そろそろオリキャラが出てくるので、“オリキャラあり”。
べるぜバブは本編しか読んでいない為、もしかしたら番外編などで判明する内容とは異なる可能性が出てくるので、“べるぜバブ本編設定のみ”。
を追加します。
とりあえず今回の報告は以上です。
それではどうぞ‼︎
魔界へと帰郷するヒルダを見送った後。
「あ〜、ったくヒルダの奴、人使いが荒れぇな」
「まぁ魔力に関してはお前らにしかどうにもできないからな。仕方ないだろ」
男鹿の愚痴に十六夜が応えながら集まっていた一同は食堂に向かっていた。
レティシアが昼食の準備をしようとしていた時に魔力を感じたので食事の用意はできていないが、下拵えは朝のうちに終えているのですぐに食卓を飾ることができると言うことから疲労感が半端ない三人の為にも少し早めの昼食となったのだ。
「あ、もう準備してるみたい」
その時、食堂に向かう途中で耀が鼻をひくつかせて何かの匂いを嗅ぎ取っていた。他のみんなも食堂に近付くにつれて美味しそうな匂いに気付く。
食堂の扉を開けたところでは年長組の子供達がリリを中心に食事の準備に勤しんでおり、入ってきた集団にいち早く気付いたリリが駆け寄って来る。
「すみません、まだ御用意ができてないんです。もう少しお待ちいただいていいですか?」
「おう、今から準備するよりかは早いだろ。頼むぜリリ」
先頭にいた男鹿がリリの頭をぽんぽんと叩いて撫でながら催促する。
「ハイ‼︎ 席に座ってお待ちください‼︎」
頭を撫でられて少し気持ち良さそうにしていたリリは素早く行動に移して奥の厨房に入っていった。
「では私も準備に加わるとしよう」
「黒ウサギもお手伝いします‼︎」
リリに続いてレティシアと黒ウサギも厨房に入っていき、残ったメンバーは言われた通りに席に座って談笑する。
「そういえば貴之君、昨日の帰り際に白夜叉から呼び止められて何をしていたのかしら?」
飛鳥が古市に聞いたのは大魔王からのビデオレターを確認した後のことである。
白夜叉に呼び出された用件は済んだので本拠に帰って農園復活を手伝おうとした時に、古市とヒルダとアランドロンだけ呼び止められて他のみんなは先に帰っていたのだ。
「なんか白夜叉さんからの魔王討伐依頼の報酬は後で“ノーネーム”宛に届くんだけど、それとは別件で“サラマンドラ”から俺達に礼をしたいって話があったらしくてさ」
どうして“ノーネーム”ではなく古市とヒルダなのかというと、“ノーネーム”に魔王討伐を依頼したのは白夜叉であり、“サラマンドラ”は直接的に関与していないからだ。
それに対して今回ラッテンにより二分されたことによって“サラマンドラ”は下手をすれば同士討ちでかなりの人数が減っていたところを二人が制圧してくれたことで最小限に犠牲を抑えることができた。
アランドロンも目立つことはしていないとはいえ、“サラマンドラ”を含めて体力が消耗していた参加者や負傷した参加者の移動手段として奮戦していた。
「それで白夜叉さんが、“だったら共同の主催者として肝心な時に何もできなかったから私が出しておこう”ってことで後から来た俺達がもらってないギフトカードを渡されたんだよ」
そう言ってポケットからギフトカードを出してみんなに見えるようにする。
シルバーホワイトのカードに古市貴之・ギフトネーム“
「“召喚憑依紙”はティッシュのことだよね?こっちは?」
ギフトカードを見た耀が“適応者”を指差しながら聞いてくる。
「さぁ?全然自覚ないんだけど・・・」
古市も分からずに首を捻っている。
もし知っていれば自らを普通の高校生とは言わないだろう。
「・・・お前、やっぱ普通じゃないわ」
「いや、だから普通だって。何を根拠に言ってんだよ」
少し思案した後にいつもの台詞を言った十六夜に対して古市もいつも通りの返しをしたのだが、十六夜の表情はいつもの茶化しているようなものではない。
「だってこれ、ギフトネームとお前の身体の状態から推測するに、生物学や生態学における環境適応能力の縮小版ギフトだぞ?」
「・・・は?」
「言っておくがあくまで推測だからな?」
念を押して確証はないという十六夜に対して、古市のみならず飛鳥と耀も呆然としていた。
男鹿はそのすごさが分からず、鷹宮は興味のなさから特に表情は変わらない。
「・・・それってかなりすごいギフトではないかしら?」
「適応効果範囲や適応可能条件が分からねぇからなんとも言えねぇな。分かっているのはティッシュの毒に適応した毒物耐性と召喚した悪魔の魔力に対する魔力耐性ってところか」
聞いただけでは理解しにくいだろうから例えを出して説明すると、もしもこの“適応者”に制限がなく、さらに自在に使用することができれば。
