子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

24 / 71
今回は過去最長になってしまいました。
二つに分けようとも考えましたが、週一なんでこれでいいかと投稿しました。

それではどうぞ‼︎


魔王との対峙

男鹿とレティシアは落下してきた陶器の巨兵と斑模様のワンピースを着た少女と空中で対峙していた。

 

「私が少女と戦う。辰巳は巨兵を頼む」

 

「おう。そっちも無理すんじゃねぇぞ」

 

元々、少女と戦うのは気乗りしなかったので素直に言うことを聞いて二手に分かれる。しかし、眼前の巨兵ーーーシュトロムを前にした男鹿は、

 

「こりゃワンパンで終わりだな」

 

気の抜けた顔でそう評価した。

シュトロムは全身の風穴から空気を吸い込んで大気の渦を創り上げ、周囲の瓦礫を吸収・圧縮して臼砲のように撃ち出している。だがその程度の瓦礫、昨日戦った十六夜の投石の方がより速くて的確だった。

 

「BRUUUUUUUUUUM‼︎」

 

シュトロムへと向かってきた男鹿に照準をつけて空気を吸い込んでいく。その風を利用して急加速しながら接近する男鹿へと瓦礫が襲い掛かるが、男鹿は難なく回避して懐に攻め込んだ。

紋章を足場に体幹を安定させ、右腕を引き絞るように後ろへ引き、

 

「ーーーじじい直伝、撫子」

 

コンッ、といつも男鹿が振るっているような破壊的な衝撃音に比べて静かな一撃を放った。その一撃でシュトロムにピシッ、と縦に亀裂が走り、真っ二つに割れて地面に落下していく。

 

心月流の基礎の技、撫子。

衝撃を分散させずに一点に集中させる当身で、“鎧徹し”とも呼ばれる技である。心月流の当主であるじじいーーー邦枝一刀斎に教わった唯一の技だ。また散弾にしてしまうと被害が何処に出るか分からないので、余裕がある分被害を最小限に抑えたのだ。

 

「張り合いがねぇ、もうちょっと根性見せろよな」

 

呆気なく終わってしまった戦いにがっかりする男鹿であった。

 

 

 

 

 

そんな男鹿をレティシアと戦っている少女が余裕綽々とした態度で見ていた。

 

「あら、シュトロムを一撃で破壊するなんて・・・それにあの赤ん坊と紋章術。あの男が男鹿辰巳のようね」

 

何やら男鹿のことを分析しているようだが、今の発言は聞き捨てならない。

 

何故この少女は男鹿のことを知っているのか。

どうやって紋章術という稀有な力を知ったのか。

 

疑問は残るが、こちらの実力を過小評価して余所見をしている今が好機と判断したレティシアは髪からリボンを解いて力を解放。大人姿になったレティシアはギフトカードから長柄の槍を取り出した。

 

「戦いの最中に敵から視線を外すとは舐められたものだな」

 

疾風の如き一刺しで少女の胸を貫こうと突撃する。その槍がまさに貫くと思われた刹那、

 

 

 

「心外ね、私は貴女を舐めてなどいないわ。ーーー純粋な実力の差よ」

 

 

 

避ける素振りも見せずに黒い風で槍を受け止めた。その黒い風は更に広がっていきレティシアを捕縛する。

レティシアは急いで抜け出そうとするが力が入らず、徐々に意識が蝕まれていった。

 

「さすが純血のヴァンパイアってところかしら?まだ意識があるなんてね。貴女はいい手駒になりそう」

 

くすり、と笑う少女。

レティシアを覆う黒い風が濃度を増していく中、横から紅と黄の閃光が挟み込むように少女に迫る。

気付いた少女は黒い風を纏った両手を左右に突き出して相殺した。

 

レティシアはその際に拘束する力が弱まった隙を突いて腕を振り払い距離を取ったが、全身に力が入らず空中に留まることができない。

そんな無防備な状態で落下するレティシアを男鹿が空中で横抱きに受け止めた。

 

「おい、大丈夫かレティシア?」

 

「辰巳・・・悪い、油断した」

 

いつもより弱々しいが返事をするレティシアに内心ホッとする。

攻撃を受けた少女は視線を横へと向けていた。

 

「・・・そう、ようやく現れたのね」

 

そこには男鹿と共に少女を攻撃をした北側の“階層支配者”ーーーサンドラが龍を模した炎を身に纏った姿で浮遊していた。

 

「・・・目的はなんですか、ハーメルンの魔王」

 

「あ、ソレ間違い。私のギフトネームの正式名称は“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”よ」

 

