子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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ようやく第二章も終了です‼︎
そして原作が大きく変わる転換期になるかも?

それではどうぞ‼︎


面倒事の予感

男鹿が目を覚ましてまず目にしたのは見慣れない天井だった。

 

「ここは・・・」

 

寝起きながら部屋を見回すと、ここがペストとのギフトゲーム時に感染者の隔離部屋として使われていた個室と同じ造りであることは分かった。

ベル坊はこの場にいない。ヒルダが連れているのだろうか。

窓の外を見れば空が明るくなっている。ギフトゲームを再開したのが夕方だったことから倒れてそのまま朝を迎えたのかと思う。

そんな風に状況を考えていると、部屋の扉が開かれて人が入ってきた。

 

「ん、もう起きたのか」

 

入ってきたのは最後に見た大人姿のレティシアではなく、普段のメイド服に身を包んだ少女姿のレティシアだった。どうやら起きない男鹿の様子を見に来たようだ。

 

「レティシア・・・ギフトゲームはどうなったんだ?」

 

黒死病が消えたことも鷹宮を倒したことも覚えているが、それはギフトゲームに勝ったことには繋がらない。仮に負けていたとして“捕虜として治療を受けている”などと言われるのは冗談ではない。

 

「安心しろ、我々の勝ちだ。もうギフトゲーム終了から一日以上経過しているぞ」

 

「・・・は?」

 

レティシアの言葉を聞いて男鹿の思考が停止する。

男鹿が心配しているようなことは無かったが、まさか自分が一日以上眠り続けていたとは思わなかった。

 

「まぁ驚くのも無理はないな。それではあの後、辰巳が倒れてからの話をしよう」

 

とレティシアは前置きしてから男鹿が倒れた後のことを話し始める。

 

 

 

 

 

 

男鹿が鷹宮を倒して間もなく、ペストとの戦いが終わって月から帰ってきた黒ウサギ達が駆け寄ってきた。

 

「なんだ、もしかして邪魔したか?」

 

倒れている男鹿に寄り添っているレティシアを見て、十六夜がニヤつきながら茶化してくる。もちろん鷹宮も倒れているのを確認して一先ずは戦いが終わったことを理解してだが。

 

「十六夜、ギフトゲームはまだ終わっていないのだぞ。辰巳の手当てをしてから我々もステンドグラスの探索だ」

 

気を抜いている十六夜を窘めてから次の行動を決めていくレティシア。言っていることは間違っていないので、十六夜も男鹿を運ぶために近寄る。

 

 

 

そこで変化は起きた。

 

 

 

十六夜の向かう先、男鹿とレティシアのすぐ後ろに空間の歪みが発生している。

その現象に十六夜は見覚えがあった。審議決議の時、鷹宮が使用していた転送玉の兆候に酷似しているのだ。

 

「レティシア、何か来るぞ‼︎」

 

十六夜の警告によって即座に気付いたレティシアは男鹿を抱えて歪みから距離を取る。

各々が身構えてその現象を見守っていると、そこから現れたのは銀髪銀眼の人形のような少女ーーールシファーだった。

 

「あ、貴女は・・・‼︎」

 

鷹宮の記憶でルシファーのことを知っている黒ウサギとサンドラは改めて警戒するが、ルシファーの姿を知らない十六夜と飛鳥とレティシアには敵意も感じられない幼い少女という風にしか映らなかった。

 

「皆さんお気を付けください‼︎ 彼女はーーー」

 

黒ウサギが何かを言い終わる前にルシファーは空中に浮かびながら近付いて来る。

黒ウサギの必死さから敵ーーー恐らくは鷹宮の契約悪魔ーーーだとは三人にも理解できたが、先程述べた通り敵意は感じないので近付いて来ても警戒するだけに留める。

 

フワフワとルシファーが近付いてくるにつれて、彼女が手に何かを持っていることに一同は気付いた。

そのままレティシアの前まで飛んできて手に持っていたものを渡してくる。

 

「私にか・・・?」

 

怪訝な表情を浮かべて訊き返すと、ルシファーはコク、と小さく首を縦に振って肯定する。

取り敢えず受け取ったレティシアは、渡されたものを見てすぐにこれが何かを理解した。

 

「ステンドグラスか・・・」

 

レティシアの言葉に近くに残っていた十六夜と飛鳥が覗き込む。それはヴェーザー河が描かれたステンドグラスーーー“真実の伝承”が描かれたステンドグラスであった。

 

 

 

