子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

16 / 71
今回は一話だけ少し早めに投稿します。

今まで「……」と書いていたのですが、人によっては「・」に見えているという指摘を受けて「・・・」に変更しました。

それではどうぞ‼︎


“FAIRYTALE in PERSEUS”【前編】

白亜の宮殿の正面の階段前広間では飛鳥が水樹を使って奮戦している。

今回は役割を三つに分けており、失格覚悟での囮と露払い、敵の索敵と感知、ジンと共にゲームマスターを打倒する三つである。

飛鳥が囮として暴れているうちに、五感の鋭い耀が索敵と感知の役割を果たしながら侵入していく。

 

「人が来る。隠れて」

 

少し広めの中庭っぽいところで耀が言ってきたので広場から死角となる場所に隠れる。

耀は腰を落として駆け出し虚空に蹴りを放つ。するとその衝撃で兜が落ちたのか、騎士の姿が現れて倒れていく。

 

「それがハデスの兜か」

 

「うん、間違いなさそう」

 

「へぇ、マジで消えんのか。俺が着ければベル坊は浮いて見えんのか?」

 

「いえ、ベル坊さんとは契約関係にあるので離れていなければ同じように姿を消せると思います」

 

今回のギフトゲームはペルセウスの神話を一部倣ったもので、姿を見られてはいけないというルールと、“ノーネーム”の本拠上空に突然現れた“ペルセウス”のメンバーのことからハデスの兜があると考えていたのだ。黒ウサギが言うにはレプリカだろうとのことらしいが、姿を消せるだけでも十分である。

 

「御チビは兜を着けとけ。あと男鹿の分で最低一つは欲しい。春日部には悪いが失格覚悟で頼むぞ」

 

「分かった。埋め合わせは必ずしてもらうから」

 

「だとさ男鹿」

 

「じゃあ古市を貸すわ。荷物持ちにでも使ってくれ」

 

本人の知らない場所で貸し借りされている古市である。まぁ彼の性格からして可愛い女の子と出掛けられるのなら本望だろうが。

 

しかし、どうして男鹿の分の兜が必要なのかというと、ルイオスを打倒するのが男鹿の役割だからである。魔力を身につけている可能性がある以上、魔力耐性のある男鹿の方が十六夜より適していると判断したのだ。十六夜はルイオスではなく元・魔王の相手をするので失格になってもいいのだが、男鹿が見つかった場合のスペアとして失格しないように動いている。

耀が広場の中央で構えていると、いきなり吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

 

「なんだ⁉︎どうしたんだ⁉︎」

 

「まさか・・・レプリカじゃなくて本物のハデスの兜か⁉︎」

 

レプリカは姿を消すだけなので耀は匂いや音で捉えていたのだが、その耀が反応できないとなると本物しかありえない。

耀は頭でも打ったのか、気絶しているかは分からないが起き上がってこない。

 

(まずい、春日部がいなかったら敵を探知できない‼︎ 迂闊に動けなくなる前になんとかしねぇと・・・)

 

「なぁジン。その兜ってある程度なら壊れねぇよな?」

 

「え?ええ、それなりの威力がないと壊せないとは思いますが・・・」

 

十六夜が頭脳をフル回転して考えている横で、男鹿がジンに今は関係の無いような質問をしている。

 

「じゃあジン、その兜貸してくれ。それで見つからないように隠れてろ」

 

「男鹿、何をする気だ?」

 

「まぁ任せてろよ。悪いがお前にも失格になってもらうぜ」

 

疑問に思った十六夜に男鹿が思いついたことを伝えていく。

少し強引すぎる作戦ではあったが、時間をかけるだけ難易度は上がっていくので十六夜は早速行動に移していく。

 

 

 

 

 

 

耀は頭をぶつけて脳を揺さぶられてはいるものの、意識は保っていた。しかし動こうとはしても頭がクラクラして上手く立てない。せめて周りを把握しようと首を動かしていると、十六夜が兜も着けずに姿が見えている状態で走り寄ってくる。

つまり、此処にいるであろうハデスの兜を着けた“ペルセウス”のメンバーに姿を見られることを覚悟で出てきたのだ。

 

「い、十六夜?どうして・・・?」

 

「説明は後だ‼︎ 黒焦げになる前に移動するぞ‼︎」

 

黒焦げ?と倒れた耀は抱き上げられながら疑問に思う。その時に十六夜は後ろからいきなり鈍器のようなもので殴られていたが、そんなものは気にしていられないとばかりに建物の入り口に走り込む。

 

「待って‼︎まだ二人がーーー」

 

残っている、という言葉は直後の出来事に止めざるを得なくなる。

 

 

 

パリッ・・・バチバチバチバチバチバチッッッ!!!

