子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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ようやくギフトゲーム本戦の始まりです‼︎ 下手をすれば今までの第三章と同じくらい本戦は話数を重ねるかもしれません・・・。

それと先日“べるぜバブ”の番外編が出たため、タグの“べるぜバブ設定は本編のみ”を削除しました。

それではどうぞ‼︎


魔遊演闘祭・本戦開始

ギフトゲーム予選終了から一日空けて“魔遊演闘祭”の四日目。十分に休息を取った参加者一同のコンディションは良好だった。今は全員、壇上に立つサタンの前でチーム毎に集まっている。

 

「参加者諸君、束の間の休息だったとは思うが体調はどうだろうか?見た限りでは良さそうで何よりだ。そしてギフトゲームも今日で本戦、最後となる。全力を尽くして優勝を目指して欲しい」

 

そこで言葉を区切り、参加者を一度見回してから言葉を続ける。

 

「気付いているだろうが、今は一組が棄権して七組となっている。本戦では公平にチームを衝突させようとしていたが、奇数になってしまった・・・そこでゲームの内容を諸君らに選んでもらうことにした」

 

その言葉で観客の多くが騒めいている。決勝進出した参加者が棄権した前例もなかったが、決勝のゲーム内容を選択させる前例もないのだろう。

そこで十六夜が手を挙げる。

 

「質問いいか?」

 

「何だ?」

 

それに対してサタンも問題なく了承する。

 

「ゲームは公平にと言っていたが、その選択によって有利不利は出ないのか?」

 

「有利不利ではなくリスクリターンの問題となる。・・・ゲームの内容と言うと語弊を生むかもしれないな。何故なら諸君らの戦闘力を考慮し、マモンのゲームを採用することは既に決定しているからだ」

 

今度は騒めきよりも疑問が会場に広がっていく。ではサタンは何を選択しろと言っているのだろうか。

 

「これはあくまでゲームを盛り上げるための措置であり、選択は自由にしてくれて構わない。・・・選択肢は難易度だ。一つは七チームで通常通りに競い合ってもらう。もう一つは難易度が高いボーナスステージを加えて()()()()で競い合ってもらう」

 

十チーム。この言葉の意味に気付いた参加者の反応は三通りに分かれていた。嫌な予感に苛まれている者と獰猛な笑みを浮かべている者。そしてよく理解できていない者だ。

 

「・・・ほぉ。そいつはつまり、罪源の魔王(あんたら)の誰かが参戦するってことか?」

 

“魔遊演闘祭”で本戦に勝ち残ったのはいずれも戦闘力の高いチームだ。そんな本戦であっても難易度が高いと言われる存在など彼らしか思い浮かばない。

 

「そういうことになる。要望があれば参戦するメンバーも選べるがどうする?多少は時間を設けるから相談しても構わない」

 

「そんな必要はねぇと思うがな・・・罪源の参戦に同意する奴は手を挙げな」

 

十六夜の号令によって複数の手が挙がる。相談もなく独断で挙げられた手の数は八人。十六夜、男鹿、鷹宮、飛鳥、耀、赤星、ベヘモット、東条の八人であり、氷狼を除いて参加者は十五人なので既に過半数が決定している。

 

「強ぇ奴らと戦えんだろ」

 

「さっさと喧嘩しようぜ」

 

男鹿と東条は拳を鳴らしてやる気十分であり、レティシアと葵は二人の考えなど分かりきっていたので苦笑を浮かべるのみだ。

 

「やられっぱなしは趣味じゃねぇ。出てこいよ、アスモデウス」

 

「予選での決着をつけましょう」

 

「今度こそ勝つ」

 

今回のゲームで罪源の魔王と最も対峙している鷹宮と飛鳥と耀は名指しでアスモデウスの参戦を希望する。鷹宮は既に髪型をオールバックにした本気モードだ。

 

「俺も罪源の魔王とは戦ってみたかったんだ。こんなチャンスを逃す手はねぇ」

 

「彼奴らは正真正銘の魔王じゃぞ。胸を借りるつもりで戦うんじゃな」

 

