子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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今回は今までよりかなり毛色が違うと思います。そしてタグを追加します。

“ヒロインはレティシア”。

うん、大まかにはどういう内容になるか分かったと思います。

それではどうぞ‼︎


秘められた想い

ギフトゲーム予選が終了し、ベヘモットは護衛として焔王の元へと向かっていった。予選中は会場の魔王達の眼前で問題が起こる確率は低いと考え(何より焔王の命令で)参加していたのだが、不確定要素が増加する自由な時間は離れる訳にはいかない。赤星が“ソロモン商会”の存在をチラつかせたのだから尚更だ。

そして審判業を終えた黒ウサギが残ったメンバーの所へと近寄ってくる。

 

「皆さん、お疲れ様でした‼︎ ルシファー様にもお褒めいただいて、同士として鼻が高いのですよ‼︎」

 

予選の結果に彼女はかなり上機嫌なようだ。そんな時に、ふと鷹宮は思い出したかのように彼女へと言う。

 

「黒ウサギ」

 

「はいな、何でしょう?」

 

「“影の国”のライとリューゲ、棄権したぞ」

 

「・・・へ?」

 

「伝えたからな。罪源の奴らにも伝えとけ」

 

鷹宮は言うだけ言ってさっさと自分達の宿屋へと向けて歩き出してしまうが、黒ウサギは慌てて後を追った。それに合わせてみんなも移動し始める。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを‼︎ え、どういうことでございますか⁉︎ お知り合いなのですか⁉︎」

 

「説明が面倒だ。赤星に訊け」

 

しかし鷹宮は相手にすることなく進んでいってしまうので、黒ウサギは切り替えて赤星へと迫った。

 

「貫九郎さん、説明お願いします‼︎」

 

「別に構わないが・・・お前達、宿屋は何処だ?」

 

予選開始から“ノーネーム”と“サウザンドアイズ”として流れで一緒に行動しているが、未だに方向は変わらず道が分かれる気配もない。

黒ウサギが宿屋の名前と場所を言うと、葵は驚いたように声を上げる。

 

「それ、一緒の宿屋ですよ。同じ宿屋に泊まってるなんて気付きませんでした」

 

「なら話は後で構わないな。先に罪源の魔王達にこのことを伝えに行け。理由なんて二の次だ」

 

「わ、分かりました。では御話の方は後ほどお伺いします」

 

黒ウサギは運営本部へと引き返していく。まだそこまで離れていないから、報告するだけならすぐに戻ってくるだろう。

 

「それじゃあ、黒ウサギが帰ってきてから話を聞きましょうか。貫九郎君、その話は長くなるのかしら?」

 

「いや、要所を説明するだけならすぐに終わる」

 

飛鳥が赤星に軽く質問してから次の行動を決めていく。

 

「なら先に話を聞いてからお風呂にしましょう。お風呂の後に話だとゆっくり浸かれそうにないもの」

 

「そうだね、詳しくは忍に訊けばいい。“火龍誕生祭”の後に説明するって約束もまだ履行されたとは言えないし」

 

その時は話の途中で白夜叉に呼ばれ、大魔王のインパクトが強すぎてそのまま流れてしまっていた。

予定も決まったことなので、黒ウサギを除く一同は再び宿屋へも道のりを辿る。

 

 

 

「・・・あ。ジン君とレヴィさん、それに白夜叉さんも会場に置いてきちゃったよ」

 

古市はふと気付いた事実を口から零すが、みんな忘れているようなので三人のことは黒ウサギと運に任せるのだった。

 

 

 

 

 

 

「おんしらは全く・・・私が黒ウサギにダイブしなければ待ち惚けを食らう所だったぞ」

 

「でも白夜叉さんが黒ウサギさんに吹き飛ばされてきたおかげで私達も気付けたし、結果オーライ?」

 

「あ、あはは・・・」

 

黒ウサギと一緒に帰って来た白夜叉とレヴィの発言に苦笑しているジン。どういう状況だったのかは想像に難くない一同であった。

 

ベヘモット達がいないから全員が揃ったとは言えないが、赤星が後で報告するということで第三予選後に鷹宮と二人で遭遇したことについて簡単に語ってくれた。

 

“影の国”のライとリューゲ、その片割れが“ソロモン商会”の幹部であったこと。

赤星達が依頼として調査していた拉致された悪魔を返してきたことから、何かしらの研究に区切りがついたであろうこと。

“ソロモン商会”は赤星達の世界で活動していて箱庭に移ったのではなく、他の世界から赤星達の世界へと来ていた可能性が高いこと。

そして研究にはまだ次の段階があり、“七大罪”が集まりつつあることが必然であるかもしれないこと。

 