 

 

 

電気の爆ぜるような音がした後、突如として中庭一帯に雷が落ちたような放電が立ち昇って視界を白く染め上げたのだ。

 

「ぐ、ぎゃぁ、あ・・・⁉︎」

 

すると虚空から感電したらしい男の声が聞こえてきた。そして誰かを殴りつけるような鈍い音が響いた後にいきなり壁が壊れ、頭から兜が外れて全身焦げの男が姿を現した。

ハデスの兜のレプリカを着けた男鹿が殴り飛ばしたのだろう。

 

男鹿の思いつきは至ってシンプル、力押しの一択だった。ゼブルブラストを蛇神や白夜叉に使ったように指向性をもたせず、周囲に無差別に放ったのだ。十六夜の役割は敵の行動の遅延と耀の避難である。十六夜が出てきたら敵が攻撃することは分かっていたから、それより先に離脱すれば残った敵のみに攻撃を当てられるということだ。後は呻き声の聞こえた所に拳を叩きつければいい。

・・・まぁ男鹿が考えていたのはゼブルブラストで全部吹き飛ばすことだけだが。

 

「よ、容赦ないね・・・」

 

「ホレ、二つ目を手に入れたぞ」

 

近くに来ていた男鹿の声が虚空から聞こえ、放り出された兜が出てくる。普通は驚くがレプリカなので耀は気付いており、十六夜はその程度で驚く程神経が細くはない。

 

「とりあえずの難関はクリアだな。もう三人以外は失格してるし、隠れる必要がなくなったから一気に最奥まで進むぞ」

 

そこからは本当に破竹の勢いと言っていい進撃だった。

耀は歩ける程度には回復し、目で見える敵は見つけたそばから十六夜が殴り飛ばし、数少ないハデスの兜のレプリカを着けた見えない敵は耀に探知され、同じく見えない状態の男鹿が指示を受けて殴り飛ばして壁に突き刺していく。

五人が通った場所はまさに地獄絵図といった風景が広がり、大量の敵が倒されていったのだった。

 

 

 

 

 

 

白亜の宮殿の最奥には天井はなく、闘技場のような簡素な造りだった。

 

「皆さん、ご無事でしたか・・・‼︎」

 

審判として参加していた黒ウサギは四人の姿を見て安堵する。耀は万全ではないし、ある程度は回復したが魔王の相手は厳しいだろうと飛鳥の援護に向かわせている。

そしてそんな彼らを上空から見下ろしている人影があった。

 

「ーーーふん。やはりあいつらじゃ足止めにしかならなかったか。なにはともあれ、ようそこ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。・・・あれ、この台詞を言うのって初めてかも」

 

上空にいたルイオスの姿は一週間前とは少し違っていた。翼の生えたロングブーツを履き、右手には刀身が湾曲した剣、左腕には金色の盾が装備され、外套のようなものを羽織っている。

 

「ヘルメスの有翼サンダル“タラリア”とメドゥサの首を落とした湾刀“ハルパー”、オマケにアテナの盾“アイギス”か。ハデスの兜は着けてないが、“名無し”に対してペルセウスのフル装備じゃねぇか」

 

十六夜の言う通り、“名無し”相手の装備ではない。ギリシャ神話のメドゥサ退治で使われたとされるペルセウスの装備だ。

ペルセウスのメドゥサ退治の道具は剣、盾、兜、サンダル、袋の五つとされている。ヘルメスのサンダルで風よりも速く動き、ハデスの兜で姿を消し、アテナが主神ゼウスから借りた盾、またの名を“イージス”でメドゥサの目を直接見ないように使い、ハルパーでメドゥサの首を刎ね、唯一メドゥサの首を入れる事のできる袋“キビシス”で持ち帰ったと言われている。

 

「当然だろう?見下しはしても過小評価はしない。僕は神格級のギフトをもつ相手がいるのに手を抜く程の馬鹿じゃないよ」

 

男鹿の情報だけでなく“ノーネーム”の情報も漏れていたようだ。十六夜の戦闘力もある程度ばれている。

 

「その“アイギス”はどうしたんだ?箱庭では失われているって聞いていたんだが」

 

十六夜はルイオスの左腕の盾を指差して問い掛ける。黒ウサギもそこは気になっていたのだが、装備を揃えるための代用品だと考えていた。

 

「もちろん本物じゃないよ、性能も伝承ほどの力はない・・・でもレプリカという訳でもない」

 

しかしその考えはルイオスの発言から覆される。彼にそんな力があるということは聞いたことがない。・・・ということは新たに手に入れた力である可能性が高い。

 

「・・・その力はどうした?」

 

男鹿はルイオスの纏っている魔力について聞く。ギフトゲーム前に感じた魔力はやはり元・魔王とは関係がなく、魔力はルイオスから滲み出ていた。そして思い付く限り、新しく手に入れた力というものも魔力しか考えられない。

 

「やっぱりお前には分かるのか。いや、その赤ん坊の力と言うべきか?」

 

魔力について否定はせず、ベル坊のことに触れるいうことは悪魔憑きで間違いないだろう。

 

「もう話はいいでしょ?これ以上聞きたいことがあるんだったら勝ってから聞けば?」

 

“それでも負ける気は無いけど”、と自信満々のルイオスだ。

元から傲慢な性格に加えて魔力という未知の力を手に入れたのだ。浮かれるのも仕方がないだろう。

 

「いいぜ、始めるとするか。ーーー王の処刑をな」

 

いよいよゲームはクライマックスに突入する。




どうでしたか?

今回は前書きで書いた変更に加えて、長文を一つずつ改行してみました。
これらの変更によって読みやすくなったかどうかを感想のついでにでも書いてくれると嬉しいです。
今までの方がよかったという意見が多かった場合は元に戻させていただくのでご了承ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。