「・・・アリ、ガ、トウ・・・」

 

 

 

ステンドグラスを渡して一言、ルシファーはそう言うと消えてしまう。いったい何に対しての感謝だったのだろうか。

 

倒れた鷹宮に止めを刺さなかったことだろうか。

鷹宮が待ち望んだ男鹿との戦いを、一度は中断させてしまったとはいえ最後は手を出さずに二人の決着を見届けたことだろうか。

 

その真実はルシファーのみぞ知る、というやつだ。

 

「・・・で、結局今の白夜叉と特徴が被ってる銀髪ロリ二号はなんなんだ?」

 

十六夜は正体を知っているであろう反応をした黒ウサギに問い掛ける。

 

「えっと、彼女は“七つの罪源”の魔王級悪魔、ルシファーです」

 

「ねぇ、ちょっと待って。どうして彼女はステンドグラスを渡してきたの?彼女が敵ならずっと持っていればいいじゃない」

 

黒ウサギの言葉を聞いて飛鳥が当然の疑問を浮かべる。

それに返したのは十六夜だった。

 

「そりゃ無理だからだろ。それができるならステンドグラスなんてぶっ壊せばいいし、何よりルールの不備・不正で引っかかってただろうぜ」

 

十六夜の考えは鷹宮が男鹿に言った通りのことだ。今回は鷹宮が男鹿を本気にさせるための策として男鹿に言う形となったが、どういう展開であっても何かしらの形で鷹宮に勝てばルシファーが出てきたことだろう。

でなければ最初からクリア方法が一つしかなくなるのだから。

 

「何はともあれ、まずは一枚だ。このまま他のステンドグラスも探すぞ」

 

「その必要はない」

 

レティシアの提案を突然聞こえてきたヒルダの声が否定する。

みんなが後ろを振り返ると、そこには気付かぬうちにアランドロンが立っていた。アランドロンが割れて中から現れたは声の主であるヒルダだ。

飛鳥はその言葉の真意を聞くためにヒルダへ問い掛ける。

 

「ヒルダさん、探す必要がないってどういうことかしら?」

 

「そのままの意味だ。黒死病が消えたことで比較的動けて参加を希望する者で街の中心を、それまでの探索チームと操られていた“サラマンドラ”の連中をアランドロンの空間転移で遠方の各地に向かわせて全域の探索が始まっている。今回戦闘に参加した我々は半日経っても見つからなければ探索に参加、それまでは休憩でいいとマンドラから言われている」

 

つまりはもう人海戦術に必要な人数は確保されているから、それでも見つからなかった場合だけ力や知恵を貸して欲しいということだ。ここにいない古市は魔界のティッシュを使用した副作用がないかを再び検査するため先に戻っているらしい。

 

「そう、ならお言葉に甘えようかしら。いい加減お風呂にも入りたいし、春日部さんも気になるしね」

 

飛鳥と同じく黒ウサギも耀が気になるので付いていった。

レティシアと十六夜は両脇から男鹿を支えて治療に向かい、ヒルダはベル坊を抱えて二人に付いていく。

サンドラは“階層支配者”として、また“サラマンドラ”の頭首として指揮現場へと向かう。

 

そうして半日もしないうちにステンドグラスの探索は終わり、“偽りの伝承”は砕かれ、“真実の伝承”を掲げることでギフトゲームは終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

「ーーーそして今は祝勝会を兼ねた誕生祭の最中だ。あぁ、ちなみにベル坊はヒルダ殿と食事中だ。流石にずっと辰巳の近くに居させるわけにはいかないからな」

 

少しの間ならともかく、食事や風呂は流石に摂らなければならないのでずっと一緒は無理だろう。

しかし、ベル坊は見た目と違ってかなり理解力のある赤ん坊だ。認識次第で男鹿と離れられる距離は変わるので、男鹿が倒れている今、自分はしっかりしようという意識が強まっているのだろう。

 

「鷹宮はどうなったんだ?」

 

「辰巳の治療をした後に同じく治療したよ。流石に放っておくのはどうかと思ったからな。取り敢えずは辰巳達と同じ世界の人間だということで、本人が否定しなければ“ノーネーム”で引き取ることになるだろう」

 

聞けばどうやら鷹宮もまだ眠っているようだ。

男鹿が目覚めたのだから時期に目覚めることだろう。

 

「他の主殿は各々自由に過ごしているが、祝勝会はあと一週間近くやるから辰巳はまだ休んでいた方がいい」

 

