それではどうぞ‼︎
最初に動いたのはルイオスだ。
首のチョーカーを外して掲げると光り始める。
「目覚めろーーー“アルゴールの魔王”ッ!!!」
光が褐色に染まり、体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いた、蛇の髪を持つ女の甲高い声が響き渡る。
「ra・・・Ra、GEEEEEYAAAAAaaaaaaa!!!」
その絶叫は最早、人の言語では理解できず、黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。
「な、なんて絶叫を」
「避けろ、黒ウサギ‼︎」
空から降ってきた岩塊に十六夜が黒ウサギとジンを抱えて飛び退き、男鹿も岩塊を砕いて退路を確保していく。
アルゴールの石化の光によって雲が石になったのだ。
「俺は予定通りアルゴールをやる。男鹿はルイオスをやってくれ」
「ああ。すぐに終わらせてやる」
男鹿はルイオスに、十六夜はアルゴールに向き合って戦い始める。
★
男鹿は空中にいたルイオスに当てるべく破壊力より速度を優先した雷撃を放つ。しかしゼウスの雷霆すら防ぐといわれる“アイギス”とは相性が悪く貫けない。
ルイオスは自ら降りてきて“タラリア”で風よりも速く斬りかかるが男鹿は余裕で回避していく。次にカウンターを合わせようと、右から振りかぶられたハルパーを避けて踏み込もうとした瞬間、
「ッ⁉︎」
踏み込もうとした足に強引に力を加えて下がり距離をとる。前を向いてルイオスを確認すると
「グッ⁉︎」
「クソッ、仕留め切れなかったか」
二人に増えたルイオスに男鹿は驚き、ルイオスは不満気に呟く。
「・・・それがお前の悪魔の力か」
「ダンタリオン、僕の悪魔が持つ幻覚能力だ」
力を見せて隠す必要がなくなったからか考えがあるのか、そう言って前にいたルイオスが消える。
ダンタリオンとはあらゆる顔をもつソロモン七十二柱の序列七十一番の悪魔であり、心を操って望む場所に幻覚を送り込む力をもっているとされている。さっき後ろから斬りかかったルイオスが幻覚で前にいたのは本体のようだ。
幻覚に斬られて血が流れるというのもおかしな話だが、世の中には“幻肢痛”と呼ばれるものがある。これは失った手足の感覚が存在しており、そこに痛みを感じるというもので、つまり幻覚の痛みだ。“ダンタリオン”はその痛みも幻覚に乗せて送り込み、現実として実現させることができる。
「もちろんこれだけじゃない」
パチン、と指を鳴らすと十六夜達の方にも変化が起きる。
男鹿が戦っている場所から少し離れた所では十六夜がアルゴール相手に組み合い、投げ飛ばし、石化の光を踏み砕いて圧倒していたが、そのアルゴールがいきなり二体に増えていた。
「な、星霊が二体・・・⁉︎」
「ヤハハ、歯ごたえなさ過ぎだと思っていたがこんな隠し球があるとは嬉しいぜ‼︎」
黒ウサギは驚愕し、十六夜は歓喜していた。黒ウサギはさっきまで“天地を砕く恩恵”と“恩恵を砕く力”が矛盾した十六夜にも驚いていたが、最強種である星霊が二体に増えたことに更に驚く。恐らく“アイギス”を再現している力もこれであると推測を立てる。
「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ‼︎ いい感じに盛り上がってきたぞ・・・‼︎」
「RaAAaaaGYAAAAAaaaaa‼︎」
一体のアルゴールが近づいてきて腕を振りかぶるが、十六夜は俊足で躱して蹴りを放つ。しかし吹き飛ばすつもりで放った蹴りはアルゴールを砕いて終わってしまう。
これにはさすがの十六夜も驚き、その隙にもう一体のアルゴールが石化の光を十六夜に向ける。
「こいつ、実体がないのか?」
砕けたということは一体目はギフトで作られたアルゴールだということだ。急いで石化の光へと向かい合い、石化の光を踏み砕いて体勢を立て直す。
しかし次の瞬間には新たなアルゴールが現れ、また二体で襲い掛かってくる。
(実体がない、つまりこれは複製じゃなく幻覚?だが攻撃してきたってことは当たると考えた方がいいのか?それに二体しか出てこない所をみるとそれがルイオスの限界ってことか?)