赤星も罪源の魔王には興味津々であり、どちらでも構わないベヘモットは赤星の気持ちを汲んで手を挙げる。

 

「どうした古市?てっきり反対するもんだと思ってたんだが、やけに静かじゃねぇか」

 

「反対すればどうにかなんの?どうせなんないよね?だったらなるようになれってんだよコノヤロー」

 

十六夜の疑問に古市はやけくそ気味に返事を返す。事実として過半数を超えている以上はひっくり返りようもない。

 

「まぁ、あくまでお祭りのギフトゲームですからね。主催者のコミュニティとしては大多数の意見に身を任せますよ」

 

フルーレティの言葉に、同じく“七つの罪源”のコミュニティであるバティンとプルソンとエリゴスも頷いて合意する。

 

「なかなかに勇敢な猛者で嬉しい限りだな。ではアスモデウスは参戦決定だ。残る二人を抽選で決めるとしよう」

 

「分かりました‼︎ それでは此方の抽選箱からお二つお引き下さい‼︎」

 

壇上の端に待機していた黒ウサギが抽選箱を持ってサタンの方に歩いていき横に立つ。サタンはガサゴソと中を漁り、二枚の折り畳まれた紙を引いた。

 

「・・・まず一人目、嫉妬の魔王・レヴィアタン」

 

「ん、俺か。久しぶりにいい運動になりそうだ」

 

選ばれたことに笑みを浮かべて楽しそうに前へと歩み出るレヴィアタン。その笑みには何処が男鹿達と似たような雰囲気がある。

 

「そして二人目・・・暴食の魔王・ベルゼブブ」

 

最後に呼ばれたのは、今までの経緯から喋る機会のなかったベルゼブブだ。緑掛かった金色の長髪を後ろで纏め、切れ長の目が鋭いイメージを思わせる。

前に出てきたベルゼブブを見て、“ノーネーム”の鷹宮を除いた異世界組はというと、

 

「こいつもアホなのか・・・?」

 

「罪源の人達を見る限り違・・・いや、否定できん」

 

「なんせ大魔王があれだったからな」

 

「どう来るのかしらね・・・?」

 

「真面目な顔をしてボケ続ける天然タイプと見た」

 

散々な予想をコソコソと言い合っていた。幸いにもベルゼブブには会話の内容は聞こえていないようで、自然体のままに言葉を発する。

 

「ありがとうございます。選ばれたからには誠意を持って御役目を務めさせていただきます」

 

・・・これには五人ともポカーンという形容がお似合いの表情しかできなかった。

実はこのような真面目過ぎる性格になったのには訳があったりする。罪源の魔王の二代目として引き継いだ彼も他の罪源同様に適度に真面目だったのだが、先代である大魔王がアホ過ぎて馬鹿な行動ばかりしていたための被害が色々と彼に降り掛かったため、真面目にならざるを得なかったという悲しい物語があったのだ。

 

閑話休題。

 

何はともあれ、これで本戦出場メンバーが決定した。

 

「それでは今までと同じように別空間へと転移させてもらうが、戦闘が派手になることを考慮してこれまでよりも広い直径五kmの空間が舞台となる。簡易的だが俺が昔造った舞台を再現した」

 

サタンの説明と合わせて、ベルフェゴールの千里眼による空間の亀裂が今回の舞台を映し出す。そこに映し出された舞台は海に山、森に砂漠、火山地帯に極寒地帯、剥き出しの岩石地帯などなど、これまでの舞台に加えて様々な状況が雑多に配置された、正に自然ではあり得ない舞台だった。

 

「・・・ヤハハ。これを()()()、だと?オイオイ、罪源の魔王だからって規格外にもほどがあんだろ・・・」

 

冷や汗を流しながら十六夜は言うーーーいや、サタンを知らない者からは十六夜しか言葉に出せなかった。知っている者でさえ十六夜達ほどではないが圧倒されるしかない。

 

「サタンは別格じゃよ。ただの魔王ではない。元とはいえ“人類最終試練(ラスト・エンブリオ)”と呼ばれる最古参の魔王の一人じゃからな」

 

