子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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今回は導入部となるので残念ながら大きな進展はないです。

それではどうぞ‼︎


魔王襲来

“火龍誕生祭”の二日目。

“ノーネーム”はサンドラの取り計らいにより“造物主達の決闘”を運営側の特別席で見れることになった。

 

「おい古市。何でヒルダの奴はこのゲームに出たんだ?」

 

男鹿が舞台を見ながら古市に問う。ヒルダは無駄なことには参加したりしないので不思議に思ったのだ。

 

「これに勝ったら豪華景品がもらえるだろ?クリスマスのリベンジだってさ」

 

箱庭に来るほんの数日前、男鹿達の世界はクリスマスでベル坊のプレゼントのために奮闘したのだが結果は市販のお菓子になってしまったので今度こそは、ということである。

 

「ねぇ白夜叉。春日部さん達の相手はどんなコミュニティなの?」

 

「それはもう少しのお楽しみだ。まぁ名前ぐらいは教えてやれるが」

 

パチン、と白夜叉が指を鳴らすとその場の“ノーネーム”のみんなにギフトゲームの羊皮紙が現れる。

 

「“ウィル・オ・ウィスプ”にーーー“ラッテンフェンガー”ですって?」

 

飛鳥は膝の上の精霊を見て目を丸くする。何を隠そう、この精霊は自らを“ラッテンフェンガー”のコミュニティだと名乗っていたのだ。

 

「へぇ・・・“ネズミ捕り道化(ラッテンフェンガー)”ね。じゃあ春日部達の相手はハーメルンの笛吹き道化ってところか?」

 

対戦相手に思考を巡らせていただけの十六夜だが、“階層支配者”二人はそれを聞いて雰囲気を鋭くする。ここが目立つ特別席でなければ驚愕して十六夜に詰め寄っていたかもしれない。

十六夜はその変化に気付いて怪訝そうに顔を二人へと向ける。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、今おんしが言った名前ーーー“ハーメルンの笛吹き”はとある魔王の下部コミュニティだったものの名なのだ」

 

「ーーーへぇ?」

 

その言葉を聞いた十六夜は怪訝な顔をやめて瞳を鋭くする。

 

「それってあれだろ?笛吹きの男がハーメルンの街に溢れたネズミを操って駆除するけど、街の人がお礼をしなかったから子供を攫ったってやつ」

 

「まぁそれは童話向けに伝わった内容だが、概ねその通りだ。“ラッテンフェンガー”はドイツ語でネズミ捕りの男って意味でな、ネズミを操ったことから“ハーメルンの笛吹き”を指す隠語でもある」

 

古市の説明を十六夜が補足する。

その説明を聞いて飛鳥は静かに息を呑んでいた。

 

(ネズミを操る道化師・・・ですって?まさか昨日のネズミは・・・)

 

実は昨日襲われた時、ネズミ相手に飛鳥の“威光”が通用しなかったのだ。その原因が既に自分よりも影響力のある者の支配を受けていたからだとすれば納得がいく。

 

「その魔王は敗北してこの世を去ったと聞きましたが・・・魔王の残党が忍んでいる可能性は高いですね」

 

「そのようだな。我らのゲームに泥を塗られぬように監視を付けた方がいいだろう」

 

サンドラとマンドラの二人で話を進めているうちに“造物主達の決闘”の開始時刻となる。

 

 

 

 

 

 

最初の試合は“ノーネーム”の春日部耀と“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ=イグニファトゥスの二人の対決となった。

“ウィル・オ・ウィスプ”は一つ上の六桁の外門からの参加者で、白夜叉曰く、まず勝ち目はないそうだ。そんな中でも耀は最初のうちは善戦していたのだが、苦戦しだした相手は“ウィル・オ・ウィスプ”の代名詞とも呼べる生と死の境界に現れた悪魔、ウィラ=ザ=イグニファトゥス作のジャック・オー・ランタンを出してきた。

ジャック・オー・ランタンは不死の怪物にして地獄の業火を操るカボチャのお化けである。少なくとも今の自分では勝ち目がないと判断した耀は、静かにゲーム終了を宣言して負けを認めたのだった。

 

「負けてしまったわね、春日部さん」

 

「ま、そういうこともあるさ。気になるなら後で励ましてやれよ」

 

「“ウィル・オ・ウィスプ”は格上だったのだ。それを相手に一人で善戦したのだから落ち込む必要はない」

 

耀が負けたことに飛鳥は気落ちしていたが、十六夜は軽快に笑い、白夜叉は慰めるように声を掛けていた。

 

