子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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一日遅れてしまいましたが今週の分を投稿します‼︎

報告として、新規読者様からの感想があったので興味を引くあらすじの方がいいかなと思い少し変更、自分の知識不足から最近になってルビの振り方を知ったために( )で書いていたルビを書き換えました。

それではどうぞ‼︎


激動の日の終わり

ギフトゲーム開始初日の夜。

耀とレティシアは交戦の疲労を癒すため、サンドラの取り計らいで用意された部屋で休んでいた。とはいえ、二人は疲労だけで外傷はなく、みんなが忙しなく動いているのに休んでいるというのは申し訳なく思ったりしている。今は黒ウサギによって運ばれてきた食事を二人で雑談しつつ食べているのだが、そこにコンコンッとノックの音が響く。いったい誰だろうとレティシアが扉を開けると、そこにはちょっと意外な人物がいた。

 

「辰巳?いったいどうしたのだ?」

 

扉の前にいた人物は男鹿だった。黒ウサギの話では十六夜とジンが謎解き、黒ウサギとヒルダが治療の手伝い、男鹿は力仕事とそれぞれの作業をしていた筈だが終わったのだろうか。

 

「い、いや、調子はどうだと思ってな。な、ベル坊?」

 

「ア、アイー」

 

と、レティシアの問い掛けに対して目を背けながら何やら不自然極まりない返事を親子共々返してきた。何か隠しているのだろうが、どうやら二人とも隠し事ができない性格のようだ。様子を見に来るような重症でもないとは思うのだが、わざわざ様子を見に来たと言うのだから中へと招き入れる。

 

「辰巳、作業は終わったの?」

 

「あ、あぁ。暇になったから散歩ついでに様子を見にな」

 

耀の質問にも言葉を詰まらせながら返してくる。まるで別のことを考えながら会話をしているように感じる。

 

「さ、散歩と言えばよ。久遠とレティシアが襲われたって展示場は何処にあるんだ?一段落したら行きてぇと思ってよ」

 

まるで、というよりその通りみたいで急に話を切り替えてくる。

様子を見に来たと言うのも嘘ではないだろうが、どうやら今の質問の方が本命のようだ。

 

「東側に来た時に見えた、境界壁を掘り進めて作られた空洞がそうだ」

 

「そ、そうか。じゃあお前らも元気そうだし、俺は散歩に戻るわ」

 

ここまであからさまにされれば流石に二人も男鹿の目的が分かってきた。耀とレティシアは顔を見合わせてから頷き合って行動に移す。

 

「なぁ耀?我々も回復してきたことだし、気分転換に辰巳の散歩にでも付き合わないか?」

 

「そうだね。それは名案」

 

二人の言葉に、男鹿は焦った様子で言い返す。

 

「いやいや待て待て、病み上がりなんだから大人しくしてろって」

 

「しかし、()()()()()()()()()しれないのだから少しは土地勘がある者がいた方がいいだろう?」

 

「もしかしたら()()()()()()()()()()()()しれないし、その時は私が力になれるよ?」

 

ここまで強調されれば二人に自分の考えが読まれていると理解せざるを得ない男鹿である。特にレティシアの言葉は、ゲーム休止期間中のルールに追加された“休止期間の自由行動範囲は大祭本陣営より五OOm四方に限る”という文から街中を散歩するなどできないはずなのに、それを男鹿はすると暗に言っているのだ。

 

 

 

「もう隠し事はできないようですな、男鹿殿」

 

 

 

何処からともなく、というか窓の外からアランドロンの声が聞こえてきた。振り向けばアランドロンがそのおっさん顔を此方に覗かせている。

 

「わざわざそんなところから来なくても・・・」

 

耀が呆れながらも窓を開けると、アランドロンは窓枠を乗り越えて入ってきた。

 

「飛鳥と貴之を探しに行くのだろう?何故こんな回りくどいことを?」

 

そう、男鹿の隠し事とは飛鳥と古市を探しに行くことだったのだ。しかし言い方は悪くなるかもしれないが普段の男鹿はもっと単純に動く性格で、回りくどいことなどしないだろうと不思議に思っていた。

 

「はい、それは少し前のことになります」

 

そんなレティシアの疑問にアランドロンは説明と回想に入っていく。

 

 

 

 

 

 

「え?お二人を助けに行く?」

 

黒ウサギがせっせと働いているところに男鹿とアランドロンがやって来てそう言い放った。

 

「あぁ。だから奴らがいる場所に心当たりはねぇか?」

 

男鹿は普段の振る舞いとは違って仲間を大切にする人物である。そんな男鹿が仲間を助けに行くという考えは自然なものだと言えるだろう。黒ウサギも男鹿以上に仲間を大切にしているので助けに行きたいのは当たり前だが、生まれてから箱庭でギフトゲームと関わってきた彼女にはそれが無理なことだと理解できるため、ウサ耳を垂らして男鹿に“契約書類”の説明した。

 

「じゃあ心当たりだけでも教えてくれ」

 

