子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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遅くなって申し訳ありません‼︎
もう言いたいことも色々とありますが、とりあえずは後回しです。

それではどうぞ‼︎


最終局面へ

「なんだ、これは・・・」

 

目の前で起こっている現象に鷹宮は呆然となる。

男鹿の“鷹宮達の過去が分かった”という発言から説教紛いのことを言い終えると同時に、紋章が見たこともない顕現の仕方をしたのだ。

 

鷹宮も使用している紋章術でも、知識として知っている暗黒武闘でもない。

 

例えるならば、それは小さな太陽の出現とも言える光源となり、夕闇の広がる街並みを照らし出していた。そしてこの現象を起こした男鹿はいまや圧倒的な魔力を身に纏って自然な構えで立っている。

味方である黒ウサギやサンドラも状況を掴めずに困惑しているが、敵である鷹宮やペストの困惑はその比ではない。

 

得体の知れないプレッシャーに晒されたペストは不安を振り払うべく死の風を解放しようとしたが、

 

「ど、どうして・・・⁉︎」

 

その手は無意味に動かされるだけで、何も変化が起こることはなかった。

 

男鹿の力を冷静になって分析した鷹宮にはその理由がなんとなくではあるが推測できている。

紋章を顕現させる前の男鹿の身体には紋章の輝きと広がりが同時に起きていた。紋章術とは悪魔とのシンクロを抑え、その力を制御下に置くことだ。なのに暗黒武闘を使用したかのように紋章が広がっていたことから考えられることは一つ。

 

 

 

()()()()()()()()()()()使()()

 

 

 

恐らくはそれが圧倒的な魔力の源だ。魔力を制御する紋章術に魔力と同化する暗黒武闘。二つの相反する術式をまるで対消滅エネルギーのようにぶつけ合わせることで莫大な魔力を生み出しているのだろう。

そして生み出された莫大な魔力に晒されたペストは、男鹿の制御する紋章術ーーーつまり抑制する性質を帯びた魔力に覆われて力を発露することができなくなったのだ。

 

紋章術だけでも、暗黒武闘だけでも成立し得ない。二つ共を習った男鹿だからこそ辿り着けた、男鹿だけに許された絶技である。

 

「行くぜーーー」

 

男鹿が一歩踏み出す。

 

 

 

鷹宮の視界から男鹿の姿が消えた。

 

 

 

「ッ⁉︎ ガッ・・・⁉︎」

 

鷹宮は男鹿が消えたことを認識した時には横から衝撃を受けていた。ペストは目の前に現れた、蹴り抜いた姿勢の男鹿から飛び退きながら再び死の風を放とうとするがやはり失敗に終わる。

鷹宮は蹴り飛ばされたと理解すると、下手に止まろうとはせずに転がりながら勢いを抑えて態勢を立て直していた。

 

「サンドラ様‼︎」

 

「分かってる‼︎」

 

ペストの様子から今なら攻撃が通用すると判断した黒ウサギとサンドラは、雷と炎で彼女へと追撃をかける。

 

「舐めるなッ‼︎」

 

それらに対してペストは魔力を纏った腕で先に到達した雷を振り払い、次にきた炎を跳躍して躱した。ペストの戦闘主体は黒い風だが、魔力を使えるのだから身体能力による戦闘も多少は可能なのだ。

とはいえ、神格級ギフトを無傷で弾くことはできずにその腕は焼け焦げていた。しかしそれも瞬時に再生してしまうため決め手には欠ける。

 

 

 

 

 

一方、ちょうど反対側で戦う男鹿と鷹宮は今までの苦戦が嘘のように男鹿が圧倒していた。

最初の一撃はこれまでとの速度差から為す術もなく受けてしまった鷹宮も辛うじて対応しているが、実力は完全に逆転している。

 

「ハ、ハハ、これ程か‼︎ 男鹿の実力、その極限の領域はこれ程なのか‼︎」

 

しかし苦戦を強いられている当の本人は呆然としていた状態を抜け出すと、今度はボロボロになりながらも楽しそうにしていた。

過去の鷹宮が望んでいた“戦いたい相手”、それが自分の想像以上の実力を発揮して立ちはだかっているのだ。強さを求める者ならばこれ程喜ばしいことはないだろう。

 

鷹宮が男鹿の右拳を寸でのところで避けて腹を蹴り上げようとするが受け止められ、そのまま足を掴まれて振り回され投げ飛ばされる。

 

「ゲホッゴホッ。ーーーこれはやるしかないな」

 