戦闘中であったためにルイオスの自白によって判明した悪魔の名前は聞こえていなかったが、たった一回の攻防でルイオスの力を考察して見抜く十六夜。
ダンタリオンはソロモン七十二柱に数えられる強力な悪魔であり、本来の力はこの程度ではない。幻覚を“生み出す”のではなく“送り込む”ということは、幻覚は使用者のリアルな想像力と頭の回転が及ぶ範囲でしか作り出せないということである。
最強種の龍を作り出して使役しようとしても自分が龍を使役することは無理だと心の片隅にでも思えばできないし、できたとしても自分の霊格以下の龍となる筈だ。しかし逆にその範囲内であるならば何でも作り出せるということだ。自分より霊格の高いアルゴールを作り出せたのは隷属しているという現実が大きいだろう。
しかし十六夜の推測通り、ルイオスは一週間で少ししか力をコントロール出来なかったのだ。十六夜は三体目の可能性にも気を配りつつアルゴールに突撃していく。
「オイオイ、さっきよりかなり楽しくなってきたぞ元・魔王様‼︎」
「あっちは盛り上がっているみたいだな」
「・・・どれだけ化け物なんだ貴様らは」
ルイオスは自信満々でアルゴールの幻覚をぶつけたのだが、それに対して十六夜は肉体労働と頭脳労働を楽しむように戦闘狂よろしく暴れまわっている。二体のアルゴールで十六夜を倒して男鹿にぶつけようとしたのだが、逆に二体ともやられるのは時間の問題だろう。
「じゃあこっちも飛ばしていくとするか」
男鹿はルイオスに向かって走り出す。一人は空に飛び上がってギフトカードから炎の弓を取り出し、一人はハルパーを構えて迎え撃つ。男鹿が殴ろうとすると空から牽制の矢が射られ、避けたところをハルパーで切り裂こうとする。
作戦としてはよかったが男鹿は“ベヘモット三十四柱師団”との戦いでは同じような事を四人相手にされて瞬殺したのだ。今の男鹿に躱せないはずがない。
ハルパーを持つルイオスに紋章を乗せて懐に入り込んで乱打する。
「おおぉぉぉおおおらぁぁぁあああ!!!」
そのまま地上のルイオスに何発も拳をぶち込んでから空にいるルイオスへと向けて殴り飛ばす。
「
二人が重なった瞬間に呟き、手を握る。紋章が輝きを増していき、幻覚も本体も巻き込んで爆発を引き起こす。
爆発に巻き込まれたルイオスは魔力を帯びているため意識は保てているものの、重症のようでそのまま落下してくる。
「ガハッ⁉︎ ク、クソ・・・」
地面に打ち付けられたルイオスは血反吐を吐いてゆっくりと立ち上がるが、フラフラとしたままで誰が見ても決着は明らかだ。
「ハァ、ハァ。グッ・・・」
「諦めろ、俺の勝ちだ」
「誰の勝ちだって?」
虚空から声が聞こえると同時に男鹿の胸に真一文字の切り傷ができて血が流れる。今までとは違い攻撃を察知することも躱すこともできず、大きな傷となってしまっている。
「グッ、なんだ・・・?」
「あっちの男が言っていただろう?“
声に応じて爆発させた二人のルイオスが消え、火傷の痕がないルイオスが現れる。
そう、初めからルイオスは“ハデスの兜”で姿を消して幻覚で自分を見せていたのだ。今のルイオスが出せる幻覚は三体、一体は何でも出せるが二体同時は自分しか出せない。
だがそれだけでも戦略としては十分広げることができる。
「ここからは見えない僕も含めて三人の僕を相手にしてもらうぞ」
一人は消え、新しくルイオスが二人現れる。ルイオスは“アイギス”を着けているため、ここに来た時と同じ“ハデスの兜”の攻略方法は使えない。
それでも男鹿の敵にはなり得ないのだが。
「・・・はぁ、面倒くせぇな。もうここら一帯を吹き飛ばせばいいんだろ?」
懐からミルクを取り出しながら確認程度に呟く。
「逆廻」
「あん、どうした?」
「黒ウサギやジンと一緒に下がれ」
十六夜は一瞬だけ反論しようとしたが、アルゴール二体とは十分に楽しめたし何より避難しろと言うぐらいの男鹿の力が見れそうなので大人しく下がる。
「負けたら承知しねぇぞ」
「負けるかよ」
十六夜とすれ違ってミルクを飲みながら前に出る。
白夜叉に使った分はヒルダが来たことにより補充されている。
満タンのミルクを飲み干してルイオスに言う。
「いくぜ」
「何をする気か知らないが調子に乗るなよ‼︎」
消えたルイオスと合わせて三人、アルゴール二体がそれぞれ違う動きで男鹿に襲いかかる。
ーーー六〇〇CC、
ミルクを飲んで水筒を捨てるとベル坊が消えており、肌の色も変わり、おしゃぶりを口に咥えている。
その場にいた全員がその変化にポカンとしていたが、その後にあたり一帯を埋め尽くすように展開された紋章群に顔を引き攣らせる。
「ちょ、その規模の紋章の爆発は此処も巻き込まれますよ⁉︎」
「ヤハハハハハハハ‼︎ すげぇすげぇ、すげぇぞ男鹿‼︎」
黒ウサギは慌ててジンと離れようとするが、十六夜ははしゃぎながらも黒ウサギ達を抑えて爆発に備える。男鹿が紋章を爆発させた後、被害がこちらに届く前に砕こうとする構えだ。
「ダァアァッ!!!」
一つの紋章を爆発させ、姫川のマンションを吹き飛ばした時よりも威力の高い連鎖大爆殺が発動する。闘技場を吹き飛ばしながら十六夜達にも爆発が殺到するが、十六夜が爆発を砕いたことによりその一角だけが綺麗に残る。
瓦礫となった闘技場の下にいたルイオスとアルゴールは本体以外はノイズと共に消え、本体のアルゴールもルイオスが気絶したことによって光と共にチョーカーに戻り、兜が壊れて気絶したルイオスだけがその場に残ったのだった。
ペルセウス戦終了‼︎
いかがでしたか?
私としてももう少しラストを盛り上げられないかと考えましたが・・・難しいです。