子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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予選は一話で終わらすつもりだったのですが、アスモデウスの参戦によって嫌でも長くなってしまう・・・というわけで第二予選は分割しました。
しかも参加メンバーがあの三人では戦闘外でも全然コメディーにならないという、もう第三章のアンケートを取った意味も今話では発揮できないのでコメントくれた方にも申し訳ないですが、それでも仕上がりましたので楽しんで下さい。

それではどうぞ‼︎


魔遊演闘祭・第二予選【前編】

【ギフトゲーム名 “惑わしの逃走者”

・勝利条件:アスモデウスの憑依を解除する。

 

・敗北条件:上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します。

“七つの罪源”印】

 

 

「はぁ、がっつり戦闘系のギフトゲームを引き当ててしまったみたいね」

 

“契約書類”を読み終えた飛鳥が溜息を吐く。“魔遊演闘祭”のメインギフトゲームの説明を受けた時に懸念していた内容が半分当たってしまったようだ。

 

「でも、このフィールドならディーンを召喚できる」

 

「ま、そこは安心してるわ」

 

飛鳥の懸念は、戦闘系のギフトゲーム且つディーンが戦闘できないようなフィールドの場合では勝ち目が薄いというものであった。しかし、別空間・孤島という環境であればディーンが暴れても被害を気にする必要はない。

 

「あの鉄人形に頼り過ぎるなよ」

 

そんな飛鳥の余裕を鷹宮はバッサリと切り捨てた。とは言っても意味もなくそんなことを言ったわけではない。

 

「仮に俺が敵なら、鉄人形を後回しにしてお前を潰す」

 

「・・・えぇ、貴方の言いたいことは分かってるつもりよ」

 

プライドの高い飛鳥が鷹宮の圧倒的上からの物言いにイラッとしなかったと言えば嘘になるが、彼の言いたいことは彼女自身が一番理解しているので反論はしない。

飛鳥は“ノーネーム”主力陣の中で一番身体能力が低い。古市のように強化できるわけでもなく、“威光”のギフトも格上には使えない。彼の言う通りの状況になってしまったら為す術がないのだ。それを意識させるためにわざわざ言葉にしたのだろう。

 

「ならいい」

 

鷹宮は言うだけ言うとそのまま歩き始める。そう簡単にアスモデウスがやられるとは思えないが、競争である以上は急ぐに越したことはないので二人もそれに続く。

 

「何もあんな言い方しなくていいのにね」

 

先を歩く鷹宮を追う途中で、耀が飛鳥を気遣うように言う。それに対して飛鳥は意外にもさっぱりとしたものだった。

 

「でも事実は事実よ。バレバレの嘘で遠回しに言われるよりはずっと楽だわ」

 

逆に嘘を並べられても、自分が弱味を自覚している以上は皮肉にしか聞こえないかもしれない。

 

「だから春日部さんも、心配してくれるのは嬉しいけど気遣いは無用よ?」

 

「・・・分かった。じゃあ、忍を見返せるように頑張ろう」

 

耀は余計な世話を焼いたとは思ったが、謝ったりはしない。それを飛鳥が望んでいないのは分かったから。

 

「えぇ、もちろんよ。言われっぱなしは趣味じゃないわ」

 

二人は新たに目標を設定して笑みを浮かべ、ギフトゲームへのやる気を上げていくのだった。

 

 

 

島の中はジャングルのように鬱蒼と生い茂っているわけではなく、上等な獣道と呼べる程度の道は存在していたので飛鳥の服装でも苦労なく歩くことができた。

しかし長い時間歩く必要はなかった。

 

「待って。・・・あっちで誰か戦ってる」

 

歩いている中、五感の優れる耀が左を指差して逸早く警告してくる。

 

「アスモデウスかどうか分かるか?」

 

警告した耀に鷹宮が質問する。アスモデウスであるならば向かう必要があるからだ。

耀は言われて五感をフルに使って調べてみる。

 

「う〜ん・・・ごめん、ちょっと分からない」

 

「そう、なら向かってみるしかないわね」

 

飛鳥の提案に二人共異論はなく、すぐに行動に移す。もしアスモデウスならばその戦闘能力の確認と参戦を、違うならば勝ち残った参加者を仕留めてゲーム勝率を上げるためにも迅速且つ隠密に、できれば戦闘が終わる前に向かわなければならない。

 

「行くぞ」

 