立ち上がりながら小さく呟いて凶暴な笑みを浮かべる鷹宮。

“ノーネーム”の仲間が勝ち抜いているとはいえ、すぐそこではまだ魔王との決着が着いていないのだ。魔王を相手にして何が起こるか分からない以上、男鹿もこれ以上鷹宮に何かをさせるつもりはない。

 

一気に片を付けよう身体に力を入れーーー

 

 

 

「・・・あ?」

 

 

 

ーーーようとしてフラつき、膝を着く。

空中に顕現していた紋章も縮小し、降り注いでいた光も淡くなっている。その一瞬で鷹宮は男鹿に接近して殴りつけ、受け身も取らせずに地面へ踏み付けた。

 

「男鹿、残念だがそろそろ限界が近付いてきたみたいだな」

 

鷹宮の言うとおり、まだ動けるとはいえ男鹿の身体は無理を重ねすぎた。

 

黒死病に侵されながらの戦闘。

感覚的な発動だったとはいえ、圧倒的な魔力増幅法による身体への魔力負荷。

 

魔力量は圧倒的でも、それを受け止める身体が弱ってきて耐えきれなくなったのだ。

 

「だが、まだ戦えるな?」

 

消えていない空中の紋章を見て鷹宮が問い掛ける。

そう、まだ限界に近づいているだけで限界を迎えたわけではない。突然のフラつきで動きが止まっただけで、男鹿の身体には抑え付けられている今でも改めて力と魔力が込められていくのが手に取るように分かる。

 

「ペスト、俺達は移動する。そうすれば空中の紋章はこの場から消えるはずだ。ここは任せたぞ」

 

空中の紋章が弱まり男鹿の魔力制御が低下している今なら魔力の発露は可能だと考え転送玉を取り出した。

鷹宮は前方に転送玉による空間の歪みを発生させてから、足元の男鹿を蹴り上げて歪みへと飛ばす。それに続いて鷹宮も飛び込んで姿を消し、予想通り空中の紋章は消失ーーーいや、少し離れたところで顕現していた。

 

「ふぅ、これでやっと解放できるわ」

 

ペストは今度こそ、死を運ぶ風を霧散させてハーメルンの街へと降り注いだ。

先程は男鹿がペストごと抑えたが今はいない。黒ウサギは一段回前の黒い風と同じように“擬似神格・金剛杵”で少しでも相殺できるか試すが、刹那に霧散されてしまう。

 

「ま、まずい‼︎ このままじゃステンドグラスを探している参加者がッ‼︎」

 

戦場を拡散していき、二人の手が届く範囲を越え、探索チームへと向かう死の恩恵を与える神霊の御技を前にサンドラも手の打ちようがない。覆い尽くそうとする風を前にして参加者もなんとか建造物に避難するが、誰もが迅速に行動できるわけではない。

そんな戦闘慣れしていない参加者を庇った幾人かの“サラマンドラ”のメンバーが死の風に呑み込まれて命を落とす。

 

「よくも、“サラマンドラ”の同士を・・・‼︎」

 

それを見ていることしかできなかったサンドラの赤い髪が怒りで燃え上がる。黒ウサギもこれ以上の被害が出る前に対処しようとギフトカードを取り出したが、

 

(ッ、何故このタイミングで‼︎)

 

視界の隅で参加者の少年が逃げ遅れているのを見つけてしまった。

しかし気付いた時にはもう遅い。黒ウサギの脚力をもってしても間に合わない、と少年の死を覚悟した瞬間、

 

 

 

「ーーーDEEEeeeEEEEN‼︎」

 

 

 

死の風は紅い巨兵ーーーディーンのその剛腕によって阻まれていた。死を与える風に対して命無き鉄人形の相性は抜群だ。

 

「今のうちに逃げなさい。ステンドグラスのことは後でいいわ」

 

死の風を防ぐディーンの背後にいた飛鳥が少年に避難するように声を掛ける。すぐさま建物の中に逃げ込んだ少年を確認してから魔王へと向き直る。

 

「邪魔よ」

 

その瞬間、無情にもペストは飛鳥へ向けて言い放ち、死の風を操って三方向から襲わせた。

 

「飛鳥さんッ‼︎」

 

それを見て黒ウサギは焦り声を上げた。

 

二つはなんとかディーンの両腕で防いだが、残る一つはディーンの防壁をすり抜けて飛鳥へと襲い掛かった。

飛鳥は身体能力も年相応の女の子だ。咄嗟に避けられるわけがない。飛鳥自身もそのことは理解しており、早々に死を覚悟する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー情けねぇ(ツラ)してんなよお嬢様‼︎」

