子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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現実が忙しくて少し投稿が遅くなりました。
今回は十六夜・古市vsフルーレティ・氷狼となります。一番最初に構想として思い浮かんでいたのに、かなり時間を掛けてしまいました。

それではどうぞ‼︎


極寒地帯での戦い

極寒地帯での戦い。

十六夜と古市、フルーレティと氷狼の戦いは予想以上に拮抗ーーーいや、長引いていた。

 

「しゃらくせぇ‼︎」

 

吹き荒ぶ吹雪の中、吹雪に紛れて飛来する幾つもの拳大の氷塊を十六夜が拳圧でまとめて叩き砕く。

 

「そこっ‼︎」

 

古市が呼び出した“ベヘモット三十四柱師団”の副団長ーーーレイミアは身体を借りて掌から魔力のレーザーを三発フルーレティへと放つも、氷狼の敏捷力を前に躱されてしまう。

 

「やはり戦闘職ではない私では、攻撃はできても決定力に欠けますね」

 

「それだけじゃねぇよ。何よりこのフィールドが厄介だ」

 

氷を操るフルーレティにとって極寒地帯は最高の舞台だ。予選でも見せた、雪による広範囲察知法で一挙手一投足から次の動きを予測して行動に移しており、吹雪による目眩ましと合わせて捉えることが困難となっている。十六夜の速度ならあるいはとも思うが、戦闘力はともかく戦闘技術は素人同然の荒削りな動きなので読まれやすいのだ。レイミアのレーザーも手を向けるという予備動作から察知され、何より遠距離なので攻撃が到達するまでに容易く避けられてしまう。

 

「・・・やはり貴方は攻撃に回るべきでしょう」

 

「みたいだな。このままじゃ千日手になっちまう。接近できる俺の方がダメージを与えられる確率は高い」

 

「えぇ。ですから私は彼女の隙を作ることに集中します。即席ですがもう少し連携を合わせていきます」

 

「合わせるのはいいが簡単にやられんなよ?もうさっきみたいに防御はできないからな」

 

レイミアは首肯して十六夜に行くよう促す。彼女も伊達に柱師団の副団長をやっているわけではないのだ。十六夜と比べれば戦闘経験も豊富である。

 

「それじゃ、遠慮なく・・・」

 

十六夜は重心を落とし、右腕を引いて拳を構えて右脚に力を込めて、

 

「行くぜゴラァ‼︎」

 

一気に力を爆発させる。豪雪で足場が悪いからか第三宇宙速度とまではいかないが、フルーレティとの戦闘が始まってから最も速いスピードで突進する。

 

「ッ‼︎」

 

今まで黙って集中していたフルーレティは、十六夜の急激な速度変化に一瞬焦りの表情を浮かべるも、予選での十六夜の動きから想定内の変化だったのか危なげなく躱す。

 

 

 

その回避地点へと寸分の狂いもなく五発のレーザーが飛来する。

 

 

 

(なるほど、そう来ますか)

 

フルーレティはレーザーに対して氷板を五枚生成し、防御せざるを得ない状況に誘導されたことの対策を練る。

 

レイミアはこれまでの戦闘で氷狼の瞬間的な最大移動距離を正確に割り出していた。遠距離攻撃で回避に問題のないレーザーであれば最小限の回避で事足りるが、十六夜の速度で突撃されれば距離を取るためにも大きく回避しなければならない。回避が小さければ十六夜の瞬発力ですぐに距離を詰められてしまうからだ。

そこでレイミアは、十六夜から距離を取られても次の行動に移すまでの時間を遅延させることにした。稼がれた距離を時間で取り戻し、徐々に重なっていく行動の遅れによって十六夜が詰める距離を少なくしていく。

 

「次々行くぜぇ‼︎」

 

十六夜もその意図に気付き、愚直とも言えるスピード重視の突撃を仕掛け続ける。

 

「ならまずは彼方(あちら)を・・・‼︎」

 

フルーレティは回避後の防御をやめて数多の氷塊をレイミアへと殺到させる。どちらにしても行動は遅延してしまうが、この流れを作っている要を潰せれば持ち直せるという考えだ。

 

「ーーーこういうのは俺の方がいいですかね」

 

レイミアと入れ替わった古市が魔力強化された身体能力で氷塊を躱し、弾き、粉砕していく。

これまでに様々な柱師団のメンバーを憑依させて戦ってきた古市は、その度に戦闘技術を自身の身体で再現させてきた。曲がりなりにも魔界屈指の実力者の戦い方を実感してきた古市は、拙いながらもそれを再現していた。

 

(・・・仕方ありませんね)

