テンプラと自虐する男の㊙手記   作:Mak

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テンプラの秘密: 実は……、胃薬を携帯している。


書き散らし “ウマ娘たちの食性について”

腹いっぱい食べられることは幸せなことだ。

だが、それは若さの特権である。 

 

最近は大好きだったラーメンも大盛りから中とんで並盛、しかも家系や豚骨を食べようものなら食後に胃もたれ防止の薬が手放せなくなってきた。 

 

好きで30代になったわけではないのに世間も体も年相応の行動をしろと脅迫してくるようだ。

 

なぜこんな個人的なつまらない愚痴が文頭になるのか……それは天高くウマ娘肥える秋のせいである。

 

 

 

最近はこの時期が来ることが嫌で仕方がない。

何故なら毎年この時期には重賞(パターン)レースならぬ重賞(パターン)取材がやってくるからだ。

 

そう、秋恒例の食べ物特集である。 

 

だが俺はトラックマンだ。 

一見、そんな物とは縁が無いように見えるが残念ながらこの世界ではそうもいかん。

 

なにせ取材対象はウマ娘たちなのだから。

彼女たちの存在がアイドルや芸能人みたいな側面もある以上、大衆というのは不思議なもので偶像たちが普段どのような物を食べるのか気になるものらしい。

 

と、言っても今回の仕事はそんなゴシップやグルメ系の雑誌の仕事とは少し違うが……

 

 

今回の仕事は毎年恒例になりつつあるトレセン学園に通うウマ娘たちの食生活の取材であり、掲載誌もトレセン学園入学志望のウマ娘たちに人気のスポーツ系の雑誌だ。 

レースの内容は勿論、レースに出場しているウマ娘たちの普段の生活やトレーニング内容、シューズや勝負服のメーカーの情報などが記載されている雑誌だ。

 

将来レースに出たいと夢を追いかける子にとっては参考にしたいという需要があるのだろう。

そしてもちろん、体を作る最も大事な要素である食事についても力を入れていたりするのだ。

 

かく言う俺も似た経験がある。

 

かつて憧れた史上最高との呼び声高い水泳選手の食事に関する記事を読んだことがある。

まったく参考にはならなかったが非常に話題になったし、そのけた違いさには驚かされたものだ。

なにせその選手が摂取する1日の総カロリーはなんと12000キロカロリー。

一般男性が必要なカロリーの6倍だ。

 

体が資本とはよく言ったものである。

 

ヒトの男性としての最高峰ですらこの位のカロリーが必要なのだ。 

ましてや育ち盛りで現役のウマ娘が必要なカロリーはこれに勝るとも劣らない。 

 

 

とはいえ、 その食事メニューの取材自体は然程大変ではない。

なにせ毎年の事でありそうそう様変わりするものではない。

 

一昨年ぐらいに書いた記事を下敷きにちょっと文面や写真を変えて、今年の変わり種メニューが何なのかを付け足すだけで済むのだ。

 

読者には悪いと思わないでもないが、なにせ購買層は毎年一新されるのだ。

手を抜けるところは手を抜きつつ、そうとは思わせないのがプロの仕事だ。

 

そしてもう一つ特集が組まれる。 これが大変なのだ……

それは、その年活躍したウマ娘(雑誌編集部が独断と偏見で選ぶ。因みに何故か私は関与できない)をお一人様抽選で選び、予算内で好きな物を食べられるというご褒美特集だ。

 

かれこれ10年はやっている目玉企画だ。

そして可笑しな話であるが、何故か外部の人間である私がそのお相手をしなければならない。

 

と、言うのにも理由がある。

それはこの企画は元々俺が一回限りのつもりで持ち込んだものであったが、翌年もやらざるを得ない程の大反響を得てしまったからに他ならない。

 

と言っても単純な物である。

単に取材対象者と一緒にメシを食いながら取材するのだ。 

そして楽しそうに食べているその合間を取材するだけという誰でも出来る仕事だ。

 

名付けて同釜(おなかま)作戦。 我ながらセンスのない名前である。

だが作戦としては悪くないのだ。 

ウマ娘は(予算内で)好きなだけ食べられるし、同じメシを食うことにより心の距離が近くなったことにより、作られている表情ではなく自然体でおいしそうにメシを食べる姿を撮ることが出来るのだ。