 

 

 

そんな飛鳥へと襲い掛かる死の風を破砕する音と共に十六夜が現れた。十六夜のギフトに対して初見であるペストとサンドラは唖然として見ている。

 

「ボーッとしてんな魔王様‼︎」

 

未だに唖然としていたペストの懐に飛び込んで拳を振るい、数多の建造物を粉々にさせながらペストを吹き飛ばした。

 

「ありがとう、十六夜君。正直助かったわ」

 

「なに、気にするな」

 

殴り飛ばして戻ってきた十六夜にお礼を言いながらも、飛鳥は同じ過ちを繰り返さないようにペストが殴り飛ばされた方向からは目を離さない。

黒ウサギとサンドラも警戒しながら二人へと近付いてくる。

 

「飛鳥さんに十六夜さん‼︎ お二人ともご無事で‼︎」

 

「そっちもな。・・・黒ウサギ、一つ確認したいんだがペストに蠅王紋みたいな紋章はなかったか?」

 

「もしかして、十六夜君が言ってるのは王臣紋のことかしら?」

 

十六夜の質問の意図に気付いて聞き返す飛鳥。

 

「なんだ、お嬢様は王臣と()りあったのか?」

 

「ラッテンと戦いはしたけど直接見てはいないわ。レティシアの左手に蠅王紋が浮かんでいたから本人に聞いたのよ」

 

「ってことはレティシアは男鹿の王臣になったのか。魔力も使えんのか?」

 

「そうみたい。だけど本人は“魔力はあっても扱い切れていない”って言ってたわ」

 

 

 

 

 

「あ、あの〜、黒ウサギ達にも分かるように説明を・・・」

 

すっかり蚊帳の外になっていた黒ウサギが王臣紋について聞いてきたので、二人は知っている王紋紋のことを手短に教える。

 

「・・・なるほど。そういうことでしたら彼女にもあると思います」

 

吹き飛ばされたペストが戻ってくるのを見ながら十六夜の質問に答える黒ウサギ。

ペストが“遊びは終わり”と言った時に鷹宮に魔力を上げることを促していたことから王臣であると推測できる。

 

「追い打ちを掛けてこないと思っていたら、作戦の打ち合わせ?」

 

「いや、ちょっとした確認なんだが・・・もう訊いていいか?」

 

十六夜は何かに気付いたようだがその確証はなく、気付いたことを知られても関係ないと考えているのだろう。ペストに何気ない様子で質問する。

 

 

 

「このギフトゲーム、ゲームマスターは鷹宮か?」

 

 

 

横で聞いていた三人は最初、十六夜が何を言っているのか分からなかった。黒ウサギとサンドラは箱庭で過ごしてきただけに“主催者権限を扱う魔王=ゲームマスター”という公式が成り立っており、そんなことは考え付きもしなかった。

 

「程度は知らねぇが忠誠を誓わないと王臣紋は出ないんだろ?魔王の主なら可能性としては十分あり得る。魔王としてゲームマスターだと誤認させた多勢を広範囲攻撃が可能なお前が相手取り、鷹宮達が少数を叩く。鷹宮がゲームマスターに成り代われる程の強さなら敵の戦力分配をミスさせて各個撃破・・・俺達が今回立てた作戦を逆手に取る作戦が可能になる」

 

“今回は失敗みたいだがな”、と離れたところに顕現している巨大な蠅王紋を見て言う。

実際、ペストと鷹宮ーーー紋章使いとの相性は最悪と言ってもいい。それに加えて広範囲型のペストと一点集中型の鷹宮とで戦えば鷹宮が勝つだろう。

 

これだけを聞けば主催者側が有利にしかならないルールだが、当然その代償もある。

“ゲームマスターを打倒”という点では、鷹宮よりもある程度の再生が可能なペストの方が持久力が高いため、打倒される可能性は高くなる。そして男鹿しか知らないことだが、ゲームマスターがステンドグラスを保持していることで、ゲームマスターの打倒によって全ての勝利条件を同時にクリアされる可能性があり、参加者側は魔王を隷属という報酬を獲得しやすくなっているのだ。

 

「・・・そう思うなら今からでも忍と戦いに行ったら?」

 

「そうもいかないだろ。お前を少人数では抑え切るのは面倒だからな」

 

