オリジナル要素は入っていますが少し内容が原作よりなのでご了承ください。
それではどうぞ‼︎
魔王とのギフトゲームは審議決議のため交戦を一時中断し、現在は宮殿に集まっている。
宮殿内には負傷者が多く、“ノーネーム”でも耀とレティシアは敵との交戦で疲弊し、古市と飛鳥は姿も確認できず、無事だったのは男鹿、ヒルダ、十六夜、黒ウサギ、ジンと主力の半分がやられてしまっている状況だ。
そんな中で魔王との交渉テーブルに参加したのは“階層支配者”であるサンドラと側近のマンドラ、審判である黒ウサギ、それに“ハーメルンの笛吹き”の知識がある十六夜とジンの五人である。
対する魔王側は“黒死斑の魔王”を名乗る少女とラッテン、それに十六夜と戦っていた軍服の男ーーーヴェーザーの三人である。
「それではギフトゲーム、“The PIED PIPER of HAMELIN”の審議決議及び交渉をーーー」
「待て黒ウサギ」
黒ウサギが交渉を始めようとしたところに十六夜がストップを掛ける。出鼻を挫かれた黒ウサギは疑問を浮かべた眼差しを十六夜へ向ける。
「ど、どうされました?十六夜さん」
「まだ役者が揃ってないのに始めらんねぇだろ。なぁ魔王様?」
「・・・ふぅん、貴方なかなか頭が回るわね。まぁヒントはいっぱいあったけど」
十六夜が不敵に笑いかけると少女も同じく不敵に笑い返す。
「やっぱり意図的なものか。不自然な程ヒントがあったからな」
十六夜は手を持ち上げ、一本ずつ指を立ててヒントを数えていく。
「まずは“契約書類”だ。転移でのゲームテリトリーへの干渉ならばありってのは、転移するーーーしなければならない仲間がいることを示唆している」
今回の“火龍誕生祭”では魔王出現の予言から、白夜叉の“主催者権限”により参加者の制限やギフトゲームの開催・“主催者権限”の使用を禁止していた。目の前に座る魔王側の三人はそれを掻い潜って現れた訳だが、掻い潜ることのできなかった仲間がいるため咄嗟に書き加えたのだろう。外部からの邪魔と仲間の参戦。瞬間移動系ギフトの絶対的少なさを考えて天秤にかければ、どちらにメリットがあるかは一目瞭然だ。
「次に白夜叉の情報だ。お前達は新興のコミュニティの可能性が高いって言ってたらしいからな。残りの仲間は精々二・三人の少数だと予想できる」
この時点では残る仲間は少数という曖昧な推測しか立てることができないが、十六夜はその人数をより正確にするための情報を告げる。
「最後にお前の言葉だ、“黒死斑の魔王”。誰に聞いたかは知らないが男鹿のことを知ってる奴に特徴を聞いたんだろ?それも箱庭は元より男鹿の世界でも稀少らしい紋章術を知っていて、尚且つ魔王のゲームに干渉させるような強い奴に。これらの情報を合わせると他の仲間は恐らく一人 ーーー “紋章使い”だ」
恐らくと言いつつもそれを微塵も感じさせない声で十六夜は自分の推測を述べる。そして、その推測を裏付けるかのように空間に黒い歪が発生して一人の男が現れる。
服装は黒の学生服で男鹿が着ていた改造制服に酷似している。下ろした黒髪は少し長くて目に掛かり、クラスでは目立たない地味な男子生徒という印象だ。
「なんかイメージと違うな。男鹿っぽい不良風な奴だと思ってたんだが」
「あぁ、初めて会う奴にはよく言われる」
十六夜の不躾な話し掛けにも普通の返しをしてくるし、印象も合わさってどうも魔王のコミュニティのメンバーだとは思えないというのがこの場の大多数の意見だ。
「中断させて悪かったな。続きを進めてくれ」
と言われたので、今度こそ黒ウサギは交渉を進めていく。
まず“主催者”側に不正を問うたがそれはないとのこと。そして箱庭の中枢に確認して問題がなければゲーム中断の代償として新たなルールを加えるという。“主催者権限”での強制参加とはいえゲームはゲーム、横槍を入れているのは参加者側なので至極当然な物言いであろう。中枢からの回答は“主催者”側の言う通り不正はないとのことだ。
ルールの追加はゲーム再開の日取りだけだと言うので一部の者を除いて周りは意外感に包まれていた。時間を与えてもらえれば参加者側は負傷者の治療・戦闘の準備・謎解きができるので“主催者”側の不利しかないからだ。
