子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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第一章の後日談エピソードです。
今回は古市の一人称視点となっています。


YES! 箱庭の日常ですっ!
とある日の買い物


オッス、俺の名前は古市貴之。ビックリ人間が集まる箱庭においては珍しい普通の高校生だ。え?最近は問題児筆頭の金髪ヘ()()ン野郎に異常のレッテルを貼られてるって?ハッハッハッ、知るかそんなもん。それよりも今は大切な時間なんだ。

俺は今、二人っきりでショッピングしている。もちろんむさ苦しい男共じゃないぜ?なんと春日部さんとだ。まぁ年齢的に中学生は駄目とか言う奴もいるが、中学生と高校生なんて最高で六歳差、俺達なんて二歳差だ。大人になればなんてことない歳の差だし、春日部さんは誰が見ても美少女だろう。うん?ラミアはロリコン認定される対象って考えてる癖にって?バッカお前、見た目小学生は流石にこの御時世アウトだろ。実年齢知らんけど。

まぁラミアは置いておいて今は春日部さんだよ。そんな彼女が俺を指名したんだぜ?これはデートと言っても過言じゃないんじゃないかな?もう耀ちゃんって呼んでもいいんじゃないかな?なーんつって‼︎ ナハハのハーッ‼︎

 

 

 

「ホラ、次それ持ってて。今日一日、私の奴隷なんだから」

 

「ハイ……」

 

 

 

えーえー、見栄を張りましたよ。今の俺は荷物持ち以下の召使い的存在ですよ。今の春日部さんは右手に焼き鳥を左手にイカ焼きを、右腕にたこ焼きを左腕に焼きそばを、首にラムネを、ついでに俺の右腕を利用して唐揚げを装備している。……俺の金で。

何でこんなことになったかって?あれあれ、ペルセウスとの戦いで男鹿がのたまった“古市を貸す”宣言が執行されてんだよ。え?違う?何でその権利を執行する羽目になったかって?色々あったんだよ、色々とな。

 

 

 

 

 

 

俺が説明口調で思考を垂れ流していた時より少し遡った“ノーネーム”本拠にて。

 

「食料の調達?」

 

「はい。それ以外にも少なくなっている日用品などを少々買い足しておこうと思いまして、いつもより多くなりそうなので皆さんにも手伝って頂きたいのですが……」

 

黒ウサギさんは申し訳なさそうにそう言ってくる。

今日は“ペルセウス”戦が終わり歓迎会が行われて三日ほどが過ぎた頃だ。俺達のために豪勢なパーティをしてくれたけど、やっぱりそれが原因なのだろうか?

 

「面倒くせぇな……そういうのは古市の役割だろうが」

 

「勝手に変な役割を付けんな」

 

男鹿の野郎が全てを俺に押し付けようとしてくる。黒ウサギさんがわざわざ頼んでくるんだから俺一人じゃ無理に決まってんだろ。

 

「そこをなんとかお願いしますよ〜。多少なら街で遊んで来れるようにお金をお渡ししますから」

 

どうやら逆廻達が来たことで日々の金銭面ではそこまで苦労してないようだ。苦労してるならお小遣いなんて出るわけないしな。そこは少し安心できた。

 

「ほら、黒ウサギが頼んでくるなんて珍しいのだから手伝ってあげるわよ。特に男手は必要でしょうから辰巳君も来なさい」

 

見兼ねた久遠さんが男鹿に行くように促す。男手として数えられてる逆廻と俺は特に否定の素振りは見せていない。ヒルダさんも性格からして“ノーネーム”に厄介になっている以上は手伝うだろうし。

 

「じゃあアレだ、春日部にやった“古市奴隷権”で古市が何往復もすればいい」

 

「ふざけんな、そんなことしたら丸一日掛かるわ。てかそれはお前が勝手に作ったんだろうが。いつの間にか奴隷にランク下がってるし」

 

内容は確か春日部さんに俺を一日貸すってことだったはずだろ。……あれ、それって悪く言えば奴隷ってことになるのか?

 

「辰巳、それは駄目」

 

久遠さんに続いて春日部さんも促しに入るようだ。万が一のことを考えて男鹿の提案は完膚無きまでに却下してもらわないと困る。

 

「その奴隷権は今日の食べ歩きで奢ってもらうために使うんだから」

 

え、面倒臭がってる男鹿に行くよう言うんじゃなくてそっちを否定するために話に加わったの?しかも春日部さん、奴隷権を行使する気満々だし。

 

「そういうことなら仕方ねぇな。付き合ってやるとするか」

 

お前もこんな時だけ簡単に折れるんじゃねぇよ。いやまぁお前の提案よりは遥かにマシだけどさ。

 

「話が纏まったんならそろそろ行こうぜ。街で遊ぶ時間が減っちまう」

 

逆廻の言葉でぞろぞろと動き始める一同。確かにこれで全員手伝うことになったけどさ、俺の一日奴隷権という生贄を使ってだよ?使うなら使うでせめて俺に声を掛けろよ、おい。

 

 

 

 

 

 

と言うわけさ。色々って言う程でもなかったか。まったく困ったもんだ。結論としては大人しく従っている俺ってマジ大人じゃね?って感じ?

ていうか春日部さんの食スピードが半端じゃない。もらったお小遣いがあと少しで尽きようとしているんだけど、今日一日持つのかなこれ?

