抜レースでの出来事だった。

 

選抜レースとはトレーナーが付いていないウマ娘向けの学園イベントであり、多くのウマ娘たちはここでトレーナーにスカウトされ、トゥインクルシリーズに向けて本格的な活動を始める。

 

件のスーパークリークもそこで見事なレースを披露し、中堅からベテランまで数多くのトレーナーがスカウトに殺到したらしいが、なんと彼女は何の実績もない新人トレーナーを逆指名した。

 

実を言うとこれは非常に珍しい話なのだ。 

何故ならトレセン学園に入学したウマ娘たちは共通してレースに勝つための努力を惜しまないからだ。

それ故にトレーナー選びにも余念がない。 

もちろん、相性の問題やフィーリングで選ぶ娘が居ない訳でもないが、三冠を狙える逸材がそれを行うのは最早暴挙と呼ぶに相応しい事件と言えた。

 

 

この1件は学園内外でもちょっとした話題にはなりはしたが、世間にはあまり知られていない。

 

なにせ三冠すら狙えるような逸材とはいえデビュー前のウマ娘の話だ。

記事にするにはまだ価値は低く、いくら非常に優秀と評価されたとはいえ新人トレーナーが担当に付いたという事実がマイナス材料として働き、更に同期のライバルたちが記事映えしたことも相まってか、宮仕えする多くの記者がクリークの才能が開花するまでの長期取材を躊躇ったのが理由だ。

 

 

だが私はフリーの身だ。

スーパークリークが選んだトレーナーとはどのような人物なのか……、もしかすると大物なのではと非常に興味をそそられた私は笠松行のチケットを後輩に譲り、多くのトラックマンたちとは逆にトレセンに取材に行ったものだ。

仕事であってもある程度趣味に走れる、フリーという立場の何たる素晴らしきことか……。

 

 

 

初めての取材は今思い返せば中々笑えるものだが当時は唖然とさせられたものだ。

なにせ、取材を受けるクリークよりもトレーナー君の方が緊張していたぐらいだ。

噂通り本当に新人なのだろう。

中年から見れば初々しいこの上ないことだが、同時にそんな調子では担当するウマ娘に悪影響を及ぼすのではと思っていたが、どうやらこの二人の間柄は特殊だったらしい。

 

今でこそ二人の名物のように受け入れられてはいるが、新人とはいえ成人したトレーナー君が自分より年下の、それも指導される立場にあるウマ娘に「いいこいいこ」と頭を撫でられる姿を前情報も無しに目の前で見せ付けられた私の心情を答えられる者など居ないだろう。

 

もうそれこそ四六時中とまでいかないが隙あれば「いいこいいこ」したくなるクリークと羞恥心のあまり逃げるトレーナー君とのやり取りはネタにはならない(と言うより涙目で記事にしないでとトレーナー君にせがまれた。 私が書かなくても多分すぐにファンに浸透するだろうに(というよりした))が何か期待できるなと思った私は時間の許す限りこの二人を追いかけようと決めた瞬間だった。

 

それからメイクデビューまでの一年間、他の子の取材をしつつ顔から火が出るくらい記事に出来ない恥ずかしいネタで手記が厚くなっていくと同時に彼女たちとの信頼関係も築くことも出来た。

 

 

取材中で特に印象深い出来事はクリークとトレーナー君に個別で相談を受けたことだろうか。

 

まず、スーパークリークにはどうやったらもっとトレーナー君を喜ばせることが出来るかという相談だった。

これについては簡単だった。 心に従ってはどうかとだけ答えた。 その方が面白い 良い結果になるだろうと思ったからだ。

そう伝えた時の笑顔は満面の笑みでありG2レース勝利並の笑顔は今も私のPCのメモリーに保存されている。

 

 

そしてその成果はトレーナー君からの相談で知ることが出来た。

まぁ、新婚もかくやという甘々な内容であった。 きょうび、付き合いたてのバカップルでもやらないような甘い誘惑であった。

よくもまぁ(内面は知りようもないが)おくびにも出さずにちゃんと自我を保てたなと感心したものだ。

 

そして肝心の相談内容はこのまま甘やかされて良いのだろうかという傍から聞けば惚気のような相談であった。

曰く、トレーナーとはウマ娘に頼られる存在であるべきというのが理想らしく、ウマ娘に甘えることに葛藤を覚えているらしい。

 

私は社会人の先達らしく、理想はあくまで理想でしかない、担当するウマ娘ごとに高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するべきだろうとだけ答えた。

怪訝そうな顔を向けられ「それは諦めろってことですか?」と聞かれたが後の事を考えればこの時無理やりトレーナー君を納得させることに成功した自分を自分で褒めたいと思う。

……無言で明後日の方向に顔を背けた時の「裏切られた」という顔を撮れなかったがザンネンで仕方がない。

 

 

 

さて、ジュニアクラス時代の彼女たちは絶好調であった。

途中調子が悪かったとのことだがそのようなことは一切表には出さず、無事メイクデビューを果たしクラシッククラスの幕開けとなったのだが事件は2月後半に行われたすみれステークスで発生した。

 

スーパークリークに謎の息切れが発症したのである。

原因は不明。 分かっていることは骨折では無いこと、少なくとも半年は休養を余儀なくされることだった。 

それはクラシック三冠の内、皐月賞、日本ダービーを諦めろということだった。

だがそれも、希望的予測でしかない。

根本原因を見つけ排除しなければあるいは一生走ることが叶わない可能性もあったのだ。

 

 

このことを知った私は運命の神とはなんと残酷なのだと嘆いた。

名前と魂を継がせるだけではなくその運命すらも継がせることに何の意味があるのかと。

まだ骨折ではないだけ神さまはお優しいのかもしれない、そう心で納得させながら。

 