再び鷹宮が先頭に立って歩き始める。整備されたような道から外れて茂みの方へ行かなければならないために、尖った枝を折ったり茂る草を踏み締めながら。

 

「・・・もしかして、通りやすくしてくれてる?」

 

「どうなのかしら?もしそうなら先頭を歩くのも自分が先に危険に踏み込むため・・・?」

 

恐らく鷹宮は今のチームとして効率的に動けるようにしているだけだとは思われるが、基本無表情であまり会話をしない彼の真意を掴めるはずもない。そのまま戦っている者に気付かれないであろう距離まで二人は鷹宮の作る道を進んでいく。

しかし鷹宮もただ左に向かっているわけではなく、魔力を感じる方向へと進んでいた。分かっている限りでは箱庭で魔力を使えるのは強い悪魔だけなので、アスモデウスの可能性は高い。

 

「近いぞ」

 

鷹宮の言うように既に飛鳥の耳にも戦闘の音が聞こえており、木々の間からは四人ほど人影が見えている。

飛鳥に見えるということは耀には人影が識別できるレベルまで見えているのだが、それ故に一人困惑していた。

 

(・・・レヴィさん?ギフトゲームには参加してないはずじゃ・・・?)

 

耀の目には、開けた岩場に立つレヴィがチームで動いている三人を相手取り、その内の一人をウォータージェットのように水をぶつけて吹き飛ばしている姿が現在進行形で映っている。

 

「クソッ‼︎ 一人相手に手こずってる場合じゃねぇんだよ‼︎」

 

残った二人は味方がやられたことにより本気を出したようだ。手の爪を十五cm近く伸ばし、黒く尖った翼を出して空中を飛び回って二人で攻撃のタイミングを図っている。しかし、

 

「もう少し速くしないといい的だよ〜?」

 

レヴィは両掌に水の塊を収め、その一つを振りかぶって投げた。掌から離れた瞬間に水は槍状に変化して加速し、飛び回る一人を撃ち落とす。それに動揺して動きが鈍った残りの一人も撃ち落とされる。

 

「終わったみたい。勝ったのはレヴィさん」

 

「レヴィさん?あの人参加してたの?」

 

耀の報告に飛鳥も疑問を覚えたが、レヴィは子供のような性格だと聞いているので参加を隠しておいて驚かしたかったのだろうと二人は結論付けた。

取り敢えずは知り合いということで、いきなり襲われることはないだろうと声を掛けてみる。

 

「レヴィさん」

 

「っと、飛鳥ちゃん・・・だったよね?三人共どしたの?」

 

レヴィに声を掛けた瞬間は警戒していたが、三人の姿を確認すると彼女は少し警戒を解いた。まだ警戒しているのは戦闘後だからだろう。ギフトゲームである以上、知り合いだとしても戦いになるのは不思議ではない。

 

「さっきの三対一の戦闘、見てたよ。やっぱり強いね」

 

「まぁ、伊達に七大罪やってるわけじゃないからね」

 

「私は見られなかったから残念だわ」

 

戦いを実際に見たのは耀だけなので、飛鳥はレヴィが強いということしか分からない。

 

「ねぇレヴィさん、もし良かったら私達と組まない?もちろんアスモデウスさんに当たるまでだけど。春日部さんと忍君もどうかしら?」

 

飛鳥の提案は、レヴィの戦闘から他の参加者を意識してのことだ。アスモデウスが二人残っている間はどちらもクリアの可能性があるので悪くない提案だと思われる。

 

「私はいいよ」

 

「好きにしろ」

 

耀と鷹宮には否定する理由もないので問題なく了承する。レヴィも即答した二人を見て考えを決めたようだ。

 

「う〜ん、それじゃあこっちからもお願いしようかな?よろしくね‼︎ 飛鳥ちゃん、耀ちゃん、忍君」

 

そう言ってレヴィもにこやかに了承する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、鷹宮は手加減のない本気の力でレヴィへと殴り掛かっていた。

 

 

 

「にょわッ⁉︎」

 

レヴィは上体を反らして躱し、そのままバク転して距離を取る。

 

「ちょ、忍君⁉︎ 何をしてるのよ‼︎」

 

鷹宮は飛鳥の文句を無視して懐からワックスを取り出し、髪型をオールバックにする。鷹宮が本気で戦う時のスタイルだ。

 