今回の日取りは最長で一ヶ月は引き延ばすことが可能だと黒ウサギが言い、ならば再開は二十日後にしてお開きになろうとした所で十六夜とジンが待ったを掛ける。
「・・・何?時間を与えてもらうのが不満?」
「確かにこっちにとってはありがたいが・・・今回は駄目だな」
「はい。貴方の両隣にいる男女は“ラッテン”と“ヴェーザー”、そしてもう一体が“
ジンの言葉に一同の表情に驚愕が浮かぶ。黒死病とは人類史上最悪の疫病である。笛吹き道化が斑模様だったことや黒死病を伝染させるネズミを操ったことから子供の死に黒死病も考察に含まれているのだ。
自分の正体を看破された少女ーーーペストはそれでも微笑を浮かべたままだ。
「今度こそ素直に頭が回ると褒めてあげるわ。よろしければ貴方達とコミュニティの名前を聞いても?」
「・・・“ノーネーム”、ジン=ラッセル」
「同じく逆廻十六夜だ」
コミュニティの名前を聞いたペストは納得したというような顔になる。
「あぁ、貴方達が・・・でも手遅れよ。ゲーム再開の日取りはこちらの意のまま、参加者の一部には無機生物や悪魔でもない限り発症する呪いそのものを掛けている」
ペストは“ノーネーム”のことを知っている風だったが、男鹿のことを知っているなら所属しているコミュニティを多少知っていても不思議ではない。
そんなことよりもペストの最悪の告白に息を呑むことしかできない。黒死病の最短発症時間は二日、ゲーム再開の日取りが伸びる程死者が増えていくのだ。
「ん?無機生物は分かるが、どうして悪魔にも黒死病が発症しないんだ?」
十六夜がその場の空気なんて知るかとでもいうように自身が疑問に思ったことをペストに尋ねる。
「・・・今のを聞いて質問するのはそこなの?そんなの後で男鹿辰巳にでも聞けばいいじゃない」
「男鹿に?」
聞き慣れた名前が出てきたので“ノーネーム”の三人は顔を見合わせる。確かに男鹿にはベルゼブブという破格の悪魔が憑いているが、それと関係があるのだろうか?というか男鹿が悪魔の生態なんて理解しているのだろうか?
まぁ男鹿が知らなくてもヒルダが知っているだろうとペストへの質問を止める。質問が終わったのも見計らってからペストが再び話し出す。
「此処にいる人達が参加者側の主力よね。他のコミュニティは見逃してあげるから、此処にいるメンバーと白夜叉、あと“ノーネーム”の主力陣は“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に降りなさい」
「なっ、」
「私、貴方達のことが気に入ったわ。それに男鹿辰巳も“ノーネーム”なのだから、一緒にいた純血のヴァンパイアの女の子も“ノーネーム”でしょうし」
「そこの男の子が“ノーネーム”なら、私が捕まえた紅いドレスの女の子とちょっと地味目の男の子も“ノーネーム”だと思いますよ♪」
ジンに目を向けながらのラッテンの発言に“ノーネーム”のメンバーの顔が強張る。姿が確認出来なかった二人はどうやら捕まってしまっていたようだ。
しかしそんな中でも十六夜とジンは冷静に頭を巡らせる。
「・・・この状況で勧誘するのは新興のコミュニティで人材が欲しいからですか?」
「・・・そうだけど、それと交渉に関係があるのかしら?確かに最長の一ヶ月なら病死する人材が出てくるでしょうけど、二十日なら病死前の人材をーーー」
「では発症したものを殺す。例えサンドラだろうと“箱庭の貴族”であろうと・・・この私であろうと殺す」
突然のマンドラの過激な発言にほぼ全員がギョッとして振り向くが、
「別にいいぞ」
この発言に表情を変えなかった一人ーーー今まで黙っていた“紋章使い”の男が答える。
この発言に今度こそ男を除いたその場にいる全員が絶句する。マンドラもまさか肯定されるとは思っていなかったようだ。
「俺に言わせればお前に殺される程度ならいらない。強い奴は発症してでも戦えるからな。生きているか死んでいるか、使えるか使えないか、ただそれだけだ」
この男が魔王側のメンバーで一番ヤバイ。
参加者側の全員がこの男の評価をそう改めるには十分な発言だった。
「・・・お前、名前は?」
「鷹宮忍」
十六夜の質問にあっさりと答える。名乗らなかったのは聞かれなかったから答えなかった、というレベルのようだ。
