子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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投稿が少し遅くなってしまい、申し訳ありません。
現実が忙しくなる中書き進め、前回の投稿から二週間近く経った時には七割程完成。番外編に移るよりも書き上げたほうが結果的に早そうだと判断した次第で御座います。
まぁつまらない言い訳だと聞き流して下さい。

それではどうぞ‼︎


海岸地帯での戦い

海岸地帯での戦い。

鷹宮はルシファーを呼び出して魔力を高め、飛鳥はディーンを召喚して白銀の十字剣を取り出し、耀は風を纏い、予選と同様に戦闘準備を完了させる。

それに対してアスモデウスは手を突き出して掌を三人に向ける。予選である程度の模倣を見ている三人はその動作から次の攻撃を予測していくが、その全てが無駄だったと思い知る。そして彼女が言ったギフトの制限という意味を実感した。

 

 

 

掌に空気が圧縮されたかと思うと、渦巻く炎の球体が生成されて空気中の酸素で増加し、さらに雷を帯び始めてバチバチとスパークする。

 

 

 

圧空炎雷咆(バーニング・ゼブルブラスト)

 

雷を纏った炎の光線がアスモデウスの掌から放たれた。三人の元へと到達した紅い光条は雷電を撒き散らしつつ爆風を巻き起こす。

 

「ほんの軽い挨拶だけれど、予選と比べての感想はどうかしら?」

 

爆風によって海岸の砂が舞い上がっている中、その中心へ向けてアスモデウスが声を掛ける。返事が返ってくると確信しているようだ。

 

「・・・まさか、俺と男鹿と赤星の複合技とは驚いた」

 

そして砂煙りの中から鷹宮の声が返ってきた。視界が晴れたそこには、ルシファーによって引き寄せられた飛鳥と耀が鷹宮の背後におり、鷹宮の前には三つの紋章が展開されていた。

 

「咄嗟に三枚の“紋壁”を展開したが、完全には防ぎきれなかったか」

 

鷹宮のいう通り、身体の所々から炎と雷による焦げと煙が立ち上っている。“紋壁”とは紋章を盾のように展開する紋章術の一つだ。それを見てアスモデウスは感嘆の声を上げる。

 

「本当にその紋章術は応用が利いて便利ねぇ。模倣できないのが残念だわ」

 

紋章術は魔力を制御するために編み出された人間の技だ。たとえ人間に変身しようとも悪魔であるアスモデウスが使用できる技ではない。

 

「模倣できないのは俺だけじゃないだろ」

 

飄々としているアスモデウスにはっきりと言う鷹宮。それを聞いて彼女は口元に弧を作って面白そうにしている。

 

「へぇ、例えば?合っていれば簡単な補足付きで答えてあげる」

 

「春日部だ」

 

「え、私?」

 

突然名前を出された耀は戸惑いつつ自分を指差す。

 

「正確には“生命の目録”だがな。姿形を変えられても本質は他者の模倣、付属品の属性まで再現はできない。その証拠に先程の技は旋風を操るのではなく、空気を引き寄せて圧縮するという回りくどい方法を使用していた」

 

風を集めるという点では、旋風を操って空気を十全に集められる耀と空気を圧縮して掌にのみ集められる鷹宮では規模に差がある。使えるのならば耀のギフトを使用する筈だ。

 

「その通りよ。貴方のルシファーのように直接的な繋がりがあれば別だけどね。それと模倣する本人に変身した方が技の再現度は上がるけど、誰でも模倣できる訳ではないわ」

 

耀は“生命の目録”を首から提げているだけだ。耀自身も何かをしてから使用できるようになったという経緯はないため、間接的な繋がりしかないと言える。

 

「あとは目で見たギフトしか使用できないんじゃないか?」

 

今度は確信がないのか、問い掛けるように言う鷹宮。

 

「何故そう思うのかしら?」

 

「俺達の技を使用する時、予選で見せた技しか使っていないからだ。まぁこれについてはサンプルが少ないから確証はないがな」

 

他にも飛鳥のギフトを使用していないことも理由の一つだが、予選では“威光”を使うために飛鳥に変身する必要があったため使わなかったとも考えられる。なにせ身体能力は普通の少女だ。“威光”を使用した後が戦闘に続かない。

 

「ん〜、まぁ正解と言っておきましょう。さっき貴方も言っていたけど、本質は模倣。似せて真似ることですから」

 