 

それを見たフルーレティはこのままではジリ貧だと考え、一か八かで成功するか分からない作戦を実行する。

 

 

 

 

 

 

急に増した吹雪に古市は周囲を警戒する。今まで通りなら吹雪に紛れて氷塊が飛んでくるだろう。

 

「うおッ⁉︎」

 

後頭部に攻撃とも呼べないような小さな氷をぶつけられ、一瞬緩んだ前方への警戒の隙を縫って氷塊が飛んできた。慌てて避けた古市だが、ここでふとした違和感が頭を過ぎる。

 

「・・・気を付けて下さい」

 

「えぇ、分かってます」

 

レイミアも違和感を感じたようで、さらなる警戒を促してくる。先程の防御から攻撃に転じた時には殺到という形容が付く程の氷塊を飛ばしてきたのに、今の攻撃は搦め手で仕掛けてきたとはいえ明らかに氷塊の数が減っていた。殺到させて凌がれたからかもしれないが、変化に対しては警戒を怠らないというのは戦闘中の基本である。

周囲の警戒を強める古市だが、その警戒を嘲笑うかのように()()()()が巻き上がって体勢を崩される。

 

「しまっーーー」

 

古市は吹雪と氷塊だけに気を取られてフルーレティのギフトに対する認識が甘かった。氷を操れるのだから足場の雪を崩すことなど造作もないのだ。

余談だが、これは古市だけに限らず不自然にならない程度に十六夜にも使用している。十六夜がスピードを出し切れないのは、足場の悪さに加えて雪で蹴り出し時の衝撃を吸収しているためだ。

 

足場を崩された古市へと再び氷塊が殺到する。

 

「クソッ」

 

体勢を崩しながらも腕や脚で氷塊を弾きつつ身体を捻り、少しでも多く対処するも全てを防げるはずがない。一際大きい氷塊が勢いよく腹部に直撃する。

 

「ガハッ⁉︎」

 

勢いのまま後方へと吹き飛ばされるが、受身を取って体勢を立て直し防御の構えに移る。追撃してくる氷塊を躱せる程には体勢を立て直せていないので、頭を抱えて魔力を高めることでダメージを最小限にしようとしたのだ。

散弾のように飛び交う氷塊を防いでいる中、

 

「射程圏内だぜ、フルーレティ‼︎」

 

幾度も同じ攻防を繰り返し、とうとう十六夜がフルーレティを捉えたようだ。古市達も氷塊が既に飛び交っていないのを確認して顔を上げると、視界が悪いながらも動いていた影がかなり接近しているのが分かる。

 

「くっ‼︎」

 

十六夜から繰り出された回し蹴りをフルーレティは氷狼とともに限界まで伏せて躱すが、接近を許してしまった時点で十六夜の攻撃は止められなかった。

空振りに終わった回し蹴りの遠心力を殺さず身体を回転させ、そのまま拳を打ち出す。

 

「食らいやがれッ‼︎」

 

フルーレティは最後まで十六夜の足元の雪を利用して衝撃を拡散させ、氷狼の背中から跳んで腕をクロスし、少しでも拳の威力を落としにかかる。

だが、その程度の小細工で十六夜の拳に宿る破壊力を殺しきることなどできるはずがない。解放された破壊力はフルーレティの腕を伝わって身体を吹き飛ばし、盛大に振り積もった雪を舞い上がらせる。

 

「・・・倒したのか?」

 

「分かりません。ただ確実にダメージは負っている筈です」

 

離れたところで見ていた古市とレイミアには判断のしようがなく、舞い上がっている雪が晴れるのを待つしかない。

 

 

 

「ーーー間に合いました」

 

 

 

舞い上がる雪の中から彼女の声が聞こえた。吹き飛ばされた後に雪をクッションにしたのだろう、少し弱いながらも戦闘は継続できそうな声音だ。だが発せられた内容は古市には分からなかった。

 

「古市、上だ‼︎」

 

十六夜の警告する声に応じて空を見上げる。未だに吹雪は吹き荒んでいるため視界は悪く、そのために気付くのが遅れてしまった。

 

 

 

直径十mにも近い円盤型の氷塊が落下してきていた。

 

 

 

「え・・・」

 

それを見て古市が反応するよりも早く、巨大な氷塊は彼を落下して押し潰した。

 

「古市ッ‼︎」

 

それを見ていた十六夜は焦りの声を挙げるが、フルーレティは諭すように言う。

 

「安心して下さい、舞台装置の雪で作り上げた氷塊です。舞台ルールにある通り、会場へと強制転移させられたはずですよ」

 

