展開は浮かんでいるのに時間や語彙力の問題で遅くなってしまいました。
それではどうぞ‼︎
魔王襲来から六日目。
ゲーム再開まであと一日となっているが参加者側は少し時間は掛かったものの謎解きに成功していた。
“契約書類”の一文である“偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ”とはハーメルンで起きた事実、一三〇人の子供が死んだ理由を相手の悪魔から選び、砕いて掲げることができる物ーーー展示品である百枚以上のステンドグラスの内、偽りの伝承が描かれたステンドグラスを砕き、真実の伝承が描かれたステンドグラスを掲げよ、という答えが導き出された。
そう、魔王側の三人は参加者としてではなく展示品として“火龍誕生祭”に参加していたのだ。
この謎が解けたのは休止期間の四日目になる。ほとんどの考察は十六夜の豊富な知識量と宮殿の蔵書を読み解くことで二日目には解けていたのだが、伝承の真偽で詰まってしまったのだ。
その後も一日知恵を絞って考えたのだが解釈が分かれて核心には至らず、古市の情報によるラッテンとヴェーザーの会話に出てきた“時代背景”という言葉を元に思考を進め、黒死病の最盛期とハーメルンの碑文の時代が合わないことが判明して真実の伝承ーーーヴェーザーを特定できたのだ。
残る五日目は戦力や戦略の再確認を行い、六日目の現在は万全の態勢で明日を迎えるため自由行動に当てられている。
そんな中、“ノーネーム”では耀が黒死病に掛かってしまい隔離部屋に移されていた。十六夜は耀の様子を見に行くついでにゲーム攻略の報告をしたり、古市はティッシュによる副作用の検証をしたり、アランドロンはそれに付き添ったりと各々の時間を過ごしている。黒ウサギも古市に異変があれば対応できるように検証に立ち合っており、レティシアは念のために治療用のギフトを用意しておこうと医務室へ向かっていた。
「ーーーー・・・・・ねぇよ」
「ーーーー・・・・・するなよ」
レティシアが医務室へと向かっている途中、廊下の角から男鹿とヒルダの声が聞こえてきたのでそちらの方へと行ってみる。
近付くことによって二人の会話がより鮮明に聞こえてきた。
「貴様が死ぬのはどうでもいいが、坊っちゃまを危険に晒すんじゃないぞ」
聞こえてきたヒルダの不穏当な言葉にレティシアの顔が硬くなる。
耳を澄ませて詳しい内容を聞こうとしたが、どうやら会話は終わってしまったようでヒルダの去っていく足音が響いて離れていく。
「誰が死ぬか。ったく・・・」
「・・・辰巳。死ぬとはどういうことだ」
「あ?なんだ、盗み聞きかレティシア」
「質問に答えてくれ」
突然現れたレティシアを茶化すように男鹿が答えるが、それでも真剣な眼差しでレティシアは男鹿に迫った。
「なんでもねぇよ。ただのヒルダの悪態だろ」
しかし男鹿は教えるつもりがないようで、両手を持ち上げ肩を竦めていつものことだと言う。ヒルダが意味もなくそんなことを言うとは思えないが、そう言われればこれ以上問い詰めようがない。
諦めてヒルダに訊こうかと考えていたその時、何気なく男鹿を見たレティシアは気になるーーー注意していなければ見逃してしまうような小さな違和感に目が止まる。
持ち上げられている腕、左腕の服にのみ皺が寄っているのだ。
普段なら本当に気にも留めない些細なことだが、レティシアはヒルダの言葉と合わさって瞬間的に嫌な予想が頭に浮かんでしまった。
「・・・・・」
「何だよ?」
男鹿は急に黙り込んだレティシアを訝しむが、そんな思いはすぐに消えることになる。
レティシアがいきなり近付いてきたかと思うと、左腕を掴まれて袖を捲ってきたからだ。
「ッ‼︎ これは・・・」
レティシアの嫌な予想が最悪の形で当たってしまったと言わざるを得ない。彼女は男鹿の左腕を見て顔を険しくする。
男鹿の左腕に、黒死病の証である黒い痣が浮かび上がっていたのだ。
「黒死病の潜伏期間は二日から五日のはず・・・なのに何故?」
潜伏期間は魔王襲来から五日、だから残存戦力の確認を休止期間の五日目にしたのだ。
黒死病は空気感染しないので治療や介助の時に気を付けてさえいれば感染しない。そもそも男鹿は感染者との接触機会は無かったはずだ。つまり男鹿は最初から感染していたことになる。
「落ち着け、面倒くせぇ。俺が病人に見えるか?」
言われたレティシアは改めて男鹿の全身を観察する。
確かにふらついてもいなければ、掴まえている腕は平温より高いかどうかという感じだ。発症しているのに症状は出ていないという不思議な状態である。