アスモデウスは顎に人差し指を当てて考えていたが、少なくとも間違っていないということで肯定してきた。

 

「さて、種明かしはこれくらいでいいかしら?憑依の方は使うつもりもないし」

 

「あら、どうして使わないのかしら?」

 

「だって憑依できる相手が参加者しかいないんですもの。それはつまらないでしょ?」

 

飛鳥の疑問に軽く答えるアスモデウスは、やはりどれだけ楽しもうとも主催者側だと言うことだろう。参加者に取り付いて参加者同士で潰し合わせるなどゲーム難易度が鬼畜過ぎるからだ。

 

「それじゃあ戦闘開始ね」

 

言うが早いか、彼女の全身が光に包み込まれる。変身の徴候に予選との変化は見られないが、だからと言って迂闊に攻め込めるものでもない。

次第に光が収まっていき、そこに現れた変身後の姿はレヴィだった。

 

「このフィールドでは鬼に金棒だな」

 

「だよね〜」

 

軽快に言いつつ海から水の塊を幾つも生成していくアスモデウス。水を操れるレヴィに変身している今、魔力から水を生成する必要がないため効率よく戦闘に魔力を注ぎ込めるというものだ。

 

「じゃんじゃん行くよ〜‼︎」

 

数多ある水の塊から水の槍を次々と撃ち出し、向けられた三人はそれぞれ対処していく。

 

「撃ち落としなさい‼︎」

 

飛鳥の命令に、ディーンは巨大に似合わぬ軽快さで水の槍を両拳で撃ち落としていく。ただし軽快とは言っても限界はあるので、基本的には飛鳥に直撃するものだけを撃ち落としている。

その間に鷹宮と耀は水の槍を俊敏に躱しつつアスモデウスへと接近していく。

 

「らぁっ‼︎」

 

先に到達した鷹宮が接近の勢いを乗せた右拳を振るうが、アスモデウスは周囲の水の塊を引き寄せて操り鷹宮の拳を流す。続けざまに左拳、右脚と打ち込むが同じく流される。

 

「白夜叉の“流水領域(ストリーム・レンジ)”みたい」

 

それを見た耀は水に防がれれば攻撃を流されると考えて脚に旋風を纏わせた。予選では旋風に水の塊をぶつけて相殺されていたので、その逆もまた可能な筈だ。

耀の目論見通りに纏わせた旋風が水の塊を削り、左脚の蹴りをアスモデウスへと入れる。しかしそれは右腕によって防がれてしまった。

 

「今よ、ディーン‼︎」

 

そしてアスモデウスが防御に転じて水の槍による弾幕が弱まった瞬間、その巨体により一歩で距離を詰めるディーン。

 

「DEEEEeeeeEEEEN‼︎」

 

ディーンの叫びを聞いた鷹宮と耀はそれぞれ左右に跳び、直後にその巨体から繰り出された拳がアスモデウスへと迫る。その拳は砂浜を抉り、粉塵を巻き上げた。

 

「当た・・・ってないわね」

 

「ぺっぺっ、砂〜」

 

飛鳥が確認しようと粉塵を見れば、顔を(しか)めながら口に入った砂を吐いている姿が出てきた。まだまだ余裕そうである。

彼女はそのまま海の方へと向かい、海面を滑るように操って浅瀬を少し離れていく。そこで身体を光が包み込み、レヴィの姿から元のアスモデウスに戻った。背中には予選でも見せた黒く尖った羽を生やして飛んでいる。

 

「少し大技で行くわ」

 

言葉とともに手を挙げる。そして浅瀬にも関わらずディーンすらも飲み込む程の高波を作り出した。だが浅瀬だからか高さは作り出せても波の厚みは作り出せておらず、たとえ飲み込まれてもダメージとはなり得ない。

 

「予選で教えたでしょう?水に合うのは雷よ」

 

アスモデウスはそこに雷電を纏った手を浸け、ただの薄い高波を危険極まりない感電する高波へと変貌させた。

 

感電高波(エレクトリック・ハイウェーブス)

 

戦闘していたのが浜辺というのもあり、三人が今から感電することなく完璧に躱すことは不可能だ。攻撃で波を散らすにしても帯電している以上は水飛沫すら危ないかもしれない。

 

 

 

だが、次の瞬間には高波が凍りついていた。出力は低いようで高波を全てとはいかなかったようだが、確実に三人を飲み込んでいたであろう範囲は凍っていた。

 

 

 

(氷結系のギフト・・・いったい誰が?)