 

……元々は俺が食うのに困る……程ではないが外食をする余裕が無いぐらいには仕事が無かったペーペーの頃に持ち込んだアコギな企画だったのだが……

 

今にして思えばよくこんな企画が通ったな……

だが張り切り過ぎたのが良くなかった。 

 

なにせ掲載誌が悪かった。

 

先ほど述べたようにこの企画が掲載されているのは将来トレセン学園に入りたい若いウマ娘に人気の雑誌だ。 

 

この特集を読んだ当時の子が次の年にトレセン学園に入学し、自分もこの企画に出たい、選ばれるようになりたいと言いだす子まで現れ、更にそれを見た次の世代が以下同文を繰り返すという場外レースが出来上がってしまったのだ。 

 

……実を言うと3年前からこの企画を辞めたい、もしくはポジションを誰か若いのに譲りたいと願い出ているのだが、その都度編集長自ら俺を泣き落とししてくるため失敗に終わっている。

 

曰く、俺しかいないらしい……っと。

 

俺の方もそもそもが下心いっぱい、横領に近い手法という罪悪感もあってか結局押し切られている。

 

20代前半までは良かったのだが、周りにいる先輩たちの言う通り、後半からは食欲がガクっと落ち、受け付けない食べ物の種類が増えてからは本当に大変だった。 先輩方…‥この話を鼻で笑ってすんませんでした。

 

 

まあ過ぎてしまったことを後悔しても仕方がない。

愚痴はまだまだあるが、切が無いのでそろそろ本番に備えて胃の拡張トレーニングを始めなければな~なんて思いながら復習がてら「肥えウマ娘たち」と命名されたファイルに保管された過去のウマ娘食との食事風景と彼女たちの食性がどうなっているのかと思い出深い胃が痛くなった過去を振り返って行こうと思う。

 

 

 

 

 

まず初めに、当たり前だが彼女たちは飼い葉を食べたりしない。 

ヒトと同様に基本的には雑食性だ。 

肉も食べるし米も食う。 

そして本来馬が食べてはいけないもの、キャベツやブロッコリー、意外に思われるがビーツも普通に食べられるのだ。 

好き嫌いの差はヒトと同様と言ってもよい。

 

逆に好物はというと、やっぱりというかニンジンや甘い物を好む傾向にある。

やはりあれだけのフィジカルを維持するのにそれ相応の糖分を必要とするかららしい。

 

そのため彼女たちへの取材協力のお礼にはお菓子やスイーツの割引券などが非常に喜ばれたりする。

かく言う俺もクーポン券や近場のスイーツに関する情報の収集は欠かしていない。

自分では食べないけどね。

 

と言っても全員が全員甘党と言うわけではない。 

ヒト同様、各個人で味の趣向は異なり、激辛党なウマ娘も時にはいる。

そういう子に当たった時は非常に大変だ。

 

過去にエルコンドルパサーがご褒美の対象に選ばれた時は本当に大変だった。 

やっぱりというかなんと言うか、彼女がリクエストしたのはメキシコ料理だった。

 

メキシコ料理は好きだ。

現地で食べたフィッシュタコス、フリホレスやブリトーの味は今でも思い出す。

 

最近はコンビニでもブリトーぐらいは売っているが、詮無いことだがやはり物足りない。

なにが足りないって豆感が圧倒的に足りない。

中南米というのは本当に豆料理が多いこと多いこと。 

せめてもうちょっと近場にタコ〇ルが出来ればなと思う今日この頃だ。

 

と、独白は良いとしてエルコンドルパサーに話は戻るが、彼女は普段から自家製のデスソースが手放せない程の超激辛党だ。

彼女の担当トレーナーにも聞いたことがあったのだが、曰く、物理的に飛び上がるほどの辛さだという。

そしてしばらくはのたうち廻る羽目になるのだとか……

 

勿論、取材の際にもそのデスソースの話は話題に上がった。

幸運だったのは件のデスソースは丁度切らしており、持って来られなかったと申し訳なさげに言われたことだ。

 