フルーレティは十六夜と古市、レイミアが役割分担をして攻勢に出た時からこの氷塊を作り始めていた。気付かれないようにするため吹雪を強くして視界を悪くし、さらに足元の雪を操って下へと警戒を誘導させていたのだ。

かなり周到に考えられているとは思うが、十六夜と攻防を繰り広げている間という時間制限付きでは古市に気付かれず、また避けられないような大きさを作れるかは賭けであった。それを見事に彼女は運を勝ち取ったーーーかのように思えた。

 

 

 

「いやいや〜、強制転移なんて面白くないよねぇ?」

 

 

 

その場に女性の声が響き渡る。

その声は乱入してきた他の参加者などではなく、発生源は巨大な氷塊の中央部。だがそれはフルーレティには聞こえていたレイミアの声ではなく、喋り方も冷静に落ち着いているものではなかった。何処か子供っぽく、この状況を楽しんでいるかのような声音だ。

 

次の瞬間には氷塊は水となり、水蒸気となり、再び固まって雪となり、吹雪に紛れて消えていく。

 

フルーレティと十六夜の目に飛び込んできたのは、紫色のセミロングの髪に尖った耳。そして楽しそうな表情を浮かべる紫色の瞳を持った女性。

 

 

 

「ーーー此処からが私の出番なのに」

 

 

 

古市と契約した七大罪・レヴィアタンーーーレヴィが参戦を告げる。

 

 

 

 

 

 

《お話しとはいったいなんなのですか?》

 

ギフトゲーム本戦が始まる二日前、ギフトゲーム予選が終わった日の露天風呂にて黒ウサギとレヴィは話をしていた。

 

《ちょっと気になったんだけど、チーム紹介の時にベルちゃんやルシファーちゃんの名前は呼んでなかったよね?》

 

《Yes。今回はギフトゲームの参加人数に制限がありませんでしたから、契約悪魔の方達は特別にギフトという扱いになっています》

 

《そっかそっか〜、ギフト扱いか〜》

 

何が楽しいのか、黒ウサギの返答を聞いたレヴィはニヤニヤと笑みを浮かべている。普通なら(ギフト)扱いされて楽しいどころか不機嫌になってもおかしくないとは思うが、そんな素振りは微塵もない。

 

《それって本戦までに参加者が新しいギフトを手に入れて、本戦でそのギフトを使うのも問題はないよね?》

 

《へ?えぇ、まぁ特に問題ないですが・・・》

 

《うん、ありがと。話はそれだけ。私、ちょっとやることができたから先に上がるね〜》

 

話を聞くや否や、すぐに露天風呂から出ていくレヴィ。それを見送った黒ウサギの独り言が溢れる。

 

《もしかして・・・いや、まさかですよねぇ・・・》

 

 

 

 

 

 

実体化したレヴィの登場に、フルーレティも十六夜も驚いた表情を隠せないようだ。レイミアは憑依した際に色々と把握していたようで、表面上の変化はあまり見られない。

 

「ふっふ〜、サプライズは成功かな?」

 

「あの、レヴィさん?危なくなったら出てくるって言ってましたけど・・・」

 

得意満面の笑みを浮かべているレヴィに、古市の今の状態を訴える。

腹部への強烈な一撃。全身への打撃+擦過傷。その他に精神的疲労などなど。

 

「全然危なくなくない?」

 

「足元崩された辺りは危なかったですよ‼︎」

 

戦闘中にも関わらず何やらコントっぽい会話が繰り広げられ始めたので十六夜が割って入る。

 

「おい、詳しい話は後でいいとしてなんで黙ってたんだよ?」

 

最初からレヴィを戦力に数えていればもう少し展開は違っていた筈だ。特に氷を操るフルーレティと氷を含めた水の三態を操るレヴィでは相性は抜群だろう。

 

「だってお祭りだし、観客のみんなは意外性を求めているんだよ。盛り上げるためには演出を拘らないと‼︎」

 

「お前は何時の間にエンターテイナーになったんだ?」

 

呆れるような声音しか出てこない十六夜だった。

一通りの会話を見守っていたフルーレティも状況を理解して戦力を分析する。

 

「さっきの演出を見る限り、今までの戦法は通用しそうにありませんね」

 

「そうだねぇ。どうするのかな?」

 

フルーレティの呟きにレヴィが笑顔を浮かべて質問する。どう反撃してくるのかが楽しみなのであろう。

 

 

 

「そうですねぇ・・・この辺り一帯の()()()()()()()()、というのはどうでしょう?」

 

 

 

それを理解してフルーレティも平然と予想の範疇を越えた返事を返す。そして氷狼をリタイアさせて会場へと転送する。

 