 

疑問を感じていたのも束の間。今度は凍りついた高波を目隠しにし、高波を破壊しつつ()()()()()()()()()()

 

「っ⁉︎」

 

予想外の現象に彼女の身体は一瞬硬直してしまい、回避が遅れてしまう。それでも衝撃を殺そうと剛腕に合わせて後方に飛んだのは流石の一言だが、初めてまともにヒットした一撃に海面へと叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

初めてアスモデウスに一撃を与えることができた要因である飛鳥と耀は、それぞれが起こした現象について質問していた。

 

「飛鳥、ディーンって伸びるの?」

 

「えぇ。神珍鉄っていう伸縮自在の鉄で作られているんですって」

 

飛鳥がディーンを手に入れた“黒死斑の魔王”とのギフトゲーム。その時は戦闘の流れでその性能を十全に発揮しておらず、特に話す機会もなかったので切り札として隠していたのだ。

 

「春日部さんも、ちゃっかり氷狼と友達になっていたのね」

 

「うん。フルーレティさんといた氷狼、スフィアさんって言うんだ」

 

“ノーネーム”一行が“魔遊演闘祭”に訪れた時、真っ先に氷狼に近付いていった耀はその時既に氷狼ーーースフィアと友達になっていたようだ。そしてその凍える風を使用して高波を凍らせたのだ。

 

「集中しろ。攻撃は当てたが今のような油断はもう誘えないぞ」

 

鷹宮に促され、三人は背中合わせで全方位へと注意を傾ける。先程は何故か使わなかったが彼女は瞬間移動も使えるのだ。何かの条件で使えなかったのかもしれないが、次の瞬間には背後から攻撃を食らっていてもおかしくない。

 

と、警戒していたその時。空を雨雲が覆い始め、強風が吹き付け、波が荒れ出した。明らかに嵐の前兆である。

 

「まさか・・・嵐を操れる奴を模倣したのか?」

 

「違うわよ」

 

鷹宮の呟きに、海から上がってきたアスモデウスが濡れた髪を掻き上げながら否定を返した。その際に口に溜まった血を吐いていたのでダメージは逃しきれなかったようだ。

 

「近くでベルゼブブが戦闘しているみたいね。気配からして少し離れているんでしょうけど」

 

言われた鷹宮は魔力感知で大凡(おおよそ)の距離を確認するが、その距離は一km近く離れていた。

 

「範囲が桁違いだな。これで威力を抑えているのだから恐れ入る」

 

「まぁ今回のは副次効果でしょうから、彼の攻撃まで警戒する必要はないわ」

 

そして雨雲から雨も降り始め、本格的に嵐となって雷鳴が響き渡る。それを合図として再び戦闘を開始する。

 

アスモデウスが操れる範囲の雨を操り集めて散弾のように撃ち込もうとするのを、耀が鋭い五感を駆使して敏感に察知していく。氷狼の凍える風を鷲獅子の旋風を操るギフトで誘導して氷結させた。

 

「少量の水は使えそうにないわね」

 

アスモデウスは即座に水ではなく氷結させられた氷を操るが、元々が雨を寄せ集めた小さいものだったので耀が旋風で弾いていく。

 

「ディーン‼︎」

 

水と氷と旋風が混ざり吹き荒れる中、それを物ともせずに剛腕が貫いてアスモデウスへと伸びていく。アスモデウスも二度目ということで動揺することもなく、翼を生やして回避していく。

 

「そのスピードで真正面からは当たらないわよ」

 

「えぇ、そうでしょうね」

 

アスモデウスの忠告にニヤリと笑って肯定する飛鳥。飛鳥は攻撃として伸ばしたディーンの剛腕を地面に突き刺し、湿った泥を掬い投げた。威力はないが動きを制限して目潰しに使うには有効な手だ。

 

「古典的だけどいい手段ね」

 

アスモデウスも水を操って水膜の盾を作り出して防ぐ。近距離ならば耀に邪魔されることもない。

そして水膜の盾を作って一瞬だけ動きを止めた場所へと、鷹宮の紋章が連なるように展開されていく。鷹宮はそこに走り込みーーー加速する。

 

開紋加速(スペルゲートブースト)‼︎」

 

瞬きの間に距離を詰めた鷹宮は初撃以上に加速された拳で水流で流されることなくアスモデウスを殴り、彼女は受け止めるも拳の衝撃で後方に飛ばされる。

 

「離さねぇぞ」

 