細かく言えば他にも説明はしたのだが、大まかに分ければ以上の内容を説明した。

 

「・・・うむ。何かしらの研究とその次の段階の研究。内容や関連性に心当たりはないのかの?」

 

「推測するだけなら幾らでも挙げられるが、証拠はないからどれも推測の域を出ない」

 

白夜叉の質問は“ソロモン商会”が箱庭で発足したのなら、目的さえ分かればその目的を遂行するのに最適な場所を絞り込めると思ってのものだが、赤星にも特定するためのものはない。ここまで慎重に進めていた“ソロモン商会”がわざわざ“影の国”を取引相手と言った以上、“影の国”に向かっても証拠はなく拠点も別にあると考えた方がいい。

 

「黒ウサギの耳は審判中、ゲーム内のことは把握できてるだろ?俺達を狙撃する時でも何でもいいから会話を拾えなかったのか?」

 

「う〜ん・・・“試作品の実戦データ”などと口に出してはいましたが、決定的なことは何も。もしかしたら黒ウサギのウサ耳を警戒していたのかもしれません」

 

「確かに。まだ確証はないけど、“ペルセウス”とのギフトゲームの時から僕達の情報は掴まれていたわけだから、その可能性は高いと思う」

 

十六夜も別視点から情報を集めようとして黒ウサギに訊くが、此方も空振りに終わる。ジンの言う通り、ルイオスに情報を流していたのが“ソロモン商会”だとすれば、“ノーネーム”の情報はある程度掴んでいるはずだ。黒ウサギが審判をしていた以上、警戒していなかったわけがない。

 

「試作品って何だろう?」

 

「考えられるとすれば、十六夜君達を狙撃していた影でしょうけど・・・」

 

「だが、二人のコミュニティは“影の国”。影のギフトを使えても何らおかしくない」

 

新たに齎された情報を耀、飛鳥、レティシアの三人で考察するも決定打には欠ける。

 

「レヴィさんは何か分からない?」

 

「って言われても、私は元の世界から箱庭移転のゴタゴタ中に抜け出しただけだからなぁ。私が知ってた情報も似たり寄ったりだし・・・。それに今の話を聞いた後だと抜け出せたのも簡単過ぎたように感じるんだよねぇ」

 

「研究の必要がなくなったってことは、下手に解放するよりも意図的に抜け出すように誘導した可能性も捨てきれないってことですね?」

 

葵の質問に答えたレヴィの言葉を古市が補足する。何かしらの方法で抑えられていた七大罪がいきなり解放されれば不審に思うのは当然だ。それならば解放する理由ができたとしても、自ら距離を取るように仕向けた方が都合がいいとも考えられる。

 

「食らいやがれ東条、ドロー2‼︎」

 

「甘いな男鹿、ドロー4‼︎ ベル、ガキだからって容赦しねぇぞ‼︎」

 

「フゥ〜、ダッ‼︎」

 

「な、何だと⁉︎ てめぇはさっきドロー4を出したはず‼︎ まさか、俺がドロー2を出すことは計算通りだとでも言うのか⁉︎」

 

「ハッ、どうやら俺とベルの闘いになりそうだな」

 

「ダブダッ」

 

「まだだ‼︎ 俺は手札+10から這い上がってやるぜ‼︎」

 

ーーーそんな真剣な話し合いの隣で、男鹿、東条、ベル坊の三人は真剣にUNOを繰り広げていた。ついでに言えば鷹宮は椅子で目を瞑って休んでいる。鍵を渡してもらえず部屋へと帰れなかったからだ。

 

「ーーーって、ちょっとは貴方達も考えなさいよね」

 

流石に自由過ぎるメンバーに飛鳥はツッコミを入れる。

 

「何だよ、お前もやりてぇのか?」

 

「違うわよ・・・」

 

「違うのか?だったらトランプを・・・」

 

「今はその札遊びを止めなさいって言ってるの‼︎」

 

次から次へと宿屋に備え付けられた娯楽道具を出していく男鹿に、ついはしたなく大きな声を上げてしまう飛鳥。咳払いをしてから少し考えてから結論を言う。

 

「まぁ貴方達から有意義な情報が得られるとは思えないけれど・・・」

 

箱庭古参の白夜叉とレティシア。聡明な十六夜。“ソロモン商会”に近しかった赤星とレヴィ。その他にも頭のいい面々で話し合って分からないのだ。はっきり言ってここに男鹿と東条が加わってどうこうなるとは思えない。