それと同時に、吹き荒れる雪を橙色に染め上げる()()()がフルーレティの周囲を舞い散る。

 

「霊格解放・・・炎豹魔(フラウロス)

 

言霊を発した瞬間、フルーレティの姿を炎が覆い隠し、余波として生じた熱波が三人を襲う。熱波はさらに広がっていき、フルーレティを中心に百m近くの雪を消し去った。

そしてフルーレティの身体を覆っていた炎が晴れ、今までとは姿の異なるフルーレティが現れる。髪色は青み掛かった銀から橙に変わり、瞳には炎が灯っている。さらに手足の先端は動物のような皮膚で覆われ、手には大きな鉤爪が出現していた。足元には三角形が描かれた直径十mくらいの魔法陣が浮かんでいる。

 

「アドバンテージが消えてしまった時点で勝てる確率は低いと思いますが、最後まで足掻かせてもらいます」

 

今までとは一八〇度ギフトの性質が変わったフルーレティについて、古市達は十六夜に説明を求めた。

 

「フルーレティっていう悪魔は、フラウロスという“ソロモン七十二柱”の一角に位置する悪魔に由来する創作悪魔という側面を持っている。伝承から派生した悪魔の霊格なんて低いと思われるが、その創作内容は罪源の魔王であるベルゼブブ配下の長という強大な位置付けだ。だから環境さえ整えれば俺達二人を相手取れる程に強くなる」

 

フルーレティーーーいや、霊格を解放したフラウロスについて説明をしていく。

 

「フラウロスはフルーレティとは真逆で、氷ではなく炎を操る豹人間のような姿で描かれることが多い。膂力は先程とは桁違いに上がっているはずだ。その証拠に機動力であった氷狼を帰したしな。おまけに魔法陣の中では全ての質問に正しく解答して神秘や不思議を語るというから、限定的に未来予知も使えるかもしれねぇ」

 

豹の膂力で動いて炎を操り、さらに未来予知もできる可能性がある。極寒地帯でフルーレティの相手をするよりも厄介かもしれない。

十六夜の説明を聞いたレイミアは内容を咀嚼して言う。

 

「つまり、あの魔法陣から出すことができれば戦闘力は半減する可能性が高いということですね」

 

「そういうことだな」

 

「じゃあ押し出してみるよ」

 

そういうとレヴィは少なくなった空気中の水分と魔力で作り出した水分を合わせ、攻撃性は低いものの物量を増した水でフラウロスを飲み込もうとする。

 

「ハッ‼︎」

 

対するフラウロスも炎で水を相殺していく。水が炎によって蒸発し、それによって発生した水蒸気が彼女の視界を覆う。

その隙に魔力感知で見えないフラウロスの位置を大まかに把握したレイミアのレーザーが襲う。しかし、

 

「・・・手応え、はありませんね」

 

その言葉を証明するかのように炎が水蒸気を霧散させ、変わらず魔法陣の中央に彼女は立っていた。

その背後。足場を悪くしていた雪がなくなり、今度こそ十六夜は第三宇宙速度を発揮して死角に回り込んでいた。

 

(これで行けるか?)

 

死角からの攻撃。雪による広範囲察知法は使用していない。今までのフルーレティであればこれで詰みなのだが、

 

「チッ、やっぱ読んでくるか‼︎」

 

死角からの攻撃を見もせずに躱し、カウンターで回し蹴りを繰り出してきた。十六夜は蹴りで魔法陣から弾き出されるもダメージは軽微。鉤爪による斬撃さえ気を付ければ問題ないと思いつつ、今の攻防の意味を考える。

 

(取り敢えずは未来予知できると仮定して・・・行動の何処から予知されたかを考えねぇとな)

 

攻撃までの流れを考えた時点、背後に回ろうと動いた時点、攻撃の意思を持った時点、攻撃に動いた時点。どの段階で予知に引っ掛かったのかを見極めなければならない。

 

(俺の攻撃を予知したにも関わらず後ろ向きで対処したのは何故だ?油断を誘うため?もしくは振り向く必要がなかった?古市の攻撃を避けていたからか?それとも・・・予知してから振り向くまでの時間がなかった?)

