今更説明をするまでもないが、この世界におけるウマ娘と云う存在は非常に人気のある生物である。
見た目が良いという外的要因もさることながら、その理由には文化的・歴史的な背景も影響しているのではないかと思う。
詳細は割愛するが、古代には神の使いと捉えられたこともあり、非常に大事に(と、言っても当時の基準で)扱われてきた歴史があるほどだ。
現代においてもその風習は色濃く残っており、云わば彼女たちそのものが縁起物として扱われているのが現代の立ち位置だ。
日本でも、ウマ娘に子ども(特に女の子)を抱っこしてもらうと元気な子に育つという昔ながらの言い伝えがある。
因みに男の子の場合は力士にである。
まあ、最近はあまり性別に関係はなくなってきてはいるようであるが。
そんなわけで、生きる縁起物ともいえる彼女たちだがそれにあやかろうとする人々の需要が非常に高い。
それを満たすのがURAなどの各種団体が製作販売しているウマ娘たちをモチーフにしたグッズ各種だ。
その需要はかなり力強いものであり、割と最近まで存在したレース賭博が世界的に禁止になりそうな機運が高まったさい、試しにグッズの種類を大幅に増やしたところ十分収支が見込めると後押しする要因となったほどである。
勿論良いことばかりではなく、結果として地方が寂れる要因にもなってしまったという負の面も存在するが。
さて、肝心のグッズ類だが、その種類は非常に豊富である。
彼女たちをデフォルメした人形、ブロマイド、サイン色紙、キーホルダーにタオルや勝負服のレプリカ等など。
他にもオークションなどで彼女たちが使用したゼッケン、使用済みの蹄鉄なども人気だ。
特に蹄鉄の人気は凄まじいものがある。
こちらの世界でも蹄鉄は魔除け、厄除け、幸運を招くという言い伝えがあり、贈り物としての人気は非常に高い。
レースに初勝利したウマ娘たちはその蹄鉄を両親や親しい人に贈る風習があるぐらいだ。
そして有名なウマ娘が記録と記憶に残る名勝負で使った蹄鉄などは時にオークションなどで驚きの値段となり世間を賑やかせたりするときもある。
さて、ここまで軽くウマ娘に関するグッズの需要と説明をしたのには訳がある。
実はこれらのグッズ以上に強力かつ入手が基本的には不可能であり、幻とまで言われるアイテムが存在する。
それが「ウマ娘の尾毛」である。
変態的なことを書いているようだが、真面目な話だ。
そもそも前世の世界での馬の毛の需要は非常に高い。
非常に高いということはそれだけ優れた繊維である証である。
ブラシ、筆などに使用され、変わり種としてはサイフに使用される場合もある。
またお守りとしての意味合いも強く、西洋などでは幸運を呼び寄せ、邪悪を払うとしてお守りに使われる伝統があるのだ。
流石にこの世界ではそうではない。
いや、正確にはあったと表現するのが正しいだろう。
それこそ大昔は貴族の装飾などに使われ、またウマ娘の尾毛を使用した筆こそ高尚とされ、非常に高価で取引された記録があるほどなのでその性能と潜在的な需要はこちらでも高いと思われる。
だが流石に現代の価値観においては彼女たちの毛を使用することは忌避されており、いまや博物館に収蔵されている品々や一部の神事の装具に使用される場合のみであり、修繕の際には寄付などで賄われ、代替え品を使用することが加速しているのが現状である。
と、いう訳で基本的には尾毛はその絶対数もだが、人道的、生理的な理由も込みで大ぴらに取引や贈呈には使われないのが世間一般の常識なのだが、何事も例外はある。
それはウマ娘本人がプレゼントした場合と受け取った側がウマ娘に関わる仕事をしている人種にたいしてだ。
前述で一般的に忌避される傾向にあるが、そもそもウマ娘との距離が近い彼女たちにとって尾毛はまあ身近な存在であり、世間一般が思うほど尻尾というのは神聖不可侵なモノだという認識が希薄なためだと思われる。
とはいってもウマ娘にとって自分の尾毛は非常に大事なものであり、それこそ女の髪と同等の価値を有するのでおいそれと贈呈することはない。
ではどのような時か。
大抵の場合は学園を卒業するときが多い。
生徒たちは卒業間近となると自分の抜け毛を集めて編んだブレスレットやストラップに加工し、親しい人、特に自分を鍛えてくれた男性トレーナーに対し感謝の気持ちと卒業の思い出としてプレゼントすると言った風習があるのだ。
所謂制服の第2ボタンみたいなものだと例えると分かり易いだろう。
貰う側ではなく与える側というのがまあいじらしいとうか何と言うか……、そう気楽に思えたらなぁ‥‥と思う。
……先ほども述べたようにこれは非常にマイナーで、世間一般には知られていない風習である。
かくいう私も知らなかったし、聞いた限りではトラックマン仲間にも知る人はいなかった。
ではなぜ知っているのか……それは私も一つ頂いてしまったからに他ならない。
その娘は特に有名ではなかった。
前世の記憶を持つ私ですら知らない名であった。
その理由が単純にマイナーだったからか、それとも私が競馬を知るずっと昔の名馬だったからかは分からない。
彼女とは知らない仲ではないが、然程重点的に取材をしたわけでもないし一回大穴特集で取り上げた数あるウマ娘の一人だったぐらいで関わった時間は他のウマ娘に比べても少ないほうだったと認識している。
卒業式当日、輝かしい成績を残した大物ウマ娘の卒業とあってその取材に行った際、その子に呼び出され貰ったのが彼女の尻尾と同じ色のブレスレットだった。
私は彼女に聞いた。
彼女曰く、その1回の特集で選ばれたことが非常に嬉しくて、それを励みにG2とは言え番狂わせの立役者になれたことへの感謝とのことだった。
当日はそれで終わり、彼女ともそれっきりであった。
後日贈り物の意味を知りたくて知り合いのトレーナーに話を聞いたところ、それは彼女の本意ではなかったことが分かった。
ウマ娘が自分の尾毛で作ったアクセサリーを送る意味事態は第2ボタンを贈るのと同じだが、加工したものによって秘された意味も変わるとのことだった。
彼女がこのブレスレットに秘めた真意は不明だ。
少なくとも一回特集を組んだことへのお礼だけではないことは確かだろう。
今更どうすることも無いし、正直にいえば処分に困る品物を頂いてしまったと思うのは私が狭量だからだろうか……それとも。
何となくだが、このブレスレットを身に付ければまたあの子に逢える気がしてならない。
だが、自分がテンプラを名乗り続ける間はそんな資格なんてないし彼女に対しても失礼だろう。
酷い男だ。
だがその日まで、このブレスレットは大事にしまっておこうと思う。
いつか、身に着ける勇気が持てるその日まで。
主人公がテンプラを名乗った訳を知りたいですか?
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