そう言ってレティシアは部屋から出ていった。

男鹿は休めと言われたが、ずっと寝ていたせいか全然眠気はない。

そんな状態で考えていたのは鷹宮との最後の戦いだ。

 

もし最後の瞬間、レティシアが割って入って来なかったら負けていたのは鷹宮ではなく男鹿だったかもしれない。鷹宮もボロボロだった以上、ギフトゲームの結果自体は変わらなかっただろうが、それでも今回男鹿が鷹宮に勝てたのは実力ではなく運の問題だ。仮に鷹宮が最初から本気を出して戦っていたら負けていた可能性はさらに大きいだろう。

 

「もっと強くならねぇとな・・・」

 

今回のように最後はぶっ倒れるなんて情けないことにはならないぐらいは。

そう一人で決意しながら、結局は起き上がって男鹿も食事に向かうのだった。

 

その後の誕生祭では、飛鳥の連れていたとんがり帽子の精霊ーーーメルンが仲間になったり、十六夜が裏でマンドラと密約したり、鷹宮が正式に“ノーネーム”に入ったりと色々あったが“ノーネーム”の面々は大いに誕生祭を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

境界壁から帰ってきた一同は、地精であるメルンの手により死んでいた農園を復活させるため、レティシアを中心にディーンと“ノーネーム”の子供達に土壌の肥やしになるものを集めさせていた。

しかし、レティシアを除く“火龍誕生祭”に出向いていたメンバーの姿は農園にない。何処にいるのかといえば、本館三階の談話室に集まっていた。

 

「・・・で、今回お前らのバックにいた黒幕はいったいどんな奴らなんだ?」

 

「知っているのは俺関係のバックであってペスト達のは知らないぞ」

 

単刀直入に聞いてきた十六夜に対して言い返す鷹宮。

そう、今回の誕生祭襲撃に関して“ノーネーム”の情報を流していた連中について聞くための話をしていたのだ。

 

「まぁ俺も詳しいことは興味がなかったから知らないがな。組織の名前はーーーソロモン商会。悪魔の力を売り買いする連中だ」

 

「ソロモン・・・古代イスラエルの三代目国王にして、ソロモン七十二柱と呼ばれる七十二体の悪魔を封印した旧約聖書の人物か。悪魔を扱うには打って付けの名前だな」

 

十六夜の膨大な知識から名前の由来を推察していった。

それを聞きながらも鷹宮は続けていく。

 

「奴らの手中には黄道十二門や七大罪などの強力な悪魔が既に何人もいる。俺のルシファーもその内の一人だ」

 

男鹿達の世界における七大罪とは、箱庭の世界における“七つの罪源”と同じく悪魔の頂点に君臨する七人の王ーーー“マモン”、“ルシファー”、“ベルフェゴール”、“レヴィアタン”、“サタン”、“アスモデウス”、“ベルゼバブ”ーーーのことだ。黄道十二門も七大罪と同じく象徴となり得る強力な悪魔達だと言える。

 

「七大罪・・・だと?馬鹿な、どうやって人間があの大悪魔達を捕らえられるというのだ」

 

「知るか。詳しいことは興味がないと言っただろう」

 

ヒルダも突っかかるように疑問をぶつけるが、鷹宮は流すような返答をする。少し空気が殺伐としてきて黒ウサギがオロオロとしているが、ちょうどその空気を振り払うようにレティシアが入ってきた。

 

「話の途中で悪いのだが少しいいか?何やら白夜叉も話があるようで、できればすぐに来て欲しいとの連絡があったのだが」

 

「・・・なら話は終わりだな」

 

そう言って出ていこうとする鷹宮をレティシアが止めた。

 

「済まないが白夜叉には辰巳達は必ず連れて来いと言われている。もちろん忍、お前もな」

 

レティシアの言葉を聞いて少し立ち止まっていたが、溜息を吐くと共に転送玉を取り出してさっさと行こうとする。指名された男鹿達も立ち上がって続いていく。

 

「それって別に俺達が行っても問題ないよな?」

 

「そうね。仲間はずれは良くないもの」

 

「面白そうだし」

 

「黒ウサギも付き添いで行きます‼︎」

 

“男鹿達以外は駄目”とは言われていないのでワラワラと十六夜達も立ち上がって続いていく。

最終的に残ったのは農園復活の指揮を取っていたレティシアと、“火龍誕生祭”で拠点を空けている間に溜まっていた仕事するジンだけだった。

 

 

 

 

 

 