「ヒルダの話じゃ、ベル坊とリンクして魔力をもらってるから病気の進行が遅ぇんだとよ。けどベル坊が眠ってる時の魔力は少ねえから病気には罹っちまうんだそうだ」
人間が身体を休める時に活動を抑えるのと同じことが魔力にも言えるのだろう。起きている間は病原体が潜伏していても魔力で強化された抗体によって発症はしないが、眠って魔力が減少することでジワジワと蝕んでいく、ということか。
「だから明日は問題ねぇ。作戦も決まってんだから他の奴には黙ってろ」
男鹿は言うだけ言うと返事も聞かずに立ち去ってしまう。
今の話が本当であれば、日頃の魔力で平気なら魔力を引き出して戦う戦闘中では体調は悪化するどころか良くなる可能性もある。
男鹿の言う通り明日一日なら支障なく戦えると理屈では分かっているのだが、レティシアは如何しても不安を拭い去ることができないのだった。
★
そして“黒死斑の魔王”との決戦の日。
ペスト達は人材を欲していたことから時間稼ぎのためにばらけてステンドグラスの防衛に出ると考えた十六夜は、そこを各個撃破していくことにした。主力陣が相手を足止めしている間に他の参加者がステンドグラスを探すという役割分担でギフトゲームに臨む。既にアランドロンの瞬間移動で男鹿達はそれぞれ街に潜伏して開始の時を待っていた。
そして、その時は激しい地鳴りと共に訪れる。
それと同時に街は光に包まれ、目を開ければ天を衝くほどの境界壁は消え、尖塔群は木造の街並みに変化しする。そこにはハーメルンの街が出現していた。
その光景を十六夜は楽しそうに変化した家の上から眺めている。
「ほぉ、こりゃ凄ぇな。奴らの本領発揮ってところか。とりあえず本拠地にしてたっていう境界壁の方向に向かうとーーー」
「ーーーその必要はねぇぜ坊主ッ‼︎」
十六夜の真上からの一喝。棍に似た巨大な笛を振り上げたヴェーザーが落下の勢いのままに振り降ろす。
十六夜は反射的に跳び退いたものの隕石の落下の如き力で足場を砕かれ、跳んだ彼を狙い撃つようにヴェーザーの打撃が腹部に入れられて吹き飛ばされる。しかし吹き飛ばされながらも空中で体勢を整えて地面に足を突き刺し、地面を抉りながらなんとか踏み留まった。
それでも衝撃によって込み上げてきた血が口元に垂れているのを腕で拭いながらヴェーザーを睨みつける。
「オイオイ、不意打ちなんて卑怯じゃねぇか?」
「よく言うぜ、不意打ちを狙ってたのはお前らの方だろうが。五人も休止エリア外に配置しやがって」
ネズミでも使って探っていたのだろう。ヴェーザーは潜伏人数を言い当てるが、ヴェーザーが逃げずに現れたということは相手の防衛を担う奴以外は他の連中もそれぞれ対峙している可能性が高い。
十六夜はこちらの作戦的には願ったり叶ったりだとほくそ笑む。
「マスターに二人、他はタイマンってところか。だが俺達を前回と同じと思うんじゃねぇぞ。こっちは初めての神格を得たんだ」
「・・・神格だと?まさかペストの正体はーーー」
「多分、坊主が考えてる通りだぜ?今回は捕まえた人間にも逃げられちまって失態ばかりだからな。出し惜しみはなしだ」
そういうとヴェーザーは腕捲りして腕を露出させる。
そこに刻まれたものを見せられた十六夜は、否が応でも思考を切り替えざるを得なくなった。
「・・・どういうことだ?何故お前に“
十六夜が指摘するものーーーヴェーザーの右腕には男鹿の紋章に似たものが光り輝いていた。男鹿の蠅のような形状の紋章と違い、天使のような形状で右下に数字の2が描かれている紋章だ。
「そいつは悪魔との契約の証じゃねぇのか?どうして悪魔のお前に出てるんだ?」
「そんなこと丁寧に教えるわけないだろうが」
十六夜の頭の回転を警戒してか、ヴェーザーは詳しい情報を伏せてきた。“一を聞いて十を知る”を地でいく十六夜には必要な措置だと言える。
それを聞いた十六夜は獰猛な笑みを浮かべて重心を落とし、突撃の構えを取った。
「ハッ‼︎ だったら力尽くで聞き出してやるよ木っ端悪魔ッ‼︎」
「フンッ‼︎ だったら返り討ちにしてやるぜクソ坊主ッ‼︎」
十六夜の突撃と同時にヴェーザーも飛び出して迎え撃つ。
拳と笛がぶつかり合い、その衝撃が周囲一帯に浸透することで戦闘の開始を街に告げていく。
★
十六夜がヴェーザーと対峙している時、レティシアもラッテンと対峙していた。
