前回は男鹿と十六夜の独壇場だったので今回は出番少なめです。
それではどうぞ‼︎
祭りの裏側で男鹿達がゲームをし、飛鳥が“ラッテンフェンガー”のコミュニティを名乗るとんがり帽子の精霊と祭りを見て回っていた時刻。祭りの表側では白夜叉が勧めていたチラシのギフトゲーム、“造物主達の決闘”の準決勝枠が争われていた。
『そこやお嬢おおおお!!! 悪魔のねーちゃんも今やああああ‼︎ 蹴飛ばして切り刻んだれぇぇええ!!!』
「痛い痛い痛い‼︎ 興奮してんのは分かるけど頭の上で暴れんな‼︎」
レティシア達についてきた三毛猫がセコンドにいる古市の頭の上で叫ぶ。今回の“造物主達の決闘”は例年よりも参加者が多く、一日目に四ブロックの予選から四名が準決勝へと進み、二日目に準決勝・決勝を行うことになったのだ。これに耀とヒルダも参加している。
「これで、終わり・・・‼︎」
一つのブロックでは耀が自動人形の巨岩兵を倒し、
「ふん、他愛もないな」
また他のブロックではヒルダが自立飛行型の群体ブーメランを全て叩っ斬って準決勝枠を掴み取った。もう二つの準決勝枠は既に決まっているのでこれで予選は終了である。
『いや〜、さすがお嬢やで‼︎ 悪魔のねーちゃんも強いなぁ』
舞台から帰ってきた耀とヒルダに三毛猫が声を掛ける。
「私が強いのではなく相手が弱いのだ」
「へ?何がですかヒルダさん?」
帰ってくるなり独り言を呟くヒルダに古市は疑問に思うが、意味が分かる耀の反応は大きかった。耀はヒルダが三毛猫と普通に会話しているので信じられないような目でヒルダに問いただす。
「ヒルダさん、三毛猫の言葉が分かるの?」
「ん?あぁ、理解しているぞ」
「え⁉︎ 今ヒルダさん三毛猫と喋ってたんですか⁉︎ そんな素振り今まで一度も見せなかったのに」
「この猫が私に喋り掛けてこなかったからな。仕方あるまい」
それが当たり前だというように打ち明けてくる。確かにヒルダが動物といるのはアクババぐらいしか古市の記憶にはない。
因みにアクババとは魔界の怪鳥である。
「魔界の人って動物の声が分かるんですか?」
「いや、耳にこの翻訳丸薬を詰めることで言語を変換している。地球では使用していなかったのだが、箱庭には人間以外もいると聞いて念のためな」
自分の耳から小さな丸い物体を取り出して二人に見せる。翻訳丸薬とは魔界でも高名な医者であるフォルカスの秘伝の一つである。こんなものを作れるのなら医者よりも科学者の方が向いているのではないかと思ってしまう古市ではあるが、興味があるのでスルーした。
「そんなもんがあるんですか⁉︎ 俺にも一つ下さいよ‼︎」
「別にいいぞ。ホレ」
そう言って投げ渡された丸薬を耳に詰める古市。
『なんや?そんなんでワシらの言葉が分かるんかいな?』
「おお、マジで分かるぞ⁉︎ 改めてよろしくな三毛猫‼︎」
『おう、よろしくな地味なにーちゃん‼︎』
「お前俺のことそんな風に言ってたの⁉︎」
発覚した新たな事実に今度はツッコむ。
その後、決勝のゲームルールの説明をもって本日の大祭はお開きとなった。
★
「随分派手にやったようじゃの、おんしら」
“火龍誕生祭”一日目が終わり、男鹿達が暴れた街の区画から所変わって運営本陣営の謁見の間にて。連れて来られた二人を見た白夜叉の第一声がこれである。ちなみにその張本人達は反省の色もなく、同行してきた黒ウサギとジンの頭を抱えさせている。
「ふん‼︎ “ノーネーム”の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな‼︎ 相応の厳罰は覚悟しているか⁉︎」
「これマンドラ。それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろ?」
男鹿達を連れてきたサンドラの兄であり側近の男、マンドラが鋭い目つきで高圧的に見下しているので白夜叉が窘める。
“火龍誕生祭”の主賓であるサンドラが玉座から立ち上がって声を掛けた。
「“箱庭の貴族”とその盟友の方。此度は“火龍誕生祭”に足を運んでいただきありがとうございます。今回の一件ですが、白夜叉様のご厚意による修繕と負傷者がいなかったことから私からは不問とさせていただきます」
誕生祭の主賓、サンドラによって許しを得たことに安堵する二人。もちろん黒ウサギとジンである。
暴れた当の本人達は自由に感想を述べていた。
「へぇ?太っ腹なことだな」
「いや、俺の経験上タダのやつ程ロクなもんはねぇ」
以前にベル坊がオモチャの車を欲しがり、タイミング良く大魔王から送られてきたが暴走して大変なことになったのがいい例である。
「いやいや、タダではないぞ?ここに来るための路銀と合わせて修繕の費用は昼間に話した依頼の前金報酬とでも思っておくが良い」
そう言うと白夜叉、サンドラ、マンドラ以外のそれぞれの同士に目配せをして下がらせる。どうやら依頼の内容を話してくれるようだ。
「おんしらに依頼したい内容とは誕生祭に流れている噂についてだ」
「噂?」
十六夜が疑問を呈すると白夜叉は全員の顔を見回した後、懐から一枚の封書を取り出した。
「この封書におんしらを呼び出した理由が書いてある。・・・己の目で確かめるがいい」