「それを辰巳さんにお教えすれば、それでもお向かいになるでしょう?彼女達は人材を欲していましたから二人を無下には扱わないはずです。ですから今は辰巳さんもゲーム開始まで体調を整えて下さい」

 

黒ウサギは作業がまだあると言ってその場を立ち去ってしまう。残された二人は何とか知恵を絞る。

 

「どうする?もう勘で探し回るか?」

 

「しかしこの街は手掛かりなく探すには広過ぎますぞ?その上何処に何があるかも分かりません」

 

アランドロンの言葉の通り、例え瞬間移動で休止期間エリア外に行けたとしても初めての場所で当てもなく探し回っていては切りがない。

 

「うーん、街のことを知っていて、あいつらのことにも心当たりがある奴ねぇ・・・」

 

 

 

 

 

 

「それで私に白羽の矢が当たったのか」

 

話を聞いて納得するレティシア。そのことを隠していたのは黒ウサギの時のように教えてくれない可能性があったからである。

 

「それでは三人とも、あとはお願いします」

 

既に男鹿達は瞬間移動で休止期間エリア外に出ており、瞬間移動以外の移動能力をもたないアランドロンは三人を見送った。瞬間移動で一気に展示場まで行ってもよかったのだが、そこにいるという確証はないので上空から向かいつつ周囲も探して回ることにしたのだ。

男鹿は紋章、レティシアは翼、耀は風とそれぞれの方法で空中を駆けていく。

 

「どうだ春日部?」

 

「駄目、まだ二人を感じない」

 

周囲を見回しながらの移動なので速度はあまり出さずに移動していく。

 

「つーか、なんでお前らは一緒に来ることにしたんだ?黒ウサギの話じゃ精々様子を見に行けるだけだぞ?」

 

男鹿が疑問に思ったことを訊く。黒ウサギに断られたからてっきり反対されると思っていたのだ。

 

「私は友達の二人が心配だったから」

 

実に春日部らしい考えである。

 

「私も万全な状態ですることがあれば黒ウサギと同じ判断だったかもしれん。しかし一日休めと言われて何もすることがなく、休戦期間中で戦闘をする心配はないことから万全でなくとも二人を探すのに役に立てると思ったのだ」

 

またレティシアの判断も実に合理的だ。空いている時間に相手の拠点を特定できれば、ゲーム開始直後に捕虜扱いになっている二人の救出に向かえて、尚且つ相手の来る方向の予測が立てられることなど相手に気付かれなければかなりのメリットとなる。

そうして喋りながら探し始めて三十分ほど経過した頃。宮殿との直線距離にして丁度中間地点あたりに差し掛かった頃に変化が起きた。夜行性の目と聴覚をフル活用していた耀が一番に気付く。

 

「展示場っぽい場所の入り口が崩れた」

 

それを聞いた二人も前方に目を向けるが、闇に包まれた視界の中では境界壁は認識できても麓の入り口まではよく見えない。しかし次の瞬間には魔力の奔流が内側から瓦礫を吹き飛ばしているのが確認できた。

 

「なんかドンパチやってるみてぇだな」

 

「悠長に言っている場合か‼︎ もう彼処に決まりだ、急ぐぞ‼︎」

 

いったい何故戦闘が発生しているのかが分からないレティシアは速度を上げる。ここまでは三十分も掛かったが、速度を出して一直線に進めば残りの距離はその半分の時間も掛からないだろう。

そのまま少し進んだところでまた耀が声を上げる。

 

「何か飛んでくる‼︎ けどこの匂い・・・貴之?」

 

「何?貴之だと?」

 

声に反応して戦闘態勢を取るレティシアが感じられる程度には魔力が近付いていたが、古市だと聞いて訝しみながらも戦闘態勢を少し解く。

魔力の源が近付いてきてその輪郭が分かるようになった。確かに古市なのだが普段とは違って魔力を纏い、魔力で作られたであろう黒い龍に乗って此方に向かっている。霊体であるナーガのことは男鹿しか認識できていない。

三人に気付いたというのではなく宮殿に向かっている途中だったようで、古市も三人に気付いて移動方向を変えてきたようだ。

 

「あれ、何で三人がこんな所に?それにゲーム中なのに街に人がいないのはどうしてなんだ?」

 

「貴之、お互い聞きたいこともあるだろうが細かい話は後だ。飛鳥も捕まっていたのだが知らないか?」

 

「久遠さんが?でもあいつらの会話を聞いた限りでは逃げたみたいですよ?」

 

「ならここにいる理由はねぇな。移動するぞ、古市、ナーガ」

 

男鹿がいきなり知らない名前を出したので見えていない耀とレティシアには何のことか分からないのだが、そんなことはお構いなしに三人の間で話は進んでいく。

 

「そうだな。あと少しだけお願いします、ナーガさん」

 

古市は簡易契約しているナーガへと頼むが、帰ってきた言葉は想定外のものだった。

 

