そして本文に入る前に少し報告があります。
前話・前々話とジン君がいるのに描写がすっかり抜け落ちていたので編集しました。
それではどうぞ‼︎
“魔遊演闘祭”の運営本部。
十六夜達はフルーレティの案内のもと、場内を歩きながらベヒモス(仮)と話をしていた。
「爺さんはどうしてこの祭りに来たんだ?久しぶりって言ってたから今までは来てなかったんだろ?」
「うむ、儂とて来るつもりはなかったんじゃがの。うちの坊ちゃんがこのギフトゲームに興味をもってしまわれたので急遽組み込まれたんじゃ」
「今の言い方からするとベヒモスさん以外にも仲間が参加しているの?」
ベヒモス(仮)の言葉に反応して飛鳥も会話に混ざっていく。
「ん〜、まぁ仲間と言っていいのかの。今は同じコミュニティに身を置く者同士じゃからな」
「・・・何か引っかかる言い方ね。昔は敵だったってところかしら?」
「お嬢様、コミュニティってのはそういうもんだ。鷹宮だって敵だったじゃねぇか」
コミュニティとは自分の意思で入る者が大半だが、ある程度はギフトゲームによる吸収や隷属として人員を引き入れるものだ。魔王がその典型例とも言える。
「まぁ、俺も少し引っかかったのは確かだけどな。今の言い方だとそのコミュニティには居ても加入はしていないとも取れる。いったい何処のコミュニティなんだ?」
「あぁ、今はーーー」
「皆さん、お着きしましたよ」
フルーレティの言葉で会話は中断され、コミュニティの名前は聞きそびれてしまう。まぁ聞く機会はまたあるだろうと思い、そのまま会話を打ち切って前を向く。
「では、私は仕事がありますのでこれで。先程確認いたしましたところ、今はベルフェゴール様が中にいらっしゃるそうです」
「分かりました。お忙しい中、わざわざありがとうございました」
それでは、と言ってフルーレティは行ってしまった。
いよいよ“七つの罪源”との対面ということで黒ウサギとジンは少し緊張している。もちろん他の四人は至って平常だが。
ジンは意を決して扉を叩く。しかし、
「・・・反応がありませんね」
少し待ってからもう一度扉を叩いてみるが、やはり反応はない。
「おかしいですね。これは誰かに中を確認してーーー」
「とりあえず入ってみれば分かるだろ」
「え、ちょ、十六夜さん⁉︎」
ジンの制止もお構いなしに扉を開け放つ十六夜。それに続いてこれまたお構いなしに入っていく飛鳥と耀。
観念して黒ウサギとジン、ベヒモス(仮)も入るが先に入った十六夜達が部屋の一点を見つめて止まっている。後から入った黒ウサギ達は三人の背中が見えるだけで何があるのかまだ見えない。
「三人とも、どうなさいました?」
黒ウサギが近付いて後ろから覗き込むと彼女も同じように止まってしまう。流石に気になったジンも前に出て同じものを見る。
熊がいた。
何を言っているのか分からないかもしれないが、比喩でも何でもなく二m程の熊が部屋の隅で眠っていた。
「どういうことだ、黒ウサギ?」
「いえ、私に聞かれましても」
「熊って寒いと冬眠するんじゃなかったかしら?冬眠って部屋でもできるの?」
「全ての熊が冬眠するわけではありませんし、今ツッコミを入れるべきはそこではありません」
「とりあえず起こしてみる?」
「とりあえず待って下さい」
三人の疑問にそれぞれ答えていく黒ウサギ。とは言ってもこの熊をどうすればいいのか分からないのは彼女も同じだ。
「どうしたんじゃ、お前さんら」
一番後ろにいたベヒモス(仮)も覗き込んで熊を確認する。
「あぁ、なるほどの」
そして確認してすぐに眠っている熊へと歩み寄っていく。
「べ、ベヒモスさん。その熊を起こすのですか?」
「起こさなければ何も始まらんじゃろう」
ベヒモス(仮)の言葉も尤もだ。ベルフェゴールも何故かいないようだし、此処で誰かを待つにしてもこの熊が謎すぎる。
「おい、起きろ。お客さんじゃぞ、
黙って見守っていた“ノーネーム”一同はベヒモス(仮)の言葉に呆然とする。今このお爺さんは何と言ったのだろうか。
べるふぇごーる・・・ベルフェゴール・・・“七つの罪源”?この熊が?