今分かっている限りでペストに対抗できるのは十六夜と飛鳥のディーンだけだ。しかし広範囲を狙えるペスト相手に二人では心許ないし、何より飛べるペストに対して有効な遠距離攻撃手段が少ない。他に黒ウサギとサンドラの神格級ギフトで注意を引き付ける必要があるのだ。

 

「四人ならできるとでも?・・・できるものなら私を抑え切ってみなさい‼︎」

 

再び死の風を振り撒き始めるペスト。

このままでは参加者に更なる犠牲者が出るのも時間の問題だ。

 

「・・・黒ウサギ。とりあえずは作戦を優先してやるが、ペスト(アレ)をなんとかできんのか?」

 

暗に“できなければ俺がやる”と言う十六夜に対し、黒ウサギは白黒のギフトカードを口元に当てて微笑む。

 

「ご安心を‼︎ 今から魔王と此処にいる主力ーーー纏めて、月までご案内します♪」

 

黒ウサギの言葉にその場にいた者が疑問を抱いた刹那、全員がその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

転送玉によって転移させられた男鹿はすぐに周囲を見回して態勢を立て直す。展開させた紋章も力強さをそれなりに取り戻している。

先程は急な脱力に膝を着いてしまったが、弱っていることを理解さえしていれば戦える程度には力を入れて身体を動かすことができる。

 

「ーーー今度こそ本当に最後の戦いだ」

 

転送玉から鷹宮が出てきた瞬間に男鹿は拳を振るった。

もう本当に時間がない。黒死病がこれ以上進行しないうちに鷹宮を倒そうとする。

 

その拳は鷹宮に真正面から受け止められてしまった。

 

「ーーーこれは諸刃の剣。俺自身もまだ制御し切れていない力だ」

 

拳を受け止めている鷹宮の手に力が込められる。

 

「だが、その力を使わない限り今のお前とは戦えない」

 

男鹿はさらに押し込もうとするが、鷹宮も引かずに押し返す。

 

「さっきも言ったが、俺が禅十郎に習ったのは魔力の抑え方だ。今はニュートラル・・・そこからさらに魔力を引き出す」

 

今の鷹宮は対消滅エネルギーで増幅した男鹿と同等の魔力を内包している。

しかし口端からは血が流れ、皮膚は所々で裂けている。

 

「やはりまだ負荷に慣れていないな。・・・これが今の俺の限界だ。お互いに後はぶつかるのみ」

 

その言葉を最後に鷹宮は空いている拳を男鹿の顔面に振るい、それに対して男鹿は蹴りを鷹宮の腹に叩き込むことで二人の距離が開く。

 

「「ウオオオオォォォォッッッ!!!」」

 

そこからはただの殴り合いだ。男鹿の魔力が充満している以上、鷹宮の内包する魔力が対等であっても発露はできず、男鹿は相反する魔力をぶつけるという初めて使用する荒技に魔力を使う技を行使する余裕がない。

 

「ーーーガハッ」

 

殴り合いを始めて十合目の打ち合いの直前、男鹿が大きく吐血する。

今の男鹿は密閉されたビンの中で火薬を爆発させているようなものだ。鷹宮の過剰な魔力による肉体崩壊よりも、無茶な魔力増幅で弱った男鹿の限界の方が早く訪れるのは必然だった。

 

「ーーーじゃあな、男鹿。最高に楽しかったぜ」

 

鷹宮も既に左腕に殴る程の力は入らず、それでも右腕を振りかぶって隙ができた男鹿にトドメを刺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直前、振りかぶった拳は黒い影によって阻まれた。

 

 

 

鷹宮は影が割り込んできた時点で後退している。

 

その影は男鹿を包み込んで外界から守る殻のようだったが、徐々に形が崩れて龍の顎のような形を形成していく。

 

解かれた影の殻からは吐血した口元をそのままに呆然とする男鹿。

 

その男鹿の前には真紅のレザージャケットと奇形のスカート、そして左手に蠅王紋を輝かせたレティシアが、男鹿を庇うようにして立っていた。




今回も色々と手を加えてしまいました。
男鹿の対消滅エネルギーの効果は独自解釈が入ってます。
あと今更ですが王臣紋も原作より広範囲かつ性能アップしています。
いい加減に本作の設定集でも書いた方がいいですかね?

更新の目安としていた一・二週間も守れなくなってしまいました。
そこでもう完全に不定期更新に変更しますが、それは出来次第投稿という意味で、一・二ヶ月に一話とかいう話ではありませんのでこれからも長い目でよろしくお願いします。

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