「いや、悪いがここまでだ。“契約者と合流する”までが契約内容だったのでな。あとは頼んだぞ、契約者」

 

は?と二人が思った直後にナーガが消えて古市の魔力がなくなる。魔力がなくなったことにより黒い龍も消えたので古市は物理法則に従って落ちるのみだ。

 

「ちょ、ナーガさぁぁぁん⁉︎ もう少し融通効かせてぇぇぇ⁉︎」

 

「クソッ、世話焼かせんじゃねぇよ‼︎」

 

男鹿は急いで古市の腕を掴みに掛かる。しかし腕を掴んだまま帰るのは男鹿にしてみれば面倒なことこの上ない。

 

「どうしたの?よく分からないけど飛べなくなったのなら私が運ぼうか?」

 

「春日部さん、お願い‼︎」

 

古市にしても腕を掴まれたままだと移動時の慣性で痛いし、男鹿にしがみ付くのも嫌だしなので風で運んでもらいながら宮殿へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「貴之さんを助け出せたんですか⁉︎」

 

四人が帰ってきて報告に行くと黒ウサギは驚いたように駆け寄ってきた。結局男鹿は行ったのか、とかレティシア達が手引きしたのか、とか諸々の状況は頭から飛んでいるようだ。

 

「お怪我はありませんか⁉︎ というかどうやって助け出せたんですか⁉︎ それに飛鳥さんはどうなったんですか⁉︎」

 

「お、落ち着いてください黒ウサギさん‼︎ 怪我とか久遠さんは大丈夫っぽいですから‼︎ と、とりあえず解毒のギフトとかありませんか?」

 

「解毒⁉︎ まさか毒を盛られたんですか⁉︎」

 

「いや、だから落ち着いて‼︎ 症状は出てないっぽいですから検査だけでもお願いします‼︎ その時に話しますから‼︎」

 

とりあえず落ち着かせた黒ウサギに連れて行ってもらって治療室に向かう古市。残ったのは出ていった二人を除く“ノーネーム”のメンバーだ。

 

「それで?こんな面白そうなことから俺を除け者にしたんだから色々と聞かせてもらうぜ?」

 

十六夜が笑みを浮かべて男鹿達を見る。

 

「そうは言っても私と耀は辰巳に付いて行っただけで、貴之がどうやって逃げ出したのかも、魔力を纏っていた理由も、さっきの毒がどうとかいうのも知らないのだが」

 

レティシアの言葉により視線は理由を知っているであろう男鹿、ヒルダ、アランドロンに集まる。仕方なくヒルダが疑問の全てを話すことにする。

“ベヘモット三十四柱師団”のこと。柱師団の悪魔を呼び出せるティッシュのこと。そのティッシュの作用と副作用のこと。

一通りの事情を簡単にヒルダが説明すると、十六夜が十六夜らしい疑問について聞いてくる。

 

「で、そのティッシュで古市はどれくらい強くなれるんだ?」

 

「箱庭に来る少し前のことだが、“暗黒武闘(スーパーミルクタイム)”の男鹿と同等の戦いをできるレベルだ」

 

ヒルダの言葉には一同驚きを隠せないようだ。男鹿の力は全員が認めているし、十六夜に至ってはお互い本気ではないとはいえ互角に殴り合った男鹿と同じ強さだということに思わず笑みが浮かんでしまう。

 

「やっぱりあいつも無茶苦茶だったな。何が普通の人間だよ」

 

「いや、何回も言うけど俺は普通だから」

 

十六夜の感想に、検査を終えたらしい古市が後ろから反論する。

 

「貴之さんの検査結果ですが、特に問題は見られませんでしたよ?」

 

黒ウサギも古市から事情を聞いたようで、毒が検出されなかったことは良かったのだがそのことに疑問を抱いている。

 

「そうか。ティッシュに使われている毒は微量なものだと言っていたからな。前回の使用で抗体でもできたか?」

 

それに加えてナーガの技を使用できるぐらいには魔力耐性も付いているようだ。もしかしたら体質の問題もあるのかもしれないが、今後も検証が必要だろう。

 

「取り敢えず今日は疲れたんで、詳しい話は明日でもいいですか?」

 

今日の古市を振り返ってみると、ラッテンにボコられて捕まり、毒を使用してまで魔力を使い、今までご飯抜きだ。自称普通になりつつある古市にはキツイ日程だったので、この日はこれで解散となった。




古市と合流は前回の話と少し時間差があるかな?と思われた方に説明しておくと、ペスト達はこれから暇なので急いで帰らずにゆっくりと帰っていたために帰りが少し遅くなっています。
次回はまだ戦闘は始まらない予定ですが、ゲームは始める予定ですのでもう少々お待ちください。

投稿が一日遅れてしまった理由についてですが、現実が忙しくて書く時間が少なくなってしまいました。これからも同じ感じなので一ヶ月くらいは本当に不定期更新となってしまいます。楽しみにしてくれている人には申し訳ないですがこれからも応援よろしくお願いします‼︎

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