 

「・・・ま、確かにこれ以上考えても意味はなさそうね。辰巳君を見習う、とまでは言わないけれど、肩の力を抜いてお風呂にでも入りましょうか」

 

飛鳥の言うことにも一理ある。情報が出揃ったにも関わらず答えが見えないのだから、後は時間の浪費だ。

一同は気分を切り替えるため、何よりギフトゲーム予選の疲労を癒すためにも温泉へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

温泉に浸かって一息ついた女性陣は、女三人寄れば姦しいと言われるまで煩くはなかったが、その倍以上の人数のため随分と賑やかだった。温泉は屋内風呂と露天風呂に分かれ、サウナも付いているというかなり大きな造りとなっている。

 

暫くは一団として屋内風呂に固まっていたのだが、レヴィが黒ウサギにみんなには内緒で訊きたいことがあると露天風呂に誘い、白夜叉は風呂上がりの一杯ためにサウナで耐久に励んでいた。残る四人は屋内風呂でまったりと雑談に花を咲かせている。

 

「と、ところで・・・お、男鹿はこっちでどんな生活を送ってたの?」

 

会話が切りの良いところで終わった時に、葵が恐る恐るといった感じで切り出した。

 

「どんなって・・・具体的には?」

 

「いえ、みんな仲が良さそうだったから・・・名前で呼んだり、気軽に手を握ったり・・・」

 

つまりは人間関係を知りたいということだ。葵はゲーム会場でレティシアが手を握ったり、飛鳥が旅館で名前で呼んだりした時に内心ではかなり気になっていたのだろう。

目を泳がせながらモジモジと訊いてくる葵を見て、飛鳥と耀は顔を見合わせて玩具を見つけた子供のような表情でニヤニヤしている。

 

「そうねぇ。名前で呼んで仲良くはしているけれど、あくまでも私達はただの仲間よ」

 

「うん、そうだね。私達はただの仲がいい仲間」

 

“私達”を強調して言う二人に、葵は目に見えて動揺している。

 

「ふ、ふぅん?だ、だったら二人よりも仲が良い人もいるの?」

 

これは完璧に男鹿にほの字なのだな、と弄り甲斐がありそうだと二人は実に楽しそうだ。

 

「えぇ、いるわよ」

 

「葵の隣に」

 

「え?」

 

「・・・ん?私か?」

 

葵は二人に向けていた顔をぐるんと反対側へと回し、脱力して温泉に浸かっているレティシアも指名されたことに気付いて二人に問う。

 

「えぇ。だって今のところ王臣は貴女だけじゃない」

 

「それに王臣だから一緒にいる時間も多いし」

 

二人は男鹿とレティシアが五日間ほど一緒に修行していたことは知らないが、それでも今回のギフトゲームの組み合わせを決めた時のように二人は行動をともにしていることが多いと思う。

 

「その、王臣っていったい何なの?レティシアさんの左手の紋章と関係があるの?」

 

訊かれたレティシアは左手の王臣紋を目の前に持っていき、それを眺めながら答える。

 

「この紋章は王臣紋と言うもので、“生涯かけて王に付き従うと決めた者にのみ与えられる戦士の称号”だと、ヒルダ殿が説明していたな」

 

王臣紋の説明を聞いた葵の時が一瞬止まり、言葉を咀嚼して脳内で反復してから再び起動する。

 

「・・・え、ええぇぇ⁉︎ しょ、生涯付き従う⁉︎ レティシアさんが⁉︎ 男鹿に⁉︎」

 

「まぁおかしなことではないわよねぇ。なんたって辰巳君のメイドさんだし」

 

「メイドさん⁉︎ え、ちょっと待って‼︎ え〜と・・・つ、つまりどういうことなの?」

 

正確には十六夜、飛鳥、耀もレティシアの主なのだが、葵は追加で齎された情報にもう頭が着いていけないようだ。結論を耀が端的に教えてあげることにした。

 

「二人は伴侶」

 

・・・確かに伴侶には“生涯の友”や“仲間”という意味もあるが、明らかに意図的な言葉の選択(チョイス)である。流石にレティシアも飛鳥と耀が楽しんでいると察し、二人に乗るように口元に笑みを浮かべて答える。

 

「強ち間違いではないかもな。私は辰巳が拒否しない限り、私の生涯を掛けてもいいと思っている。辰巳が求めるならば、主従の関係を超えても・・・な」

 

「な、ななななな、なぁっ⁉︎」

 