少女は律儀に自己紹介をしてから目的を告げる。

 

「そうね、目的と言うなら太陽の主権者である白夜叉の身柄と星海龍王の遺骨。それとーーーベルゼバブ四世。つまり、そこの赤ん坊よ」

 

微笑みながらベル坊を指差す。この魔王はベルゼバブ四世ーーー自らとは違った魔王の力を欲しているという。

男鹿は新たに紋章を出し、レティシアを下ろしてから庇うように前へと出て少女と向き合う。

 

「ーーーお前、何を知ってる?」

 

「さぁ、何かしらね?」

 

男鹿の眼光をものともせずに不敵に笑って見返す少女。

 

「・・・なるほど。魔王と名乗るだけあって、流石にふてぶてしい。何やら裏があるようだけれど、我らの御旗の下に必ず誅してみせる」

 

「そう。素敵ね、“階層支配者”。それと、私を倒したら知ってることを教えてあげてもいいわよ?“紋章使い”」

 

そう言うと少女は黒い風を噴出させてきたので対峙する二人はそれぞれ対応する。

火龍の炎と魔王の雷、漆黒の風がぶつかった衝撃波によって空間を歪めていき、圧倒的な力の衝突が周囲へと余波を撒き散らしていく。

 

 

 

 

 

 

男鹿達が魔王達と激突している頃、古市達はバルコニーに戻って黒い風に隔離された白夜叉の状態を確認していた。

 

「白夜叉さん、大丈夫ですか⁉︎ 身体に異変とかはありませんか⁉︎」

 

「今のところ問題はないが、行動を制限されてこの場から動くことができん‼︎ 連中の“契約書類”には何か書いておらんか⁉︎」

 

言われて飛鳥が“契約書類”の文面に目を通すと、“参戦条件がクリアされていません”と書かれているだけだ。

そのことを白夜叉に知らせると彼女は大きく舌打ちした。

 

「よいかおんしら‼︎ 今から言うことを一字一句違えずに黒ウサギへ伝えるのだ‼︎ 第一に、このゲームはルール作成段階で故意に説明不足を行っている可能性がある‼︎ 第二に、この魔王は新興のコミュニティの可能性が高い‼︎ 第三に、私を封印した方法は恐らくーーー」

 

 

 

「はぁい、そこまでよ♪」

 

 

 

響き渡った声にハッとして振り返ると、そこには白装束の女ーーーラッテンが“サラマンドラ”の三匹の火蜥蜴を手に持つフルートで操って連れ立っていた。

 

「やっぱり動きは封じれても情報を流されるのは不利だからねぇ。早めに来て正解だったわ」

 

フルートを振るって白夜叉と話していた“ノーネーム”へと火蜥蜴達を襲い掛からせる。しかし、火蜥蜴達は次の瞬間にはヒルダによって吹き飛ばされていた。

 

「こいつの相手は私がやろう。話を聞ける状況でもない。お前達は黒ウサギの元へ向かえ」

 

「へぇ、プレイヤー側にもまだ強い人間がいたのね」

 

「生憎と私は人間ではないがな」

 

ヒルダとラッテンが向かい合って話している内にと、耀は旋風を巻き起こして三人を連れてその場から離脱する。その際に鷲獅子のギフトを用いた耀にラッテンは少なからず驚いていた。

 

「今の力・・・鷲獅子か何かかしら?あの子は人間よね?随分と面白いギフトねぇ。顔も端正で可愛かったし・・・よし、私の駒にしましょう‼︎」

 

「させると思うのか?」

 

ヒルダは剣の切っ先を向けてラッテンを先制する。

 

「確かに私は格闘は苦手だし、貴女には勝てないでしょうね。でも、やりようはいくらでもあるのよ?」

 

艶美な笑みを唇に浮かべてフルートに息を吹き込む。宮殿内に響く魔笛はその音色を聴くものの中枢器官を刺激し、目の前にいるヒルダの動きを鈍らせる。

 

「これは・・・」

 

「やっぱりその強さと人間じゃないことから多少霊格が高いみたいね。少しの間動きを鈍らせるだけで終わったけど・・・今はそれで十分だわ」

 

響き渡る魔笛に呼び出されたのか、火蜥蜴が次々とバルコニーに侵入してくる。

 

「まだ貴女の敵ではないでしょうけれど、足止めに徹すればある程度の時間は稼げるはずよ」

 

「クッ・・・」

 

「貴女も素敵だけど、駒にするには骨が折れそうだからあの子達が先ね。じゃあね♪」

 