そのため私はそのソースの辛さは知らない。

しかし、この話を聞いていたウェイターが(余計な)気を利かせてそのお店自慢のデスソース各種を持ってきてくれたのだが、そのどれもが辛さが足りないと瓶丸々1本分を料理にぶちまけながらも美味しそうに食べる彼女の顔が色んな意味で忘れられない。

 

勿論、私もその餌食となった。 

なんとかその場は我慢し、彼女の素敵な笑顔が撮れたがその代償として胃が物凄くシクシクしたのは言うまでもない。

 

こうして目出度く、「いっしょに食事に行かないウマ娘」のリストに彼女の名が登録された瞬間であった。

 

 

 

 

 

もう一人ぐらい、思い出深いウマ娘の話をしよう。

これは企画とは別の時の話になる。

 

散々ぱら胃もたれだの食欲がないだのと騒ぎたてているが、俺のペンネームは胃もたれ確実筆頭の「テンプラ」である。

まあ、変更するつもりは無いし、なにより良い油を使い、量さえ間違えなければそうもたれることはないが。

 

このペンネームと、取材協力の際にはクーポン券を差し上げている関係からか、時折俺をグルメレポータか何かと勘違いしている子もかなり多く、おいしいお店の情報を聞いてきたりすることもある。

 

まあ、教える代わりに噂話とか最近のスクールライフの話を聞けたりするので肯定も否定もしないのだが……、ある日、どういう訳か俺をグルメガイドと勘違いし、片言な日本語でラーメン屋さんに連れてってとお願いしてきたウマ娘がやってきたことがある。

 

俺の推測だが、上記の俺の行動がごちゃまぜになった結果だと思う。

 

片言と言っても話す姿勢自体は悠然としており、逆に尊大に見えるほどの堂々ぷりのため爽快であった。

 

突然やって来て面識の無い男性にメシに連れていてくれと頼んでくるこの子の胆力にも驚かされるが、そのチョイスが「ラーメン」というのはこれまた驚きだ。

 

まあ、これもラーメンが世界的にブームになった結果なのだろう。

昔から世界的にはスシ・テンプラ・フジヤマの国と思われている我が国だが、もしかしたら最近スシ・テンプラ・ラーメンで通っているのかもしれない。

 

さて、例のその子だが、片言ながら自分の出身地と思われる単語だけ滑らかに発音出来たところから推測するにその子はアイルランドからの出身らしい。

 

結果として、その夜は仕事を抜きに彼女をオススメのラーメン屋に招待した。

普段なら仕事以外でそんなことはしないのだが、どうやら彼女の威勢に中てられたのかもしれん。

 

しかし物怖じしない子だった。

移動中のタクシー内でも会話と笑顔を絶やさず、日本の良いところを根ほり葉ほり聞いてくるのだ。

 

因みにその間の会話は日本語のみだ。

アイルランド出身なら英語も公用語として採用されているはずなのでよりスムーズな会話が出来ないでもないが、あえて日本語のみでのコミュニケーションに留めた。

個人的な考えだが、頑張って異国の言葉で伝えようと努力する留学生に対し、緊急の場合以外でそれは失礼だと考えているからだ。

 

それに彼女曰く、なるべく多く日本の良いところを経験したいとのことだった。

ならばすこしでも日本語の勉強になるほうがこの子への経験になるだろうという考えもあった。

 

 

さて、最近はお洒落で女性でも入り易いことを売りにするラーメン屋も増えた昨今ではあるが、俺が連れて行ったのはそれとは真逆のもはや絶滅危惧種のラーメン屋だ。

 

場所は俺の地元の下高井戸駅から徒歩3分。

商店街の様々な個人経営の店が軒を連ねるその中で黄色い暖簾に赤字で「木八」という名前のラーメン屋だ。

 

外観は古めかしく、壁は変色している。 中に入ればカウンター席しかなくしかも後払い制だ。

この時はまだ春だったからよかったものの、クーラーが無いので夏は非常に暑く、冬は非情に寒い。

 