ラッテンは三体のシュトロムを引き連れており、その全てにヴェーザーと同じく紋章が刻まれている。シュトロムは額に当たる部分に4以降の数字が、ラッテンは背中に3の数字が描かれた紋章がある。
マントの裏地に紋章の輝きが反射していたのをレティシアが気付き、十六夜と同じく疑問をぶつけてみればとラッテンは自慢するように見せつけてきた。
「いいでしょ?この“
天使型のヘレルスペル・・・恐らく堕天使の類いが鷹宮の契約悪魔だと思われるが、レティシアのもつ知識からでは確定には至らない。
もう少し情報を引き出そうと会話を続けることにした。
「そんなに自慢したいのなら詳しく教えて欲しいものだな」
「少しなら別にいいわよ?元魔王ドラキュラさん?」
ラッテンの言葉にレティシアの顔が強張る。ペストはレティシアのことを知らなかったのに、この短期間でどうやって調べたというのか。
「貴女、マスターに手も足も出なかったんでしょ?神格が残っているならそんな結果はあり得ないものね」
「・・・まさか、前回の戦いで私が全力を出したとでも思っているのか?」
ラッテンの言葉に“神格がなければ負けない”とでも言われたようで、目元を鋭くさせたレティシアは自身の残ったギフトの中でも最も強力な“龍の遺影”を展開する。足下から伸びる影が龍の顎、無尽の刃へと姿を変えていく。
「あら〜ちょっと計算外かしら?こちらも戦力を増やしましょう」
少しも困ってなさそうなラッテンが魔笛を奏で始めると、大地から十体を越えるシュトロムが造られていく。当然のように造られたシュトロムにも例外なく紋章が刻まれていた。
しかしレティシアはそれらを無視してラッテンに話し掛ける。
「そんな有象無象を増やしたところで私の影を防げるとでも思っているのか?」
躊躇なく影を伸ばしてラッテンへと襲い掛からせる。
それでもラッテンは顔に笑みを浮かべたままシュトロムを数体だけ盾にし、
「思ってないわ。ーーー普通のシュトロムならね」
影の一振りで二体までシュトロムを粉砕したが、三体目は威力を殺されて貫けなかった。
この結果にレティシアは驚愕する。
例え二体を撃破して威力を殺すことになっても、量産できるような魔物であるシュトロムに防げるような代物ではないはずだ。
「これが紋章の力よ。あとは戦いながらお話しましょうか」
ラッテンは魔笛を奏でて破壊されたシュトロムを補充し、シュトロムは瓦礫を吸収して四方から射出してきた。レティシアは影を展開して全て叩き落としながら、再度シュトロムを破壊を試みる。
壊しては増やされ、増やしては壊されてと手数のスピードを競って戦いは激化していく。
★
「来てやったぞ、男鹿」
同じ頃、男鹿もまた鷹宮と対峙していた。それと同時に男鹿が魔力を高めるのに合わせて鷹宮も魔力を高めていき、その場の空気が重くなっていくのを感じる。
「何をそんなに急いでいる?」
いきなり戦闘態勢に入った男鹿に対して鷹宮は懐からワックスを取り出して髪型をオールバックにする。両耳に大量のピアス、左こめかみに傷と今までと一転して不良っぽい雰囲気を醸し出していた。
「あ?急いでるって何のことだ」
「誤魔化すなよ。分かってるだろ?」
髪型を整えてワックスをしまいながら真実を告げる。
「
そう、昨日レティシアに言った男鹿の説明は嘘だったのだ。
そもそも平気ならばヒルダが気付くはずもなく、不自然に魔力を高めていた男鹿にヒルダが気付いて発覚したことなのだ。レティシアに説明した男鹿らしからぬ理論はヒルダの入れ知恵ということになる。
「人間ってのは追い詰められなきゃ実力以上のもんを出せねぇんだ。今のお前は黒死病に罹った状態で俺に勝つために魔力を高め続けなければならない」
制服の上着を脱ぎ捨て、身軽になった鷹宮は掌に紋章を浮かばせながら話し続ける。
「俺は限界を越えた全力のお前と戦いたい。魔力の枯渇なんて野暮な勝ち方はしない。真っ向から叩き潰す」
浮かんだ紋章を握るように拳を固めて鷹宮も今まで以上に魔力を高めていく。
「既にあちこちで戦いは始まっている。こっちも始めるぞ」
衝撃音、破砕音、雷鳴とハーメルンの街に戦いの音が広がる中、静かに構えて向かい合う。
男鹿にとって初のーーーいや、もしかしたら箱庭史上でも初かもしれない、“紋章使い”同士の戦いが幕を開ける。
なんか日にちが空くだけ文が長くなっておかしい部分がないかどうか不安になってしまいます。
長くなってしまったので今回出なかった黒ウサギサイド、古市・ヒルダサイドは次の更新で書こうと思います。局地的な戦闘が続くのでこれからも長くなりますが頑張っていきます‼︎