「残念だったな、レヴィアタンは俺のことを名前では呼ばないんだよ。で、お前はアスモデウスってことでいいのか?」

 

鷹宮の行動と初めて見る雰囲気の違いに戸惑っていた二人だが、その言葉を聞いて彼への戸惑いはレヴィへの疑惑に変化し、沈黙した彼女へと視線を向ける。

 

 

 

「・・・あーあ、()()()明るい性格してるし、飛鳥ちゃんが名前で呼んでるからそうしたんだけど失敗だったかぁ」

 

 

 

鷹宮の問答無用さから誤魔化せないと判断したのか、独白するように白状するレヴィを光が包み込み、人影が変化して別人に成り代わる。

光が晴れたそこには、色欲の魔王・アスモデウスが悠然と立っていた。

 

「確か、私に当たるまでが組む条件だったわよね。どうする?もう一人の私に会うまで一緒にいましょうか?」

 

アスモデウスは面白がるように微笑みながら三人に問い掛けたが、三人の答えは戦闘態勢を取った沈黙で返される。今更行動を一緒にする理由など微塵も見当たらないので当たり前の反応だろう。

 

「残念ね、なら始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

「ベヘモット殿は罪源の魔王達と旧知の仲と聞いているのだが、差し支えなければアスモデウス殿のギフトをお教えもらえないだろうか?」

 

空間の亀裂からギフトゲームを観ていたレティシアはベヘモットに質問した。観戦者はアスモデウスの動向を気にしていたので、開始からレヴィに変身して悪魔三人と戦っていたのを見ている。

 

「概要だけを言うならば、他者への変身・複数人への憑依・技の模倣じゃよ」

 

「ふむ、憑依というのは無機物でも可能なのか?雪だるまが変身したのは憑依されたからだろう?」

 

「いや、あくまでも生き物の魂にしか憑依できんかったはずじゃよ」

 

ギフトゲーム前に壇上でアスモデウスが行ったことについて言及するが、ベヘモットは質問された内容にしか答えない。それに答えたのはベヘモットではなく古市だった。

 

「あの雪だるま、ただの無機物ってわけでもないんすよ」

 

「どういうことだ?」

 

「雪だるまの中に霊体の下級悪魔がいて、付喪神状態になって動いてるんです」

 

「なるほど、つまり無機物へと憑依したわけではなく下級悪魔へと憑依したということだな」

 

レティシアは納得し、改めて空間の亀裂から鷹宮達と対峙しているアスモデウスへと目を向ける。

 

「なぁ爺さん、アスモデウスのギフトは無制限の自由自在ってわけじゃねぇよな?使用するリスクや必要条件、制限はあるのか?」

 

レティシアに続いて十六夜がベヘモットへと質問する。今度は具体的なギフトの詳細についてだ。

 

「それは本人の了承を得てから訊くもんじゃよ。どうしても知りたいなら今からの戦闘で分析することじゃな」

 

「ま、それもそうか」

 

十六夜は答えをもらえなかったがすんなりと納得する。言い換えれば“弱点を教えろ”と言っているのだから誰でも拒否するのは当然だ。

十六夜は見る機会がなかった鷹宮の実力確認も兼ねてギフト分析に勤しむのだった。

 

 

 

 

 

 

「来なさい、ディーン‼︎」

 

「DEEEEeeeeEEEEN‼︎」

 

アスモデウスの宣言の後、透かさず飛鳥はディーンを呼び出して白銀の十字剣を取り出す。

飛鳥の身体能力では剣など気休め程度だが、“威光”によって引き出される破魔の力は人・虎・悪魔の霊格に鬼種を付与されたガルドを飛鳥の細腕で貫いたことから、鬼種はないが悪魔であるアスモデウスにも十分効くはずだ。

 

「ルシファー」

 

続いて鷹宮もルシファーを呼び出す。これで相手を引き付ける手はルシファー、攻撃する手は鷹宮と役割分担は完了だ。耀も風を纏って浮き上がり、三人とも即座に戦闘に入る。

ただしアスモデウスも黙って見ていたわけではなく、再び光が身体を包み込んで姿を変えていた。

 

「またレヴィアタンか」

 

「いやいや、ちょっと細工したらまた変わるよ」

 

アスモデウスは再びレヴィとなって水を操り始める。

そこへ耀が双掌に圧縮した旋風を放った。

 

「その前に決める‼︎」

 