 

幾つもの可能性を思索していく十六夜。思い付く限りの可能性を潰して真実を導くために再び突撃していく。

打撃にフェイントを混ぜてみるが釣られなかった。攻撃をわざとギリギリ外してみるが避けようとせず反撃してきた。カウンターのカウンターを狙ってみるがいなされてしまった。他にもレイミアのレーザーやレヴィの水の槍で遠距離からの攻撃に対処した直後の隙を突いてみるが成果は乏しい。

古市も接近戦に参加できれば突破口が見つかるかもしれないが、フラウロスの豹の速度と野生の筋力が合わさった身体能力が相手では魔力強化した身体能力があってもダメージは免れない。

 

「だったら、これでどうだッ‼︎」

 

十六夜はその場で脚を高く振り上げ、勢いよく地面に叩き付ける。フラウロスのフィールドである魔法陣そのものを破壊しに掛かった。

振り下ろされた脚を中心に全てを巻き込む地割れが広がっていく。だが魔法陣の描かれた地面だけが崩れず、フラウロスもその上で倒れないようにしているだけだ。

ここでふと、十六夜はあることに疑問を覚えた。

 

(これは、もしかすると・・・)

 

ある仮説を立てた十六夜は、地割れに巻き込まれて汚れまくっている古市を呼ぶ。

 

「おい、古市。ちょっと来い。そんなところで遊んでる場合か」

 

「お前、マジいい加減にしろよ。せめてなんか合図送れや」

 

全ての元凶である十六夜の物言いに、古市も恨みがましい声音で対応しつつ近付いていく。

 

「まぁまぁ、落ち着けって。そんなお前に憂さ晴らしさせてやるからよ」

 

 

 

 

 

 

何やら話し合っている敵を見て、わざわざ見守る必要もないとフラウロスは豪炎を放つ。二人は左右へと跳躍して豪炎を回避し、今までと同じように十六夜がフラウロスに突っ込んでくる。

 

(右ストレート、に見せかけた左裏拳)

 

予知によって十六夜の攻撃を読んだ彼女は形だけの右ストレートを掴み、裏拳のために行った身体の回転を利用して左回りに振り回して背後へと投げ飛ばす。

 

(話し合っていた以上、何かしら連携で来るはずですけど・・・)

 

十六夜を投げ飛ばした後、念のため次の攻撃をしてくるであろう古市へと向き直る。

 

 

 

眼前に魔力のレーザーと水の槍が迫っていた。

 

 

 

「ッ⁉︎」

 

反射的に上体を逸らして躱す。ダメージは負わなかったが、内心それどころではない。

 

(全く予知できなかった?私への攻撃を?いったい何故?)

 

考えるも咄嗟のことで理解できないが、何よりも予知を回避できる方法が編み出されたのは不味い。驚きはしたが、体勢を崩していては十六夜に付け込まれると判断してすぐに構える。が、その必要はなかった。

 

十六夜も魔力のレーザーと水の槍に対応していたからだ。

 

(そういうことですか・・・‼︎)

 

それを見て彼女は古市の攻撃が予知できなかった理由を理解した。そもそも古市は彼女に攻撃などしていなかったのだ。ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

十六夜が疑問に思ったこと。それは脚を振り下ろした際の揺れにフラウロスが耐えていたことだ。行動を予知できるなら揺れに対しても何かしら対策を取れたはずだ。なのに揺れに耐えるという行動を取った。

 

そして十六夜はある仮説を立てた。フラウロスの予知能力は自らに向けられた攻撃または行動に対して発動しているのではないか、と。

 

それならば全てに辻褄が合う。

最初に振り向かずに対応したのは、十六夜の桁外れの速度で行われた奇襲の後に予知してから対応したため。

脚の振り下ろしを予知できなかったのは、それがフラウロスへ向けた行動ではなく魔法陣へ向けた行動だったため。

 

それを詳しく伝える時間はなく、古市もちょうどよく不機嫌だったので十六夜は自分を攻撃するように言った結果、フラウロスの表情を見る限り当たりだと確信した。

 

そうと分かれば展開は早かった。

今までは豹の膂力と予知能力で対処していたものの、十六夜との身体スペックには大きな差がある。おまけに攻撃を躱すなり防ぐなりするフラウロスと攻撃を砕ける十六夜では、次の行動に移せるまでの時間に差が出始める。いくら十六夜の攻撃を予知できたとしても、それに対応できない状況ならばどうしようもない。

 

「これで終わりだッ‼︎」

 

遂に十六夜は拳が届く範囲まで接近できた。フルーレティの時のように小細工で衝撃を殺すことなどフラウロスにはできない。気休め程度の防御の上から叩き付けられた十六夜の拳に、今度こそ彼女は吹き飛ばされて起き上がることはなかった。

 

 

極寒地帯での戦い。勝者、逆廻十六夜・古市貴之チーム。




次は何処の戦闘を進めようか悩みどころです。もしかしたら時間が掛かってしまうため、一度番外編を挟むことになるかもしれません。

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