贔屓の店とはいえ、御世辞にも若い女の子を連れていくのには相応しくない外観と内装なのは否定のしようがない。

 

まあ、そんなのは日本育ちの子にしか分からんだろうし、何よりここの一杯が最高のラーメンなのだから仕方がない。

……府中市周辺のラーメン屋をあまり知らないのとその周辺ならそのうちこの子が個人で開拓するだろうという気遣いもあったりもするが。

 

 

さて、件のその子だが、ラーメン屋には何度か入ったことがあるらしいが話によるとどれも大手チェーン店であり、こういった個人経営の店は初めてであり興味津々のようだった。

 

お水がセルフサービスなこと、目の前でラーメンが出来上がる光景に一々可愛らしい反応を示していた。

 

まるで魔法を観ているみたいだと言ったときは苦笑させられたが、長年通い続けているのに一度も笑ったところをみたことがない頑固そうなオヤジが照れ臭そうにしていたのが非常に印象的であった。

 

程なくして出てきたのは大盛りラーメンである。

この店が出しているのは基本的にラーメンのみであり、あとはチャーシューメンと謎のメニュー、チャーシュールーメン、それ以外はそれぞれ大盛りにするか、各種トッピングという非常にシンプルな物である。

ちなみにルーメンはチャーシューメンのチャーシュー増しらしいのだが何故か頼んだこともないし、何故ルーメンなのかは謎に包まれている。

 

麺は中太ストレートであり、スープは謎である。

というのも人によって評価が分かれるのだ。 

醤油とんこつだと言う者もいれば、ホープ軒系だと言う人もおり、地味ながら何系に属すのか判断に迷う味なのだ。 

最早木八系と称するほかなく、中々これに似たスープが存在しないため他と比較のしようもないためか、果たしてこのラーメンがおいしいのか不味いのかは常連ですら大声では言えないという摩訶不思議な一杯なのだ。

そして謎のスープの上に豚の背油がトッピングされており、仄かに甘いというのも特徴だったりする。

最近は背油が入っているラーメン屋も少なくなったものだ‥‥

 

まあこのオンリーワン具合、グルメサイトでも3.0±誤差ぐらいのラーメンだからこそこのウマ娘を連れてきた理由でもあるのだが……、大事なのは採点者の反応である。

 

結果としてはおおよそ女子受けする代物ではないが、食べた彼女の反応は好評であった。

片言の日本語を忘れ、自国語(何言っているのか理解は出来なかったので恐らくアイルランド語)で何やら感動の言葉を口にしつつ美少女が一生懸命麺をすする姿は写真が無いことが残念で仕方がないほどの光景であった。

 

ほっこりとする話だ。 ここまでは。 

お忘れかも知れないが、これは胃が痛くなったエピソードの一つである。

 

胃が痛くなったのは食後、タクシーでトレセン学園まで送り届けた最後に彼女の名前を知った後の事だった。

正確には名前を聞いたときはまだ新たなに名馬の名前を受け継いだ子に出会えたなと言う感じだった。

 

問題はそのあと、折角顔見知りになったのだから今度本格的な取材を依頼しようかと思い彼女のバックグラウンドを調べた時のことである。

 

彼女の名はファインモーション。

 

まだこの世界ではデビューしてはいないが、一度デビューすれば無敗の6連勝で秋華賞、エリザベス女王杯を制する……かもしれないウマ娘であった。

 

そして当たり前だが、彼女一人一人に家族というバックグラウンドが存在し、それも取材する上では知っておいた方が良い情報の一つなのだが、調べてみたらとんでもない家柄出身だということが判明した。

 

以来彼女も「いっしょに食事に行かないウマ娘」のリスト入りを果たした。

 

胃って、ストレスでもこんなに痛くなるんだなっと勉強になった瞬間であった。

 




ナリタタイシン可愛いですね。 ファル子も給料日には狙います。

早くファインモーションが実装されるのを楽しみにしております。

誰かファインモーションが主役で都内のラーメンをレポートする小説書いてくれませんかね?

多分それなりに人気出ると思うんですよ。

私は無理です。
いま宇都宮市民なので。

主人公がテンプラを名乗った訳を知りたいですか?

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