こっちの世界の午ってどうなっているだろうね?
毎度の事ながら、当代トレセン学園の理事長とはウマ娘想いな人物だなと思う。
なにせウマ娘のトレーニングに役立つのであれば私費すら投じてでもありとあらゆる最新装備や施設を用意するのだから。
気が付いたら毎年1回は改築、増築工事がトレセン学園内で行われている気がする。
今回は前々から希望の有った美浦寮のリフォーム工事が終わったとのことで、その竣工式が行われるとのことで取材をさせて貰った。
トレセン学園には美浦寮と栗東寮の二つの学生寮がある。
ここを通う学生はこのいずれかの寮の所属となり寝食を過ごすのだが、その振り分け方は外部には知らされていない。
まぁ、個人情報やプライベートのこともあるので詮索するのは野暮な話だが。
今回美浦寮のみがリフォームの対象になったかというと単純な理由である。
それは美浦の方が栗東寮よりも古いからというだけのことなのだ。
簡単に歴史のおさらいをしたいと思う。
こちらの世界では久しく使われることがなくなったが、前世の俺が居た世界と同じく、昔は関東ウマ娘、関西ウマ娘という括りが存在し、互いに妙な対抗意識が存在したのだ。
なぜこう呼ばれるようになったのか、それは東京の府中にトレセン学園が出来る前はそれぞれ茨城県美浦市と滋賀県栗東市と分かれていたからだ。
今ほど移動が容易ではなかった時代、富士山を中心線として西と東に分かれて生まれたウマ娘は属する地域の方のトレセン学園に入学することが多かった。
これによるメリットとデメリットとは、移動時間による疲労である。
二つのグランプリレースで説明すると、有馬記念は美浦に有利し、宝塚記念の場合は栗東に有利となり、実際に統計的にもそのような傾向が見えるのだ。
……だが、徐々にその傾向は崩れることになり、栗東出身者が東西関係なくレースでの勝率が高くなり、美浦出身者が負け続けるという均衡が崩れる事態が発生したのだ。
その理由は各校での施設の充実さに差が出てしまったからと言われている。
具体的にいうと、栗東校には坂路トレーニング用のコースが増設出来たのに関わらず、美浦は学校運営の不手際や資金問題、関東平野という自然を活かしての坂路コースを作り易い環境にはないという立地の問題ということも相まってコースの増設の話は流れに流れ、距離的有利性を活かせずに中山競馬場を始め急な坂のあるコースで関西ウマ娘に歯が立たないという事態が続出。
特に坂路で鍛えられる脚力がモノを言うダートレースによる東西の勝率は悲惨であり、1年間の重賞17レースのうち、関東と関西の勝率はなんと1:16、目も当てられない悲惨な結末となってしまったのだ。
そのため有力な関東ウマ娘などは美浦に所属しながらも「栗東留学」などしたり、東側に生まれたウマ娘も栗東の入学を希望するようになってしまった。
将来的には美浦校は定員割れを起こし、栗東は入学制限を設けなければならないという事態が危惧され、それによる競技人口の減少、ウマ娘によるレース衰退の危機まで想定された。
その打開策の一案として挙げられ、実行されたのが府中に東西のトレセン学園を合併させるというモノであった。
これによるメリットは東西のウマ娘に共通の条件を与えられることにある。
全員共通の施設を使用してのトレーニングを実施することができ、どのレース場に行くにも移動距離的なハンディキャップは無くなるのだ。
勿論デメリットも存在したのだがそれは割愛しよう。
とにかく、このカンフル剤の効果は絶大であり、今の
因みにこの中央の統合計画の中心であり立役者でもあるのが現理事長の祖父母である先々代理事長であり、中央の運営はこの一族に頭が上がらないというのがもっぱらの噂であるが、真意の程は確かではない。
なんにせよ、現在は美浦にも栗東にもトレセン学園はなくなり、この二校の精神と名前はそれぞれの寮へと引き継がれているのだ。
話を竣工式に戻そうと思う。