古市は水中で息をし、灼熱の砂漠を平気で歩き、氷河で凍えることもなく、宇宙空間で生きることさえ可能となる。
この例えを聞けばどれだけ異常な力か理解できるだろう。
しかし、それには制限があると十六夜は考えているため“縮小版”と言ったのだ。
古市がティッシュの毒素に適応したのが早かったのは人体構造的に抗体を産生することがおかしくないことであったからであり、魔力についても人間が悪魔と契約して使用できるようになることから人間には大なり小なり魔力耐性が備わっていて、契約や王臣紋などによって引き出されるものであると考えられる。
これらのことから“適応者”は人間に可能な範囲で適応を促していると推測できる。
推測の通り人間に可能な範囲での適応だとしても、古市はティッシュを半日近く使用して毒を摂取しながら魔力耐性がない状態での魔力使用と最悪死に至るような経験を経て適応したのだ。
つまり人間が水中や灼熱、氷河や宇宙空間に適応するには人体構造を構成し直す必要があり、それは地球が誕生してから何千年何万年と掛けて行ってきた全ての生き物における環境適応能力だ。
人間でいる限りそれは不可能なことだろう。
「ま、まぁそれでも外見が変わるわけでも超人的な身体能力が身に付くわけでもないんだから、普通だって普通。ハハハ・・・」
あんな例えを聞いた後では自信を持って自分は普通とは言えない古市なのであった。
★
昼食を終えた男鹿はレティシアの頼み事を聞くため、自分の目的を果たすために館から少し離れたゴツゴツした岩やら立ち並ぶ木々などが存在する、比較的様々な自然環境を設定できる場所へとやってきていた。
「ここで
「あぁ、打って付けの場所だろう?よろしく頼む」
そこで二人は対峙している。
レティシアはいつもの少女の姿ではなく大人の女性の姿で、髪を後ろで纏めて動きを阻害しないようにしている。
とはいえ服装は実戦を想定して二人とも普段着だ。
「ダブダ?」
そしてその中間地点にベル坊が陣取って二人に確認をするように声を上げる。
もちろん何を言っているかは分からないが、レティシアはその意図を察して頷きを返し、構える。
「・・・ダッ‼︎」
ベル坊は確認後に一拍置いてから腕を振り上げて開始の火蓋を切って落とす。
その合図とともにレティシアは武具や影は使わず、しかし黒い翼は顕現させて左手の王臣紋を輝かせながら低空飛行で接近、徒手格闘をもって男鹿に仕掛ける。
どうして男鹿とレティシアが戦うことになったのかというと、それは食後の二人の会話に理由がある。
★
古市のギフトも判明し、少しして並べられた食事を美味しく頂いた後。
それぞれやることがあるため解散となり、男鹿は“ハーメルンの笛吹き”とのギフトゲームから改めて鍛え直そうと思ったため最適な修行場所を考えていた。
「・・・全然見当がつかん」
しかし、“ノーネーム”に来て二ヶ月弱経つとはいえ館から外の敷地にはあまり出歩かないため土地勘はなく、今までに切迫したギフトゲームは“ペルセウス”くらいだ。
今まで実践経験値だけで修行し直そうなんて考える程苦戦したこともなかったためにそんな場所に当てがある筈もない。
「うーん、暴れても問題がなくて修行できる場所ねぇ・・・」
男鹿の足りない頭で考えた結果。
「いや、頼ってくれるのは嬉しいのだが、この流れには既視感を覚えるぞ」
レティシアは“前にも似たようなことがあったなぁ”と思って苦笑している。
結論として自分の知らないことは聞くのが一番、ということで男鹿は食堂に戻って後片付けをしていたレティシアを捕まえて質問していた。
「あるにはあるが・・・そうだな。私もその修行に付き合っていいか?」
「あ?なんでお前まで?」
レティシアの突然の提案に、男鹿は不思議に思って聞き返す。
言ってはなんだが、“箱庭の騎士”と呼ばれる程に歴史を重ねた吸血鬼であるレティシアに今更修行が必要とは思えないからだ。
「なに、少し王臣紋の扱いを学んでおきたいと思ってな。今の私では恩恵と組み合わせて使用すると無駄な破壊に繋がってしまう」
レティシアが初めて王臣紋を使用した時は単純な動きしかしないシュトロムであったために圧倒したが、制御できない過剰な力は集団戦において隙を生んでしまう可能性が高い。
「ふーん、まぁいいんじゃね?なら実際に戦った方がいいか?」
「私としてはその方が有難いが、自分の修行はいいのは?」
「あぁ、相手がいるなら戦いながら考えた方が早え」
とは言うが実際に男鹿が一人で修行をしたことはなく、誰かに師事する形での修行しかしたことはない。
つまり自分で考えて修行を行うことは初めてであり、修行の具体的な内容は空白という状態だ。