去っていくラッテンを追おうとするが火蜥蜴によって妨害されてしまう。火蜥蜴達は支配による統率と状況の変化に対する動揺の消失に加え、ヒルダの動きが制限されている今では隙を作ってラッテンを追いかけるのも難しい。ヒルダは仕方なく応戦するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

ヒルダに言われて黒ウサギの元へ向かっていた四人にも宮殿内に響く魔笛の影響が出ていた。取り分け優れた五感を持つ耀には絶大な効果を発揮し、その力を奪っていく。

耀は旋風を維持することも儘ならず、三人を突き放して叫んだ。

 

「アイツがくる・・・三人だけで逃げて‼︎」

 

「そんなことできるわけないでしょう‼︎」

 

「そうだよ‼︎ 俺が担いでいくから急いでーーー」

 

 

 

「させると思う?」

 

 

 

古市達は知る由もないが、ラッテンはヒルダの真似をして古市の言葉を遮りつつ上から降りてきた。

古市は反射的に後ろに跳んでポケットから何かを取り出す仕草をするが、所詮は喧嘩慣れしていない人間の速度だ。格闘が苦手なだけで出来ない訳ではないラッテンに簡単に詰め寄られ、フルートで殴り飛ばされる。

 

「貴之君ッ‼︎」

 

「お、俺のことはいいから逃げ、ガッ⁉︎」

 

ヨロヨロと立ち上がって指示してくる古市を、ラッテンはフルートで頭を殴って昏倒させる。

しかし、指示はされたが倒れている耀を含めて非力な飛鳥とジンではここから逃げ切るのは恐らく不可能だろう。

だったらーーー

 

「ジン君、先に謝っておくわ。・・・ごめんなさいね」

 

ラッテンにはまだギフトを悟られたくない飛鳥はジンの耳元へ口を寄せてから呟く。そして、

 

「コミュニティのリーダーとしてーーー“春日部さんを連れて黒ウサギの元へ行きなさい”」

 

同士の心を支配した。

本当は古市も連れて行かせたかったが、ラッテンを挟んだ位置的に無理だ。ジンが後で悔やむだろうことも理解していたが、それでも古市が犠牲になってまで作ってくれたチャンスを逃す訳にはいかない。

 

「あらら?今度は貴女が足止め?」

 

「・・・ヒルダさんはどうしたの」

 

「今は火蜥蜴達と戯れているところかしらね」

 

それはまだ倒せていない、いや“足止め”という言葉からラッテンには倒せなかった可能性の方が高い。内心で少し安堵しつつ、気付かれないようにラッテンの武器がフルート以外にないことを確認する。

 

「つまりヒルダさんよりは弱いってことね。ーーー“そこを動くなッ!!!”」

 

古市への攻撃から動きは速くないと踏んでラッテンを拘束する。

飛鳥の“威光”による拘束は破られることを前提に、ギフトカードから“フォレス・ガロ”との戦いで手に入れた白銀の十字剣を召喚し、迅速に敵を無力化するためにその剣を突き立てようとする。

 

「ーーーっ‼︎ この、甘いわ小娘‼︎」

 

しかし間に合わなかったようだ。

ラッテンはフルートで剣を振り払い、飛鳥も弾き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 

「グッ、ケホッ・・・」

 

「驚いた・・・不意打ちとはいえ数秒も拘束されるなんて。かなり奇妙な力を持ってるのね。さっきの子もいいけど、総合では貴女の方が素敵か、なッ‼︎」

 

ズドンッ、と腹部を蹴り上げられて飛鳥は気を失ってしまう。

 

「あっちの男の子はどうしようかしら?会う人間みんな変わり種みたいだし・・・捕まえて損はないかしらね」

 

そうしてラッテンが今後の方針を考えていたその時、激しい雷鳴が周囲一帯に鳴り響いた。

 

「今の雷鳴・・・まさか‼︎」

 

ラッテンは屋根に跳び上がって空を見上げる。雷鳴の発信源には軍神・帝釈天より授かったギフトーーー“擬似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)”を掲げた黒ウサギの姿が。

 

「“審判権限(ジャッジマスター)”の発動が受理されました‼︎ これよりギフトゲーム “The PIED PIPER of HAMELIN” は一時中断し、審議決議を執り行います‼︎ プレイヤー側・ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください‼︎」




実のところ、ヒルダは操られる方がいいか今回のでいいかどうかで先の展開も少し変化するので一番悩みました。
まぁ大きな変化はないのでただの愚痴だと思って下さい。

詰め込んだ分おかしなところがあるかもですので問題があれば言ってください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。