さらに飛ばして距離を空けられないよう、引力で引き寄せて追撃を掛ける。

だがアスモデウスも大人しくしている筈がなく、レティシアへと変身し“龍影”を展開して迎え撃つ。鷹宮も片手で捌くことはできないと判断し、引力を解除して“龍影”で切り刻まれないよう両拳に“紋壁”を手甲の如く展開してから迎撃し返した。

 

「がはっ‼︎」

 

しかし纏めらて力を固めた“龍影”で鷹宮の両拳が弾かれ、引力+翼の推進力で飛び蹴りを繰り出したアスモデウスに蹴り飛ばされた。

 

「忍‼︎」

 

蹴り飛ばされた鷹宮を耀が旋風を操って勢いを殺しつつ受け止める。止められて地面に降りた鷹宮は、蹴り飛ばされたにも関わらず笑みを浮かべている。

 

「なるほど。何となくだが掴めてきたな」

 

「うん?いったい何を掴んだというんだ?」

 

レティシアの姿のまま“龍影”を展開しつつ訊き返すアスモデウス。

 

「お前は変身すれば十全に技を模倣できるが、変身しなければ十全に技を模倣できない。だがその代わりに変身しなければ技を複合させることができる」

 

“圧空炎雷咆”も“感電高波”も、何れも使用した時の姿はアスモデウスのままだった。それに“感電高波”を使用した時、わざわざレヴィから元の姿に戻るという過程を踏んだことから推測は間違っていないと思われる。

 

「しかし変身せずに技を模倣することも制限がない訳ではないのだろう。でなければ瞬間移動を使わない理由が思い付かない。俺の推測としては現象として観測したものを自らの魔力で再現できる範囲でのみ、変身しなくても模倣できると踏んだ」

 

魔王の咆哮(ゼブルブラスト)”、“紅線銃(レッドガン)”、引力による空気の圧縮、“水の三態”操作、黒く尖った翼の生成。その全てが魔力を元にして行われた技だ。彼女は姿ではなく魔力を模倣して技を複合させ、十全に模倣できない技を掛け合わせて威力を補っていたのだ。

 

そして鷹宮の言った“現象として観測したもの”とはつまり、観測しなければ魔力としても模倣できないということである。

予選の後で黒ウサギに聞いた話だが、予選で変身した瞬間移動使いの少女は、生と死の間に顕現せし悪魔・ウィラ=ザ=イグニファトゥスという存在だそうだ。悪魔であるにも関わらず変身しないと瞬間移動を模倣できないのは、瞬間移動という現象が魔力を放出する類いではないからか、一瞬で消えるという性質から観測できないからだと考えたのだ。

 

「・・・見事だな。補足箇所もほとんど無いと言っていいだろう」

 

どうやら戦闘が本格化する前の口約束を未だに守っているようだ。彼女は誤魔化すこともなく肯定してきた。

 

「だが、戦闘中に長話とは感心しないな。相手に戦略を練ってくれと言っているようなものだぞ?」

 

 

 

アスモデウスが注意した次の瞬間、鷹宮達の全身を無尽の刃が砂浜から殺到して切り刻んだ。

 

 

 

「きゃあ‼︎」

 

「くっ‼︎」

 

飛鳥と耀は思わず苦痛の声を漏らす。鷹宮は歯を食いしばって声を出すのを堪えたものの息が荒れている。鷹宮が話をしている間に“龍影”を砂に潜り込ませていたのだ。

 

「どんな時も油断大敵だ」

 

「はぁ、はぁ・・・その言葉、そっくりそのまま返すぜ」

 

“何?”とアスモデウスが反応した瞬間、彼女の全身も鷹宮達と同じように真空の刃によって切り刻まれた。

 

「ぐっ‼︎ これは・・・鎌鼬か」

 

アスモデウスは全身を切り刻んだ見えない刃の正体を看破し耀を見ると、口元に“してやったり”というニュアンスの笑みを浮かべていた。

耀は予選から本戦までの時間、鷲獅子のギフトを少しでも使いこなせるように日常的に旋風をコントロールするという特訓をしていた。本戦で勝ち上がるためには経験不足が否めず、一日という短さから威力向上ではなく技術向上と創意工夫によって鷲獅子のギフトを使いこなそうとした結果がこれである。

 

「若いというのは成長が早いな。これで状態はお互いに変わらないということか」

 

「何を言ってるの?()()の攻撃はまだ終わってないよ?」

 