『う〜ん、誰・・・?あれ、爺さん。久しぶりだね、いつ来たの?』
「ついさっきかの。お前こそ、何故その姿で寝ておるんじゃ?」
『人が寝る理由に、眠い以外の理由が必要?熊の毛皮って、暖かいから丁度いいし』
熊ーーーベルフェゴールはのそのそと起き上がり、その姿を人の形に変化させていく。
現れたのは耀を男にしたような感じの中性的な男の子だ。茶色の短髪に寝癖が付いていて、まだ少し眠そうにしている。
「ふわぁ〜。初めまして、怠惰の魔王・ベルフェゴールです。・・・もういい?」
「まだ自己紹介しかしておらんじゃろ、相手の話も聞きんさい」
威厳の欠片もないが、“罪源の魔王”であることには間違いないようだ。
コミュニティのリーダーとしてジンが前に出る。
「お初にお目に掛かります、“ノーネーム”のジン=ラッセルです。今回は外界に行かれた元“罪源の魔王”、ベルゼブブ様に招待されて“魔遊演闘祭”に参加させていただきました」
「あ、そういう堅苦しいの、面倒なんで、普通でいいよ」
「は、はぁ、そうですか?」
いきなり出鼻を挫かれてしまったジン。ベルフェゴールの雰囲気と相まってすぐに語調は崩れてしまった。
「そっか〜。そういや、大魔王から手紙来てたな。ソロモン商会、だっけ?」
「ええ、小さなことでもいいので情報が欲しいんです。ソロモン商会そのものではなく、七大罪と呼ばれる悪魔のことなどでもいいので」
「ん〜。七大罪なら、確認してるだけでも、二人は祭りに来てるけど?」
この部屋に来てから何度目か分からないが、今度はベルフェゴールの言葉に“ノーネーム”一同は呆然としてしまう。
「そ、それは本当でございますですなのですか⁉︎」
「黒ウサギ、言葉おかしい」
驚きすぎた結果、とうとう黒ウサギの
「オホン、失礼。それで七大罪が二人、この地に来ているというのは本当なのですか?」
「・・・・・」
返事がない、ただの屍ーーーではなく、ベルフェゴールは寝てしまったようだ。
「・・・ハァ。疲れました、黒ウサギも寝ていいですか?」
「頑張りなさい、貴女が諦めたら誰がこの場を収拾するのよ」
不憫すぎる黒ウサギに声援を送る飛鳥。しかし声援は送っても自分がこの場を収拾するつもりはないようだ。
「ま、儂はもう顔出ししたからいいじゃろ。あとは任せたぞ、てきとーに誰か連れてくるわい」
そしてこのぐだぐだの空気の中、ベヒモス(仮)は無情にも全て押し付けて出て行ってしまった。
しかしベヒモス(仮)の言った通り、神は黒ウサギを見放さずに手を差し伸べてくれた。彼が出ていって少しすると再び扉が開かれる。
「なぁ、さっきそこで爺さんによく分からないこと頼まれたんだが・・・って。あぁ、なるほど、何となく分かったわ」
入ってきたのは深い青色の髪を刈り上げた感じの青年だった。赤み掛かった金色の瞳にはどこか納得の色が浮かんでいる。
「あんたら、ベルフェゴールの相手して疲れただろ。茶でも飲むかい?」
「じ、常識的、常識的な方が・・・‼︎」
寝ているベルフェゴールを見てその場にいた知らない人を気遣う青年に、黒ウサギはそれだけで感動している。
「あの、ものすごく常識的な貴方様はいったい?」
「そういや名乗ってなかったな。ここにいるってことは俺達に用だろ?俺は嫉妬の魔王・レヴィアタン。と言っても自分的には嫉妬深いつもりはないけどな」
黒ウサギは常識的だと思っていた人物が、実は常識外れの存在だということに彼女は世界の不思議を垣間見たのだった。
★
黒ウサギ達がベルフェゴールに翻弄されている頃、レティシアは城に向かいながら男鹿に渡されたレヴィのギフトゲームに思考を巡らせていた。
「なんか分かりましたか?」
「ああ、八割ほどではあるが・・・」
「おぉ、流石レティシアさん‼︎ それでその八割というのは?」
レティシアはギフトゲームの文脈の解釈がほとんど分かったらしく、古市はその先を促す。