罪源の魔王の事情にある程度詳しいベヘモットが言う。十六夜は聞き慣れない単語に首を傾げていた。

 

「その“人類最終試練”ってのは何なんだ?」

 

「“人類最終試練”とは人類を根絶させかねない、史上最強の試練が顕現したものじゃよ。簡単に言えば魔王の雛型じゃ。詳しく知りたければゲーム後に自分で調べるんじゃな」

 

色々と話が脱線しつつあったが、ついに本戦が始まる。

 

「それではこれより、“魔遊演闘祭”メインギフトゲーム本戦、“乱地乱戦の宴”を始めたいと思います‼︎」

 

 

 

 

 

 

【ギフトゲーム名 “乱地乱戦の宴”

・勝利条件:参加者のうち、最後の一組になるまで勝ち残る。

 

・敗北条件:戦闘不能となる、または降参した場合。

 

・舞台ルール:舞台装置によって致命傷を負った場合、致命傷とはならず強制的に敗北となり強制転移される。

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗の下、各コミュニティはギフトゲームに参加します。

“七つの罪源”印】

 

 

黒ウサギの開始宣言で舞台へとランダムに転送された参加者達は、“契約書類”をサッと流し見てからそれぞれに行動を起こす。

 

そのうちの一組である男鹿とレティシアはというと、

 

「暑い・・・ひでぇ仕打ちだ・・・」

 

「ダァ〜・・・」

 

「取り敢えず、体力を奪われる前にこのエリアを脱出するぞ」

 

砂漠地帯に放り出されていた。レティシアの目算では二〜三㎢くらいで一区切りしていた筈だと考え、翼を出して上昇しつつ周囲を見回せば三〇〇mほど離れた所に森林地帯が見えた。

 

「あちらの方に森が見える。一先ずはそちらに向かうぞ」

 

「「ダァ〜・・・」」

 

三〇〇mなど日常的にはすぐだが、日照りの中で砂に足を取られれば感じる疲労も一入(ひとしお)である。魔力は温存しておきたいので歩くしかない。ダラダラと歩みを進めて森に突入したが惰性でダラダラと森も進んでいく。

 

「・・・ん?」

 

「どうした?」

 

唐突にレティシアが立ち止まったので、男鹿も立ち止まって何かあったのかを訊く。

 

「いや、水の流れる音が「どっちだ‼︎」え、あぁ、あっちーーーっておい⁉︎」

 

男鹿は返事を聞くや走り出してしまったので急いで追いかける。よっぽど砂漠地帯で喉が渇いていたのだろう。

 

「水だぁ‼︎」

 

「ダァ‼︎」

 

森を抜けて砂利が広がる川辺へと男鹿は飛び出し、

 

「え?」

 

「おっ」

 

「ん?」

 

「辰巳っ、ちょっと待ーーー葵殿に英虎殿か」

 

葵と東条に遭遇した。いきなり突撃してきた男鹿に葵は唖然、東条は普通にしていたが、葵はすぐに“断在”へと手を伸ばす。

 

「男「ちょっと待て‼︎」鹿・・・え、何?」

 

葵の言葉を遮って男鹿は川辺に向かい、すぐさまベル坊と一緒に水面へと顔を突っ込む。葵は唖然とした表情から呆然とした表情に変わっている。

 

「んくっ、んくっ・・・ぷはぁ‼︎ 生き返ったぜ‼︎」

 

「アイダッ‼︎」

 

「・・・済まない。実はな」

 

呆然としている葵へとレティシアが軽く説明する。それを聞いて彼女は納得していたが、ゲーム中にも関わらず気の抜ける話である。

 

「ハッ、最初に男鹿と()れるとは運がいいぜ」

 

その横では既に東条が拳を構えて戦闘態勢に入っている。口元を拭う男鹿も喉を潤してすっかり元通りだ。レティシアと葵もそれぞれパートナーである二人の横に並び、

 

「確かこっちで声が・・・おっ、こりゃ楽しめそうな面子に出くわしたな」

 

男鹿達に続いて現れた人物へと四人が目を向ける。その人物を確認したレティシアと葵が顔を引き攣らせる。

 