そして何故私をこの世界に転生させたのかを。

 

クリークのケガは勿論予測はしていた。 だが私はそのことを彼女たちに伝えることはしなかったし忠告などもしなかった。

上手く伝えられる自信もなかったし伝えたことによる未知なる影響を恐れ、また変化に対して責任を負う自信が持てなかったからだ。

結果、こうして未だに後悔している。 いや、それは正しく無いな。 

きっとどの選択肢を選んでも後悔していたと思う。 

選んだこと選ばなかったことによる後悔‥‥果たしてどちらが正しかったのか……。

 

 

 

 

当然ではあるがクリーク程の選手のケガの情報はメディアにとって恰好の話題であった。

勿論、私の方に彼女とそのトレーナーに関する新しいネタは無いかと詰め寄られたこともあったが、その際には最近は会っていないから知らないと断っていた。

実際にこのレースの前後に敢えて会わないようにしていたのだから嘘ではない。

 

 

だが別に私だけがこの世のトラックマンというわけではない。 

一人程度の窓口が閉まったところで情報の流れは防ぎようがないのだ。

 

それと同様に、いくら会わないように努力しようとも私の仕事場がトレセン内でもある以上、偶発的に出会うことは避けられない。

 

皐月賞が終わり5月に入ろうとしたとある日、ばったりとスーパークリークに会ってしまったことがある。

その際、温厚で慈悲深いと思っていた彼女から飛び出したのは彼女から涙ながらの罵声であった。

 

今にして思えばこれが初めて聞いた彼女の、年相応のむき出しの本心だったと思う。

 

 

「なんで皆さんあんな酷いことを言うんですか! トレーナーさんは悪くないのに! ぜんぶ……全部私のせいなのに!」

 

 

涙をこぼしながらそう訴えてくる彼女に私は何も出来なかった。

せめてマスメディアの代表として彼女の非難を黙って受け止めることだけが私に出来ることだと信じて。

 

しばらく尽きることのなかった彼女なりの罵声は騒ぎを聞きつけてやってきた彼女のトレーナーと親友のタマモクロスくんがやってきたことにより収まった。

 

タマモクロスくんがクリークを保健室に連れていくとトレーナー君は私に謝罪をしてくれた。 そんな資格は私には無いのに。

そして彼は、こんな私に二度目の相談をしてきたのだ。

彼なりの不調の原因を。 

だが聞かされたところで私は医者ではない。 

それが正解かどうかすらも判断できるような人間で残念ながらない。 

なので、らしくは無いのだが自分なりのエールを彼に送らせてもらった。

私は予言者なのだと。 彼女はここで終わる定めではない。

必ず秋には花を咲かせることだろう。 だが、それは全て君次第だと。

 

予言者など他人が付けた大それた名前ではあったが彼が見つけた答え、それを信じたくなった私が出来ることは彼にすこしでも踏み出す勇気を与えることしかなかった。

 

この手助けが役に立ったのかどうか分からないし特に興味はない。

それを聞くのは野暮だろうし、きっと私が何もしなくても自力で結果を引き寄せたはずなのだから。

 

 

秋の菊花賞は素晴らしいレースだった。 

結果がモノを言うこの世界、クラシックの最後の舞台で華々しい成果を残したことにより世間の彼女と、なによりトレーナー君への評価はガラッと変わった。

 

曰く、奇跡の復活の立役者、遅咲きの天才などともてはやした。

 

正直、トレーナー君が天才なのかどうかは私には分からない。

なにせ私には人を見る目が無いのだ。

 

だがそんなことは関係ない。 トレーナー君が彼の生まれ変わりなのか……、はたまた私みたいな人間なのか……そんなものなど判りようはないが一つ分かっていることはトレーナー君がどこまでもスーパークリークの助けになりたいと、支えになりたいという献身の心は本物だということだ。

 

 

美しい物語を魅させてもらった。

目が覚めるような美しさだった。 

この世界にはこの世界の人馬一体の形があったのだと気づかせて貰えた。

それはあちらの世界に勝るとも劣らない魅力だと、世に伝えられたらなと願わずにはいられなかった。

 

 

さて……、菊花賞の後の活躍だが‥‥‥‥

 

 

 

「ん? こんな時間にメールか?」

 

 

深夜に仕事用のスマホがメールの着信を告げる。

執筆を一旦止めメールの内容を確認するととあるゴシップ雑誌からの依頼であった。

 

 

「スーパークリークとそのトレーナーの只ならぬ関係を表すネタとか無いかだって? 冗談じゃない! 読者全員糖尿病にするつもりか!?」

 

 

スマホをベッドに放り投げ、卓上のマグカップを拾い啜ろうとしたが既に中にコーヒーは無く、サーバーの方も既に無くなりかけていた。

 

 

「……淹れてくるか。 ここから先はコーヒー無しでは書けそうにも無い」

 

 

背伸びを一つし、青田はコーヒーサーバーを持って書斎から出た。 

 

彼がこの仕事受けたのかどうかは定かでは無い。

受けたところで影響はコーヒー豆が値上がりするぐらいだろう。

 

だが彼が予言できるのはそこまで。

かの2人が今後どうなっていくのか……それは彼にもわからない。

 

たとえ予想が一番人気でほぼ確実だとしても、レースでは何が起こるか分からないのだから。




スーパークリーク育成完了記念、 


のはずだったのですが、難航してる間にレジェンド、勝負服解放、覚醒レベルMAX到達記念になってしまいました。

最初はゴルシの因子継承ようだったのですが、今となっては一番好きなシナリオです。

スーパークリークの魅力の10分の1でも伝わってればと思っております。

それではまた!


追記。
武豊騎手の早い回復をお祈りしております。

主人公がテンプラを名乗った訳を知りたいですか?

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