レティシアの爆弾発言に葵はもうショート寸前だ。これ以上からかったらいい加減に気絶しそうな勢いなので、そろそろ控えることにする。

 

「邦枝さん、冗談だから落ち着いて。そうだ、頭を冷やす意味でも露天風呂の方へ行かないかしら?レヴィさんの話も流石に終わっているでしょ」

 

「え、あの、うん。あ、後で行くから先に行っててくれない?」

 

「分かったわ。春日部さんとレティシアはどうする?」

 

「行く」

 

「私は遠慮しておくよ」

 

という訳で飛鳥と耀は露天風呂へと移動する。二人が出ていって少しの間、そのままゆったりとしていたがレティシアも立ち上がる。

 

「私は先に上がらせてもらうよ。葵殿はもう少しゆっくりと浸かっていてくれ」

 

「あ、はい。分かりました」

 

レティシアが上がるということで、葵もそろそろ露天風呂の方へ行こうかと考えていると、レティシアが立ち去り際に言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの言葉。私は別に冗談を言ったつもりはないからな?」

 

 

 

「えっ・・・?」

 

葵は振り返ってレティシアを見るが、レティシアはそのまま振り返らずに浴場から出ていってしまう。

再び悶々としてしまった葵は、結局露天風呂へと行くことも忘れて屋内風呂に浸かり続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、少し逆上(のぼ)せているのかもしれないな・・・」

 

必要のないことを口にした、と一人廊下を歩きながら呟くレティシア。何時からそう思うようになったのかは本人も分からない。

 

“ペルセウス”のギフトゲームで助けられた時から無意識の内に意識していたのか。

“黒死斑の魔王”のギフトゲームで鷹宮との戦闘中に男鹿の決意を魅せられた時から意識し出したのか。

一緒に過ごしていく内に徐々に意識していったのか。

 

兎にも角にも今まで感じたことのなかった感情だが、彼女は冷静に受け止めていた。

 

 

 

気付けば自分は明らかに辰巳に好意を寄せている、と。

 

 

 

勿論のことだが、レティシアは男鹿が恋愛事情に全然興味を抱いていないことを知っている。それはレティシアだけの認識ではないだろう。

それに胸を締め付けられて痛いと言うほど熱烈なものではなく、今は淡い恋心が芽生えた程度なのでその事を口に出して言うつもりはなかった。

 

そんな時に初心な反応をする葵に感化されたのか、本当に逆上せて感情が出やすくなっていたのか。

男鹿のことが好きであろう葵に、レティシアは宣戦布告のような台詞を口走っていた。

 

「・・・外の空気でも吸ってくるか」

 

宿屋を出て散歩でもしようかと考えロビーに向かうと、偶然にも男鹿とベル坊が温泉に入る前に話し合っていたテーブルのソファーに座っていた。

何をしているのかと不思議に思ってレティシアは近付く。

 

「そんな所で何をしているのだ?」

 

「あん?なんだ、レティシアか」

 

二人は対面(ベル坊はテーブルの上)に座り、見ればテーブルにはトランプが広げられている。

 

「いやな、ベル坊がトランプやりたいって言い出してよ。鷹宮と赤星は部屋に帰ったし、逆廻と東条は道具が壊れない程度に卓球やってるし、古市は腹壊してるしで仕方なく二人で大富豪をやってる訳だ」

 

「アイダッ」

 

「・・・大富豪とは二人でやるものだったか?」

 

レティシアの記憶ではもう少し多い人数でやるものだと認識していたのだが、まぁやろうと思えばできなくもないだろう。

 

「・・・私も混ぜてくれないか?あまり詳しくはないが、大富豪ならば二人より三人の方が楽しめるだろう?」

 

「おっしゃ。だったら勝ち負けもリセットだよな、ベル坊?」

 

「ダ、ダブーッ⁉︎」

 

男鹿の黒い笑みとベル坊の反応からすると、どうやらベル坊が大富豪だったらしい。・・・高校生が赤ん坊に負けるとは、男鹿が情けないのかベル坊がすごいのかは謎である。

その謎を解明するためにも散歩へ行くのを変更し、レティシアは心の中で暖かく充満していく気持ちを味わいながらトランプに興じるのだった。




そろそろ関係をはっきりさせるか、と思い今回の内容となりました。あと他の作品の恋愛描写を読んでて少し書きたくなったというのは此処だけの話。

それでも原作同様に恋愛にまで発展させるつもりはありませんが。言うなればヒロインのうち、“ヒルダポジション”と“邦枝ポジション”の間が“レティシアポジション”ですね。

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