「レヴィアタン殿・・・」

 

「まさか、いきなり当たるなんて・・・」

 

ゲームで優勝を目指すなら間違いなく避けて通るべき人物だ。戦うにしても疲労が溜まる前に他の参加者を蹴散らし、上位を狙える状況で対峙したい相手である。

そんな風に先を見据えてゲームメイクを考えている女性二人のことなど露知らず、男鹿と東条は目の前の相手とレヴィアタンに闘志を向けている。

 

「いいねぇ、やる気も十分じゃねぇか」

 

レヴィアタンも応えるように闘志を剥き出しにしている。とても回避できるような状況ではないため、レティシアと葵も覚悟を決めて戦闘を開始する。

 

 

 

 

 

 

男鹿達が砂漠地帯に放り出されたのに対し、十六夜と古市は猛吹雪の極寒地帯に転送れていた。

 

「取り敢えずどうするよ?」

 

「見晴らしのいいエリアに向かうべきだろ。ちょっと逆廻、垂直跳びして見渡してくれよ」

 

しかし男鹿達とは異なり、防寒のギフトがあるため凍える寒さに震えるということはなかった。精々雪が冷たくて風が強いことくらいだ。それでも普通の人間には厳しいかもしれないが、十六夜は普通とは程遠く、古市も“適応者”を意識するようになってからは単純な環境変化には強くなっていた。

十六夜は軽く百mくらい垂直に跳び上がり、すぐに重力に引かれて戻ってくる。

 

「よく分かんね」

 

「じゃあ今度は雲の上まで」

 

「流石に面倒臭ぇ」

 

古市もかなり問題児に毒されてきているかもしれない。“魔遊演闘祭”を通して、特に十六夜にはツッコミの必要がない時は自然に異常な要求をしていた。

 

「この環境じゃどの方向に進んでも似たようなもんだ。だったら視界の悪い中をまっすぐ進められればいいだろ」

 

十六夜はそう言って足元の雪を掬い上げ、硬く硬く硬〜く握り込んで雪玉を作り、

 

「よっ‼︎」

 

鉄球もかくやという硬さまで握り込んだ雪玉をアンダースローで地面スレスレに投げる。投げられた雪玉は爆撃機が通った後のような軌跡を残して彼方へと消えていった。

 

「これなら多少の吹雪でも消えないだろ。さぁ行くぞ」

 

「なんかお前といると感覚麻痺ってる感が半端ないんだけど」

 

ズカズカと進んでいく十六夜に、自分の感性に自信を無くしつつある古市が続いて歩く。十六夜のおかげで表層の柔らかい雪も吹き飛ばされているので、通常装備の服装でも比較的に楽に歩くことができた。

 

「此処を抜けたらどうするんだ?」

 

「ベルフェゴールが映し出した映像で見た限り、極寒地帯に多く隣接していたのは草原地帯と岩石地帯だ。そこから比較的に楽なエリアへ向かえば参加者と遭遇する確率は高いだろ」

 

「・・・あの一瞬、しかも全景は映ってないのに地形を覚えたのかよ。もう凄ぇとしか言えねぇ」

 

「極寒地帯で視界が悪くなかったら、もう少し計画的に移動するんだけどな」

 

十六夜の規格外を新たに認識しつつ歩き続きける二人。暫く歩けば吹雪も弱まってきており、薄っすらとだがゴツゴツとした岩肌が正面に見えている。

 

「はぁ、やっと抜けーーー」

 

た、と古市が一息つけそうな雰囲気で気を抜いていた時、真正面から自然のものではあり得ない猛吹雪が二人に襲い掛かった。

 

「おわぁぁああ⁉︎」

 

十六夜は腕で顔を庇う程度だったが、古市は油断していたのもあって後方に吹き飛ばされる。

 

「ーーーやはり貴方達でしたか」

 

凛と響いた女性の声に目を向けると、そこには氷狼に跨ったフルーレティが待ち構えていた。

 

「雪玉が飛んできて岩肌を砕いていった時は攻撃かと思いましたが、暫く経っても誰も現れませんでしたから攻撃ではないと判断しました」

 