「まず最初の文章。これはゲーム名の通り、旧約聖書の“創世記”にある天地の創造だ」
「そこは俺も知ってます。神様が七日間で今の世界を作ったってやつですよね?」
「そうだ。つまり天地創造によって誕生した“何か”を世界の終末ーーーこのギフトゲームが続く“魔遊演闘祭”の間に集めろということだ」
レティシアの解説を聞きながら古市も思考を巡らせていく。
その後ろでは、レヴィが自分で作ったギフトゲームに真剣に取り組んでくれている二人を見て嬉しそうにしている。残りの三人はというと、
「おい鷹宮。さっきレヴィアタンから聞いたんだが、この祭りのギフトゲームにでかい喧嘩があるみたいだぞ」
「そうか。だったら今度こそ邪魔を気にせずにお前を倒す機会がありそうだ」
「ハッ、何言ってやがる。それはこっちの台詞だ」
「アイダッ‼︎」
レヴィのギフトゲームそっちのけで“魔遊演闘祭”のメインギフトゲームに向けて何やら火花を散らしていた。男鹿はもう完全に謎解きに参加するつもりはなさそうだ。
そんな男鹿達を他所に二人の考察は進んでいく。
「その“何か”は同じくゲーム名にある化生達・・・達というからには複数の怪物ってことですよね?そこは何となくしか覚えてないですけど」
「なんだ、貴之もほとんど分かっているではないか。その怪物は一般的に二頭一対で呼ばれるレヴィアタンとベヒモスの二頭だろう。ここにジズも加えて三頭一対と呼ぶ説もあるが、ジズは旧約聖書には出てこないからな。最初の“創世記”の文章は“ジズを除く”という意味も含まれていると思われる」
「ということはレヴィアタンは後ろのレヴィさんですから、あとはベヒモスを探せってことか。・・・ん?ここまで分かってるのにどうして八割なんですか?」
古市はふと疑問に思ったことをレティシアに尋ねる。聞いている限りではもうギフトゲームは解けているように思ったのだ。
「まずは私がそこまで旧約聖書に詳しくないことだ。簡単な説明はできても深くは知らないため、この文章の解釈に他の解釈がないという保証がない」
要するに、レティシアの考えには確証がないため解釈が合っているか分からないということだ。
「あとは単純に文章を読み解くピースが足りないということだ。最後の文章にある“捧げる供物”というのは、供物を“誰かに”捧げる必要があるということ。これはゲーム名から神だと思われるが、その神が誰なのか私にはこの文からでは読み解けない。私の知識が足らないのか、もしくは文面とは別に神を示唆する要素があるのかもしれない」
「じゃあ、とりあえずの行動方針はベヒモスの捜索と神の特定ってとこですか」
古市とレティシアで文面から考えられることは解いていき、それでも分からない疑問を解消するためにもベヒモスを探すという結論に達した。
「ん、着いたぞ。あとは黒ウサギ達と合流するだけだ」
そして考察を進めているうちに、合流場所として設定した城の前まで来ていた。
「・・・この中から探すんですか」
三つの高層ビルが繋がっているような城を見上げて古市が呟く。手掛りなしに探すには労力を使いそうだと考えたのだ。
「闇雲に探すわけではないから安心しろ。我々も主催者へと挨拶に向かえば自ずと合流できるだろう」
レティシアの言葉に安堵しつつ、一同は黒ウサギ達に遅れて城の中へと入っていく。
「まずは主催者のいる場所を誰かに聞くか」
「あ、私どこに行けば会えるか知ってるけど?」
レティシアが運営の受付的なところを探しているとレヴィが主催者の居場所を知っているというので、迷うことも労力を使うこともなく現在黒ウサギ達のいる部屋を目指すのだった。
なんか書いてて全然話が進まない。そろそろあの方達にも出番を与えねば・・・。
まぁそんな作者事情は置いておき、今年一年もあと僅かです。この小説を読んでくださっている読者様には来年も読んでいただけると幸いです。それでは皆様、来年も良いお年を‼︎