怪訝な表情のままに十六夜は封書を受け取り、内容に目を通す。内容を確認した十六夜はなんとも微妙な表情になって男鹿へと視線を向ける。
「なんだよ?」
「十六夜さん、いったい何が書かれているのです?」
男鹿だけでなく黒ウサギも不思議に思って十六夜へと質問をする。
渡された封書には簡潔に一文、こう書かれていた。
『火龍誕生祭にて、“魔王襲来”の兆しあり』
確認した黒ウサギとジンも十六夜と同じような表情になって男鹿ーーーというよりもベル坊へと視線を向ける。十六夜の言いたいことが分かったのだ。
“これ噂じゃなくて事実じゃね?”と。
「オイ白夜叉。これもう起こった出来事とかじゃねぇよな?」
そう、十六夜とのゲームの余波ではあるが魔王が北側の区画の一つを襲ったと言えなくもない損害を出しているのだ。
「いや、そっちのベルゼブブの息子とは関係ないから安心しろ」
白夜叉も言いたいことを理解したようで苦笑しながら否定する。しかし、白夜叉の何気ない一言にサンドラとマンドラは驚愕していた。
「ベルゼブブの血縁だと⁉︎ 何故そんな大物魔王の関係者がこんな所にいるのだ⁉︎」
「落ち着けマンドラ。後できちんと説明してやるから今は依頼についてだ」
帯刀していた剣を握って構えているマンドラを抑えて白夜叉が続ける。
渡された封書は“サウザンドアイズ”の一人が未来予知したもので、犯人も犯行も動機も全てが分かるというものらしい。ベル坊が関係ないと言い切ったのはつまりそういうことだ。それなのに未然に防げないのは、相手が名前を出すことができない立場ーーー“階層支配者”が魔王と結託している可能性があるからだ。しかし目下の敵は予言の魔王である。白夜叉は自身の“主催者権限”によって対魔王の対策を立てているが、もしもの時は白夜叉が魔王と戦うため“ノーネーム”には露払いを頼みたいとのことだ。
だが、男鹿と十六夜は露払いの戦いだけでなく魔王とも戦いたいので、白夜叉に隙あれば魔王の首を狙う許可をちゃっかりともらうのだった。
★
その後、祭り中にネズミに襲われたという飛鳥とレティシア、試合で汗をかいた耀とヒルダが合流して黒ウサギと白夜叉を含めた女性陣でお風呂に入っている。
お風呂から早くに出ていた男性陣は来賓室で“サウザンドアイズ”の女性店員を交えて歓談していた。
「へぇ、こんなもんが翻訳機になんのか」
「この小ささでその性能ですか・・・興味深いですね。“サウザンドアイズ”で売りませんか?量産できればお互いに利益に繋がりますよ?」
「いえ、秘伝とかなんとか言ってたからどうでしょうね」
話題の中心になっているのは昼間に出てきた翻訳丸薬である。
本来、異種族との意思疎通は神仏の眷属として言語中枢を与えられるか相応のギフトがなければ難しい。翻訳丸薬による幻獣との意思疎通が可能かは確認していないが、かなり貴重なものには変わりない。
「あら、そんなところで歓談中?聞いたわよ、魔王が来るんですって?」
本格的な交渉に入ろうかというところで浴衣を着た女性陣がお風呂から出てきた。どうやら白夜叉から入浴中に今回のことを説明されていたようだ。
「おぉ、これはなかなかいい眺めだ。そうは思わないかお前ら?」
「流石だな逆廻。やっぱりお前もそう思うか?」
十六夜が湯上がりの女性陣を見て男性陣に感想を聞く。答えたのは何故かどや顔の古市だけで、男鹿とジンは顔を見合わせて“?”となっている。
「黒ウサギやヒルダ、お嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だ」
「だがスレンダーながらも健康的な素肌の春日部さんやレティシアさんの髪から滴る水も色気がある」
「それだけじゃない。滴る水が鎖骨のラインを流れ落ちる様は視線を自然に慎ましい胸の方へと誘導する」
「その結果、はだけた浴衣から覗く上気した桃色の肌をさらに際立たせるのは確定的にーーー」
スパァーン‼︎
ゴスッ‼︎
目の前でエロ談義を始めた二人へと強めのツッコミが入る。
前者は黒ウサギと飛鳥が風呂桶を十六夜へと投げつけ、後者はヒルダが古市の頭を傘で殴った音だ。
「変態しかいないのこのコミュニティは⁉︎」
「白夜叉様も十六夜さんも貴之さんもみんなみんなお馬鹿様ですッ‼︎」
「この男もキモ市と同類だったか」
「ま、まぁ三人とも落ち着いて」
慌てて宥めるレティシアと無関心な耀である。黒ウサギの言いようだと白夜叉にも同じようなことを言われたのだろう。その白夜叉は同好の士を得たように十六夜と古市と握手をしている。
「・・・君も大変ですね」
「・・・はい」
「お前ら、こういうのは気にしてたらキリがねぇぞ?」
男鹿は女性店員とジンが組織の問題児という共通の悩み事に共感しているのを見て、置いてあった煎餅を食べながらコメントする。そして勝手に煎餅を食べている男鹿の姿を見て、ジンはさらに頭を抱えるのだった。
更新速度が落ちた分、一話が少し長めになってきていますね。
今回は秘密道具の一つ、翻訳丸薬が登場しました‼︎
異種族とも話せるグレードアップ版です。
あと、ベル坊が三毛猫と同じ位の存在感になっているのはどうにかできないものか・・・