どうやら十六夜が投げた雪玉を目撃していたようだ。

 

「攻撃ではないのに破壊力のある一撃。参加者を見た限り最も規格外である逆廻様の仕業だと予想しましたが、合っていたようですね」

 

「へぇ、規格外だと認識しておきながら俺達を避けなかったのかよ」

 

「えぇ。勝ち続ければ何時かは当たる訳ですし、私のテリトリーにいる時にぶつかる方が勝率は高いかと思いまして」

 

彼女が言うと同時に弱まっていた吹雪が強まり、視界が悪くなるとともにフルーレティの姿も徐々に見えなくなっていく。

 

「ハッ、面白ぇ。古市、さっさと柱師団の奴を呼び出しとけ。始まるぜ」

 

「俺からしたらフルーレティさんって、初対面の綺麗なお姉さんだから戦いたくないんだけど・・・仕方ない」

 

十六夜は拳を構え、立ち上がった古市も少なくなったティッシュを取り出して戦闘準備をする。十六夜達にとってはアウェーな地形である雪上の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

過酷なエリアに放り出されていた“ノーネーム”の二組とは違い、鷹宮達は舞台のほぼ中央である山へと転送させられていた。これは最初に送られた場所という意味ではかなり運がよかったと言えるだろう。

 

「春日部、アスモデウスの居場所を上空から探せ。“生命の目録”を持つお前が適任だ」

 

「分かってる」

 

三人の標的はアスモデウスであり、舞台全体を探すという意味でもこの場所は都合がよかった。鷹宮も紋章を使って浮かび上がりながら周囲を警戒していく。飛鳥はこういう時には役に立てないので歯痒い思いである。ディーンを使えば目立ち過ぎて他の参加者も引き寄せてしまう。鷹宮の目では最端では米粒のようなものにしか見えないが、耀の目には様々なものがハッキリと映っていた。

男鹿とレティシアが砂漠地帯を歩いている姿。極寒地帯を貫くように飛んでいく何かの物体。その先にいるフルーレティと氷狼。他にも色々と発見しつつその場で回転しながら目標である彼女を探しーーー

 

「見つけた」

 

耀の言葉に反応して鷹宮も耀が顔を向けている方へと視線を向ける。その方向には舞台の端に海が広がっており、鷹宮には判別できないものの確かに誰かが立っているのが分かった。耀が言うのなら間違いないのだろう。

普通ならここから単純計算でニkmほど様々な地帯を横切って移動しなければならないためこの場所とは離れてしまっていると思うだろう。

 

「行くぞ」

 

だが、鷹宮には転送玉があるため多少の距離などないに等しい。しかも男鹿達が考慮していた魔力温存についても転送玉に補充された魔力を使用するため、鷹宮の魔力は使用されず戦闘にはなんら支障がない。

 

「ーーーあら、そんなギフトも所有していたの?」

 

そして目の前に現れた鷹宮達を見ても、アスモデウスは平常心のままだ。まぁ自らも瞬間移動のギフトを模倣できるのだからその反応は当たり前か。

 

「予選での借りを返しに来たぜ。今はまだ三人掛かりで手加減されているというのは情けない話だがな」

 

そんな彼女の疑問は無視して鷹宮は言う。飛鳥と耀も言葉には出していないが、表情を見れば同じ気持ちであることが分かる。

 

「・・・いい目をしてるわね。その気持ちに応えるためにも、サタンに合わせて私も難易度を上げようかしら」

 

アスモデウスの目が妖艶に細められる。難易度を上げる・・・それはつまり、自らに課せられたゲーム中の制限を緩めるということだ。

 

「罪()()王がゲームに参加する時、その力は段階的に四つに制限しているわ」

 

彼女は指を四本立てて説明する。

 

「まずは霊格とギフトの二つを制限、次に霊格のみを制限、その次にギフトのみを制限、そして最後に制限なしという感じにね。さらに魔王化すれば実質は五段階だけど」

 