耀の“私達”という言葉にアスモデウスは残る飛鳥を警戒する。飛鳥の一挙手一投足から次の手に対して動けるようにする。

 

「“落ちなさい‼︎”」

 

だが飛鳥はアスモデウスの心構えなど無視して“あるもの”に命令を下す。飛鳥の“落ちなさい”という言葉から彼女は即座に頭上を警戒したが、そこには何も見当たらなかった。不審に思いつつも上方を警戒していると、頭上を稲光が空を駆け抜けて雷鳴が轟く。

 

 

 

それを認識して思考に移すよりも速くーーー落雷がアスモデウスを襲った。

 

 

 

魔力から生成した雷などではなく、正真正銘の大自然に発生している雷である。音よりも速い一撃を不意打ち気味に撃ち込まれて行動に移せる訳がなかった。

 

これはアスモデウス自身が言っていたことだが、この嵐はベルゼブブのギフトによって生み出された現象だ。そして自分達の所にまで展開された嵐は副次効果であるとも言っていた。

それはつまり、“ギフトで生成された雷雲が誰の支配も受けずに漂っている状態”であるということである。

それをアスモデウスが耀に気を取られている間に飛鳥が支配して攻撃に利用したのだ。それでも強力なギフトから生成されただけあって雷一つ支配するのがやっとであり、この状況下でのみで使用できる飛鳥の最強最速の一撃だった。

 

もちろん至近距離で落雷にあった三人も無事な筈がないが、飛鳥が雷を落とす寸前でディーンを盾にしたため直接的な被害はなかった。落雷による被害が一通り終わったのを確認して、アスモデウスがどうなったかを確認するためディーンを退ける。

 

アスモデウスは全身から煙りを上げ、雷に撃たれた余韻からか身体の動きを止めていたが・・・それでも彼女は倒れていなかった。

 

「っ、本当に格が違うわね・・・」

 

倒れていないこともそうだが、それ以上に意識を保っていることが信じられなかった。さらに落雷に会う前よりも威圧感が圧倒的に膨れ上がっている。

三人が愕然として様子を見ている中、アスモデウスはゆっくりとした動作で動き出し、

 

 

 

「ーーー参った」

 

 

 

三人を呆然とさせた。

彼女は何事もなかったかのようにレティシアの変身を解き、変身という過程を経て表面上は戦闘前の姿へと戻る。

 

「今の攻撃は霊格を抑えたままでは防ぎきれなかったわ。制限を無視して本能的に霊格を開放してしまった私の負けよ。“主催者”として素直に負けを認めて会場に戻るとするわ」

 

言うが早いか、ゲームに負けを認められたアスモデウスはその場から姿を消した。

 

「・・・勝った、のよね?」

 

「そう・・・みたいだね」

 

飛鳥と耀は顔を見合わせて確認し合い、勝ちを認識した瞬間に脱力してその場にへたり込んだ。無理もない。全身ボロボロで頭をフル回転させて策に策を練り、圧倒的な威圧感に包み込まれた状態から空気が弛緩して緊張の糸が切れたのだ。戦い慣れていない少女二人にはかなりキツイものがあったことだろう。

 

「もう無理。絶対に無理。疲労が溜まり過ぎて喋ることすら辛いと感じるわ」

 

「私も」

 

二人とも脱力し、特に飛鳥はお嬢様気質であるにも関わらず今ばかりはだらし無くぐでっとしていた。

 

「・・・これでは次の戦闘などできそうもないな」

 

鷹宮は二人の様子を見てこれ以上の続行不可能と判断した。鷹宮だけはへたり込まずに立っているが、色欲の魔王・アスモデウスとの戦闘で彼もかなり疲労していた。満身創痍とまでは行かないが、二人と同様に疲労が溜まっていることは否定できない。

鷹宮としても実力が満足に発揮できない状態で男鹿や他の猛者との戦いに興じたいとは思わなかったため、全員一致でリタイアすることとなった。

 

 

海岸地帯での戦い。勝者、久遠飛鳥・春日部耀・鷹宮忍チーム(その後リタイアのため勝ち上がりなし)。




予選からの因縁の対決は見事に“ノーネーム”の勝利‼︎ とは言い難いかもしれませんがアスモデウスには勝つことができました。まぁ疲労困憊で引き分け感が強いですが、それでも鷹宮の宣言通り“ギフトゲームレベルの罪源をぶっ飛ばす”ことは達成です。

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