 

ドンッ。

 

っと。ちょっと思考に耽りすぎたかな、通行人と肩がぶつかってしまった。相手も余所見してたのか少し強い衝撃だ。ぶっちゃけ少し痛い。

しかしそこは大人な俺。自分の心配をするよりもまずは相手の心配だ。冷静な俺マジ大人。

 

「すみま「痛ってぇ〜‼︎ おいおい、これ腕上がんねぇよ‼︎ もしかして脱臼してんじゃね?治療用ギフトでも買わねぇと取り返しのつかないことになんじゃねぇか?もちろん責任取って金貸してくれるよな兄ちゃん?」……」

 

えぇ〜、カツアゲですやん。というか今時当たり屋って……。なんか隣にいた仲間っぽい人達……獣人達って言うべきか?と合わせて三人もこちらに因縁付けてるし。あと春日部さん、こんな状況なのに両手が空いたからってたこ焼きを食べ始めないで下さい。

 

「そんなこと言われましても、うちのコミュニティは“ノーネーム”でして……。治療用ギフトがどの程度の代物か知らないですけど、金目の物なんてないですよ」

 

取り敢えずは下手に出て様子を見る。“うちにあるけどね”と小さく言う春日部さんには少し静かにしていてもらいたい。まだ焼きそば残ってるでしょ?

 

「金目の物がないかどうかは俺達が見て決めるっつうの。最悪お前らが今持ってる分だけでも治療の足しに……って何を呑気に食ってんだ小娘が‼︎ 状況分かってねぇのか⁉︎」

 

とうとう春日部さんへと男達の視線が向けられてしまう。“とうとう”というか“ようやく”?春日部さんが俺の右腕にある唐揚げを取って食べ始めてしまったから放置できなくなったのだろう。というか焼きそばは?いつの間に食べちゃったの、この子?

 

「お嬢ちゃん、大人を舐めてると痛い目に合うって教わらなかったのか?」

 

逆にあんたらは人を見た目で判断しないって教わらなかったのか?春日部さんは問題児の中で一番大人しいとは言っても問題児には変わりないんだぞ?

 

「……あん?何だ兄ちゃん、てめぇも格好つけると痛い目に合うって教わらなかったのか?」

 

しかし春日部さんがいくら問題児として強くても、それが彼女を庇わない理由にはならない。女の子を守るのが男って奴だからな。今の俺って夢中になられてもおかしくないくらい王子様じゃね?春日部さんは唐揚げに夢中だけど。

 

「あんたらはこういう諺を知らないんですか?“井の中の蛙、大海を知らず”。弱者と強者の違いくらいは見分けられた方がいいですよ」

 

俺は右手をポケットに突っ込み、青い狸の秘密道具よろしく魔界のティッシュを取り出そうとして……取り出そう、して…………右手を突っ込んだまま左手を構える。

 

「……お、お前らなんて片手で十分なんだよ」

 

と挑発する、してしまう。

 

 

 

やっべぇ、ティッシュ忘れた。

 

 

 

ホント何してんの俺⁉︎ 肝心な時にやってくれたな、このイケメン野郎‼︎

こうなったら仕方ない。

 

「言い忘れてたが、俺達のコミュニティは“ノーネーム”は“ノーネーム”でもジン=ラッセル率いる“ノーネーム”なんだよ。そしてあんたらの目の前にいる人間(春日部さん)はその主力だぜ?それでも()るかい?」

 

Mr.虎の威を借る男(決して認知したわけではない)の力を見せてやるぜ‼︎ そこ、情けないとか言わない‼︎

 

「それって確か魔王を倒すためのコミュニティとして活動してる奴らだろ?お前らがそうだっていう証拠でもあんのかよ?」

 

「何なら“ペルセウス”を潰した時のことを詳細に話してやろうか?噂くらいは知ってんだろ?」

 

余裕たっぷりに言い放ち、信憑性をもたせておく。仮に聞き返されても、白夜叉さん家で一緒に見てたから当事者以上に全体的な推移は話せるはずだ。

 

「ちょっ、兄貴。やべぇんじゃないですか?こいつら、“ペルセウス”の星霊を相手にして倒したそうですよ?」

 

「だ、だが倒したのは金髪のガキって噂だったはずだぞ。少なくともこいつじゃねぇよ」

 

「確かに逆廻ほど出鱈目な化け物じゃないけど、並んで戦えるくらいには強い(んだったらいいなと思う)んだけど?」

 

ちょっと日本語省いたけど問題ないよな?さらに“逆廻”という固有名詞を出すことで本物であるという可能性を高める。

 

「……クソッ、ここまで舐めた態度取られて引き下がれるか‼︎ やっちまうぞ‼︎」

 

「「ウ、ウオォォォォオオオオ!!!」」

 

いやいやいや‼︎ そんなところで勇気振り絞るくらいなら退く勇気を覚えようよ⁉︎ プライドなんて犬に食わせとけよ⁉︎

あぁ、拳があと少しで顔面にクリーンヒットするだろう。もう駄目だ……。

 

 

 

と思っていたのだが、突如として俺の周りに風が渦巻いて獣人達を吹き飛ばした。

 

 

 

近くの壁へと飛ばされて気絶してしまった獣人達を他所に今の現象について考える。

これは……春日部さんのギフト‼︎ ナイス春日部さん‼︎ やっぱり助けてくれたのか‼︎

そう思って春日部さんを見れば、ラムネの空き瓶を持って突っ立ってた。あぁ、うん、理解したよ。要するに飲食料の全てが無くなったから早く次に行こうってことなのね。

 

「ありがとう、春日部さん。正直助かったよ」

 

でも助けてくれたことには変わりないので素直にお礼を言っておく。感謝の気持ちを表すことは大切だからな。

すると春日部さんには珍しくしっかりと目に見えて微笑み、

 

「貸し一つだね。また奴隷権でいいよ?」

 

などと仰られた。うん、またデートの約束を取り付けたと思えばナンテコトナイナー、ハッハッハッ。はぁ、貯金しないとなぁ。

本日の教訓。これからは魔界のティッシュは常にポケットに入れておこうと思いました。


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