トレセン学園はそういった経緯もあり関東、関西平等の理念により作られたが必ずしも全てが平等だったというわけではない。
東西統合で一番金額的な意味での損をするのは栗東側である。
なにせ勝率は西側に軍配が上がることが多かったためスポンサーや入学者、各支援団体の差でも西が圧倒し、資金が潤沢だった矢先に統合である。
しかも両校の資金比率から見ても栗東が多く金額を支払わなければならないため、意地なのか見栄なのか定かではないが元栗東のウマ娘たちが住まう寮は豪華絢爛の新築にすると主張し始めたのだ。
統合責任者である先々代理事長もここまで来て交渉決裂を避けたかったのか内装や外装への差をつけることまでは撤回させることが出来たがそれ以外は飲まざるを得なかったため、美浦寮は元々あった建物を学生寮向けにリフォームし、栗東寮は全く同じ造りの寮を新築で建てるという結果になったのだ。
そのためなのか、栗東寮の現寮長であるフジキセキ曰く、
「美浦寮にばかり幽霊話があってずるい」だの、
美浦寮の現寮長であるヒシアマゾン曰く、
「栗東寮はネズミ騒ぎがなくて羨ましい」と地味な差が今なお受け継がれるようになったのだ。
天下のトレセン学園も1000人も入寮できるような巨大な寮を2つ同時にリフォームするだけの資金が無いようなのでこのような問題は永劫と続くことになるのだろう。
最後はこの竣工式に参加して初めて知ったこちらの世界独自の神事を書き留めて終わりにしたいと思う。
竣工式とは、完成した建物の完成を祝い、無事繁栄を祈るための神事である。
関係者各位、工事関係者、そこに住まう学生を招き、宮司さんをお呼びして清め払ってもらったあとにちょっとした祝賀会をするのだ。
ここまでは俺も知る竣工式である。
一つだけ違うのは、神事の一つとして猿回しが行われることだ。
ニホンザルに色んな芸をさせるあの猿回しである。
それも大道芸という祝賀会の演目としてではなく立派な神事の一つとしてだ。
とはいえ堅苦しいものではなく、中々観る機会のない猿による大道芸に学生たちの黄色い声援が飛んだわけで中々の盛況ぶりだったが。
勉強不足だったので記事に起こす前に確認したのだが、あれは
厩とはつまりは馬小屋のことである。
こちらの世界ではウマ娘専用の部屋の事を差したが今では使われない廃れた漢字の一つだ。
そしてどういう訳か、猿は大昔からこの厩とウマ娘の守り神としての役割りを与えられていたことに由来するものらしい。
土着の逸話から発展した話や、果てにはインド神話のハヌマーンから由来するなどの説が散見されるが、大昔、人とウマ娘は争う仲だったがそれを見かねた神が猿に変身し二つの種族の間を取り持ったという伝説が由来とされるらしい。
流石にこの世界独自の神話だろうと思ったが詳しく調べていくと、「見ざる、言わざる、聞かざる」で有名な日光東照宮の三猿が浮上したので読んでみると、あの有名なレリーフは神厩舎、つまり神馬ようの馬小屋に飾られているので恐らく前世でも厩猿信仰というのはあちらの世界にもあると思われる。
ちなみにこちらの神馬は特別なウマ娘の巫女の事指すとのこと。
話を猿廻しに戻そう。
日本というのはとにかく神事の多い国だと改めて思った。
地鎮祭、上棟祭、竣工式。 更にウマ娘が済むことになる建物にはこの猿回しによる舞と計4つも神事を行う必要があるのだから大変だ。
因みにご利益は火災防止、衛生、無病息災、安産などらしく、未だ根強い信仰を集める行事なのであちらの世界では観光地ぐらいでしか見ることのできない猿回しが都心でも割と見られるとのことらしい。
思わぬ違いを体験した良い一日だった。
表紙はどうしようか? やっぱりこの満面の笑みを浮かべながら猿を抱っこしているヒシアマゾンの写真がいいかもね。
主人公がテンプラを名乗った訳を知りたいですか?
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