「そうか。だがいいのか鷹宮?魔王様に断りもなくそんなこと言って」
この場にいる全員が絶句、つまりペストも鷹宮の発言が予想外だったことを意味している。ペストは話を振られて少し考えを巡らせていたが、
「・・・別に構わないわ。いきなり傘下が増え過ぎても軋轢を生むだけだしね」
ペストが自身で考えた結果、鷹宮の言う通り実力のある人材を少しずつ吸収していった方が得策だと判断したのだ。
そこに活路を見出すのが十六夜である。
「なら、俺達は傘下に降る代わりに隷属されるってのはどうだ?それなら軋轢が生まれるなんてありえないだろ?」
またしてもその場の空気が固まる。ここまでくれば如何にして相手の度肝を抜く交渉をできるかが鍵になってくる。
“サウザンドアイズ”と“ペルセウス”がいい例だが、傘下に入れるということが必ずしもいい結果になるわけではない。
しかし隷属ならば話は別だ。人柄にもよるが実力に関係なしに自分の命令を遵守させることができ、それに加えて自らの命を握られているようなものだ。軋轢など発生のしようがない。
「さらに審判をしている黒ウサギを参加させれば“箱庭の貴族”を手に入れるチャンスだぜ?だから再開を三日後にしろ」
「・・・十日。これ以上は譲れないわ」
十六夜は勝つ前提で話を進める。自分に加えて魔王の契約者である男鹿、帝釈天の眷属である黒ウサギも参加できるのだから保身に走るよりも勝つ確率を上げる無茶を通していく方が合理的だ。
そしてそれは十六夜だけの考えではなかったようだ。
「・・・ゲームに期限を付けます。再開は一週間後。ゲーム終了はその二十四時間後とし、同時に“主催者”側の勝利とします」
ジンの最後の後押しにペストは思考をさらに深めていく。
一週間とは病気に耐えられる限界、つまり自分達が勝てば参加者全員を総取りできるということだ。懸念していた組織拡大による軋轢も隷属ということでクリアしている。
お互いにメリットがある理想的な期限ではあるのだが、
「ねぇジン。もしも一週間生き残れたとして、貴方は
「勝てます」
脊髄反射のような答え。ジンも十六夜と同じく、人類最高クラスのギフト保持者とまで言われて召喚された同士の勝ちを信じているのだ。
「・・・そう。よく分かったわ。貴方達は必ず私の玩具にしてみせるから」
瞳に怒りを浮かべた笑顔でそう宣言し、黒い風が吹き荒れるとともに改変された“契約書類”だけを残して姿を消したのだった。
【ギフトゲーム名 “The PIED PIPER of HAMELIN”
・プレイヤー一覧:現時点で三九九九九九九外門、四〇〇〇〇〇〇外門、境界壁の舞台区画に存在する参加者、主催者の全コミュニティ(“箱庭の貴族”を含む)。
・プレイヤー側ホスト指定ゲームマスター:太陽の運行者・星霊、白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)。
・プレイヤー側禁止事項:休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より五〇〇m四方に限る。
・ホストマスター側勝利条件:全プレイヤーの屈服、及び殺害。八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。
・プレイヤー側勝利条件:一、ゲームマスターを打倒。二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
・舞台ルール:転移での移動ならばどのような条件であってもゲームテリトリーへの干渉を可能とする。
・休止期間:一週間を相互不可侵の時間として設ける。
宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“グリムグリモワール・ハーメルン”印】
ヤバイ、ゲーム再会がまだまだ先になりそうな感じにしかなりません。
無口で出番が少なかったとはいえ鷹宮の登場シーンだから削れないしでまるまる一話、審議決議に当ててしまいました。
次回から何話かに分けて今回出てきた“悪魔に黒死病が発症しない”理由やらその他色々な休止期間の話を自己解釈含めて書いていくつもりです。