「春日部さんの分もヒルダさんには勝ってもらいたいよな。なぁ男鹿。・・・男鹿?どうした?」

 

古市が話を切り替えて、次のヒルダの試合の話を男鹿に振ったのだが返事がない。疑問に思って男鹿を見ると、男鹿の視線は舞台ではなく箱庭の空に向けられている。

 

「・・・白夜叉。アレもイベントの一つか何かか?」

 

「何?」

 

男鹿に言われて視線を辿ると、空から雨のように黒い封書がばら撒かれていた。審判をしていた黒ウサギが気付いてすかさず手に取る。

封書には笛を吹く道化師の印が入った封蝋がされており、開封された中には黒く輝く“契約書類”が入っていた。

 

 

【ギフトゲーム名 “The PIED PIPER of HAMELIN”

・プレイヤー一覧:現時点で三九九九九九九外門、四〇〇〇〇〇〇外門、境界壁の舞台区画に存在する参加者、主催者の全コミュニティ。

 

・プレイヤー側ホスト指定ゲームマスター:太陽の運行者・星霊、白夜叉。

 

・ホストマスター側勝利条件:全プレイヤーの屈服、及び殺害。

 

・プレイヤー側勝利条件:一、ゲームマスターを打倒。二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

・舞台ルール:転移での移動ならばどのような条件であってもゲームテリトリーへの干渉を可能とする。

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

“グリムグリモワール・ハーメルン”印】

 

 

数多の黒い封書が舞い落ちる中、観客席の中から弾けるような叫び声が上がった。

 

「魔王が・・・魔王が現れたぞオオオォォォーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

いきなり始まった魔王とのゲーム。本陣営のバルコニーから状況の確認をしようと動き出したが、突如として発生した黒い風が白夜叉を包み込んでいく。

 

「な、何ッ⁉︎」

 

「白夜叉様⁉︎」

 

驚きつつも白夜叉の近くにいたサンドラが手を伸ばすが、発生した黒い風がそれを阻み、バルコニーにいた全ての者を弾き飛ばすように吹き荒れる。空中に投げ出された飛鳥を十六夜が、古市を男鹿が掴まえて着地するも“サラマンドラ”の人達とは離れてしまった。

そこへ舞台の方にいた黒ウサギ達が合流する。

 

「魔王が現れた。・・・そういうことでいいんだな?」

 

「はい」

 

十六夜の確認を黒ウサギが真剣な表情で返す。その場のメンバーに緊張が走るが止まっているわけにはいかない。

そんな中、緊張なんて微塵も感じていない男鹿が動く。

 

「んじゃ、サクッとぶっとばしてくるか」

 

「まぁ待て。先に役割分担をしとくぞ。飛ばされた“サラマンドラ”の連中も気になるしな」

 

十六夜の提案に特に文句はないので男鹿は大人しく待機する。そもそもまだ魔王を確認していないのに男鹿は一人でどこに行くつもりだったのだろうか。

 

「では黒ウサギがサンドラ様を探しに行きます。その間は十六夜さんと辰巳さんとレティシア様の三人で魔王に備えてください。ジン坊っちゃん達は白夜叉様をお願いします」

 

ジンとレティシアは頷くが飛鳥は不満そうだ。“ペルセウス”の時と続けて脇役ともなれば面白くないのだろう。だが、大事な役割であることには変わりないのでそれぞれの役割を確認してから走り出す。

 

「見ろ‼︎ 魔王が降りてくるぞ‼︎」

 

逃げ惑う観客の声を聞いて境界壁の方へと目を向けると、四つの人影が落下してきているのが見えた。

 

「魔王様のお出ましだ。黒い奴と白い奴は俺が、デカイのと小さいのは任せたぜ‼︎」

 

そう告げて十六夜は舞台会場を砕く勢いで境界壁に向かって跳躍した。

 

「俺も()るなら黒い奴がいいんだがな」

 

残された男鹿がボヤく。男鹿は女子供を本気で殴るのは趣味ではないので、喧嘩するなら少女やわけの分からないデカブツより黒い服の男の方がよかったのだ。

 

「文句を言うな主殿。行くぞ」

 

「その主殿っての、むず痒いからやめろ」

 

またもボヤきながら黒い翼を生やしたレティシアと共に紋章で空中を加速していくのであった。




とうとう“黒死斑の魔王”戦です‼︎
といっても本格的な戦闘はまだ先なので気長に待っていてください。

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