「済まないな、間も置かずに呼び出して。帰って来てから呼び出す理由ができてしまっての」

 

白夜叉は着物の裾から、和式で統一された私室には合わないだろうCDを取り出して見せてくる。ただの変哲のないCDに見えるが、表面には手書きでこう書かれていた。

 

“むすこへ、だいちゃんより”

 

それを見た瞬間、男鹿と古市はものすご〜く面倒そうな顔になった。

それはそうだろう、二人の予想が正しければ確実に面倒事が舞い込んでくるはずだ。

 

「あの・・・白夜叉さん?これはいったい何ですか?」

 

念のため古市が希望を捨てずに白夜叉へと訊いてみる。

 

「大魔王からのビデオレターだ」

 

“やっぱりか”ともう隠すことなく嫌そうな顔になる。それで呼び出した理由も分かった。

タイトルはベル坊宛だが、取り敢えず同じ世界の人間には見せた方がいいという白夜叉の判断なのだろう。

 

「しかし、何故白夜叉様のところに送られて来たのですか?」

 

「それは私が報告として白夜叉殿の話をしていたからだろう。話によれば旧知の仲であるようだしな」

 

不思議だった黒ウサギの疑問だが、ヒルダの言った考えで納得する。

 

「では早速見てみるとしよう」

 

なかなか動こうとしない男鹿と古市を他所に、CDの見れる部屋へと移動してそれぞれ見える位置に陣取る。

 

「ベル坊の親父か。どんなのか楽しみだな」

 

「Yes。過去のとはいえ箱庭で魔王だった方ですからね。少し緊張しますよ」

 

十六夜達は純粋に楽しみのようだが、“経験的に今回も顔は見れないだろうな”と思いながらも何も言わない二人である。

 

「あ、映った」

 

耀の言葉に二人も画面を見るが、画面には大魔王どころかまともに人が映っていない。映っているのはカエルとウシのパペットを両手に装着した黒子のような人物である。

 

『ヤッホー、息子よ元気ー?わしだよーわしわし。あ、別にわしわし詐欺じゃないからね?』

 

画面のカエルが忙しなく喋るように動く。

 

『最近さー、テレビのバラエティでパペット劇場みたいの見てハマってるんだよねー。どうよこれ?なかなかの完成度じゃね?』

 

カエルと同じようにウシも忙しなく喋るように動いている。

 

「まぁ確かに上手だとは思うのだけれど・・・」

 

律儀に感想を述べる飛鳥だが、他の女性陣も困惑の表情を浮かべている。

まぁ異世界にまで送ってきた映像の内容がパペット練習の出来栄えを見せているだけなのだから無理もない。

そのまま“このパペットは自作でどこをどう拘って作った”とか“最近のゲームはクオリティが高い”とか長々と十分近く無駄話が続いた。

 

『大魔王様、そろそろ本題に入らなければビデオが止められてしまうかと』

 

『あ、マジで?わしそんなに喋ってた?』

 

『はい。それに本題を喋る時間も考えますとバッテリーが少し不安です』

 

ふと大魔王の雑談を遮るように別の声が入り、黒子のような人物と会話する声が聞こえてくる。

 

「よ、ようやく本題ですか・・・」

 

「そうだな。男鹿や白夜叉の“アホ”って認識がよく分かった」

 

いつ本題に入るか分からなかったためにずっと聞いていたヒルダ以外の全員の考えを代弁するように黒ウサギが呟く。

同時に呟いた十六夜の感想にもまたヒルダ以外の全員が納得してしまった。

 

『いや〜メンゴメンゴ。じゃあ時短で巻いた方がいいよねー。もう面倒だしこのまま本題に入ろうか』

 

「え、顔出しなし?」

 

ついには表情が変わりにくい耀まで唖然として呟いている。もう自由過ぎて黒ウサギはツッコミを放棄してしまっていた。

 

『じゃ、本題ね。実はこっちで・・・えっと、ソロバン教室?『ソロモン商会です』そうそれそれ、ぶっ潰したんだけどさー』

 

本題が始まったと安堵していた一同は、いきなりの爆弾発言に別の意味で唖然としたのだった。

 




ものすごい終わり方をしてしまった・・・。
ビデオレターの続きが気になるでしょうが、それは第三章に続く、ということで。

第三章は投票の結果、コメディー寄りの内容を想定しています。
投票してくださった方はありがとうございました‼︎
しかし作者の癖なんでしょうね、少しは戦闘シーンが入りますが少なくなるようには努力しますので御安心を。

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