放たれた旋風は勢いを増して迫るも水の塊をぶつけられてお互いに弾け、アスモデウスの周りを除く辺り一帯へと雨のように降り注ぐ。

 

「惜しかったね。ーーーそしてありがとう、細工する手間が省けたよ」

 

言った通りにアスモデウスはレヴィから変身を始め、新たな人物へと成り代わる。

 

「今度は辰巳君?一体どうする気なの?」

 

「分からねぇか?なら久遠に問題だ」

 

アスモデウスは雷電を手に纏わせながら問い掛ける。

 

「辺りに水気、手元に電源、導き出される答えはなーんだ?」

 

それを聞いた飛鳥はギョッとする。そういう形を伴わない攻撃はディーンと相性がいいのだが、濡れた状態では表面を伝うだけで防ぐことはできない。

 

「答えは食らって確認しな‼︎」

 

そのまま雷電を纏った手を濡れた地面に押し付け、水に這わせて雷撃を流していく。

 

「飛鳥‼︎」

 

耀もすぐに助けようとするが、距離が遠くて旋風を操るギフトを使用する経験が浅い耀では浮かせることができない。

もう一か八かでジャンプするかと飛鳥が自棄になっていた時、

 

「きゃっ‼︎」

 

突然何かに引っ張られて飛鳥の身体が宙に浮く。身体はさらに数m上昇してから誰かに受け止められ、飛鳥は誰かと思い後ろを向いた。

 

「ルシファーちゃん‼︎」

 

背中には無表情に飛鳥を見返すルシファーがいた。しかしその彼女の契約者である鷹宮の姿は周りにない。

 

 

 

そして、雷撃の中心にいたアスモデウスの上下に堕天使の紋章が現れる。

 

 

 

「姿や技は模倣できても知識や記憶を共有できない以上、“縛連紋”の抜け方などお前は知るまい」

 

鷹宮は地上からほんの数十cm上にしか紋章を展開しておらず、感電を覚悟して上昇しなかった分の短い時間を活用して攻撃を仕掛けていた。

“縛連紋”とは鷹宮が対“紋章使い”用に編み出した“縛紋”の強化版である。“縛紋”よりも格段に強固な縛りを対象者に強いることができ、そして鷹宮の右手には既に空気が圧縮されている。

 

「コイツで終わりだ‼︎」

 

鷹宮は紋章からアスモデウスへと一直線に疾走して圧縮した風を叩き込もうとする。致命傷は与えられないだろうが憑依を解くことならできるはずだ。

 

「ーーーチッ、やるじゃねぇか」

 

アスモデウスは鷹宮を認める言葉を呟き、三度目の変身を開始する。

二人の距離は残り少し、あとコンマ数秒で攻撃が届くーーーという数瞬の間に変身が完了する。

 

 

 

同時にその姿が掻き消えた。

 

 

 

「何ッ?」

 

変身直後の光が消えると共に姿が消えたため、鷹宮には一瞬何が起こったのか分からなかった。

 

「忍君、後ろ‼︎」

 

飛鳥の言葉を頼りに直感で裏拳を繰り出すが、背後には誰も居らず拳は空を切り、

 

ズガシュ‼︎

 

背後を向いた直後に脳天に鈍器をぶつけられたような衝撃を食らった。

 

「ぐッ」

 

というか鈍器そのものだった。だが奇襲にも関わらずその衝撃には敵を倒すだけの威力はなく、鷹宮は頭を押さえてはいるが実質的なダメージはなかった。

 

「やっぱり、この身体で肉弾戦は無理」

 

先程まで正面を向いていた背後から聞こえてきたのは聞き覚えのない少女の声だった。

振り返るとそこには、甘いベビーフェイスに薄いウェーブを引いたツインテール、幼い容姿に蠱惑的なボディラインと、やはり鷹宮達には見覚えのない人物だ。

 

「貴方は強い。力を制限している中で、こんなに早く北側の下層トップクラスのプレイヤーになるつもりはなかった。だけどギフトゲームは始まったばかり。まだまだ他の人とも楽しみたい。もう他に行くから、頑張ってまた探して」

 

そう言って少女姿のままアスモデウスは目の前から消える。彼女に逃げられたことで最初の状況に戻ってしまい、再び島の探索に戻ってしまうのだった。




これでもアスモデウスさんは、変身する人物を制限している訳ではなくギフトそのものに使用制限を掛けています。第二予選は次回で終わらせられるといいなぁ。

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