黒ウサギが“魔遊演闘祭”の前に言っていた、霊格を落とした状態を解放することで魔王へと返り咲くことができるのだろう。レヴィアタンが予選前に言っていた霊格を増やすということがそうなのかもしれない。

 

「予選では霊格とギフトを制限していたけれど、本戦では霊格の制限のみに引き上げましょう」

 

アスモデウスは誠実な対応をするために言っているのだが、飛鳥と耀の表情は多少強張っているように見える。

 

「それでもまだ実力の五分の二ね」

 

「うん、実力差は明白」

 

だが鷹宮は意外にも気楽にしている。

 

「仮にも白夜叉レベルだからな。それにこれからも魔王と戦う以上、強くなるための段階を踏むのもいい。だがーーー」

 

“ノーネーム”は打倒魔王を掲げたコミュニティだ。上位の魔王と戦って得られる経験値というのも必要だろう。だからと言って胸を借りるということはしないが。

 

「まずはギフトゲームレベルの罪源をぶっ飛ばす」

 

魔力を高める鷹宮に合わせて飛鳥と耀の緊張も高まっていく。予選から続く決着をつけるため、両者は再びぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

三つの戦場が形成される中、残る三組も偶然ながら湿地帯で集結していた。足元の泥濘(ぬかるみ)など気にせずに三組は相対している。

 

「早くも罪源の魔王と戦えるとは、ついてるな」

 

「オマケにフルーレティの配下となかなかの粒揃いじゃしの」

 

赤星はベルゼブブを見て、ベヘモットはバティンとプルソンとエリゴスの三人を見てそれぞれに言う。前に十六夜が説明していたフルーレティが登場するグリモワール、そこでフルーレティの配下とされているのがこの三人だ。

 

「フルーレティ様が出場することになったので私達も参加することになりました。お手柔らかにお願いしますね」

 

薄桃髪のトランペット奏者ーーープルソンが鈴の音のような声で赤星とベヘモットとベルゼブブに語り掛ける。

 

「あ〜、残念ながらお前さんらの相手をするのは儂一人じゃよ」

 

プルソンの言葉に対してベヘモットの思いも寄らない返答に、短い赤髪を逆立てた青年ーーーバティンは疑惑の声を上げる。

 

「それは爺さん一人で俺達三人の相手は十分ってことかよ?」

 

「いやいや、相手が誰であろうとそう決めていたんじゃよ。罪源の魔王と当たった場合は、な」

 

全身鎧の槍使いーーーエリゴスは無口ながらも理解したようでベヘモットだけに槍を構えている。ベルゼブブも理解したようで、赤星に顔を向けて確認する。

 

「それはつまり、私の相手が七大罪・マモンの契約者である赤星君一人であるという意味ですか?」

 

「あぁ。今の俺がこの箱庭でどの程度まで通用するのかを知りたい。そのためにベヘモットには俺がタイマンに持ち込むための露払いを頼んだ」

 

「まったく。冷静で落ち着いているように見えて以外と戦闘欲の強い人物ですね」

 

ベルゼブブもそれに応えるようで、完全に赤星へと正対している。ベヘモットは残った三人に向かって提案する。

 

「という訳じゃよ。決闘に巻き込まれんように移動したいんじゃがええかいの?」

 

「えぇ、構いませんよ。私達としても戦力が分散してくださることに不満などありませんから」

 

「ただ、祭りなんだから盛り上がらない展開だけは勘弁してくれよ?」

 

ベヘモットの提案に快く承諾するプルソンとバティン。だがバティンは戦闘が一方的にならないかを心配しているようで、ベヘモットも笑みを浮かべて言い返す。

 

「安心せい。儂とて簡単に負けるつもりはないわい」

 

そして三組を二つに分割して距離を離していく。かなり距離を開けてからそれぞれが戦闘へと突入していく。

 

“魔遊演闘祭”メインギフトゲーム本戦。参加者全員の戦場の割り振りが終わり、本当の意味でその幕が切って落とされた。




今回は長かった‼︎ 過去最長の文章量にもう少し纏められたらと思います。
次回からは第二章同様、一話毎に一つ・二つの戦場、またはそれぞれの戦場を関連させて進んでいくことになると思います。

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