やはり実戦的に学んでいく方が男鹿には合っているのだろう。
「ではさっそく・・・と言いたいが食事の後片付けが先だ。少し待ってくれ、すぐに終わらせる」
やり残したことはきちんとやり終える。
メイドの仕事優先なレティシアであった。
★
「なんか違うな・・・」
「まぁ、確かに辰巳の修行段階ではないのだろうな。私には十分修行になるが」
約三十分の組手を終えた二人の感想がそれだった。
今は休憩がてら二人して座り込んでいる。
レティシアの場合は供給される魔力のコントロール、魔力強化された身体能力の調整だ。
翼での飛行時には高速で相手に接近し、急停止して的確に打撃を繰り出す。
繰り出した打撃にしても強弱が出るように魔力で調整して攻防の流れを作り出す。
相手の攻撃に対しては短距離の高速回避を無駄なく行い、作り出した流れを絶たないように反撃して繋げていく。
段階的には魔力の使用のみなので、組手は十分効率的だ。
それに対して男鹿の場合は既に魔力のコントロールはできており、未だに手探りの状態である。
少しの組手だけで見つかるような道程なら苦労はないだろう。
「やっぱ、やるんなら“あれ”か」
「“あれ”?」
レティシアの疑問を無視して立ち上がり、右の掌に左の拳を打ち付ける。
それと同時に男鹿の魔力が急激に上がっていき、レティシアも男鹿が何をしようとしているのかを察した。
鷹宮との戦いで見出した、巨大紋章を空中に顕現させる魔力増幅法。
それを今、この場で試そうというのだ。
右手の契約刻印が輝き、左手に広がっていく。
そして空中に紋章が顕現ーーー
「グォッ⁉︎」
することはなく、男鹿は前のめりに倒れる。
正確に言うならば、男鹿の後頭部に何処からか飛んできた重量感のありそうな袋がぶつかり、その重量を示すように勢いのまま男鹿を地面に打ち付けた。
「まいどどーもーっ」
そして二人の後ろから、デフォルメされた悪魔っぽい帽子を被った女の子に声に掛けられた。
「いつもニコニコ悪魔急便でやんす。お届け物にあがりやしたー。こちらは“ノーネーム”様でよろしかったでやんすか?」
「えっと、念の為に確認するが何処の“ノーネーム”のことだろうか?」
突然の事態に唖然としていたレティシアだが、とりあえず聞かれたことが曖昧だったので聞き返す。
今でこそ東側最下層で“ノーネーム”と言えば、打倒魔王を掲げたジンの率いる“ノーネーム”と連想できる程度には知名度は上がったが、本来“ノーネーム”とはその他大勢という蔑称だ。
「あぁ、すいやせん。大魔王様からご子息様のいる“ノーネーム”へという事でやんす。ってこれで伝わりやすかね?」
「あ、あぁ。それならば我々のコミュニティだ。ご子息とはベル坊のことでいいのだろう?」
「はい、そうでやんす。あ、じゃあここにサインもらえやすか?」
そう言って差し出された伝票にレティシアは記名していく。
「いやー、それにしてもヒルデガルダ様とはまた違った金髪美人さんっすねー。全く隅に置けない人でやんすね、このこの」
レティシアが記名している横では、未だに倒れたままの男鹿に対して女の子が肘で突くジェスチャーをしている。
女の子は書き終わったレティシアから伝票を受け取って確認する。
「はい、確かにサインいただきやした。それでは、ありがとうございやしたー」
「まてやこら」
普通に仕事を終えて帰ろうとする女の子をようやく起き上がった男鹿が頭を掴んで振り向かせる。
その形相は悪魔のようであり、青筋が幾つも浮かんでいる。
「毎回毎回、届けもんするたびに俺に被害がくんのはどーいうことだおい。狙ってんのか、あん?」
女の子に対する男鹿の文句は正当なものだが、外見からどうしても不良が絡んでいるようにしか見えない。
「い、いや、あっしに言われやしても・・・指定されたのがご子息様の魔力先でやんすし・・・」
「辰巳、その辺りにしておけ。彼女も悪気があるわけではなさそうだ。それにこの荷物は今の我々にとっても悪くないものだぞ」
「あ?」
レティシアに止められて振り向くと、男鹿にぶつけられた袋に入っていた二枚の手紙を取り出しており、そのうちの一枚を手渡されたので受け取って確認する。
なお、この時点で悪魔急便の女の子は早口に挨拶をして早々に帰ってしまっている。
「つーか全部白夜叉にでも送っとけよな、大魔王の奴。なんだよいったい・・・“魔遊演闘祭”?なんだそれ?」
二つの手紙のうち男鹿に手渡された手紙は、“七つの罪源”を中心に開かれる悪鬼羅刹が魍魎跋扈する北で開催される祭典、“魔遊演闘祭”の招待状であった。
次回、やっと第三章が動き出します‼︎
それとは別にやっと古市のギフトが判明、この小説に合わせたギフトになりました。